単なる反骨心ではない ★STAR GUiTARの健全な逆張り精神に学ぶ

★STAR GUiTARの作品は毎回コンセプチュアルな仕掛けに驚かされるが、「歌もの」にフォーカスしたベストアルバム『Here and There』もかなり面白い。「★STAR GUiTARの曲を演奏する架空のバンドを本人がプロデュースする」というコンセプトによって、過去の名曲たちが見事にアップデートされており、さらには遂に実現したThe Chemical Brothersの“Star Guitar”のカバーも収録と、ベストにして現在進行形の一枚に仕上がっている。

★STAR GUiTARとしてのアーティスト活動の一方、SiZK名義でJ-POPのフィールドも含めた作家 / プロデューサーとしても活躍する中、10月には本名のAkiyoshi Yasuda名義でアコースティックな『alter ego』を発表。枠に捉われることを嫌い、身軽であることをなにより重視するその生き方は、一面的な価値観を押しつける社会に対する、表現者としての実に正しいあり方を体現していると言えるかもしれない。

一応ベストと謳っていますけど、自分の中ではそんなにベスト感はない。

―2015年は『ONE HOUR TRAVEL』も含めると下半期だけで3枚のアルバムを出していて、かなりの創作モードだったと言っていいと思うのですが、2016年はどんなモードで、『Here and There』にたどり着いたのでしょうか?

★STAR:気がつけばアルバムを7枚(リミックス盤を含む)出していたので、「そろそろまとめてもいいのかな」という話はもともとしていたんです。でも正直、そんなにやる気はなくて(笑)。それに、作ることに関しては去年3枚も作ったので、今年も2枚くらいなら作れるし、そのためのアイデアもあったんです。でも結果として、全部曲を録り直したうえでまとめたベスト盤を出すということになりましたね。

―2014年の『Schrodinger's Scale』、2015年の『Wherever I am』と『Wherever You are』の三枚は★STAR GUiTARの「ピアノ期」と言ってもいいと思うのですが、ここで一区切りという感じもあったのでしょうか?

★STAR GUiTAR『Wherever You are』収録曲

★STAR:歌もの中心になっていた時期とピアノ中心の時期の作品はちょうど三枚ずつなんですよ。なので、いいタイミングなのかなと思ったところはあります。ただ、そこまで区切りを意識していたわけではなくて、逆に言っていただいて気づくくらいです。

―では、『Here and There』が歌もののベストになったのも、「インストが続いたから、次は歌もの」程度の感じだった?

★STAR:最近あまりにもインストが続いたので、自分の中で歌ものをどう解釈すべきかという気持ちはありました。初期の作品と去年のアルバムを比べると、音色とかは全く違うものになっているので、そこをどう擦り合せるべきか、その必要はないのかとか考えていましたね。

今回は一応ベストと謳っていますけど、自分の中ではそんなにベスト感がなくて。僕なんだけど僕じゃないというか、「海外のバンドが僕の曲をアレンジし直したらどうなるか?」というコンセプトでアレンジを進めていったんです。

★STAR GUiTAR
★STAR GUiTAR

全員シンセの4人組のバンドにアレンジしてもらって、それを僕がプロデュースするっていう。俯瞰の俯瞰みたいな作り方でした。

―なるほど。なにか具体的なバンドが頭に浮かんでいたのでしょうか?

★STAR:ChvrchesとかYears & Years、Passion Pitぐらいざっくりとは。そのあたりのバンドが僕の過去の曲を全部アレンジし直したらどうなるのかっていうイメージでした。

―曲を年代順に並べただけのベスト盤ではないので、選曲や曲順にもこだわりがあるかと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

★STAR:「ベストであるなら入れるべき曲」というものがあると思うんですけど、今作は作品の成り立ちを重視しているので、本来入れなければいけない曲が入ってなかったりするんです(笑)。そこは僕の我を通してしまった部分で、さっき「ベストだけどベストじゃない」って言ったのは、そういう意味もあります。

あくまで「このアルバムの中で映える曲」っていう視点で選んでいるので、コンセプトアルバムに近いんだろうなと。ただ、「自分だけども自分じゃない」っていう、自分を客観視したコンセプトで作っていて、アーティスト写真も今までのコラージュなので、自分でもちょっと不思議な感覚なんです。

★STAR GUiTARアーティスト写真
★STAR GUiTARアーティスト写真

―先ほど、Chvrches、Years & Years、Passion Pitというバンドを挙げていましたし、言ってみれば、ダンスミュージックというよりはインディー感のあるシンセポップに近いサウンドかと思います。ご自身の最近のリスニング傾向がそちらに寄っていたのでしょうか?

