特集 PR

奈良美智インタビュー「君や 僕に ちょっと似ている」

奈良美智インタビュー「君や 僕に ちょっと似ている」

インタビュー・テキスト
坂口千秋
撮影:西田香織

みんなが思う僕のイメージの作品が許せなくて、もう2度と描けないかもしれないと、本気で思っていました。

―今回の展覧会は、アジアを巡回予定で、アートの本場であるアメリカやヨーロッパには巡回しないとお伺いしましたが、それは何故ですか?

奈良:2001年以降、僕がアメリカやヨーロッパで取り上げられるようになっていた間、僕が気付くのが遅すぎただけで、実はアジアの人達にも浸透していってたんですね。そういった人達にこそ、今の自分の作品を見せたいな、という気持ちがありました。またアジアの中で、日本は美術に関して言うと唯一近代があった国なんです。中国や他のアジアの国は、近代をまたいで一気に現代に行ってしまったから、売れないものは作品じゃない、みたいな風潮を強く感じます。だからこそ、今回の作品のような、近代への精神的な回帰を目指した作品を見せたい、という気持ちもありました。

『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』会場風景

―奈良さんが今回そういった近代的なものに惹かれた理由は何でしょうか?

奈良:もともと僕は近代的なものに一番影響を受けてきたはずだったのに、それをおざなりにして、今しか見ていなかった自分への反省がすごくありました。現代の作家は、時代の流れと繋がっていたり、新しいテクノロジーを使ったり、目に映る表層的な部分での変化は多いけど、精神力では近代を超えられていないと思います。昨年の震災が起きたあと、みんな自分にとって本当に大切なものは何だろうって考えたと思うけど、僕にとってもあらためて大切なものを考えるきっかけになったのがあの震災でした。

―震災がターニングポイントだったんですね。

奈良:震災後、みんなが思う僕のイメージのような作品が許せなくて、もう2度と描けないかもしれないとすら、本気で思っていました。

奈良美智

―そのあと、母校の愛知県立芸術大学に長期間滞在して、今回の展覧会の幕開けを飾るブロンズ像を制作されておられます。これは展覧会に向けて計画されていたんですか?

奈良:いえ、偶然です。滞在することはずっと前から決まっていて、何をやってもいいと言われたので、学生と同じアトリエに半年間滞在しながら、ブロンズの塑像を粘土で作っていました。粘土は絵と違って筆を挟まないから、ずっと直接的に作ることが出来て、それがあの時の自分にはすごく良かったんです。粘土を押せば指の跡がつく。そしてひとつ痕跡をつけると、どんどん手が勝手に動いていく。1回粘土を触れば、あとは勝手に身体が動いていくのに任せて、粘土の塊と格闘するみたいに作っていきました。

―フィジカルな作業だったんですね。

奈良:反射神経のようなものなんだけど、でもその反射神経は、ずっと美術を勉強したり作ってきたりするなかで身体が覚えていったものなんですね。それこそ僕は半年間、大学にもう1回入ってきた1年生のつもりで、掃除もしたし、他の学生の制作や、学園祭を手伝ったり、みんなで重い物を運んだりもした。みんな東京の学生と違ってあんまり野心的でもないし、作ることだけやっていて、まるで昔の自分を見ているようでした。いい空気の中にいられて自分はすごくラッキーだったと思う。ここでの塑像制作が終わって、ようやく再び絵を描こうって気になれたんです。

『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』会場風景

―ブロンズの作品は、みんなすごく穏やかな表情をしていましたね。母校に戻って安定した気持ちで作っていたからでしょうか?

奈良:どうかな? みんな表情を見るけど、彫刻って360度あって、僕はものを作る人間だから全部の方向から見ている。また、存在の質感を感じてもらうために部屋を暗くして、あえて作品の後ろ側を正面に向けて置くことで、これはなんだろう? って注意深く見てもらえるようにしました。

―指の跡が生々しく残っていて、本当に人の手が作ったものということが伝わってきます。

奈良:粘土のいいところは、未完成で終えることができるところです。実は僕の絵の制作方法とも密接につながっていて、僕はいつも塑像と同じプロセスで絵を描いているんですね。だけどペインティングは最後に塗りつぶしたり乾燥させたりして全部内側に閉じ込めちゃうから、表面的にはそのプロセスはわかりにくいと思う。だから僕の絵を見て、「うちの子にも描ける」といったり、後からでてきた世代のアーティストは僕の絵の表層しか見てなくて、その表層を真似しようとする。だけど表層しか見ていないから全然似ていないんです。

Page 2
前へ 次へ

イベント情報

『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』

2012年7月14日(土)〜9月23日(日)
会場:神奈川県 横浜美術館
時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:木曜
料金:一般1,100円 大学・高校生700円 中学生400円 ※小学生以下無料

プロフィール

奈良美智

1959年青森県生まれ。愛知県立芸術大学修士課程修了。1988年渡独、国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに在籍。ケルン在住を経て2000年帰国。2001年国内で初めての大規模な個展「I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」を横浜美術館で開催。独特のひねた表情の子どもを描く絵画やドローイングが国境や文化の枠組みを越えて絶賛される。2000年中頃、大阪のクリエイター集団grafとの共同プロジェクト「Yoshitomo Nara+graf: A to Z」を展開。音楽を愛し、山々を望む栃木のアトリエで制作する。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『角舘健悟 × 青葉市子 Live at Waseda Scotthall』

2020年、全4回にわたって行われてきた対談連載企画『角舘健悟の未知との遭遇』。青葉市子と遭遇し、教会に迷い込んだ2人の秘密のセッションの様子が公開された。本連載の趣旨でもあり、2人を繋いだYogee New Wavesの”Summer of Love”と、青葉市子の”みなしごの雨”を披露。クリスマスの夜にどうぞ。(川浦)

  1. KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢 1

    KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢

  2. 木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM 2

    木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM

  3. Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る 3

    Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る

  4. 山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里 4

    山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里

  5. 綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像 5

    綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像

  6. キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM 6

    キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM

  7. 『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録 7

    『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録

  8. 吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに 8

    吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに

  9. 緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表 9

    緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表

  10. ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材 10

    ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材