エコ意識、ヴィンテージ文化が浸透するには?中国の古着屋の挑戦

今年6月に中古アパレル販売サービスの「thredUP」が発表した、アメリカの18歳以上の消費者を対象にしたリサーチ「2021 RESALE REPORT」によれば、衣服の購入において節約することを最優先事項とし、サステナビリティーを気にかけ、使い捨てよりも再販可能な衣服を好むのが、「ポスト・パンデミック」の消費者の傾向だという。今後も環境への配慮やコロナ禍での消費サイクルの見直しなどにより、セカンドハンド市場は拡大すると予測されている。

アメリカと並んで世界最大規模のファッション市場を持つ中国ではどうだろうか? これまで中古の衣服の売買においては世界の遅れをとっていたが、近年変化が見られ、古着やヴィンテージを求める人々が増えているという。いま中国ではどのような消費者が古着屋を訪れ、また売り手はどんな展望を持っているのだろうか。現地のヴィンテージショップやリサイクルショップオーナーの声を通して、中国の古着事情を探る。

(メイン画像:写真提供:多抓鱼)

古着は廃棄物で不衛生? 中国の人々が抱く抵抗感の背景

コロナ禍で大きな打撃を受けたファッション業界だが、欧米を中心にリセール市場は活発化している。サステナビリティーや節約の観点から若者のあいだでは古着が人気だ。中国では根強い中古品への抵抗感や偽造品などの問題から、リサイクルの意識はあまり定着していなかったが、近年ヴィンテージや古着を求める若者も増えてきている。

「中国版Instagram」と言われるソーシャルECアプリ「小紅書(RED)」で、中国でもすっかり定着した日本からの単語「古着(グージュオ)」と入力して検索すると、とんでもない数の「古着」に関する投稿が並ぶ。

オススメの古着屋を紹介していたり、古着コーデや海外の古着の歴史を紹介していたりとさまざま。そんななか、「古着は『洋垃圾』じゃない」「古着って何? 『洋垃圾』?」というコメントをつけてコンテンツを投稿している人が数人いたことに驚いた。

中国のソーシャルECアプリ「小紅書(RED)」に並ぶ「古着」に関する投稿

「洋垃圾(ヤンラージー)」とは、「外国から持ち込まれた固形廃棄物」を指す。1980年代、中国の製造業が急成長をとげ、プラスチックや金属などの原材料の需要が増えた。

当時、原材料を仕入れるより、廃棄物から原材料を回収するコストのほうが低かったことから、中国はアメリカなど先進国の廃棄物の輸出先になっていたのだ。そのなかに、衣類も含まれていたという(2018年1月から廃棄物の輸入規制に乗り出し、2021年1月以降、すべての固体廃棄物の輸入を禁止している)。

そのような社会背景から、「古着」を「廃棄物」であると誤解している人が多いため、「小紅書(RED)」では本来の古着の概念を紹介している人がいたというわけだ。今年1月にすべての固体廃棄物の輸入が廃止されたとはいえ、1980年代から輸入が続いていたことを考えると、「古着=洋垃圾」と捉える人がいるのも理解できる。そのため、「古着は不衛生」という考えにも繋がっているようだ。

上海の有名ヴィンテージショップに見られる客層の変化

2010年頃、上海在住の中国人の友人に連れられてヴィンテージショップ「LOLO LOVE VINTAGE」を訪れた。店内には、ヨーロッパやアメリカで仕入れた1920年代から1980年代の服やアクセサリーなどが並んでいた。「上海にもこういうお店があったんだ」というのが第一印象だった。それ以降、訪れるチャンスはなかったのだけれど、現在までずっと運営を続けていると聞き、驚きと嬉しさがあった。

LOLO LOVE VINTAGE店内(写真提供:Lolo)

「LOLO LOVE VINTAGE」のオーナーのロロ(Lolo)は元ファッションスタイリスト。2009年、スタイリストをしながら、店名のとおり、大好きなヴィンテージのお店「LOLO LOVE VINTAGE」をオープンした。その後、スタイリストを辞めてショップに注力し、いまに至る。11年続くヴィンテージショップは中国では数少ないようで、ヴィンテージファンのあいだでは有名なショップだ。

「私のお店では、年代の決まったヴィンテージ、かつヨーロッパとアメリカのものに商品を限っています。また、扱うスタイルとしては、女性的でエレガントなもの。そういうコンセプトがはっきりしているお店は、中国ではまだ珍しいかもしれないです」

オープン当初から、ロロ本人が毎年数回ヨーロッパやアメリカに買い付けに行き、掘り出し物を探してきている。ショップを始めた当初は、スタイリストを兼業していたこともあり、ファッション関係者や芸能人、ヴィンテージの文化を楽しみ、鑑賞用としてコレクションする愛好家からの支持を集めた。

アメリカで買い付け中のロロ(写真提供:Lolo)