★STAR:そうですね。シンセサイザーの使い方がシンセポップに寄っていったというのもありますし、僕はマッスルなダンスミュージックには向かわなかったので。

―「マッスルなダンスミュージック」というのはEDMのことですよね。

★STAR:そうです。そうなると、この方向性になるのは自然なことじゃないかなと。インスト作品で生楽器と一緒にやった経験に、もともとあったテクノ感を組み合わせたら、このサウンドに落ち着きました。

★STAR GUiTAR

―アルバムの取っかかりになった曲を挙げていただくと、どれになりますか?

★STAR:“君はスナイパー”(原曲は2011年リリースの『Carbon Copy』に収録)ですね。この曲は、タイトルからして今の僕からすると恥ずかしさがあって。当時はテクノポップが流行っていましたし、これはこれでカッコいいし可愛いんですけど、自分で書いた歌詞についても「よくもここまでストレートに言えたな」って思ったりもして(笑)。

ただ、一見恥ずかしさもある言葉でも、どんな音の上に乗せるか次第でカッコよく聴かせられるんですよね。なので、「この歌詞をどういうサウンドに乗せるべきか?」とすごく考えたんです。それでさっき言った、「架空のバンドにアレンジしてもらう」っていうコンセプトに行き着きました。

★STAR GUiTAR

―いくつかのアーティストをイメージしつつ、そのどれとも違う、架空のバンドを自分の中で想像して、そのバンドに作らせたと。

★STAR:そうですね。全員シンセの4人組のバンドを僕がプロデュースするっていう。俯瞰の俯瞰みたいな、そういうのがすごく面白かったです。

(“Star Guitar”のカバーは)頭の中でイメージが出来上がりすぎていたので、制作はものすごく早かったですね(笑)。

―具体的な曲で言うと、やはりThe Chemical Brothersの“Star Guitar”のことはお伺いしたいです。

★STAR:★STAR GUiTARでカバー曲をする気はなかったんですけど、“Star Guitar”だけは別で、いつかやってみたかったんです。それこそMELTENくんとの対談(EDMを選ばなかった男 ★STAR GUiTAR×fox capture plan)のときに「“Star Guitar”だけは残しておいてくれ」みたいな発言をしましたけど、やっとそれが実現しました。

タイミングとしても今回しかないと思ったんですよ。こうやって歌ものをまとめるんだったら、“Star Guitar”は入れなきゃねって。1曲だけ新曲を入れるのもありだったんですけど、それよりは“Star Guitar”を入れた方が説得力が出るだろうと。

★STAR GUiTAR

―先ほどからおっしゃる通り、直球のベスト盤ではないですけど、“Star Guitar”が入ることで、ベスト盤らしい特別感が出ますよね。せっかくなので、原曲自体についても改めてお伺いすると、リリースが2002年なので、★STAR GUiTARさんが二十歳前後くらいの頃かと思うんですけど、初めて聴いたときはやはり衝撃でしたか?

★STAR:大半の人が言うと思うんですけど、やっぱり、あのミュージックビデオを見たときの衝撃ですよね。あんなふうに音と映像が同期したビデオは当時なかったから、すごい衝撃で。

フランスの映画監督、ミシェル・ゴンドリーが監督を務めている

―今回のカバーにはボンジュール鈴木さんがフィーチャリングされています。

★STAR:メロディーも歌詞も2行で終わるので、ちょっとコーラスで遊べないかなと思って、ボンジュールさんとやりとりして作りました。ボンジュールさんは、「こんなフレーズどうですか?」みたいものをなんとなく投げると、すごく具体的に返してくれるから、やりやすかったですね。

―とはいえ、大名曲をいじるのはプレッシャーかと思うのですが。

★STAR GUiTAR

★STAR:逆に、すごく楽でした。聴き直さなくても全部再現できちゃうくらいには聴いているので、本当に簡単にできちゃって。原曲をガラッと変えるというよりは、1か所だけを劇的に変えて、それ以外は原曲に忠実な範囲で遊ぶと決めたんです。その遊びの部分がボンジュールさんのコーラスだったんですけど、頭の中でイメージが出来上がりすぎていたので、制作はものすごく早かったですね(笑)。

