トーク連載「篠山紀信 × ○○」最終回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

常に時代を象徴する女性を撮ってきた篠山紀信。38年前、とある美女のヌード写真を撮影していた。彼女の名は、秋川リサ。CM出演やモデルの仕事で活躍していた彼女の、高校の卒業式直後を捕らえた瑞々しい姿が印象的な作品だ。トークショーは、当時の思い出を振り返りつつ、昨今の写真界に対する鋭い視点も含んだ、とても刺激的なものとなった。

PROFILE

篠山紀信
1940年東京都生まれ。写真家。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中より新進写真家として頭角を現し、第1回APA賞等数々の賞を受賞。広告制作会社「ライトパブリシティ」を経て、1968年よりフリーとして独立。山口百恵やジョン・レノンとオノヨーコ、宮沢りえなどその時代を代表する人物を「激写」や「シノラマ」など新しい表現方法と新技術で常にその時代を撮り続けている。
篠山紀信公式サイト

秋川リサ
1952年東京生まれ。15歳でテイジン専属モデルとしてデビュー。16歳で雑誌「an・an」 のレギュラーモデルとして活躍しその名前が広く知られる。その後、トップモデルとしてパリコレクション・一流デザイナーのショー等に数多く参加。更にタレントとして活躍の場を広げ、テレビ・ラジオ等司会やコメンテーターとしてキャラクターを発揮し、女優としてはドラマ・映画・舞台で数々の話題作に取り組む。また、独自の感性で著書・エッセーを発表。更に、芸能活動と並ぶもうひとつのライフワークであるビーズ刺繍作家としても活躍中。
秋川リサのビーズワーク

後藤繁雄
1954年、大阪生まれ。「独特編集」をモットーに写真集、アートブックを数多く制作。銀座資生堂の文化サロン「WORD」のプログラムディレクター、KIRIN PLAZA OSAKAのコミッティメンバー、ストリートアートの運動体artbeat、プロジェクトユニット[code]など、新しい文化創出のための仕事に精力的に取り組んでいる。『太陽は笑っている』『独特老人』『彼女たちは小説を書く』など多数の著書がある。
gotonewdirection


後藤繁雄(以下、後藤):皆さん、お越しくださってありがとうございます。ここはNADIFF a/p/a/r/tというところで、東京の一番新しい現代アートを世界に向けて発信しようということで、去年の7月にオープンしました。ギャラリーに本屋さん、そして一番上にはスナックが入っている、非常に面白い建物です。年間に何回か特別な企画を考えているのですが、今年の春はここにいらっしゃる篠山紀信先生の写真展を行うこととなりました。

「私バージンだから嫌です」って断ったんですけど、 「ウソつけ、俺は裸見ればわかるんだから」なんて騙されて(笑)(秋川)

篠山紀信(以下、篠山):篠山でございます。

一同:大きな拍手

後藤:というのはですね、下でも先行販売していますけども、『NUDE BY KISHIN』 という、この50年間で先生が撮られた写真をリミックスしたものが全世界で発売されます。それと連動して、全館でいろいろ先生とコラボレーションしようということで、この写真集に登場されている秋川リサさんとのトークショーを開催することになりました。

秋川リサ(以下、秋川):秋川です、よろしくお願い致します。

一同:大きな拍手

トーク連載「篠山紀信 × ○○」第3回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

後藤:ではよろしくお願いします。まず、この約40年前に撮られた秋川さんのヌード写真ですが、どのように撮影が進んだのか、ということをお伺いできればと思います。

(後藤氏、秋川氏のヌード写真が掲載されているページを示す)

篠山:その話を始める前にですね、このトークは大変貴重な機会なんだということを申し上げておきたいんです。私はあまり昔を振り返ることをしないんですが、これは私が28、9歳のときの作品で、秋川さんが大活躍をされる直前ぐらいなんですね。秋川さんが当時のことをお話なさるのは、例えば海外で言えばマリアンヌ・フェイスフルとか、アンナ・カリーナのような方がここにいて、昔話をするくらいに貴重なことなんですよ。

