コラム

「フジワラノリ化」論 第14回 押切もえ 知的路線へのモデルウォーキング 其の二 新書や「AERA」に甘んじるということ

「フジワラノリ化」論 第14回 押切もえ 知的路線へのモデルウォーキング 其の二 新書や「AERA」に甘んじるということ

武田砂鉄
イラスト:なかおみちお(TOKYOHELLOZ)
2010/09/21

其の二 新書や「AERA」に甘んじるということ

日本経済新聞が女性モデルにキャリアウーマン風の格好をさせて新聞を与え、「女は変わった。男はどうだ。」「経済を変えていくのはきっと彼女たちだ。」というキャッチコピーを打ったのは2003年頃の事だ。女性の社会進出が進み(もしくは進んだと喧伝され)、顧客に苦しむ新聞はここぞとばかりに女性をターゲットに絞った。しかも、より専門的な内容を含む日経新聞が、あえて女性を狙ってみせたのである。これには一定のインパクトがあった。日経新聞をブランドバッグに入れて通勤するOLが急増した、というのは都市伝説でしかないが、この手のイメージ戦略が増加する一因にはなった。読めない英字新聞を突っ込んでシャレたカフェでモーニングを食われるよりは幾分マシだが、日経新聞を読む女性を見かけるたびに、この人無理してないだろうかと疑ってしまうのだった。本当にそういう業界の人だったら申し訳ないんだけども、アルミのここ半年間の価格変動を、朝から気にする必要が本当にあるのかい。諸外国からすると、朝も夕もサラリーマンが読む新聞からエロ情報がこぼれてくる光景は異様らしい。確かに朝からスポーツ新聞には官能小説にヌードのイラストがついているし、夕刊紙には風俗情報が沢山載っている。日経新聞の「男はどうだ。」の広告には、「ダメだよ、エロ写真だらけの新聞読んでいるようじゃ」という忠告が隠れているのだろうか。しかし、だ。その日経新聞の小説連載として、ほぼ官能小説と化した渡辺淳一の「愛の流刑地」が連載されたのは、2004年の年末からのこと。新聞に、そしてまさかの日経新聞に官能小説が載り、「そこだけ読んでる」というジョークだか真剣だか分からない言い様が氾濫する事となった。「女は変わった。男はどうだ。」と物申してきた日経新聞が、翌年、明らかにオヤジエロ妄想の詰まった小説を、最終面に掲載し続けたのだった。「女は変わった。男も変わったかもしれない。ところで日経さんはどうなんだい?」と野次を放ったのは言うまでもない。

日経新聞をカバンに入れるOLという像を設定するのは、さすがに尚早だったのだ。やはり段階ってもんがある。となると、その時に好意に扱われるのが「AERA」ではないか。インパクトだけを表紙に埋め込んだ女性週刊誌はババ臭いし、かといって男性週刊誌はオヤジ臭が抜けない。そんな時に、「AERA」が保つニュートラル(風)の視座は日経新聞をバッグからやっぱり引っこ抜いちゃった女性陣に歓迎されたのではないか。そもそも「AERA」の誌面が女性寄りになったのは今に始まった事ではない。顕著になったのは韓流ブーム辺りからか。その頃から、女性の生活環境の隅々を「現象化」するようになる。婚活から育児まで、シューカツからキャリア形成まで、トータルな視線を一通り柔らかくまぶす雑誌になった。刺激物を注入したいならば、勝間×香山論争のような、出口の無い合戦を仕込めば良い。日経新聞的な専門的知識はそこまで要らないが、しかしイエロージャーナリズムだけでは恥ずかしい。誰それが付き合っているという話に興味津々だが、それを何とか「現象」として体感したい。ここにAERAは答えを出してみせるのである。

