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欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:丸尾隆一
2015/01/15

坂本龍一とのコラボレーション、渋谷慶一郎のボカロオペラ『THE END』の世界初演など、最先端のテクノロジーとアートを融合した作品発表で知られる山口情報芸術センター[YCAM]には、同施設で発表される作品・プロジェクトの研究開発を行うチーム、YCAM InterLabがある。メディアアートや情報技術の専門スタッフが常駐し、各国から招聘されたアーティストのサポートをしながら、作品を作り出す制作体制は国際的にも高く評価されている。

さて、YCAM InterLabが2010年から取り組んでいるプロジェクトに「Reactor for Awareness in Motion(RAM)」がある。コンテンポラリーダンサーの安藤洋子との共同開発となるRAMは、ダンサーの即興的な動きをコンピューターが瞬時に読み取り、そこから得たデータを映像としてパフォーマンスするダンサーにリアルタイムに提供、生身の身体と情報の相互的なやり取りによって、新たなダンス創作の可能性を探るというものだ。

約5年にわたって研究を進めてきたこのプロジェクトの1つの成果が、1月24日と25日に舞台作品として発表される『Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話』だ。実際に観客を招き入れ、RAMが切り拓く未知の領域を「作品」として提示するという。

今回、同作の空間構成として参加する建築家の田根剛にSkypeでインタビューする機会を得た。パリを拠点として国際的に活躍するだけでなく、昨年末、東京青山のスパイラルガーデンで展示された『Light is Time』では、6万5000個の腕時計部品を使い、圧倒的な迫力と思索の深さを兼ね備えたインスタレーションを作り出したことでも話題になった田根に、本作にかける思いを聞いた。

「建築とは何か?」を考えた先に見えてきたのが、「人が集まる場所を作る」ということ。でもそれって、本当にシンプルな古代から続く建築のあり方なんです。

―田根さんがこれまで手掛けた仕事の中でも『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』は異色の作品だと思うのですが、そもそもこの作品に参加したきっかけは、何だったのでしょうか?

田根:ダンサーの安藤洋子さんから、直接オファーを受けたんです。もちろん、安藤さんがダンスコンセプト&ディレクションとして「Reactor for Awareness in Motion(以下RAM)」プロジェクトをYCAM InterLabと立ち上げていたのは以前から知っていたのですが、実際に作品を観たこともなかったですし、個人的にものすごく忙しい時期だったので躊躇はあったんですよ。

―田根さん、今もお忙しいですよね。

田根:オファーをいただいたときは、15、6件くらいのプロジェクトが同時進行していたので、興味はあるけど「絶対に余裕ないぞ」と思ったんです。でも、その一方ですごく魅力的でもありました。建築の仕事で自由に時間を使って実験をやらせてもらえる機会なんてありませんから。「身体とシステム」というテーマも、以前から自分が考えていた「情報化」や「概念化」というテーマとつながりがあって、考えないといけないこともたくさんある。大変だけどやりがいは確実にあるなと。

―田根さんは経歴も異色ですよね。高校時代はジェフユナイテッド市原のユースチームで頭角を現し、チームメイトには元日本代表の佐藤寿人さんや阿部勇樹さんもいたとか。サッカーを離れた後、大学から建築に進んだそうですね。

田根:建築はたまたま始めたんですよ(笑)。

安藤洋子(左)、田根剛(右) 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
安藤洋子(左)、田根剛(右) 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―でも「たまたま」で始めた建築で、情報化や概念化という考え方に辿り着いた経緯はやっぱり珍しいのでは(笑)。

田根:考えが明確になってきたのは、自分で建築設計事務所DGT(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)を立ち上げてからですね。「建築とは何か?」を考えた先に見えてきたのが「場所を作る」ということで。でもそれって、本当にシンプルな古代から続く建築のあり方なんです。「人が集まるために場所を作る」ってことですから。その一方、20世紀は世界中のあらゆる場所に「空間」を作ることが技術的に可能になった。

―空間、ですか?

田根:20世紀は「ビルディング」というそれまでの時代にはなかった空間が生まれました。同じ場所で、10階建てでも50階建てでも自由に空間の量を調整できる。つまり場所の固有性とほぼ関係なく、空間が量産できるというシステムが生まれたわけです。そのような歴史を踏まえたとき、建築家は、どんなチャレンジができるかを考えなければいけない。そこで自分が行き着いたのが、失われた街の記憶や文化を引き継いで場所を作るということでした。たとえば、世界遺産のある場所にどうしてあんなにたくさんの人が行くのかといえば、やっぱりそこに絶対的な価値があると認めているからなんですよね。

―失われたものや記憶に言及する手法として、実際には建築を建てず、あるいは代替物によって概念的な建築を提案するやり方もありますよね。でも、DGTは旧ソ連時代の遺物である軍用滑走路と一体化して設計されたエストニア国立博物館(2016年完成予定)など、あくまでも具体的な建築、場所を作ることに力を入れているのが面白いです。

『エストニア国立博物館』提供:DGT
『エストニア国立博物館』提供:DGT

田根:実際に建てないと仕事がなくなってしまいますから(笑)。個人的には、言語化・理論化すること以上に、具体的なものがないと後世に残っていかないとも感じています。エストニア国立博物館は、エストニアという国家が再建しようとしているナショナルアイデンティティーとしてのミュージアムと軍用滑走路を一体化することで、負の歴史を抹消するのでもなく、無視するのでもなく、未来に引き継ぐために、引用というかたちを取らずに即物的にぶつけるというのがコンセプトでした。そしてナショナルミュージアムの完成後、その場所がどのように使われ、どんな情報を発信していくのか。それによって新しいあり方が生まれるかもしれない、という提案でしたね。

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イベント情報

YCAM InterLab + 安藤洋子
Reactor for Awareness in Motion(RAM) 2014-15公演
『Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話』

2015年1月24日(土)、1月25日(日)全2公演
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
プロジェクトディレクション:YCAM InterLab
ダンスコンセプトディレクション:安藤洋子
プログラミングデバイスデザイン:大西義人、神田竜、ひつじ
研究開発コンサルティング:筧康明(慶應義塾大学)
ダンス:川口ゆい、小㞍健太、笹本龍史(METHOD B)

スペシャルコラボレーター:
空間構成:田根剛(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)
音楽・サウンドプログラミング:evala

ポストトーク
2015年1月24日(土)、1月25日(日)の公演終演後
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
出演:
YCAM InterLab
安藤洋子
田根剛
筧康明
ほか

ゲストレクチャー
『超身体・脱身体・融身体』

2015年1月25日(日)16:00~(予定)
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
講師:稲見昌彦(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

プロフィール

田根剛(たね つよし)

1979年、東京生まれ。2006年、パリにて建築設計事務所DGTをダン・ドレル、リナ・ゴットッメと共に設立。現在建設中の『エストニア国立博物館』(2016年完成予定)をはじめ世界各国でプロジェクトが進行中。2012年には新国立競技場国際設計競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。『ミラノ・デザインアワード』2部門受賞(2014年)など多数受賞。

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