後藤:篠山先生は対談自体もあまりしませんよね。

篠山:そうなんですよ。それで、今回、写真集を出すためにいろいろと写真を探していたら、38年前の秋川さんのが出てきて、これはいいな!と。で、秋川さんに連絡したんです。そもそもヌード写真というのは生き物でして、「子どもが幼稚園でいじめられるから」なんていう理由で掲載NGになってしまうパターンもずいぶんありました。でもリサさんは、お子さんも成人したということで、快くOKをくださって。

秋川:このヌード写真に関しては、これまで一枚も公表されていなかったんです。依頼された当初は、「私バージンだから嫌です」って断ったんですけど、「ウソつけ、俺は裸見ればわかるんだから」なんて騙されて(笑)脱いだんですよ。でもこの間、「バージンかどうかなんて分かるわけねえだろ」と、今頃になって明かされたんですが(笑)。



ヌードがアートとして見られた。そういう時代でした(秋川)

後藤:この写真はいつ撮られたんですか?

秋川:高校の卒業式の日に撮りました。普通、ヌードになるのは度胸がいるだろうと思うかもしれませんが、私の場合、自分は商品だと割り切っていたので、キレイなときに撮っておいてもらおうかな、と思って。なんて、今でこそ理屈をつけていますが、そのときはもっと軽い気持ちでしたね。でも、撮っておいてよかった。

篠山:(冗談まじりの口調で)騙されたなんておっしゃいますけどね、あなただって医師の診断書を持ってきたわけじゃないんだから、私の方がバージンだって騙されてたのかもしれませんよ(笑)。まぁでも、撮っておいてよかったよね。

秋川:当時はヌードが今みたいに氾濫していなくて、アートとして見てくれていた。そういう時代でした。

トーク連載「篠山紀信 × ○○」第3回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

篠山:当時、ヌードというとエロであって、アートだという認識はなかった。ヌードにアートの粉をかぶせてうまく開発したのが、この当時の私なんです。もう少しのちに、隣のミヨちゃんがちょっと脱いだっていう感じを狙ったのが「激写」シリーズなんですよ。そんな風に、時代に合わせて新商品を開発して、皆様に提供してきているわけです(笑)。

当時はすごい写真家たちがたくさんいて、デビューするためには努力が必要だった。土門拳、木村伊兵衛が健在で、その下には三木淳、秋山庄太郎、大竹省二、さらにその下に細江英公、東松照明、奈良原一高がいて、高梨豊、立木義浩、横須賀功光がいて、僕はさらにその下ですよ! しかも、写真の発表の場としていいところがあったかというと、別にないんです。「カメラ毎日」と「話の特集」っていう雑誌が、いろんなことをやらせてくれたから、そこにみんな集中したんですね。



当時は秋川さんのような素晴らしいモデルがどんどん出てきた。いまはどの業界がいいかというと、AVなんですよ!(篠山)

秋川:いま篠山さんから名前が出たカメラマンの方々には、だいたい撮っていただきましたね。でも、だいたい私のことは、気に入らなかった。

後藤:どうしてですか?

トーク連載「篠山紀信 × ○○」第3回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

秋川:「俺は美人しか撮らない」なんて言われて。資生堂のCMに出たことがあるんですけど、丸顔は無理だ、ってはじめは断られましたからね。でも、杉山登志っていう天才的なCMディレクターに出会って、女優かアナウンサーしかテレビでしゃべっちゃいけない時代に、私みたいなよくわからない子がしゃべるCMができたのね。で、あの子はだれ?っていうことになって、「an・an」で「秋川リサでございます」っていう特集が組まれたり、道歩いていて「サインください」と言われて逃げたり。

後藤:篠山さんは、時代の女の子を発見するのが早いと思いますけれども…

秋川:篠山さんは、好みがあるのよね。だれがキライなのか知ってるけど私からは言えない(笑)。

後藤:秋川さんのどういうところが気に入ったんですか?

篠山:まず存在感がすごいしね。明るいし、でかいんですよ。「太陽だ、ひまわりだ」と言われるの、彼女は嫌だったらしいんだけど、僕はカッコいいなあ、と思ってましたね。それから僕、わりとハーフが好きなんだよね。60年代後半から、70年代前半というのは、秋川さんのような素晴らしいモデルさんたちがどんどん出てきてた。今はね、どこがいいか知ってる? (声を大にして)AVなんですよ〜。いまAVの子は本当にキレイ。前々回トークに出てくれた明日花キララさんもそうだし。

トーク連載「篠山紀信 × ○○」第3回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

後藤:反対に、秋川さんは、篠山さんにだったら撮られてもいい、というのはあったんですか?