「これしかない」って思い込んでいると、曲が持っているポテンシャルをちゃんと引き出せない。

―“Star Guitar”のアレンジが意外とすんなり進んだとなると、逆に苦労した曲をお伺いしたいです。

★STAR:苦労は今回ほぼしてなくて、最初だけなんですよね。

―どういう方向性でやるか決めるところだけで、あとはイメージがしっかり見えたら、作るのはすぐだったと。

★STAR:単純に、自分のアレンジ能力やミックスの能力が上がったんだと思います。ボーカルは全部原曲のものを使っているんですけど、オリジナルでは聴こえなかったフレーズや音が聴こえてくると思うんです。これは自分でもびっくりしましたね。ミックスや自分の入れた音のせいで声が埋もれていたところが何か所かあったので、そういう意味でも新鮮に聴こえると思います。

★STAR GUiTAR

―昔の曲を聴き返す作業の中で、他になにか再発見はありましたか?

★STAR:最近の僕の曲って全体的に短いんですけど、当時はすごく長いんですよね。それはびっくりしました。

―いわゆるダンスミュージック的なループの曲から、展開するタイプの曲に変わってきたことの表れでしょうか。

★STAR:そうですね。「昔はこんなに繰り返していたのか」って、びっくりしました。もちろん、それがループの面白さなんですけど、最近それを忘れていたと思うくらい新鮮さがありました。今とは曲作りの考え方が全然違ったんですね。

―間違いなく、「ピアノ期」の三枚を通過しての今ですよね。

★STAR GUiTAR

★STAR:『Wherever I am』とか『Wherever You are』ってめちゃめちゃ短くて、ファースト(『Carbon Copy』)の収録時間の半分くらいになっていると思いますし。ただ、今回作り直しても、基本的な構成とかは変えてないんです。リミックスみたいにはしたくなかったので、歌のタイムラインもキーやテンポも絶対に変えない。そのうえでどう飽きさせないかを考えました。ループなんだけどループに聴かせない作り方を覚えた上でのアレンジっていうアップデートの仕方でしたね。

―マインドの部分で言うと、当時と今とでなにか違いを感じましたか?

★STAR:当時の方が頑固だと思う。「これしかない」って思い込んでいるなとすごく感じました。いい意味で言えば、「勢いがある」ってことなんだけど、そのせいで埋もれてしまう音があったことには当時気づいてなかった。

今だったら、「ここを聴かせたら、もっといい曲になるのに」っていうさじ加減がわかるようになったから、今の自分が昔の自分に対して丁寧に整えてあげるような気持ちもありました。当時は選択肢がひとつしかなかったんでしょうね。今は「こんなにあるんだよ」って見えるようになったことで、曲が持っているポテンシャルをちゃんと引き出せるようになったと思います。

「ライブをするしかない」っていう流れに反発したいんです。作品を発表するだけでアーティスト活動を続けるというのがひとつの選択肢としてあってほしい。

―「あちこちに」を表す「Here and There」というタイトルについて話していただけますか?

★STAR:僕がこれまでやってきたことや、性格も含めて、本当にあっちこっちにいってると感じるんですね。最近僕を知ってくれた人は、僕が歌ものをやっていることすら知らないと思うので、ベスト盤とはいえ、前作からこの変化は結構すごいなと(笑)。もちろん、それはそれで自分らしいと思いますし、僕のことを昔から知ってくれている人からすれば、「この人はあっちこっちいろんな路線でやってるよね」みたいなイメージがあると思うんです(笑)。

★STAR GUiTAR

―その移り気なところも、逆に★STAR GUiTARらしさだと。

★STAR:そういう意味での「Here and There」ですね。たぶん、これからもそうでしょうし。それこそ僕、先月に本名の「Akiyoshi Yasuda」名義でもアルバム(『alter ego』)を出したんですけど、それと今作を比べると「本当に同じ人?」って感じなんですよ。そっちはもっと暗くてアコースティックな作品なので。

―なぜこのタイミングで本名名義の作品を出そうと思ったのですか?

★STAR:それはそれで前からやりたいことだったんです。★STAR GUiTARはキラキラしてるけど、そうじゃない音楽も自分の中にはあって。でもそれは★STAR GUiTARだと表現できないから、Akiyoshi Yasuda名義で出したんです。ただ、それが10月でこれが11月なので、その振り幅がものすごいんですけど(笑)。

―「alter ego(=分身)」というタイトルを付けた理由も気になります。

★STAR:本名名義が一番素に近いんです。★STAR GUiTARはちゃんと演じるというか、こうありたいっていう理想像が★STAR GUiTARなので。そもそも僕、やりたいこと多すぎるんです。友達から「また名義が増えたのか」って言われました(笑)。

―早くも次にどこに行くのかが気になってしまいますが(笑)、個人的には、今回のベストアルバムで架空のバンドのイメージがあるというお話だったので、ライブで観たいなと思いました。ご自身にそういう考えはありますか?

