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ヤンキーもロックもアートに変える。キュレーションって一体何?

ヤンキーもロックもアートに変える。キュレーションって一体何?

インタビュー・テキスト
CINRA.NET編集部
撮影:田中慎一郎

「この対談で『キュレーターとは何か』と話した内容も、5年くらい後に見つけたら『こいつら何を言っているんだ』となる可能性はある(笑)」(保坂)

―ロジャーさんはずっとフリーの立場で、小規模な個性派展覧会から、『横浜トリエンナーレ』や『シンガポール・ビエンナーレ』などの国際展まで関わっていますね。一方で保坂さんは東京国立近代美術館という公の組織の一員として働きながら、その外の世界でもユニークな企画を手がけています。共に1970年代生まれで日本を拠点にしていますが、対照的とも言えるキュレーターですね。

マクドナルド:今回の保坂さんの『ベーコン展』なんかは、フリーのキュレーターではまずできない企画だよね。

保坂:色々あって8年がかりで実現しました。大きな展覧会には華々しい面もありますが、実現への準備や、世の関心を高める工夫など地味な作業も多いんです。また、国公立美術館だからできることと、逆にそこでは難しいこともある。自分の個人的な関心や志向だけではとても作れない場合もあります。

マクドナルド:数十年前までは、公的な領域に属するキュレーターが圧倒的に多かった。でも近年は明らかに変化があって、1人のキュレーターも複数の顔を持てる時代になったと感じます。作品が売買される大型アートフェアで企画を担当したり、オークションのカタログに執筆する人もいる。キュレーター像も変化し続けていると思います。

保坂:だから今日のこの対談で「キュレーターとは何か」と話した内容も、5年くらい後にウェブ上で見つけた読者にとっては「こいつら何を言っているんだ」となる可能性はある(笑)。

―(笑)。そんな変化の中でも、お二人が目指すキュレーター像とはどんなものでしょう?

マクドナルド:近年、町おこしのためのアートプロジェクトや政治的メッセージの強い展覧会では、キュレーターが社会運動家のようになっている面もあります。それには少し抵抗感があって、つまりアートが何か別の目的のために道具化してしまう面もないだろうかって。だから展覧会作りで言うと、僕はアート作品そのものが持つ物質感を大事にしたい。少し古い考え方かもしれないけれど、今の時代に合った形でそれをやれたらと思うんです。

―保坂さんはいかがですか? 奈良美智さんらが参加した『エモーショナル・ドローイング』展のような、感情や情動を重視する作品をテーマにした現代アート展のほかにも、建築展や、アール・ブリュット(正規の美術教育を受けていない作り手による表現。障害者による作品なども含む)を扱う展覧会も手がけていますね。

保坂:僕は展覧会を通して社会とは関わりたいけれど、その際にいわゆる社会的なテーマを扱うことが必須だとは思わない。アール・ブリュットに関わるのも、多くの人が抱く疑問を、自分もそこへ踏み込んで考えていこうという思いからです。プロではない人たちが描いた、時には乱暴さも感じる絵だけど、なぜか心が震えるとき、それってどういうことなのか? そうしたことを一緒に考えたいんです。美術館って社会から孤立した場でもあるので、なおさらですね(笑)。

―フリーキュレーターのロジャーさんがアートの持つ本来的な力を大事にしていて、国公立美術館に勤める保坂さんは、意外な切り口からも美術展のあり方を探っている。立場からいうとむしろ逆であってもおかしくないのに、何だか面白いですね。

マクドナルド:たぶん、自分が美術館にいないからこその憧れもあるかも(笑)。

保坂:お互い自分にできないことをやってみたいんですよ、きっと。「何か面白いことやりたい」というとき、内容そのものはもちろん、今まで自分がやったことがないから面白い。それがどうやら世の中にも共感してもらえそうだ、というときに展覧会をやりたいという気持ちになるのだと思います。

保坂健二朗

アートを違った角度で見てみよう

―ロジャーさんも主要メンバーであるアーツイニシアティヴトウキョウ(AIT / エイト)が運営している現代アートの学校「MAD」には、学生から社会人まで様々な人が参加しているそうですね。授業を通してどんなことを伝えていきたいのですか?

マクドナルド:現在のコースは今日話してきたような内容も含む「キュレーション」のほかに、観者としてアートをより楽しむための「オーディエンス」、ビジネスとしてのアート業界について学ぶ「インダストリー」、そして作り手の基礎的思考を身につける「アーティスト」の4つがあります。他にはテーマを絞ったゼミも用意しています。保坂さんは今年の「オーディエンス」コースで、アール・ブリュットについて講義してくれる予定なんです。

保坂:アール・ブリュットを通じて、改めて「アートって何だろう?」と考えやすいところはあると思うんです。同じような意味であるアウトサイダーアートという言葉は最近あまり使われていませんが、「外部(アウトサイド)」から見ることで見えてくるアートの「内部」の風景もあると思うから。

マクドナルド:MADの名前の由来は「Making Art Different―アートを変えよう、違った角度で見てみよう」の略なんです。キュレーターやギャラリスト、アーティストなど専門家を迎え、現代アートのさまざまな話題を、関連する歴史や学問も手掛かりにしながら読み取っていく。受講生にも色々な人がいます。例えば広告代理店勤務の方なども来てくれて、そこで面白い議論になったりします。

ロジャー・マクドナルド

保坂:よく「これはアートか、そうでないのか」という議論がありますね。アートと呼ばれるものがそれ以前に何だったのか、それは「表現」としか言えないと思う。だから展覧会の意義を考えるときも、僕には「アートを見せる」より「人が表現したものを見せる」と言うほうがしっくりくるんです。ある作り手が何をどのように表現したいか、それを知ることは、別ジャンルの表現者にも大きな意義があるはず。この喩えがいいかわかりませんが、「絵が好きな料理人」の作るものは美味しそうな気がしませんか(笑)。それは盛りつけが巧いとかの話じゃなく、表現の回路がどこかで繋がっているからではないかと思うんです。

―それは、先行する時代を生きた人の「表現」にも言えることですね、きっと。保坂さん、その点で今回の『ベーコン展』に込めた想いはありますか?

保坂:日本では、1983年にも同じ東京国立近代美術館で『ベーコン展』が開催されています。今回、僕はまず「犠牲となった身体」というテーマを考えていました。ベーコンは特に60年代、絵の中で最愛の人たちを血祭りに上げ、ぐちゃぐちゃに描いているんです。しかしそれを美しく描くことで何かに捧げていたような印象を受けます。何か大事なものを犠牲にしないと人間は救われないし、社会も次のステップにいけないことがある……。その事実が現代社会で忘れられていることを、ベーコンは意識的にわかっていたのかもしれない。その落とし前のつけかたが彼らしさだと、僕は思っています。最終的にはより包括的な回顧展になりましたが、そんな部分も感じ取ってもらえたら嬉しいです。

―時代は違えど伝わってくるものがある表現には、強さがあると。

保坂:僕が彼の絵を好きなのは、今でも自分にとってアクチュアルなものだからです。おそらく僕と同じ時代を生きる多くの人々にとっても、そうだろうと思っています。

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