秋川:他に口説く人がいなかったから。「CMやってるから脱がないだろう」、と皆さん思ってたんじゃないですか。ホントに脱ぐって聞いてビックリしたんじゃないかな。私は21歳のときに、あるカメラマンと結婚したんですけど、そのときは篠山さんに撮られたヌードは隠さなきゃ、と思ってましたね。自分の女房が他のカメラマンにバージンのときに撮られてたなんて知ったら…イヤじゃないですか?

後藤:イヤでしょうねえ(笑)。それにしても、卒業式の日にそのまま撮影に入るっていうのもすごいことですよね。

篠山:それが記念ってものだからね。校門で待ってたわけよ。振付家とかヘアメイクの人たちで、脱がせるのが巧い人たちもたくさんいたんだよね。

秋川:「アンタ、ぐずぐず言ってないで脱いじゃいなさいよ、きたない下着なんかつけないの!」って言われてね(笑)。

篠山:やっぱり、その時代に突出して輝いてる人はやっぱり撮りたいね。でもリサを感じないカメラマンも結構いたのは、不思議だねえ。

秋川:私のことは、みなさん賛否両論だったんじゃないですかね。



バージンなのに、すでに娼婦性みたいなものがあって。ほら見ろ!と思いましたね(秋川)

後藤:秋川さんの写真がモノクロだったのはどうしてですか?かっこいいからですか?

篠山:それはあります。プライベートで撮ったので、締め切りがなかったんです。自分の好きなように撮るのならばモノクロで、と思って。ふだんやったことのない実験もやっているし、すっごくまじめに撮ってる。これは、時代のなせる業だね。いまは事務所の管理やなんかがすごいんですよ。撮られる当人がやりたくても、こっちがビビっちゃう。バレてカメラマンとして仕事なくなるのもこわいから、今の人はやらないよね。でも、僕は懲りずにやる。そこにあるダンサーの写真も(と、会場に飾られた壁の写真を指して)、服を着ているのは「カメラ毎日」に出したんだけど、実は抜け目なくヌードも撮っておいて(笑)、それも今回の写真集に入れることができたんですよ。いまの時代が悪いとは言わないけど、当時は貧乏でもモノを創ることにはガツガツしてたし、モデルさんもとんがってたね。

後藤:スキャンダルがこわいわけではないし。

篠山:みんながお互いを信頼できていたんだよね。

秋川:写真週刊誌もなかったし、マスコミももうちょっと長い目というか、暖かく見てくれてましたね。私たち商品を育てる気持ちがあった。いまは引きずり落とす風潮がありますけど。

篠山:今日出た雑誌の「CROISSANT PREMIUM」に、最近のリサさんのヌードが出てるんですよ。いいんです。キレイなんですよ。

(後藤氏、雑誌に掲載された写真を観客に見せる。美しさに観客からはため息。)

後藤:(再び18歳当時の写真を指して)ご自身で、特に気に入っている写真ってどれですか?

(ゆっくりと、写真をめくる秋川氏。一枚の写真を指して、)

トーク連載「篠山紀信 × ○○」第3回 篠山紀信×秋川リサ×後藤繁雄

秋川:これを焼いてくださったんですよ。飾り窓の女っていうか、私の中の娼婦性みたいなものが出ている気がするんです。バージンのときに、自分がこういうものを持っていたっていうことにびっくりしました。当時CMで、元気なお嬢さんのイメージで売っていたから、「ほらみろ!こんな一面もあるんだぞ!」って。ニコニコ笑ってる写真よりもこっちのほうが好きです。

後藤:それにしても、封印していた写真と対面するなんて、なかなかないことですよね。

篠山:38年ぶりに掘り出した写真を前にね、当人を交えてしゃべれるという機会は、あるようでなかなかないよね。

秋川:20キロくらい太ってなくて良かった〜(笑)。

後藤:「CROISSANT PREMIUM」も、タイミングよく発売されましたね。

秋川:まだ脱げるわよって言っちゃったんですよ(笑)

