Eveとは何者か? MVの総再生回数2億2千万回を誇る彼の歩みを考察

アニメ映画さながらの“僕らまだアンダーグラウンド”MV

中間色を基調とした淡い色彩の世界から、鮮やかな色彩と光と闇のコントラストが眩しい新たなる世界へ。1月24日に公開された新曲“僕らまだアンダーグラウンド”のミュージックビデオ(以下、MV)、そして、その後2月6日にリリースされたニューアルバム『おとぎ』によって、Eveが生み出す音楽世界は、これまで以上に多くのリスナーを獲得しながら、さらなる「変容」を遂げ始めているようだ。「変わること」……それは、Eveというアーティストの本懐でもある。

映画『君の名は。』(新海誠監督 / 2016年)などで知られる川村元気のプランニング / プロデュースのもと、アニメーション制作会社10GAUGEの依田伸隆が監督を、『おそ松さん』などで知られる浅野直之がキャラクターデザインを、そしてWIT STUDIOがアニメーション制作を担当した“僕らまだアンダーグラウンド”のMV。

公開からわずか2週間で300万を超える視聴数を記録しているこの曲をはじめ、“ラストダンス”(680万再生)、“アンビバレント”(350万再生)、“トーキョーゲットー”(1300万再生)、“アウトサイダー”(670万再生)など、この9か月のあいだにMVが公開され、いずれも高い視聴数を記録している楽曲を余すことなく収録したEveのニューアルバム『おとぎ』は、ある意味、あらかじめヒットを約束されていた、まさしく待望の1枚と言うべき作品に仕上がっている。

Eve『おとぎ』を聴く(Apple Musicはこちら

音楽を始めてから、新木場STUDIO COASTでのライブチケットを即完させるまで

目立ったメディア露出があまりないことから、「新人アーティスト」という括りの中で語られることも多いEve。しかし、YouTubeチャンネル登録者数86万人、Twitterのフォロワー数36万人、MVの総再生回数2億回など、インターネットの世界において、彼はすでに堂々たる存在感を示しているのだ。それにしても、彼の音楽は、なぜこれほどまでに熱烈な支持を獲得しているのだろうか。

BUMP OF CHICKENの楽曲をきっかけに、音楽に対する興味を持ったというEve。なるほど、Eveの生み出す楽曲は、BUMP以降、RADWIMPSなどが切り開いていった、日本ならではのギターロックの系譜に連なるものと言えるだろう。しかし、彼がユニークなのは、そこでバンドを組み、ライブを重ねながらインディーズで音源をリリースして……という、従来の在り方とは異なる経路を辿りながら現在に至っているという点にある。彼が登場し活躍してきたのは、ライブハウスではなく、主にインターネットの世界なのだから。その意味では、ボカロPからそのキャリアをスタートさせた米津玄師以降のアーティストと言うことも可能だろう。

2009年、動画投稿サイトで「歌い手」としての活動を開始し、持ち前の歌の上手さと、中性的で柔らかな質感を持ったその声によって支持者を増やしていったEveは、その後、バンドやユニットでの活動、ボカロPの楽曲のカバーを中心とした自主制作アルバムのリリースを経て、初の全国流通盤『OFFICIAL NUMBER』(2016年)で、ようやく本格的にオリジナル曲を作り始めるようになったという。それは同時期に、ワンマンライブを行うようになったこととも深く関係しているようだ。

Eve『OFFICIAL NUMBER』を聴く(Apple Musicはこちら

他の誰かの言葉でなく、自分自身の言葉で歌うこと。かくして、「歌い手」から「シンガーソングライター」へと変貌を遂げた彼は、2017年の12月に全編オリジナルのアルバム『文化』をリリース。オリコンインディーズチャートで1位、iTunesで2位を獲得するなど、異例のスマッシュヒットを記録することになる。さらに、それを受けて行った東名阪ツアーも大盛況。そのファイナルとなった2018年11月の東京・新木場STUDIO COAST公演は、チケットが即完するほどの人気を獲得するに至ったのだった。

Eve『文化』を聴く(Apple Musicはこちら

オリジナル楽曲で勝負するようになって、わずか2年での大躍進。その背景には、彼が自身の仲間たちと一つひとつ丁寧に生み出してきたMVの存在がある。『文化』や『おとぎ』のジャケットデザインも担当するMahをはじめ、Waboku、OkamotoといったEveが敬愛するクリエイターたちと一緒に作り上げてきた、全編アニメーションのMVの数々。それは、Eveの楽曲に合わせて作られたものというよりも、そのイメージによってEve自身の音楽や言葉も緩やかに変化していくような、そんな関係性にあるという。

Eve“トーキョーゲットー”(『おとぎ』収録曲)

