「いまさら始めても遅いのではないか」——そんなささやかな躊躇が、新しい一歩を遠ざけてしまうことがある。「なりたい自分を、起動しよう。」をテーマにした本連載では、迷いを抱えながらも未知の世界へ飛び込んだ人たちの思考に迫る。
今回話を聞くのは、弁護士であり芸人でもある、こたけ正義感さん。時事や法律の話題を、独自の目線で切り取り笑いに変えて届けることで人気を集めており、単独のライブツアー『弁論2026』は、一般チケットが販売からわずか数分で完売したほどだ。
「弁護士」という肩書きを持ちながら、なぜ彼は安易な肩書き消費に陥らず、自分だけの「強み」を作り出せたのか。違う世界を知っているからこそ生まれる「ズレ」を武器に変える思考法と、その思考を拡張するAIとの付き合い方について話を聞いた。
「必要だったのは『勇気』ではなく、失敗してもいいという感覚だった」
ーこたけさんが養成所に入ったのは29歳だったそうですが、芸人になりたいと思い始めたのはいつ頃からだったのでしょうか。
こたけ正義感(以下、こたけ):お笑いは子どもの頃から好きで、ずっと趣味の中心にありました。高校卒業のタイミングでは芸人になろうと思ったこともあったんですが、大学に行かずに養成所に入るというのが怖すぎて諦めたんです。そのときは勇気がなかったんですね。
弁護士になってからもお笑いは好きだったので、何かしらで関われたらいいなとは思っていました。そんなときに、当時交際していた方(いまの妻)から「好きなら自分でやってみれば?」と言われてハッとしたんです。無意識にその選択肢を排除していたけど、一番やりたいのはそれだなって。その場で養成所を調べて申し込んだのを覚えています。
こたけ正義感。1986年5月12日生まれ。京都府出身。ワタナベエンターテインメント所属。現役弁護士の芸人として活動しており、2022年には「ABCお笑いグランプリ」で準優勝、翌23年には「R-1グランプリ」で決勝に進出。24年からは単独のスタンダップコメディショー「弁論」を開催している。
ー養成所には、弁護士の仕事を続けながら通うことにしたんですか。
こたけ:芸人になったからといってすぐに仕事があるわけではないので、当然弁護士を続けながらやろうとは思っていました。いくつか養成所を探しましたが、当時ワタナベコメディスクールにだけ、毎週土曜日に通える「社会人コース」というのがあったので、これだと思って申し込んだんです。
ー高校生のときには勇気がなかったとおっしゃっていましたが、29歳のこたけさんにはその勇気があったということなんでしょうか。
こたけ:高校生の頃ほど、新しいことを始めることへの抵抗がなかったのかもしれないですね。29歳のときにはいろいろ経験したこともあって気持ち的に、失敗しても別に大したことじゃないってわかっていたのかな。うまくいかなきゃ辞めて別のことやればいいやっていう感覚があったんだと思います。
そう考えると、芸人はじめるために必要だったのは「勇気」ではなく、失敗してもいいという感覚だったのかもしれないですね。
ーでは29歳のときも「腹をくくって芸人の世界に飛び込んだ」という感覚ではなかった、と。
こたけ:そうですね、週に1回通う楽しい習い事っていうイメージでした。無理のないペースで両立しようと思ってスタートして、そのまま腹をくくるタイミングもなく現在まで続いているという感じなんですよね。
ーなるほど。スクールを卒業して、本格的に芸人として活動を始めるにあたっての障害みたいなものも特にありませんでしたか。
こたけ:まあでも、芸人になると弁護士会のなかで叩かれるかもしれないし、結果として当時所属していた法律事務所にも迷惑をかけるかもしれないという懸念はありました。ただ、それも先輩弁護士に相談して払拭されました。
ーどんなアドバイスをもらったんですか?
