2021年に発表された藤本タツキの漫画『ルックバック』。2024年のアニメ映画化を経て、この9月、実写映画として公開された。是枝裕和監督のもと、藤野と京本というふたりの少女を演じるのは、出口夏希と蒔田彩珠だ。
本作について、ふたりに話を聞く機会を得た。ふたりは撮影前も、撮影中も、役についてほとんど話し合わなかったという。それでもスクリーンに映るふたりには、藤野と京本が長い時間をともに過ごしてきたような自然な関係性がある。その背景にあったのは、ふたりの相性と、演技を作り込みすぎなかった是枝監督の演出、そして、ロケ地・秋田で「ここで育ったような感覚」になるまで過ごした時間だった。
今回はインタビューで、撮影中の思い出から、お互いに対する気持ちまでを聞いた。
「彩珠とは自然な自分でいられる」。二人の関係がそのまま藤野と京本になった
ーまずは原作を読まれた感想と、ご自身の役についての印象を教えてください。
出口:最初に読んだときは、もうすでに役をいただいたあとだったので、正直あまり内容に集中できなくて。それよりも「どんな子なんだろう」って、そればかり考えていました。
ー藤野はどんな子だと思いますか?
出口:すごく負けず嫌いで、でもそれを全部口に出すわけじゃない。行動や、漫画への情熱で示す女の子ですよね。あと、とにかく漫画がすごく好きな子なんだろうなって思いましたね。
出口夏希(でぐち・なつき)。2001年10月4日生まれ、中国出身。近年の出演作にドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』、映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』などに出演。『赤羽骨子のボディガード』で第46回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、『か「」く「」し「」ご「」と「』の演技で『ELLE CINEMA AWARDS 2025』エル・ガール ライジングスター賞を受賞。
ー蒔田さんはいかがでしたか?
蒔田:私も自分が演じるとわかった状態で読んだので、読者の方とは違う視点で読んでいたと思います。言葉が少なく映像で魅せるような作品だと思ったので、是枝監督が撮ったらきっと素敵な作品になるんだろうな、というのは読みながら想像できました。
京本については、最初はやっぱり内気で藤野の後ろに隠れているような子という印象で。でも読み進めると、じつはすごく芯が強くて、好きなことに対してはまっすぐ突き進む人なんだろうな、と思いました。
蒔田彩珠(まきた・あじゅ)2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。2012年、是枝裕和監督のドラマ『ゴーイング マイ ホーム』で俳優デビュー。以降『海よりもまだ深く』『三度目の殺人』『万引き家族』『舞妓さんちのまかないさん』と是枝作品に多数出演。2018年、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で映画初主演。連続テレビ小説『おかえりモネ』にも出演し、『朝が来る』で第45回報知映画賞助演女優賞をなど多数の賞を受賞。
ー役作りのために、大切にしたことや相談したことはありますか?。
出口:いま思うと、何も相談せず、お互いすごく自由に演じていた気がします。監督からもすごく演出が細かく入るということもなかったです。
「ここに立って」「ここに座って」という、場所の指定くらいで。段取りとかは特になかったです。
蒔田:本当に何も言われなかったですね。本読みもしたんですけど、そこでも「うん、いいね」っていう感じで。撮影のときも動きやセリフを「こうしたら?」とアドバイスいただくことはあっても、「これはやめよう」みたいに私たちの演技に対して削ったりストップをかけたりということはなかったです。
ーいまインタビュー中のおふたりの雰囲気を見ていて、すごく仲が良さそうに思ったのですが、現場からそういった関係性だったのですか?
出口:素を出してましたね(笑)。
蒔田:いまと同じテンションです(笑)。
出口:映画のなかで二人で漫画を描くシーンが何度もあるんですけど、そのとき京本と藤野は一緒にはいるけど、お互い自分のやることに集中している感じなんです。撮影の休憩中もその空気感でした。役についての相談はしていませんでした。
蒔田:プライベートの話ばかりしてました。
ーお二人は『舞妓さんちのまかないさん』で共演されていますが、そのときから今のような関係性だったのですか?
出口:そんなことないですよ。『舞妓さんちのまかないさん』ではほとんど一緒の撮影がなかったので。今回の撮影現場に入る前に、漫画を描く練習があって、練習初日の終わりにご飯を食べに行きました。それが最初です。
出口:彩珠とは自然な自分でいられるんです。のほほんとして、落ち着く。変に気まずくなることもないし、しゃべりたくないときはしゃべらなくていい。二人でいるときは、ずっとそういう時間を過ごしていました。
蒔田:感情の起伏が似ているのかもしれないですね。
出口:そうだね。
作り込みすぎないことを大切にした
一二人の自然な関係性が、そのまま映画にも残っているような場面はありますか?
