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種田陽平インタビュー CGの先にある21世紀の映画美術を求めて

種田陽平インタビュー CGの先にある21世紀の映画美術を求めて

インタビュー・テキスト
森直人
撮影:豊島望
2013/10/17

『ザ・マジックアワー』の舞台美術は、セットをトライアングルに配置することで、奥行き感を作り出せました。

―三谷さんの映画では『ザ・マジックアワー』が大好きなんですよ。『THE 有頂天ホテル』の次に公開された、ほとんど実験作に近い変な映画。舞台の港町がめちゃくちゃデフォルメされていて、凄くシュールな無国籍空間じゃないですか。

種田:あれは本当に難しかったんです。もともと三谷さんは『ワン・フロム・ザ・ハート』(1982年 / 監督:フランシス・フォード・コッポラ)の世界観をイメージされていた。セットだけで作られた街を舞台に、映画制作の舞台裏の話をやりたいと。でもプロデューサーいわく、『ワン・フロム・ザ・ハート』はアメリカでも大コケしたと(笑)。そのままやるとマニア向けの映画になっちゃうから、どうすればより多くの人に受ける娯楽映画として成立させられるか? と相談を受けたんです。

『ザ・マジックアワー』 ©2008フジテレビ 東宝
『ザ・マジックアワー』 ©2008フジテレビ 東宝

―コッポラはあの作品で巨額の借金を抱え、自分のゾーイトロープ・ロス・スタジオを売却しちゃいましたからね(笑)。

種田:『ワン・フロム・ザ・ハート』の場合は、本当に書き割りのような作り物の世界ですよね。だから『ザ・マジックアワー』では、ちゃんとお客さんが映画の世界観の中に入りこめないとダメだなと。例えば『ツイン・ピークス』(1990年〜1992年 / 監督:デイヴィッド・リンチほか)みたいに、観客が不思議な世界へ入っていくための回路を設置する。そこが難しかった。

―具体的にはどんな工夫をされたんですか?

種田:パラダイス通りのセットですが、主人公の村田が宿泊する「港ホテル」をY字に開いた道の要に配し、そのホテルに向かって立って右に町を牛耳るボス・天塩幸之助の事務所「天塩商会」を、左に天塩の部下・備後が支配人を務めるクラブ「赤い靴」のエントランスと屋上テラスを置きました。港ホテル、天塩商会、そしてクラブ赤い靴をトライアングルに配置したわけです。そうすることでセット同士が正対しないので、パース感が出て、広がりと奥行き感を出せた。作られた奥行き感、それがこの映画のセットの特徴です。

寺山修司映画の現場の雰囲気が凄く面白くて、泊まり込みながら背景の絵を描き続けていました。

―面白いやり方ですね。ところで、「映画美術」というものをもう少し詳しくお伺いしたいのですが、種田さんってもともとは武蔵野美術大学油絵専攻ご出身だったんですよね。画家志望だったんですか?

種田:ええ。でも大学で誘われて、映画研究会に入っちゃったんですよね。僕は中学・高校時代から、都内の名画座に通いまくっていた。それで大学に入ったときに、僕のことを「池袋の文芸坐で見た」とか。「三鷹オスカーで見た」とか、いろんな目撃情報が映研内で飛び交っていたみたいで(笑)。

種田陽平

―有望な新入生がいると(笑)。

種田:またその頃は、日本映画も変革の気運があった時代だったんですね。1970年代末期ですけど、例えば石井聰亙(現・岳龍)監督のような異端の才能が学生映画界から出てきていたり。それで映研にいたときに、「寺山修司の映画の背景の絵を描く人、誰かいない?」って、画家の合田佐和子さんが捜していて、『上海異人娼館 チャイナ・ドール』(1981年)の現場に僕を含め数人で描きに行ったんです。日本に作った上海のセットの中で数か国語が飛び交う現場で、その雰囲気や体験が凄く面白かったんですね。続けて寺山さんの遺作になった『さらば箱舟』(1982年 / 公開は1984年)にも参加して、また泊まり込んで絵を描きました。

―じゃあ、そのまま映画美術の世界に入って行かれた?

種田:美大を卒業してからは、しばらく悶々としてた。油絵科だったので美術教師になるっていう道もあって、教員免許も持ってたんです。中学・高校の教員試験にも合格して、親はてっきり先生になるもんだと思ってたみたい(笑)。でも寺山さんの現場で知り合った人たちから、また映画の話が来たんですよ。「ちょっと美術の仕事を手伝ってくれよ」って。その1本は、崔洋一監督のデビュー作『十階のモスキート』(1983年)。あと1本、村上龍さんがピーター・フォンダ主演で撮った『だいじょうぶマイ・フレンド』(1983年)。それでもう教師の道は忘れちゃった(笑)。そうやって映画業界の中にいたら、若い監督たちとも当然知り合うんですね。

―じゃあ出会いの中で仕事が自然に連鎖していった感じですか。

種田:そう、ただ流されて(笑)。それで周防正行さんから「ピンク映画で小津安二郎をやろうよ」って誘われて、『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984年)の美術を人件費込みの25万円で任されることになったんです。これは頑張りました。その頃、同時にいろんな映画の美術助手をやってたんですね。今だから言えるけど、並行して参加していた『湯殿山麓呪い村』(1984年 / 監督:池田敏春)のセットの椅子やテーブルを周防さんのピンク映画の現場に運んで使っていたんです。ピンク映画だから撮影は1週間で終わるじゃないですか。それでまた『湯殿山麓』の現場にセットを返して(笑)。もちろん許可はもらってましたけど。

―あの2本は美術でつながってたんだ!(笑) でも絵画から映画美術へって飛躍が凄くないですか?

種田:他にそういう人間はあまりいないでしょうね。この業界はだいたいデザイン系か建築系から来るんで。だから僕は仕事をやりながら、自分なりの方法論をつかんでいきました。でも、面白かった時代ですよ。石井聰亙(岳龍)監督とやった『半分人間/アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン』(1986年)は、相米慎二さんの『雪の断章』(1986年)の美術助手の仕事と並行してやりました。普段は商業映画で美術助手の仕事をやって、その合間に、若手同士の作品で美術監督をするっていうノリだったんです。

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イベント情報

『種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展〜「清須会議」までの映画美術の軌跡、そして…〜』

2013年10月12日(土)〜11月17日(日)
会場:東京都 上野の森美術館
時間:10:00〜17:00(土曜、11月3日(日・祝)、11月15日(金)は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
料金:一般1,300円 大学・高校生1,000円 中・小学生500円
※未就学児入場無料

プロフィール

種田陽平(たねだ ようへい)

三谷幸喜監督の映画『THE有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『ステキな金縛り』『清須会議』、舞台『ベッジ・パードン』の美術監督をつとめる。『フラガール』『悪人』『空気人形』『ヴィヨンの妻』などの日本映画の他、クエンティン・タランティーノ、チャン・イーモウ、キアヌ・リーブスら海外の監督作品も手がけ、2010年芸術選奨文部大臣賞、2011年に紫綬褒章を受けている。

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