こたけ:「脱がなきゃ何やってもいいと思う」って言ってましたね(笑)。
「弁護士であること」は芸人としての武器になるか
ー芸人として活動していくにあたって、弁護士であるということはメリットになったのでしょうか。
こたけ:まず金銭的な面で言うと、当時は生活が維持できる程度の弁護士としての収入がありました。その稼ぎがなければ芸人の活動は継続できていなかったと思いますね。芸人を始めて数年はまったく売れず、「仕事」になっていなかったので。
一方で、芸人としての特徴という面では、個性を出しやすいという意味で一見プラスだけのように見えて、マイナスも多かったと思います。芸人が持っていることが珍しい資格なので、1、2回は「弁護士芸人」としてテレビに出られるかもしれませんが、それだけで長く戦えるほど甘い世界じゃありませんから。
お笑いが好きな人たちって、肩書きで売っている芸人に厳しいんですよね。ただ珍しいだけでしょ、本当に面白いわけではないんでしょっていう見方をされてしまうんです。うがった見方をされてしまうと言いますか。なので、なおさらちゃんと中身で、ネタで勝負しないと話にならないなと思ってやっていました。
ーネタづくりに、弁護士という仕事はどんなかたちで入ってきましたか。
こたけ:ネタ作りは自分のなかの個性を探す作業だと考えています。弁護士っていうのはただの肩書きであって、それが僕のキャラクターそのものを表しているわけじゃないんですよね。
なので、弁護士であることそれ自体ではなく、弁護士になるにあたって得た知識や、弁護士の仕事を通して身についた考え方こそが自分の個性なんだと思いながらネタをつくっていました。
©️こたけ正義感のギルティーチャンネル
ーこたけさんの単独ライブでは、冤罪事件や生活保護といったテーマを取り上げられていますが、まさに個性を探した結果生まれたスタイルということですね。
こたけ:そうですね。弁護士であることを活かそうと思っているのではなくて、弁護士として働いているから弁護士関連の話を聞くことが多いし、そういうことを考えることも多いんです。例えば「袴田事件」みたいな大きな事件に関わったことで自分の心が大きく動いたりしたので、結果的にそれがそのままネタになっていったという感じですね。
新しいことを始めるときに生まれる「ズレ」
ーでは逆に、芸人としての経験は、弁護士としてのこたけさんに何をもたらしたのでしょうか。
こたけ:少し前までは何もありませんでした。むしろデメリットのほうが大きかったんです。被害者に示談交渉をしにいったときに初っ端「あなた芸人ですよね」って言われたり、交渉相手の弁護士と電話で強い議論を交わした後に「応援してます」って言われて気まずくなったり……。そういうことが結構多かったので、とにかくやりにくいなと思っていました。
けれど最近は、弁護士会から「こういう活動をしているから、それをソフトに世に伝えてほしい」みたいなお話もあったりして。
僕はこれまで弁護士の世界に対して後ろめたい気持ちもあって。みなさんが一生懸命頑張っているなかで、全然違うお笑いの世界にいて、迷惑をかけているんじゃないかと思っていました。でも、そのお笑いで得た僕の発信力みたいなもので、還元できるようになってきている気もしてて、それがいまはすごく嬉しいですね。
ーこたけさんの場合、結果的に2つの活動が互いに良い影響を与えあっていますが、新しいことを始めるときにいまの仕事への影響を考えてしまう人は多い気がします。そうした気持ちとどう向き合うとよいと思いますか?。
こたけ:先日、養成所でスクール生に向けて授業をする機会があって、まさにそういう話になりました。僕は弁護士をやりながら芸人をしているので「仕事の両立」みたいな話を求められることが多いんです。その日も生徒から「大変じゃないですか?」って聞かれたんですけど、むしろお笑いをやることによっていまの仕事でスペシャルな存在になれる可能性が高くなるという話をしました。
お笑いの能力が高い人のほうが、社会人としてのコミュニケーションもうまくいくと思いますし、自分が取り組んでいる分野において発信したいと思ったときにもプラスに働くはずです。その授業では、新しい武器を手に入れるという気持ちでお笑いをすればいいんじゃないかという話をしたんですが、これってじつはほかの仕事でもそうなんじゃないかと思うんですよね。
それに僕は最近、何か新しいことを始めれば必ずどこかで点と点がつながる瞬間があって、長い目で見ればいまやっていることにプラスになって返ってくる、と思うようになってきました。
ー実際、一歩踏み出したこたけさんからすると、新しいことへのチャレンジはプラスになることのほうが多いという実感があるんですね。
こたけ:そうですね。芸人に限らず、ユニークな人間になりたいと考えたときに、何かを掛け合わせることはかなり有効な手段だと思うんですよね。特に、芸人のような絶対的な評価軸がないような分野であれば、ほかとの差別化が必要になります。縦の勝負ではなくて、横の勝負というか。いかにいままでなかった席を自分でつくりだして評価させるかという世界ですから。
そういう意味では、全然違う分野から飛び込むほうが有利になることが多い気がしているんです。違う世界を経験してきたからこそ、その世界にいる人とのズレみたいなのが絶対にあって、それが強みになるので。
