
菅野よう子×神山健治×渡辺信一郎『音楽がアニメーションをどう変えるか』第1部
- 文
- CINRA編集部
- 撮影:井手聡太
“男道”に“ポリリズム”、「なんでもハリウッド」…いろんな音楽を付けて見えてくるもの
佐藤:菅野さんは、神山さんとナベシンさんで、音楽的なセンスに違いを感じますか?
菅野:そうですね。ナベシンさんは、音楽にとても詳しいし、作品の演出というか、作品のリズムがグルーヴしているんですよね。神山さんは逆に、知性的というか、言葉がしっかりしていらっしゃるので、私たち音楽班としてはそれをいかに壊すか、いかにいたぶるか、ということを目指します。
佐藤:では早速、まずは『攻殻機動隊 S.A.C』の映像に、菅野さんとナベシンさんが、なにか本番で使ったものとは別の曲を付けてみる、ということをやってみたいと思います。まずは効果音とセリフのみで、第1話の映像を観てみましょうか。
菅野:あの超有名なシーンですね。主人公の草薙素子が、高層ビルから飛び降りるという。以前の攻殻機動隊シリーズでもよく使われているところです。では、どうぞ。
(『攻殻機動隊 S.A.C』第1話の断片を、効果音とセリフのみで上映)
菅野:かっこいいですね!!
神山:第1話ですから、気合いが入ってますね〜。いや、その後も頑張ってますけど(笑)。
菅野:いろいろ考える前に、まずは今いちばん売れている曲を付けてみようと思ったんですよ。それでオリコンをチェックしてみると、一番売れていたのは“男道”という曲だったんです(会場笑)。それでは、どうぞ。
(新選組リアン“男道”付きで先ほどの映像を上映。会場、大拍手。)
佐藤:最後に登場する、素子の相方のバトーが、全部持っていきますね(笑)。
菅野:このシーン、最新の音楽を付けているのに、すごく古臭く感じる(笑)。
神山:草薙少佐が、男らしく見えましたね(笑)。
菅野:…とまあ、これはおフザケですけど、攻殻機動隊と言えば「デジタル」な感じ、ですよね。いま売れているデジタルサウンドといえば、Perfumeでしょう! それでは、ちょっと当ててみましょうか。
(Perfume“ポリリズム”付きで上映)
神山:こんなアニメ、ありそうですね…。
佐藤:街のパチンコ屋で鳴ってる音がまぎれこんじゃった感じがしますね(笑)。
神山:タイトルが「少女戦隊〜」みたいなアニメでしょうね(笑)。もしかすると、僕の作品にはこの要素が足りないんでしょうか…(落ち込む)。
佐藤:いやいやいや(笑)。この人、止めないと違う方向に行っちゃうよ(笑)。
それでは、なんとなく皆さんに我々のやりたいことが伝わってきたところで、音楽プロデューサーもされているナベシンさんに、事前に選んできてもらった曲を発表してもらいましょうか。
渡辺:菅野さんから選曲しろと言われておりましたので、最近はずっとその作業に取り組んでいました。
まず始めに「なんでもハリウッド」というのをやろうと思います。いかにもハリウッド的な音楽の付け方をすれば、どんな映像でもハリウッド作品のように見えるのかどうか、検証してみようかと。
佐藤:「全米が泣いた!」っていう惹き句がつくような、ね。
(荘重な雰囲気の音楽付きで上映)
神山:いやー、今にも隕石が落ちてきそうでしたね。
渡辺:ハンス・ジマー作曲の、『ザ・ロック』という映画の音楽を流しました。いまのハリウッド映画の音楽って、だいたいハンス・ジマーみたいな感じなんですね。雰囲気としては合っているんですが、どの映画もみんな一緒に見えるのが弱点です。