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作家になることは考えてもいなかった 今井俊介インタビュー

作家になることは考えてもいなかった 今井俊介インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:西田香織

王道的な絵の描き方が分からないんです。だから、既成品の柄から選択することで絵が生まれるという感覚はピッタリ来ました。初めて「僕にも絵が描ける」と思った。

―絵が身近なところにある環境で育った少年が、いったんは美術を離れて、でも作ることに戻って来て、そして今あらためて絵画に挑戦している。今井さんは、現在のご自身の作品をどのように捉えていますか?

今井:『shiseido art egg』でも展示する「フラッグ」のシリーズに辿り着いて、初めて「絵描きになれた」と思えたんです。ポルノグラフィーを使った作品から始まり、その後実験を繰り返しながらもどこかモヤモヤが晴れなくて苦しかったときに、たまたま知り合いの女の子が穿いているチェックのスカートが目に入った。チェックの模様がフワ~っと波打っていて「ああ綺麗だな……」と思ったんですよ。こんなに綺麗な色と形があるんだから、自分で考えなくてもいいな、この模様をそのまま描いちゃえばいいや、と閃いたんです。

『今井俊介展』展示風景 撮影:高見知香
『今井俊介展』展示風景 撮影:高見知香

―フラッグのイメージは、スカートの柄から始まった。

今井:奥行きのような空間性は排除して、チェックの色と形だけを抽出してベタで塗っていこうと思ったんです。でも面白いのが、人の目ってどうしても空間性を絵に見出してしまうんですよ。まさにそれって絵画のイリュージョンですよね。絵画のことをもう1回ちゃんと考えてみようと思ったのはそれからです。

―なるほど。

今井:そこで初めて、「僕にも絵が描ける」と思った。正直に言って、いわゆる王道的な絵の描き方っていうものが僕には分からないんです。なんらかの色を置いてみて、じゃあ余白はこうしようとか、一手加えることで次の手が決まるみたいな、そういう感覚があまりにも欠如していて。だから、自分で色や形を決定しなくても、既成品の柄から選択することで絵が生まれるという感覚はピッタリ来ました。

―でも、フラッグの模様は今井さんが決めているんですよね。それは今井さんならではの個性になるんじゃないですか?

今井:いや、じつは直線だけをランダムに配置したデータを紙にプリントして、それを実際に手で歪ませたものを写生してるんですよ。だから本当は僕の作品は抽象画ではなく具象画ですし、そういう意味でも選択をしているんです。

『今井俊介展』展示風景 撮影:高見知香
『今井俊介展』展示風景 撮影:高見知香

僕もやっと描いていて楽しいって思えるようになりました。やっぱり「描く」って本当に辛いと思います。まあ、今でもそういうときはありますけどね(笑)。

―今日のお話を振り返ってみると、今井さんは自分の居場所を探し続けてきたようなところがあるのかなと思いました。その人生の流れの中で、絵画や絵画を取り巻く環境への問題意識が育まれ、結び付いてきたような感覚があるのではないでしょうか。芸術祭の委員長をされていたとか、吹奏楽部の部長だったというお話は結構意外だったんですけど、通して聞くと「ああ、なるほど」と。それら全てが、今の作品の中に結実しつつあるのだというのが分かります。

今井:でも、悩みは尽きないです(笑)。

今井俊介

―じつを言うと、フラッグのシリーズを初めて展示した2012年の個展を僕は観ているんです。そのときは「なんでこの人は、今さらこんな絵画の問題に取り組んでいるんだろう?」という疑問を感じたんです。でもその後、いくつかのグループ展に出品されているのを観ていたら、すごく良くなっていって。

今井:そうそう、それは自分でも思います(笑)。初期のフラッグシリーズの作品は、今は恥ずかしくて見れないものもあります。あれは「何か見つけた!」っていう衝動だけで、急いで作ってしまった絵だったように思います。

―でもその頃と今で違うのはサイズくらいなんですよ。大きなサイズで描かれていたものがキュッと小さくなっただけ。だから描かれているものやアイデア自体は変わっていないと思うんですけど、明らかに宿っているものの抽象度や純度が上がっている。僕自身も美術史や絵画論の勉強をしっかりやってきたわけではないので、「絵画をどう読み解くか、どう楽しむか」というのが、美術を考えるうえで一番難しいんです。描かれているものが花や人だったり、判別できるという意味で絵画は雄弁でもあるけれど、けっして描かれたものが主題ではないこともある。

今井:そうですよね。

―ですから、ここ3年くらいの今井さんの作品を折々観ていくことによって、絵画の強さを感じたというか。絵ってこういう風に強度を増していくことができるんだ、というのがすごく感じられて。

今井:いや、ありがたいです。僕もやっと描いていて楽しいって思えるようになりました。やっぱり「描く」って辛いことなんですよ。「これ、誰が観てくれるんだろう?」「何のために描いているんだろう?」って思いを持ちながら描いている時期もありましたけど、本当に辛いと思います。まあ、今でもそういうときはありますけどね(笑)。

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イベント情報

『第8回 shiseido art egg 今井俊介展』

2014年2月7日(金)~3月2日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜(祝日が月曜にあたる場合も休館)
料金:無料

ギャラリートーク
2014年2月8日(土)14:00~14:30
出演:今井俊介
料金:無料(予約不要)

『第8回 shiseido art egg 古橋まどか展』

2014年3月7日(金)~3月30日(日)
会場:東京都 銀座 資生堂ギャラリー
時間:火~土曜11:00~19:00、日曜・祝日11:00~18:00
休館日:月曜(祝日が月曜にあたる場合も休館)
料金:無料

ギャラリートーク
2014年3月8日(土)14:00~14:30
出演:古橋まどか
料金:無料(予約不要)

プロフィール

今井俊介(いまい しゅんすけ)

1978年福井生まれ。2004年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。主な展覧会に『ダイ チュウ ショー 最近の抽象』(府中市美術館市民ギャラリー)、『surface / volume』(HAGIWARA PROJECTS)、『TOO YOUNG TO BE ABSTRACT』(sprout curation)、『第31回損保ジャパン美術財団選抜奨励展』(損保ジャパン東郷青児美術館)、『SSS – expanded painting』(MISAKO & ROSEN)等。現在東京在住。2/15よりHAGIWARA PROJECTSにて個展『color / form』を開催。

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