ーたしかに、芸人のような分野においては、そうしたズレが強みになるのかもしれません。
こたけ:弁護士でも、社会人を数年経験してからなる人がいるんですが、その経験があるからこそ受けられる仕事というのが結構あるんです。
例えば、社会人として特許に携わる仕事をしていた方が弁護士になった例があります。じつは、特許の仕組みってとても難しくて、それを隅々まで理解できる弁護士はほとんどいないんですが、それがわかるというだけで弁護士としてかなり有利なスタートが切れるんです。そう考えると、芸人だけではなく、どの世界でも同じようなことが起こりうる気がしますね。
AIは、自分の脳の拡張場所
ーこたけさんは弁護士や芸人の仕事をするなかで、AIを活用することはありますか。
こたけ:めっちゃ使います。弁護士でいうと、記憶が曖昧な法律や制度について聞いたり、複雑な事実関係についてとりあえずAIに整理してもらったり。あとはリサーチをしてもらうこともあります。自分が対応する前の一次対応を依頼することが多いかもしれないですね。
芸人としてだと、自分のアイデアやネタの台本をAIに「どう思う?」って聞くことが多いです。結果として、大体いつも面白くない答えが返ってくるんですけど、「ああ面白くないな」って思うのと同時に「もっとこうしたほうが面白くなるだろう」って自分の脳が動き出すんです。AIへのダメだしをする流れでネタをブラッシュアップしていくみたいな。
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ー自分を動かすためのきっかけづくりとしてAIを使っているんですね。
こたけ:AIに相談した瞬間に自分の視野が広がるというのはよくあると思うので。それこそ何か新しいことに挑戦するときとかって、自分の偏った小さな知識しかないので、AIに考えを共有するだけでもいろんな視点を提供してもらえると思います。
ー弁護士と芸人を両立するうえで、AIの活用は重要だと感じますか。
こたけ:単純に時間的な意味で言っても、AIを活用することで無駄なことに時間を使わなくなって、有益な時間の使い方につながっているという感覚はあります。それこそ昔は弁護士の仕事でも、図書館に行って参考書籍を探してきて、該当箇所を探して……ってやってたわけですから、当時AIがあれば、そういったことも全部省略できていたんだろうなって思います。
あとはキャパシティを広げるという意味でも重要だと思います。アイデアであったり、相談内容であったり、その結論であったり、覚えておきたいことはたくさんありますが、自分の脳だけだと限界があるので。AIは自分の脳の拡張場所というイメージがありますね。
ー今回、AI PCを手にとってみて、ご自身の活動にどう活かせそうだと感じましたか?
こたけ:AI PCはローカルで使えるっていうのがいいなと思うんです。僕、新幹線でよく作業するんですけど、そのときAIがまったく答えてくれなくなることがあって。駅と駅の間でネット環境がめちゃくちゃ悪くなるんですよね。ストレスなく、時間にロスがなく使えるのはやっぱり魅力的だと思います。
ーAI PCを手がける日本HPでは、「AI PCで自由研究」キャンペーンを実施しています。最後に、こたけさんが今後挑戦してみたい「自由研究」を教えてください。
こたけ:自由研究ですか。僕やりたいと思ってるけどできてないことってめちゃくちゃあるんですよ。小学生のときに剣道をやっていたんですけど、ずっとまたやりたいなって思いながら生きてますし。楽器を何か弾けるようになりたいな、とか。歌がうまくなったら楽しいだろうな、とか。とにかくいっぱいありますね。そういうのをAIが少しでも手助けしてくれるなら、本当に頼りたいですね。
- HPについて
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HP Inc.(NYSE: HPQ)は、Future of Workを再定義するグローバルテクノロジーリーダーです。180以上の国と地域で事業を展開し、ビジネス成長とプロフェッショナルとしての充実を支える、革新的でAIを活用したデバイス、ソフトウェア、サービス、サブスクリプションを提供しています。
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- プロフィール
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- こたけ正義感
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1986年5月12日生まれ。京都府出身。ワタナベエンターテインメント所属。現役弁護士の芸人として活動しており、2022年には「ABCお笑いグランプリ」で準優勝、翌23年には「R-1グランプリ」で決勝に進出。24年からは単独のスタンダップコメディショー「弁論」を開催している。
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