蒔田:ふたりで作画の参考のために、海に行くシーンがあるんですけど、すごく楽しかったです。
出口:海に入ったのは私だけで、彩珠は本当は海に入る予定じゃなかったんですけど、絶対に入れてやろう!と思って頑張って引っ張りました。
蒔田:無理やり入れられそうになって、本気で嫌がってました(笑)。それがそのまま映画にも使われています。
出口:あのシーンは1日だけ秋田に行きましたが、撮影ではなくて普通に夏休みを過ごしているような感覚でした。
撮影のあとにみんなでスイカ割りをしたんですけど、今回の現場の一番の思い出です。藤野と京本の子ども時代を演じたふうりちゃんと、六花ちゃんも一緒で本当に楽しくて。映画で使えればよかったですよね(笑)。
ーその空気感を、監督は大事にされていたんでしょうか?
出口:そんな気がします。作り込みすぎないことを大切にしてくれたんじゃないかな、と思います。
「帰る家ができたなという感覚」。秋田だからこそ撮れた
ーここまでお話を聞いて、お二人の自然な姿が映されているんだと感じました。本作の舞台は秋田ですが、現地で撮影できたことは役作りに何か影響がありましたか?
出口:今回の撮影で初めて秋田に行きましたが、あらためて景色や場所の空気、音を繊細に描いた作品だと実感しました。
京本とお別れするシーンなど、現地に行ったからこそ演じられたシーンばかりでしたね。
ーそれくらい土地の力も強かったんですね。
出口:地元の人たちと遊んだり、お酒を飲んだりご飯を食べたりということが、ほぼ毎日だったんです。いまでも連絡を取り合っていますよ。
蒔田:東京で仕事をして、にかほに帰ってくるみたいな感覚でしたね。
出口:本当に、帰る家ができたなという感覚でしたね。夏休みにおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行くような気持ちで撮影に行っていました。
ーそれは、相当仲良くなっていますね(笑)。
出口:そうなんです(笑)。撮影初期に休憩中に二人でご飯屋さんに行ったとき、自分たちの仕事を「美術アシスタント」「カメラ助手」と嘘をついたことがあって。
蒔田:「あなたたちは何をしている人なの?」ってお店の人に聞かれたんだよね(笑)。
出口:「あなたたちも映画の撮影で来たんでしょう? 何の仕事してるの? 主演の子ども二人が来たよ」みたいな感じで聞かれて。「カメラ助手です!」「美術のアシスタントです」って言って、そのときはみんな信じてくれていたんですけど……。
蒔田:でも、すぐバレましたね(笑)。撮影中は、地元の皆さんが、お昼に炊きたてのご飯を持ってきてくださったり、差し入れをたくさんくださったり、本当にたくさんお世話になりました。
ーそういった地元の人との交流もあって、土地で生きて出会った藤野と京本という役柄に、自然と入り込めた部分もあったんでしょうか。
出口:そうですね。気持ちはもう完全に地元民でした。
蒔田:撮影しているというより、本当にここで育ったような感覚。繰り返しになっちゃいますが「ただいま」っていう気持ちでした。だから役づくりはせずとも、自然と京本になれたんだと思います。
出口:本当に、自然とそういう気持ちが湧いてきたよね。
蒔田:そうだね、楽しかったね。東京ではきっと撮れなかった。
ー最後に本作をこれから見る方にメッセージをお願いします。
出口:私は作品を見終わったあと、何も言葉にできないくらい、余韻にひたりました。見る方の年齢や経験で、響くところが違ってくると思います。皆さんがそれぞれどんな感想を持ってくださるのかぜひ聞きたいです。
蒔田:やっぱり音楽や景色や音など、映画だからできた部分を楽しんでいただきたいです。あと1回目と2回目で全然違う印象になる作品だと思うので、何度でも劇場で楽しんでほしいです。
- プロフィール
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- 出口夏希 (でぐち・なつき)
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2001年10月4日生まれ、中国出身。近年の出演作にドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』、映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』などに出演。『赤羽骨子のボディガード』で第46回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、『か「」く「」し「」ご「」と「』の演技で『ELLE CINEMA AWARDS 2025』エル・ガール ライジングスター賞を受賞。
- 蒔田彩珠 (まきた・あじゅ)
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2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。2012年、是枝裕和監督のドラマ『ゴーイング マイ ホーム』で俳優デビュー。以降『海よりもまだ深く』『三度目の殺人』『万引き家族』『舞妓さんちのまかないさん』と是枝作品に多数出演。2018年、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で映画初主演。連続テレビ小説『おかえりモネ』にも出演し、『朝が来る』で第45回報知映画賞助演女優賞などの多数の賞を受賞。
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