「フジワラノリ化」論 第14回 押切もえ

押切もえが「AERA」に連載を持ち始めたとき、なるほどこれは巧妙なワンステップだなと感じた。女性誌のモデルは加齢とともにその年齢向けの雑誌へと移籍を繰り返していく。しかし、その乗り換えはリレー競争のように、バトンを受け取り渡すタイミングは限られており、そこを逃すと、バトンを持ったまま漂流するはめになる。誰かに渡して、誰かからバトンを貰う。この瞬間の鮮度を自分で熟知しないと立往生して命を絶たれてしまう。第1回でも記したように、押切もえはこの移行を、「自分の移行のための雑誌創刊(「AneCam」)」という超特別待遇で成し遂げた。しかし、それもいつまでも続きはしない。モデルとして明らかなる絶頂期、その頃から押切もえが漏らす言動に人生訓くさいメッセージがこびりつくようになった。「AERA」のコラムは言ってみれば単なる身辺雑記で、ブログの清書版程度の出来で特筆すべき内容ではない。しかし、重要なのは、ときたま「AERA」がこの押切を、「読者の代表」として使うことだ。先日出たAERAムック「『30歳』で生まれ変わる」などその具体的な例である。「悩みや壁が多くてもいい 新しい自分には必ず出会える」という安手の新興宗教のようなキャッチコピーは、プチ自己啓発的細胞にはじんわり染み渡るのだろうか。ここで押切もえは、サッカー選手の遠藤保仁やサイバーエージェントの藤田晋ら9名もの著名人にインタビューを敢行する。これがとんでもなく稚拙なのだ。気分はどうですか、天気が良いですね、と主婦同士が朝方に交わす会話とそんなに変わらない設問をバシバシぶつけていく。或いはグータンヌーボ気分。ポップなインタビューが続く。飽き飽きした頃に登場するクリエイティブディレクターの箭内道彦が押切りに鋭く向かう。もっともっと悔しさを重ねて悔しさを貯金していくべきだと語る箭内は、こう付け加える。「本当は、ビジネス書や、このAERAも危険なんですよ。もがいて悔しさ貯金をためるには、理解者はいないほうがいいし、救われるべきでもない。でもこういう本は、悔しさの途中で中途半端に救ってくれちゃう」。なるほど納得。この「中途半端に救う」という指摘は「AERA」だけではなく、押切にも振りかかるはずだ。

押切もえの著者「モデル失格」が新書の形態で出されると聞いた時は驚いた。これまで新書というのは、教養主義の欠片、いや導入として扱われてきた存在であって、「簡単に読めるもの」という触れ込みも、それは頭に、「専門書に比べれば」が隠されていたものだった。しかし、ここ最近ではタレントが自著を新書で刊行するケースが目立ってきた。島田紳助『ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する』(幻冬舎新書)、山里亮太『天才になりたい』、高田純次『適当論』(ソフトバンク新書)、織田裕二『脱線者』(朝日新書) 、和田アキ子『おとなの叱り方』 (PHP新書) などなど、挙げればキリがない。それらに「専門書に比べれば」はついていない。むしろ「簡単に読めるもの」という触れ込みだけで象ろうとする。モデルの本となれば、写真たっぷり、思わせぶりのエッセイに、私生活紹介を加えて、成長記録のアルバムでもひっつけて完成というのが定番だった。エビちゃんがカレンダーをバカ売れさせている中で、モデルの押切もえが新書を選んだのだ。押切としては、新書を「簡単に読めるもの」としては設定していなかったはずだ。つまり、単なるタレント本ではなく、メッセージを伝えるために正しい媒体、という捉え方であったのではないか。押切もえが「モデル失格」を出した2009年から、ベスト新書がAV女優に新書を書かせた。「肉食系セックス」「フィンガーセックス」「言葉責めセックス」「三十路セックス」と、性行為の指南書が新書コーナーになだれ込んできた。こうなるともう、秩序は保たれない。「モデル失格」はちょうどそんな頃にロングセラーになっていたものだから、新書コーナーを覗く度に、ある種象徴的に、「これじゃいかんだろう新書も」と眉を顰める対象となってしまった。

「AERA」と新書の共通点は何か。それは「まあ、この程度であれば」という態度である。「AERA」は、どこかでネジを外しポップに現象化することで女性客を取り込んでいるし、新書は、「専門書に比べれば簡単に読める」から「専門書に比べれば」を引き算して、「この程度なら簡単に読める」という媒体になっている。この両媒体に、押切もえが歓迎されたというのは、押切もえを考える上でとても象徴的だ。つまり、時代に合わせる要領の良さというか数式が、自分の意識にあろうがなかろうが押切には染み込んでいる。

しかしそれだけで、だから彼女がモデルとしての第一線で居続けられるのだと声高に言い張ることは難しい。その辺りを次回の議論にしたい。そこで、倉木麻衣・釈由美子・熊田陽子、何故この人が女性誌に参戦してくるのかと疑問に思わざるを得ない人々を具材にしながら、押切もえの輪郭をさらに深追いしていきたい。

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