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「見えないものを見る」ためには 八谷和彦インタビュー

「見えないものを見る」ためには 八谷和彦インタビュー

インタビュー・テキスト
内田伸一
撮影:小林宏彰

人って、たとえ科学的でなくても、何かで折り合いを付けなきゃいけない場面がある

─「見えないものを見る」という表現をアートの世界で考えてみると、これまでにもいろいろな流れがありますよね。古くは宗教画、そして写真の登場で見えてきた未知の映像、さらに写真とは違う道として一部の画家たちが選んだ抽象的な「見えないもの」の表現とか。メディアアートでも不可視の可視化を試みる作品はよく見ます。

八谷:僕の場合は、美術史の流れのどこかを発展させるというより、個人的な興味から始まる作品が多いと思います。『Fairy Finder』シリーズは2005年ごろに始めたもので、そのころ物理学者の菊池誠先生が批判していた「ニセ科学」問題が気になっていた。例えば水に対して「ありがとう」っていう文字を見せ続けると結晶が美しい形になるとか、そういう話ですね。

FairyFinder 03《コロボックルのテーブル》/2006
FairyFinder 03《コロボックルのテーブル》/2006 ※画像クリックで拡大

─心では理解できそうだけど、科学的な感じではないっていうものですか。

八谷:それが道徳教育に使われたりする困った一面もありますが、菊池先生は科学者としてそれを看過できないという立場で批判されていた。また、人間の治癒力を引き出そうという「ホメオパシー療法」も、その誤用が問題になったりすることがあります。

─妄信はしばしばよくない状況を引き起こす、と。

八谷:僕も基本的には菊池さんの考え方に賛成だけど、一方で、ではアーティストとして、こういうことをどう考えればいいのか? とかも思っていた。人って実はかなり非合理的な思考もするし、本当に悲しいときには何かで折り合いを付けなきゃいけない場面があちこちであるとも思うんです。

─「折り合い」というと?

八谷:河童なんて、わかりやすいかな。危ないから子どもだけで川には行くな! って言ったとしても、子どもは言うことを聞かないし納得もしない。そこで「河童に尻子玉を抜かれるぞ!」っていう作り話をすると、ウソだけど結果的に川には行かないかもしれませんよね。

─確かに(笑)。『Fairy Finder』に出現するコロボックルや鳥人間も、ただ想像力を広げてくれるという以上に、存在すると信じるかどうかによって生じる受け手の心持ちの違いについても、考えさせられます。

FairyFinder 05《フェザードフレンド》/2008
FairyFinder 05《フェザードフレンド》/2008
※FailyFinderは、科学技術振興機構、
CRESTプロジェクトの一環として制作されました。

八谷:『Fairy Finder』は、初めて子どもが生まれた時期に始まったシリーズでもあります。子育てをする中で、それまで意識したことない「乳幼児死亡率」みたいなことも意識したりしました。子どもの死に直面した人は、たとえ合理的でなくても何かしらの方法で納得できないと、その先を生きていけないでしょう。僕はそれまで宗教が存在することの意味を感じられなかったのですが、こうした局面のことを想像してみて、考え方が少し変わりました。


「わかりあえやしない、という事実をわかりあう」が出発点です

─いっぽうで八谷作品にはいつも、展覧会タイトルの「魔法かもしれない」が象徴するようなワクワク感がありますね。そのあたりも今までのお話とつながりますか?

八谷:英語タイトルが「It Could be Magic」なのですが、そのニュアンスに近いですね。魔法だけど、手品でもある。手品って、タネがあるとわかっていても楽しめるでしょう。逆に、科学的かどうかだけですべてを判断するとそれを受け入れられない人もいる。そういう人にどうアプローチするかといった思考実験です。ただ、実は僕の作品は「コミュニケーションの不完全性」をきっかけに制作しているところもあるんです。いわば「わかりあえやしない、という事実をわかりあう」という。

─これだけコミュニケーションにまつわる作品をつくっているのに?

