
菅野よう子×神山健治×渡辺信一郎『音楽がアニメーションをどう変えるか』第1部
- 文
- CINRA編集部
- 撮影:井手聡太
攻殻機動隊には、古い刑事ノリの方が合うっていうことなんですかね(渡辺)
渡辺:次に攻殻機動隊は「刑事もの」なので、日本の有名な刑事ドラマの音楽を付けてみました。まずは、こちらから。
(ドラマ『太陽にほえろ!』のテーマ曲付きで上映。会場爆笑)
神山:素晴らしい!
渡辺:音楽と映像のタイミングが合うように、ちょっとだけ編集してます(笑)。
菅野:素子の雰囲気に、「この稼業もラクじゃない」というような悲哀が出てますよね(笑)。
渡辺:新しい「刑事もの」の音楽も付けてみたんですよ。こちらはどうでしょう。
(ドラマ『踊る大捜査線』のテーマ曲付きで上映)
渡辺:これは…ひどいですね。
菅野:なんか下品ですね。『太陽にほえろ!』とは全然ちがう…。
渡辺:攻殻機動隊には、古い刑事ノリの方が合うっていうことなんですかね。
佐藤:「スタイリッシュでサイバーでかっこいい」というイメージがありますが、さっきの“男道”といい、こぶしの効いた感じのほうが合ってるのかもしれないですね。
神山:僕はよく「遅れてきた団塊」なんて評されますからね…。70年代サウンドのほうが合うのかもしれないですね。
渡辺:じゃあ、さらに古くしてみましょうか。
(時代劇『暴れん坊将軍』のテーマ曲付きで上映)
渡辺:アクションに合わせて音楽を付けるやり方もありますが、こういう風にキャラクターが止まっているときに付けるやり方もあるんですよ。その意味では、状況そのものにも付けられます。例えば素子が悲痛な運命を負っていて、哀しい戦いを強いられているとします。その場合、アクションのし始めではなく、シーンの最初から入れるんです。「耐え忍ぶ女、素子」のコンセプトで、こちらをご覧ください。
(演歌“北の宿から”付きで上映、会場爆笑)
佐藤:敵キャラと素子が好き合っているように見えてきました(笑)。まるで痴話喧嘩のような…。
渡辺:神山さん、自分の作品を好きなようにいじくられて、怒ってないですか?
神山:いや、むしろ新しい側面を引き出していただいて感謝してますよ。
渡辺:じゃあ最後に、もし自分が頼まれたら付ける曲を流します。素子が狩猟民族のように狩りをしている、と見立てるやり方です。民族音楽的な、アフリカンな音楽を付けてみました。
(女性の歌声入りのアフリカンな音楽付きで上映)
菅野:うん、かっこいい!
神山:女性の声が入っているのもいいですね。
渡辺:じゃあ答え合わせというわけでは全くないですが、本チャンを聴いて締めましょう。
(『攻殻機動隊 S.A.C』第1話の断片を、本番の音楽つきで上映)
菅野:最初は違う雰囲気の音楽を付けていたんですけど、ちょっとサスペンス性があり、さらに素子さんが毎日こういうことをしているんだという日常感や、銃の音をかっこよく聞こえるようにしたりと、いろいろ細かく手を加えていますね。
これまで付けてきた音楽のうち、これが正解! っていうものはありません。私はけっこう“男道”が好きでしたね。
佐藤:僕は、『太陽にほえろ!』のテーマ曲は、どんな映像にも合うな、と気づきましたね。夜のシーンなのに夕陽が見えました(笑)。