誰もがスマホで写真を撮る時代から、いまやAIの台頭によって、撮影なしでもリアルなイメージがすぐに誰にでもつくれる時代が到来した。写真は私たちにとって、どのようなメディアになっていくのだろうか。
『杉本博司 絶滅写真』(6月16日より東京国立近代美術館で開催)は、写真の絶滅に始まり、人類文明の絶滅、自身のキャリアの終焉まで、「絶滅」をめぐる杉本のビジョンが打ち出された展覧会だ。
今回は、作家の作品世界と観客をつなぐ「音声ガイドナビゲーター」を担当した俳優・小芝風花にインタビューを実施。作品を感じ、理解し、そして伝えることに真摯に向き合った彼女の言葉からは、「写真」というメディアの軽さ=現代のリアルな感覚と、現代美術への柔らかな眼差しが見えてくる。
写真は時間を閉じ込める。「劇場」シリーズを見て感じたこと
—音声ガイドナビゲーターで解説された作品のなかで、特に印象に残ったものはありますか?
小芝風花(以下、小芝):〈劇場〉シリーズがすごく好きだと感じました。写真って流れている時間のほんの一瞬を切り取るものだと思っていたんですけど、「時間そのものを閉じ込める」という発想がすごく面白くて。写真=瞬間を写すという認識揺さぶられる感覚がありました。しかも写っているのは真っ白に輝くスクリーンだけで、「これって人の人生みたいだな」と思ったんです。
街ですれ違う人や少しお会いしただけの人の人生は、客観的には何も見えなくて真っ白だけど、そこには一人ひとりの生活が詰まっている。人からどう見られたとしても、自分が彩りある人生を歩めていると思えたらいいんだな、と。そんなことを考えながら原稿を読んでいました。
〈劇場〉シリーズ 杉本博司 《パレス・シアター、ゲーリー》 2015年 ゼラチン・シルバー・プリント 119.4 × 149.2 cm © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
各地の映画館や劇場で、映画の本編開始から終了までシャッターを開け続けて撮影したシリーズ。スクリーンに映るすべての光(時間)が蓄積した結果、画面中央のスクリーンが真っ白な光を放ち、暗闇の観客席を照らし出している。
「写真に写っているものが本物か偽物か、誰にもわからなくなっていく」
—杉本博司さんの作品や言葉に触れて、「写真」というメディアについてはどんなことを感じましたか?
小芝:このお仕事をお受けするまでは、正直、特に何も考えていなかったんです。気になるものがあればスマホを向けるのが日常になっていますし。でも作品を知っていくなかで、フィルムで撮っていた時代は1枚1枚シャッターを切るときに、「ちゃんと心が動いたものを撮ろう」「ここを残そう」という意志のもとで撮っていたはずだろうなと考えました。いまはカメラロールを開くと「これ撮ったっけ?」という写真があふれていて。写真を撮るという行為の重さが全然違うんだろうなと。
小芝:それに、SNSに写真や動画を上げると、コメント欄に「これはAI? 本物?」という言葉があふれていますよね。本物だとしても、もはや誰も証明できない。撮った本人がいなくなったら、家族写真に知らない人が追加されていても家族に見えてしまったりする。
この展覧会は、「銀塩写真」(※)という技術の絶滅が入り口かもしれないけれど、「写真に写っているものが本物か偽物か、誰にもわからなくなっていく」という意味での「写真」の絶滅なんだなって。技術が発展したことによる便利さと、失われていくものへのはかなさ、その両方を考えさせられました。
それと同時に、こういうご縁がなければ「銀塩写真」というワードを知らないまま一生を終えていたと思うんです。一つの物事をどうとらえるかで、こんなに豊かさが違うんだということを、杉本さんの作品を通じてあらためて感じました。
※光に反応する銀塩化合物を塗布したフィルムや印画紙を使い、化学反応によって像を定着させる写真技術。デジタル以前の主流であり、独特の粒状感や階調の豊かさが特徴。
写真の真贋が揺らぐ時代に、それでも残したいもの
—写真を撮ることへの向き合い方は変わりそうですか?
小芝:本当に心が動いたときにシャッターを切れるようになりたいですね。
写真のいいところって、残したい景色や人を何十年後も見られることだと思うんですけど、そのときの空気感や温度を知っているのは自分だけ。写真の真贋がわからない世の中になっても、撮ったときの気持ちだけは忘れないように持っておけたらいいなと思っています。
小芝:あと前に旅行に行ったとき、使い捨てのフィルムカメラを持っていきました。同じ場所では2回シャッターを切らない、心が動いたときだけ——そういう縛りで使い切ろうという旅をしたことがあります。そのとき撮った写真はプリントしてアルバムにしました。
子どものころって、親がアルバムを作ってくれていたじゃないですか。でもスマホでの撮影が主流になってからは、印刷してアルバムにするという習慣がなくなっていって。昔の写真を見ると、「ここで撮ってくれたんだ」とか「こう切り取ってくれたんだ」という親の気持ちがすごく嬉しくて。もし自分が子どもに恵まれたら、そういうものを残してあげたいなと思うので、いまも大切な時間に撮った写真はプリントするようにしています。
—最後に、展覧会をご覧になる方へメッセージをお願いします。
小芝:写真って一瞬を切り取るだけじゃなく、時間そのものを閉じ込めることもできるし、思いをのせることもできる。杉本さんの作品をとおして、いろんな視点で写真と向き合う時間を楽しんでもらえると思います。自分にとって写真って何だったんだろうと考える時間になると思います。
- イベント情報
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『杉本博司 絶滅写真』
2026年6月16日〜9月13日
東京国立近代美術館
- プロフィール
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- 小芝風花 (こしば・ふうか)
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俳優。1997年4月16日生まれ。大阪府出身。A型。トップコート所属。12年にドラマ『息もできない夏』で女優デビュー。14年3月、映画『魔女の宅急便』で主演を務め、同作で『第57回ブルーリボン賞』新人賞を受賞。その後、NHK連続テレビ小説『あさが来た』、ドラマ『トクサツガガガ』、映画『ガールズ・ステップ』、ドラマ『波よ聞いてくれ』、ドラマ『転職の魔王様』、ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺』など、ドラマや映画、CMで活躍。この春には、作品での活躍と確かな演技力が評価され、第34回橋田賞を受賞。今年の冬には『あきない世傳 金と銀 完結編』の放送を予定している。
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