「見えないものを見る」ためには 八谷和彦インタビュー

八谷:例えば、今その質問をしたあなたに本当に人間の「心」があるかどうか、僕には確かめようがない。すごくよくできた自動応答システムかもしれないし(笑)。僕らはいつも、互いに「相手に自分と同様な心がある」前提で行動しています。これは類人猿でも数少ない高度な能力とも言える。ただしそれは「コミュニケーションできる」という特殊な仮説上での話。それを幻想とまではいわないけど、前提にあるのはやはりディスコミュニケーションじゃないですかね? 実は『視聴覚交換マシン』も「人の視点に立ってものを考えなさい」とよく言われるアレを暴力的に実現したらどうなるか、という実験でもあるんです。

─なるほど。確かにそういう面もありますね…。

八谷:でもこういう世界でも、やはり折り合いの付け方はあると思う。『見ることは信じること』は、出会ったことのない人にシンパシーが生まれていく作品とも言えます。会場の電光掲示板に流れる意味不明の光の明滅は、赤外線を感知する専用ビューワーで見ると、実は誰かのつぶやきのようなテキストなのだとわかります。今回は、来場者たちが実際にその日にあったことをキーボードで入力し、その結果が表示されます。後から来た人たちにとっては、書いてあることがホントかウソかはわからない。それでも、どこか信用して読んでいる自分がいる。不完全とはいえそこ(掲示板上)には何か本質が現れていると思うんです。

見ることは信じること/1996
見ることは信じること/1996 

─1996年、Twitterはもちろん、ブログも普及していない時期に生まれた作品ですね。

八谷:そうですそうです。この作品は元々、見知らぬ人びとがネット上で日記を付け合う『メガ日記』という試みから始まりました。その「目に見えないけれど実在する他人の生活」を、裸眼では見えない電光掲示板に表示してみた作品ですね。

─同作が生まれたきっかけとしてサン=テグジュペリの小説『星の王子さま』を挙げていましたね。「大切なものは、目に見えない」という小説中の言葉も作品と響き合います。わかりあえやしないという事実をわかりあい、その上でコミュニケーションを諦めないということでしょうか。

八谷:「完全にわかりあえる」という幻想を捨てたうえで、どう共有できるか、ですかね。例えば完全な相互理解でなくてもいいからアウトラインを共有すること。それは僕らにやれることだし、やるべきときがあるとも思っています。

3/3ページ:アートを越えて広がる「見えないものを見る」行為

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イベント情報

『魔法かもしれない。―八谷和彦の見せる世界のひろげかた―』

2011年6月2日(木)~9月4日(日)
会場:埼玉県 川口市 SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム
時間:9:30~17:00(入場16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日) ※8月15日(月)は臨時開館
料金:大人500円 小中学生250円(常設展示も観覧可)

ホリデー•ワークショップ
『視聴覚交換マシンを体験しよう』

会期中の水・土・日曜日、祝日に開催
会場:埼玉県 川口市 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム3F 未来映像ゾーン
時間:13:00~16:00
料金:無料(要映像ミュージアム入館料)
定員:20組40名(先着順)

夏休み特別ワークショップ
『自分だけの「フェアリーファインダー」を作ろう』

2011年8月14日(日)13:00~16:00
会場:埼玉県 川口市 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム3F ワークショップルーム
定員:10名(小学生~中学生対象・小学校低学年は保護者同伴)
料金:無料(要映像ミュージアム入館料)

アーティストトーク

2011年8月28日(日)14:00~16:00
会場:埼玉県 川口市 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ1F HDスタジオ
出演:八谷和彦
定員:100名
料金:無料(要映像ミュージアム入館料)

プロフィール

八谷和彦

1966年佐賀県出身。発明の日(4月18日)生まれのメディアアーティスト。九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科卒業。コンサルティング会社勤務時代から個人TV放送局『SMTV』などのユニークな活動を行う。その後独立し作家活動を本格化させる。『視聴覚交換マシン』をはじめとするコミュニケーションツール・シリーズ、またパーソナルフライトシステム『オープンスカイ』などに見られる、映画・アニメに登場する夢の乗物を具現化したようなものなど、機能を持った発明品的作品が多い。メールソフト『ポストペット』の開発者でもあり、関連ソフトウェア開発とディレクションを行なうペットワークス社取締役も務める。

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