自問自答の果てに絞り出される「まだ何者でもない」

インターネットを活用するなど、彼のユニークで現代的なスタンスは、その歌詞の世界にも大いに表れている。ときにダンサブルなアレンジやメロディーの高揚感とは裏腹に、細やかな譜割の中で矢継ぎ早に繰り出される言葉には、興奮と不安、絶望と希望など、相反する思いがそのままの形で刻み込まれている。

起承転結のはっきりとした物語ではなく、まだ何者でもない自らの内面に渦巻く感情を、そのアンビバレントな思いを、そのままの形で取り出したような言葉たち。

<どうしたってどうしたって 進めないままだ><本物を超えろ ビビれば君は今日もステイ>(“トーキョーゲットー”)、<君にだけしかできない事はなんだ><その小さな勇気が僕の胸を焦がすから>(“アウトサイダー”)、<その足を踏み出せないでいるのかい 自分が傷つくことが嫌な癖に><選ぶんだ君の未来を>(“アンビバレント”)、<言葉だけが宙を舞って また今日も夜を越えてしまったんだ><手放したんだっていいさ 最低な夜を越えようぜ>(“僕らまだアンダーグラウンド”)……自問自答の果てに絞り出されたであろう、それらの鋭利な言葉たちは、Eve自身に向けられた言葉であると同時に、聴く者の心を揺り動かす強度を持った言葉でもある。

人々を熱狂させるクリエイションの多くがそうであるように、彼の言葉もまた、彼自身のものであると同時に、「僕たち / 私たちの言葉」として、聴く者の心に突き刺さる同時代性と普遍性を併せ持っているのだ。

Eve自身を突き動かすのは「胸の高鳴り」

Eveがインタビューや歌詞の中でよく用いる言葉に、「胸の高鳴り」という言葉がある。それは、恋愛的なものである以上に、部屋でひとり見るパソコンの画面、あるいはスマホの画面の向こう側で展開する、めくるめく世界への興奮と憧れ。そして、その世界に身を投じてみたときの不安と、思いもよらないリアクションを獲得したときの高揚感を指すのだろう。

動画という形で発表される音楽の愛好者から「歌い手」に、そして仲間たちと生み出すMVを主軸とした「シンガーソングライター」へ。さらには、観客の前で歌い演奏する「パフォーマー」へと劇的な変化を遂げてきたEve。彼をここまで突き動かし、そして変容させてきたのは、恐らくそんな原初的な「高揚感」であり、そこが彼の何よりも新しいところなのだろう。

無論、その興奮は、Eveだけのものではない。彼の音楽に感化して生み出されたキャラクターを、アニメーションという形で表現するクリエイターたち。そして、何かのきっかけでそのMVを目にした人々が感じる、「これは他の誰でもない自分に向けられた音楽であり、言葉である」という高揚感。そんな「胸の高鳴り」の連鎖が生み出した新時代のアーティスト、それがEveであり、今現在もなお変容し続ける彼の音楽世界なのだ。

リリース情報
Eve
『おとぎ』初回限定盤(CD+DVD)

2019年2月6日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TFCC-86664

[CD]
1.slumber
2.トーキョーゲットー
3.アウトサイダー
4.迷い子
5.やどりぎ
6.アンビバレント
7.楓
8.ラストダンス
9.僕らまだアンダーグラウンド
10.君に世界
11.dawn

[DVD]
1.アウトサイダー MV
2.トーキョーゲットー MV
3.アンビバレント MV
4.ラストダンス MV

Eve
『おとぎ』通常盤(CD)

2019年2月6日(水)発売
価格:2,160円(税込)
TFCC-86665

1.slumber
2.トーキョーゲットー
3.アウトサイダー
4.迷い子
5.やどりぎ
6.アンビバレント
7.楓
8.ラストダンス
9.僕らまだアンダーグラウンド
10.君に世界
11.dawn

イベント情報
『Eve 2019 春Tour おとぎ』

2019年3月25日(月) 会場:大阪府 なんばHatch


2019年3月28日(木)
会場:愛知県 名古屋 ダイアモンドホール

2019年4月29日(月・祝)
会場:東京都 Zepp DiverCity

プロフィール
Eve (いゔ)

2枚の自主制作アルバムを経て、2016年に初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」をリリース。本作から自身による作詞・作曲中心の作品構成となる。2017年12月13日に発売したインディーズアルバム「文化」は初の全自作曲のみで制作。収録曲「ナンセンス文学」「あの娘シークレット」が1000万再生を超え、「ドラマツルギー」「お気に召すまま」が2000万再生を突破するなどしているほか、オリコンインディーズチャート1位、iTunes2位を記録し話題に。2018年には「文化」を携えた東名阪ワンマンツアーを開催し、11月4日に自身最大規模となるSTUDIO COASTで追加公演を実施。チケットはいずれも即完となった。2019年2月6日にはニューアルバム「おとぎ」を発売。



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