篠山:すごいことですよ。女性誌でヌード10ページなんて、普通はあり得ないですからね。しかもリサさんは、通常号でも出てますから、読者にとってはとてもうれしい。

秋川:どうでしょうね? 「なによ!気に入らないわね!」って思われるかも(笑)。



撮ってるときにドキドキしなきゃ、いい作品にはならないんです(篠山)

後藤:さて、面白いお話は尽きないですが、会場からなにか質問があればどうぞ。こういうのはなかなか出ないんですが…(観客の手が挙がる)お、ではどうぞ。

質問者1:初歩的な質問なんですが、篠山先生は現在最新のデジカメを使ってらっしゃるというお話でしたが、お使いになるカメラは、時代によって変わるものなんでしょうか?

篠山:これが変わるんですよね〜。今の若い人は、最新のカメラを使うのが一番いいんですよ。いくらフィルムでやりたいと言ったとしても、フィルム自体も、フィルムのカメラもなくなってますからね。デジカメならすぐにシステムが流れるようになっている。ついでに言うと、僕が思うままに使える、肉体化しているようなカメラとレンズというのは、いくつもないんです。僕が使えるカメラは、35ミリ、ハッセルブラッド、シノゴ、エイトバイテン。4種類しかないんですよ。この中間は、使ったことがない。

質問者1:ありがとうございました。

後藤:いやー、篠山先生は、普段はいまおっしゃったようなことはしゃべらないんで、びっくりしましたね。

篠山:いえ、聞かれればしっかりお答えしますよ(笑)。

後藤:それでは他にいらっしゃいますか?(手が挙がらないので)…では、秋川さん逆指名お願いします(笑)。

秋川:じゃあ、そこの赤いジャケットの男性、何かありませんか?

質問者2:あ、はい。僕はこの間、秋川さんの別のトークショーに行かせていただいて、一緒に写真を撮ってもらった者です。その節はありがとうございました。お二人にお聞きしたいんですが、篠山先生の撮る側、秋川さんの撮られる側、どちらもすごく大物でいらっしゃるので、共に気持ちが大きくなったりとか、あるいは萎縮しちゃったりすることもあったんでしょうか?

秋川:カメラマンって萎縮はしないんじゃないですか? もし萎縮したら、きっと被写体は脱いでくれないだろうし。度胸が据わっているふりをお互いにするんじゃないかな?

篠山:僕はね、すっごくドキドキするんですよ。

秋川:そうなの?

篠山:逆に言えばね、ドキドキするようじゃなきゃダメなんですよ。ドキドキするから「撮りたい!」と思うわけです。撮りたくもない子から「撮って!」って言われても、いい写真は撮れないわけですよ。その人に対して、ある種の畏敬の念、畏怖の念というと大げさですけど、そういう気持ちを持っていかないことにはダメなんです。僕はもう何十年もやってるけど、相手をリスペクトする気持ちは常に持ってやってるし、失礼があっちゃいけないという思いは必ず持って撮影に臨んでますね。

後藤:楽しい話は尽きませんが、そろそろ終了の時間です。本日はありがとうございました!

一同:大きな拍手

WORKS

NUDE by KISHIN

『NUDE by KISHIN』

2009年4月20日発売
著者:篠山紀信 価格:15,750円(税込)
出版:朝日出版社

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篠山紀信の50年にわたるNUDE PHOTOをリミックス編集した、400頁を越える大冊。

1959年から、2009年の「現在」まで撮り続けられた、膨大なNUDEPHOTOから、時代やモデルを縦断。アートとポルノ、デジタルとフィルム、聖と俗、欲望と精神、すべてがメルトダウン。280を越える美神の解き放たれた肢体が光を放つ。 NUDE PHOTOの極上の美しさ、究極のエロスを世界的レベルで発信する、これまでの常識を覆す画期的な写真集。独・シルマー/モーゼル社より同時刊行。

宮沢りえ、樋口可南子、高岡早紀、荻野目慶子、小島聖、葉月里緒奈、井上晴美、及川麻衣、月船うらら、かでなれおん、原紗央莉、明日花キララなど、日本を代表する女優の最高の作品を最高の品質で収めた最高級写真集。





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