
今日本に必要とされている音楽フェス『Sound Live Tokyo』
- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:高見知香
東京にも同時代の音楽を扱うフェスティバルの需要はあり、発信すれば必ず興味を持つ人々が海外にもいる。それにアーティストにとっても、チャンスとなるような交流の場が必要だと思っていました。(山口)
―2003年頃の日本というと、例えば04年にチェルフィッチュが『三月の5日間』を発表して、言葉をある種音楽的に捉えるような舞台表現が現れ始めた時期ですよね。特に『三月の5日間』はイラク戦争開戦を日本で知る、というのも主題の1つでした。ニューヨークと東京の間でも共通点を感じませんでしたか?
丸岡:どうでしょう。ただね、ニューヨークへ行く直前の2003年に、『PPAF』でカナダ・モントリオールのPMEという劇団を招聘して『アンリハースド・ビューティ / 他者の天才』という作品を六本木のスーパーデラックスで上演したんですよ。これ、演劇とは言っているんですけど、実はほとんど反戦集会みたいなライブのようなもので、賛否両論真っ二つに分かれたんです。罵倒するような意見がある一方で、チェルフィッチュの岡田利規さんは「すごくいい」と言ってくれて。
―岡田さん、自著の『遡行 変形していくための演劇論』でもそのことを書いていますね。
丸岡:やっぱり、アーティストはキャッチする感覚が鋭くて、「ああ、こういう人たちが出てきているんだなあ」と思いました。岡田さんが登場した後も、マームとジプシーみたいに、「どのように発話するか?」「どのように喋る主体を透明にして剥き出しにするか?」っていうテーマで音を使う / 聴く世代が現れましたよね。実は今年の『SLT』に登場するクリスティン・スン・キムも同じテーマを全然違うかたちで表現している人で、彼女は生まれつき音の聞こえないサウンドアーティストなんです。
―そうなんですね。今年の出演者について後ほどまた詳しくお伺いしたいのですが、一方で『SLT』を主催する東京文化発信プロジェクトの山口さんは、どのような経緯で『SLT』に関わることになったのでしょうか?
山口:2011年に東京文化発信プロジェクト室に加わり、最初に取り組んだ仕事が、東京の文化を海外発信するためのネットワーク作りと、これまでの音楽部門を新たに考えるというミッションでした。それまでは、主にドイツ語圏と日本のアーティストやプレゼンターの交流を促す仕事をしていたのですが、例えば東京に来た海外の関係者に「同時代の音楽や演劇をまとめて観られる場所やイベントは東京にないのか?」と聞かれ、困ることが多かったのです。演劇については『東京芸術見本市』(現在の『TPAM』)や『TIF』(現在の『フェスティバル/トーキョー』)がある。でも、音楽には私のリサーチ不足もあったと思いますが、海外のフェスティバルディレクターには、東京がすごくかっこいい未来的な都市と思われているのに、今の音楽の最前線を伝えるフェスティバルが見当たらなかった。海外発信&ネットワーク、新たな音楽部門というミッションを考えたときに、新しい音楽のプラットフォームもしくはフェスティバルが必要だと思いました。
―日本の音楽フェスとなると、真っ先に浮かぶのは『フジロック』とか『サマーソニック』。クラシック関係だと『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日』。でも、たしかに同時代の音楽となるとパッと浮かびません。
山口:過去にはあったんですよ。2009年まで続いた『<東京の夏>音楽祭』は、毎年テーマごとに、日本を含む世界各国の多様な音楽を次々に取り上げた、本当に素晴らしいフェスティバルでした。
―山口さん、丸岡さんに共通するのは、日本の音楽シーンに対するふつふつとした感情なんですね。「なぜ東京には同時代の音楽のプラットフォームがないんだ」と。
山口:需要はあるわけですから、発信すれば必ず興味を持つ人々が海外にもいる。それにアーティストにとっても、チャンスとなるような交流の場を作りたかった。そこで、丸岡さんをディレクターとして迎え、実現したのが『SLT』だったんです。
『SLT』では、「音や音楽をどういう風に捉え直せるか?」ということを強く意識してプログラムを組んでいます。(丸岡)
―いよいよ今年の『SLT』について伺いたいのですが、まずイベント全体が目指しているものというのはありますか?