★STAR:最近、「ライブをしなきゃ」みたいな風潮があるじゃないですか?

★STAR GUiTAR

―「ライブの時代」と言われがちですよね。

★STAR:そうなると、ライブをせずに成立するアーティストになりたいんです。それもアーティスト活動におけるひとつの選択肢としてありえてほしいという想いがあって。現実的には厳しいとわかりつつも、選択肢がひとつしかないのは嫌だなって思っていて、ちょっと天の邪鬼な方に進もうかなと。

―アンチとまでは言わないまでも、違う選択肢が欲しいと。

★STAR:「ライブをするしかない」っていう世の中の流れに反発したいんです。昔は「作品を出す」ということでちゃんとアーティスト活動を続けていける人がいたと思うんですけど、ライブの時代になってそういう人が淘汰されてしまうのが嫌で。作品を発表するだけでアーティスト活動を続けるというのがひとつの選択肢としてあってほしい。

★STAR GUiTAR

★STAR:なので、自分なりのやり方がないのかなと最近ずっと考えています。まだ答えは見えてないですけど、そういう方向にいけたらなと。まあ、逆にみんなが「作品が第一だ」って言い出したら、「ライブしようぜ」って言い出す可能性もありますけど(笑)。

―そこは常に逆をいくんですね。今回のアルバムで、「やっぱり★STAR GUiTAR最高!」ってなったら、今度は本名名義での活動に力を入れだしたりして(笑)。

★STAR:「なんなんだお前は?」って感じですよね(笑)。まあ、いろんなところに気軽にいるような存在でありたいと思っていて。「これしかできない」っていうよりは、自分の気持ちの赴くままに、これまでのイメージも気にしないくらいの身軽さではいたいかなと。

―さっきのライブの話にも通じますけど、選択肢がひとつしかないのは居心地が悪い。「ライブの時代だからライブをやらなくちゃダメです」とか「★STAR GUiTARじゃないとダメです」ってなってしまうのは嫌だと。

★STAR:そうですね。最初はいいのかもしれないですけど、だんだん違和感が大きくなって自分にとっては健全じゃない。ただ、「なんでも屋」になりたいわけじゃなくて、ちゃんとアイデンティティーは確立しておきたい……めんどくさい人ですね(笑)。

★STAR GUiTAR

―いや、人にはいろんな可能性があるんだから、ひとつの選択肢だけに絞る必要はないっていうのは、今の時代感的にもしっくりくる話だと思います。

★STAR:こんなことを聞き入れてもらってるスタッフのみなさまには、頭が上がらないです(笑)。

リリース情報
★STAR GUiTAR
『Here and There』(CD)

2016年11月16日(水)発売
価格:2,160円(税込)
CSMC-028

1. Starting Over feat. Scandi
2. Mind Surf feat. DAOKO
3. Star Guitar(Vocal by ボンジュール鈴木)
4. Imagine feat. Okika
5. Mirai Real feat. YOW-ROW from GARI
6. Mind Trip feat. Steven McNair
7. 君はスナイパー feat. MIRU from JaccaPoP
8. Brain Function feat. Azumi
9. After You feat. Okika
10. P.O.P(Person Or Popular)feat. Scandi
11. Find the Center of a Circle
12. Youthful Days feat. RAM RIDER

プロフィール
★STAR GUiTAR
★STAR GUiTAR (すたー ぎたー)

プロデューサー / アレンジャーのSiZKによるソロプロジェクト。2010年8月「Brain Function feat. Azumi from yolica」でデビューし、2011年1月には1stアルバム「Carbon Copy」でiTunes Storeダンスチャート1位を記録。テクノを基軸にハウス、エレクトロ、ドラムンベースやエレクトロニカなどの多彩なダンスミュージックを昇華したサウンドを展開する。2014年9月には、「ダンスミュージック」×「ピアノ」を融合させた、コラボレーションアルバム『Schrödinger's Scale』をリリース。90年代のテクノ・ミュージックをベースに、fox capture planのキーボードとしても大ブレイク中の「MELTEN」、PE'Zのキーボードとして時代を築き、現在はソロ名義での活動も盛んな「H ZETT M」、孤高の世界観を奏でる「Schroeder-Headz」等、豪華なピアニスト達との共演を実現し、ある種のセッション的なプロセスによって作り上げたその音像は大きな反響を呼んでいる。

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