友人の紹介でショップを訪れる客が多いなか、近年は客層に変化が見られるそうだ。

「世界的な動きなのかもしれないですが、最近は、『映える』写真を撮るためにお店に入ってくる若い子が一気に増えました。アプリとかSNSで知るみたいです。特に上海以外の地域から、旅行ついでに寄る若い子が多いですね」とロロは語る。

LOLO LOVE VINTAGE店内(写真提供:Lolo)

実際、中国の検索エンジンサイトでショップ名を入力すると、「LOLO LOVE VINTAGE」の店内で撮影した写真や動画をあげている若い女性が少なくない。

「LOLO LOVE VINTAGE」は、大通りから入った小道沿いに位置している。英語で書かれたショップ名と可愛い女性のイラストが目印の隠れ家的なショップだ。ドアを開けると、まずは開放的な庭が目に入る。庭を抜けてさらに奥のドアを開けるとやっと、店内にたどり着く。店内の非日常的な空間と1930年代のウエディングドレスなど、普段行くショップではお目にかかれないような一点もののヴィンテージアイテムたち。それを撮影したいと思う気持ちは良くわかる。

「初めは、そういう撮影だけのために入店する人たちには戸惑いましたが、いまは行きすぎた撮影以外は許可しています。時代に合わせる必要もありますし、それに宣伝にもつながりますしね」と店側も受け入れている。

「LOLO LOVE VINTAGE」はこのドアが目印(写真提供:Lolo)

他人とは違う、手に入りにくい一点ものがほしい

SNSでの「映え」を求めるだけでなく、いま、世界的に流行しているヴィンテージのトレンドが、中国の若者のあいだでも来ているという側面もあるようだ。ロロはこう分析する。

「物質的に満たされた若者が、今度はレトロなものに目を向けるという傾向はあるみたいですね。それは、ここ数年中国で流行っている『漢服』の人気とも似ているのかもしれないです。また色んなものに触れると、今度はなかなか手に入らない、他人とは違う一点ものがほしいという欲求につながるんだと思います」(参考:中国Z世代を虜にする漢服ブーム。愛好者やデザイナーが語る

以前、中国で海外のデザイナーズブランドの古着を販売しているオーナーに話を聞いたときも「世界に二つとないデザインのアイテムを持っているというのは、若い子にとって何よりの喜びなんだと思う」と言っていたのを思い出した。

また、「海外の人気インフルエンサーが身につけているから」という理由でヴィンテージに目が向き始めた若者もいるようだ。こう話を聞いていると、デザインやアイテムの歴史など、個々のヴィンテージの文化そのものに魅力を感じて手に取るというよりは、「流行っているから」「スペシャルだから」という理由で購入する客が増えていることを知る。

LOLO LOVE VINTAGE店内(写真提供:Lolo)

去年、「LOLO LOVE VINTAGE」では、コロナ渦で一度だけ店内から生配信するイベントを行なった。ヴィンテージの概念を知ってもらいたいと、詳しい人をゲストに呼びトークを交えて店内の商品を紹介したが、ねらい通りにはいかなかったようだ。

「コメント欄を見ると、『次の服は?』とトークの内容よりも服を見たいと急かすようなコメントが多く飛び交ったので、あれ以来配信はしていません」

セカンドハンド品を「他人が着た服」として受け入れられない人もいるなか、「それでも、『1930年代、1940年代の服がいまも着られる状態なんてすごい。デザインも素敵』って言ってくれるお客さんもいたりするので、ヴィンテージというのがどういうものなのかもっと広められたらと思っています」と語っていた。

2019年、ショップの10周年記念イベントにて。ヴィンテージファンの友人やお客さんが集まった。中央がロロ(写真提供:Lolo)

ロロは、2019年にヴィンテージのリプロダクション的なオリジナルブランド「BEE’S KNEES」もスタートさせている。

「ここ数年、1920年代から1950年代までのヴィンテージ品の数が少なくなっていることにより、価格が上がっているんです。いっぽうで、この年代のものを求めるお客さんは増えています。その年代の良いデザイン、素敵なものが途絶えないように、当時のファッションの『生命』を多くの人につなげられたらという思いでブランドを立ち上げました」

BEE’S KNEESでは、その年代のデザインやカッティングを参考にしたオリジナルのアイテムを手に入りやすい価格で提供している。ヴィンテージ愛好家であり、理解者であるロロだからできる新しい試みだ。ここにも、ヴィンテージに対する愛情と信念を感じる。

1920年代から50年代までのヴィンテージをリプロダクションしたオリジナルブランド「BEE’S KNEES」。ロロ本人がモデルを務めることも(左)(写真提供:Lolo)

エコ視点からの取り組みも。リサイクル店を悩ませる偽造品問題

もう一人、中国で「耐久消費財の循環」を目的に掲げ、リサイクルの理解と普及に尽力する女性がいる。リサイクル品売買のアプリと実店舗を運営する「多抓鱼(ドゥオジュアユー、déjà vu)」の共同創設者・猫助(マオジュー)だ。2017年5月、SNS上のショップで中古書籍売買をスタートさせた。