丸岡:音と音楽の可能性を探求する、知られていないものを世界に発信するという目標はあるんですが、まだ2年目で、みんなで全体の構造を作っている途中というのが正直なところです。ただ、新しい才能を紹介するというだけには留まりたくない。音楽シーンの外側にいる人間の視点で、音や音楽をどういう風に捉え直せるか? っていうことを強く意識してプログラムを組んでいます。例えばアント・ハンプトン&ティム・エッチェルスの『The Quiet Volume』はかなり攻めた企画で。
―『The Quiet Volume』は、どのような作品なんですか?
丸岡:東京都立中央図書館で行うプログラムで、2人1組で体験します。MP3プレーヤーを装着して、そこから聞こえてくるささやき声に応答して図書館の一角のデスクに座り、用意されたノートや本を見ながらある時間を過ごすという内容。それ以上は事前に言ってはいけないってことになっているので、お話できないんですけど。
―ネタバレを避けつつ、体験のポイントを聞きたいです(笑)。
山口:とにかく終わった後に放心してしまうと思います。「終わった、よし帰ろう!」とすぐには立ち上がれない。ただ2人で座って声を聞いて本を読むだけですが、色々なイマジネーションが自分の中に浮かんでくる。ひょっとして、目の前で本を立ち読みしている人も作品の一部なのでは……とか。図書館という公共空間を私的な空間に変容させてしまうんです。
イベント情報
- 『サウンド・ライブ・トーキョー』
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2013年9月21日(土)〜10月6日(日)
会場:東京都(以下同)
上野 東京文化会館、上野恩賜公園野外ステージ(水上音楽堂)、鶯谷 東京キネマ倶楽部、南麻布 東京都立中央図書館、六本木 スーパーデラックス、原宿 VACANT
参加アーティスト:
アント・ハンプトン&ティム・エッチェルス
倉地久美夫
マヘル・シャラル・ハシュ・バズ
クリスティン・スン・キム
飴屋法水×工藤冬里
大工哲弘
アヤルハーン
[サウンド・ライブ・トーキョー・フリンジ]
松崎順一、小林ラヂオ、堀尾寛太、嶺川貴子、鈴木昭男、灰野敬二、モノlith、イチオン、A.N.R.i.、電子海面
※各プログラムの詳細はオフィシャルサイト参照
- 『Tokyo Creative Weeks 2013』
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2013年10月1日(火)〜11月4日(月・祝)
プロフィール
- 丸岡ひろみ(まるおか ひろみ)
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国際舞台芸術交流センター(PARC)理事長。海外からのダンス・演劇の招聘公演に関わる。2005年より『TPAM』(11年より『国際舞台芸術ミーティング in 横浜』)ディレクター。2003年『ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル(『PPAF』)』を創設。ダンス・演劇を中心に国内外のアーティストを紹介。2008年・2011年『TPAM』にて「IETMサテライト・ミーティング」開催。2012年、サウンドに焦点を当てたフェスティバル『Sound Live Tokyo』を開催、ディレクターを務める。
- 山口真樹子(やまぐち まきこ)
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東京文化発信プロジェクト室・企画担当ディレクター。主に海外発信・ネットワーキング事業を担当。2007年まで東京ドイツ文化センター文化部にて、音楽・演劇・ダンス・写真等の分野における日独間の文化交流に従事。特に舞台芸術分野で両国間の人的交流の促進を手掛けた。2008年からはドイツ・ケルン日本文化会館(国際交流基金)に勤務、ドイツ語圏を対象に舞台芸術、日本文化紹介、情報交流他の企画を担当した。