「書籍には世界共通の国際規格コードのISBNが付いているのでデータベース化でき、需要と供給が把握しやすい。また、安定的なユーザーの確保にもつながり、比較的早く事業がスタートできると思ったので、ここからスタートしました」

その後、2018年12月には独自のECアプリをスタート、2019年10月には北京に実店舗の古本屋をオープンさせるなど、地道に事業を拡大してきた。そして、2020年4月、衣服のリサイクル事業を始めた。

2019年、北京にオープンした古本屋「多抓鱼」
古本屋「多抓鱼」店内

衣服の生産量、消費量ともに世界トップクラスの中国は、いまでは世界最大規模のファッション市場を持つ。しかし、衣服のリサイクルにおいては、未だ遅れをとっているのが現状だ。

マオジューは「日本のように安心して古着を売買できる場がほとんどないのが中国の現状です。その空白の巨大なマーケットに参戦することは、事業スタート時から決めていました」と語る。

多抓鱼では買い取りの際、「本物かどうか」「激しい汚れや破損がないか」をチェックする。「古着の買い取りで一番頭を抱えるのが、本物かどうかの見極め」とのこと。中国のファッション市場において、偽物の氾濫は長年の課題だ。巨大マーケットなだけに、その見極めは多抓鱼でも頭を悩ませているという。

「まずはブランドタグと洗濯表示タグのデータベースから、それが本物か偽物かの確認をし、さらに、専門スタッフによる一点一点のチェックも行なっています」

そして、買い取られたアイテムはすべて、洗濯、消毒の過程を経て、初めて売りに出される。「日本のように古着文化が根づいているわけではないので、洗濯、消毒を施さないと安心して買ってもらえません。また、私たちとしては購入した古着をさらにリサイクルしてほしいという願いがあるので、できるだけ良い状態で提供しています」。ここでも消費者の潜在意識としての「洋垃圾」の存在を感じる。

買い取りした衣服は一点一点スタッフがチェックする
多抓鱼の共同創設者・猫助(右)と陈拓(左)

「耐久消費財の循環」を掲げるリサイクルショップ。「中国では毎年約2600万トンの衣類を廃棄している」

多抓鱼は2020年12月、上海に681平米、3階建ての服と書籍のリサイクルショップをオープンさせた。実店舗をオープンさせた理由について、多抓鱼の資料には力強いメッセージが書かれている。「実店舗を通して中古の本や服への固定概念を覆したい」

2020年12月、上海に衣類と本のリサイクルショップ「多抓鱼循环商店」をオープンした。オープン当日は予想以上の客入りに入店の人数制限をとった
「多抓鱼循环商店」店内

「古着を買う人の多くが、人とは違う一点ものを求めるとか、エコ意識からという理由が多いですね。中国にはもともと価格の安い服も多いですし、独自のサプライチェーンも発達しています。衣類の制作コストも安いので、『古着は安い』という理由だけでは購入してくれません」

古着を買うことで環境保護の貢献につながるという意識を消費者に伝えるため、店内の壁には「中国では毎年約2600万トンの衣類を廃棄している」「中国の古着のリサイクル率は1%未満」「ジーンズ1本に約7500リットルの水が消費される」などのメッセージを添えている。

「多抓鱼循环商店」店内の壁には「中国では毎年約2600万トンの衣類を廃棄している」などのメッセージが書かれており、客にリサイクルの意識を提案している

「C2B2C(個人間取引を企業が仲介するビジネスモデル)の方法をとっているシステム化されたリサイクル業者は、中国では私たちだけかもしれません。服を売りたい人は、不要な服をすぐに手放すことができ、売ったお金がすぐ手に入るので効率的な体験につながります。また、先に述べた『ブランドタグと洗濯表示タグのデータベース』があるのは私たちの強みです。データベースから、その時々で売りやすいか、売りにくいかの予測がつけられるのです」

中国のフリマアプリなどはC2C(消費者間取引)モデルを取る企業もいるなか、売り手と買い手に寄り添いリサイクルの意義を伝える多抓鱼のビジネスモデルは、今後、さらに中国の消費者の理解を得て成長していくのではと期待をしてしまう。

「耐久消費財の循環を掲げている企業は中国では本当に少ないです。同業者が増えて、一緒にこの文化を広げていけたらいいですね」

10年以上続くヴィンテージショップと2017年にスタートしたリサイクル事業の存在には、私自身、素直にワクワクしてしまった。今年に入り、中国がすべての固体廃棄物の輸入を禁止したことで「洋垃圾」という用語が昔のものとなり、これからますます、セカンドハンドに共感する人が増えるに違いないと感じたからだ。取材した二人とも、それぞれの立場で中国の消費者に向き合い、新しい価値を提示している。中国で古着が「文化」となる日はそう遅くはないかもしれない。



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