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欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:丸尾隆一
2015/01/15

コントロールされているからこそ見えてしまう、人間としての生理や感情的な部分。溢れ出してしまう人間らしさのようなものを、お客さんに感じてもらえたらいいな、と思っています。

―『Dividual Plays』の内容についても伺います。田根さんは作品に対して、具体的にどのような関わり方をしていくのでしょうか?

田根:おおまかに言えば、舞台空間を構成する役割でしょうか。でも、舞台装置を作るわけではないんです。情報やシステムも含めて、様々な要素をどのように構成していくのかが、自分に求められている仕事だと感じています。

『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―今作品は映像によるダンサーへのフィードバックも作品の重要な要素になっていますが、田根さんが行う空間構成デザインは、観客に向けられているのですか? それとも演者ですか?

田根:最終的にはお客さんですね。じつはYCAMに来て3日目で、初めてチーム全員が集まったところなので、実際にどんな風に舞台が見えるのかは、今から始まる段階なんです(笑)。とはいえ、これまでもワークショップや実験をYCAM InterLabの皆さんと重ねてきて、「YCAMだったら何でもできるよ」という周囲の噂を実感しているので不安はないです。とにかくものすごいスピードで物事が進むんですよ。「こんなことをしたい」と言うと、1時間後にはできてしまうくらいで、このまま自分の事務所にスタッフを連れて帰りたいと思うくらい。世界中のアーティストと共作してきた蓄積があるからなのか、物事の理解力、アーティスティックなセンスも兼ね備えていてビックリします。ただ、YCAMだからできるものに寄りすぎてしまうと、別の場所での再現性が限られてしまうので、基本となる舞台構成は普通にしています。それも逆にチャレンジングではありますね。

―「普通」というのは、客席と舞台の関係が、ということですか?

田根:古代から続く舞台の形式、正面性があるということです。

『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―客席から観て、舞台を額縁で区切るように正面性を示すというのは、視覚的なものとして強く意識されるということですね。

田根:そうですね。これから作り始めるので、予測や期待の話になってしまいますが、「こういうものが見えたらいいな」というものはあります。圧倒的にコントロールされているんだけど、だからこそ見えてしまう、人間としての生理や感情的な部分、溢れ出してしまう人間らしさのようなものを、お客さんに感じてもらえたらいいな、と思っています。それは、今作品のサブテーマになっている「無意識」の話にもつながるんです。

―無意識ですか?

田根:今回、安藤洋子さんが取り組もうとしているのは、ダンサー個人の意識を全部外して……逆に言えば、意識が個人に属さずに「情報としてある」状態を作り出すことなんです。その情報をキャッチするために、ダンサーの反応が起こる。そうすると、何も意識しなくてもパフォーマンスが起こるんですけれど、それはただ無意識の動作がパフォーマンスになるだけではないんです。RAMのシステムは、無意識に起こる動作や判断もすべてリアルタイムにデータ化し、映像に変換出力することが可能なので、おそらく無数の無意識同士が干渉し合って、何かしらの変化が起こる。そして予想もしなかった「バグ」が発生し、当初設定していた臨界値を超えたときにプロジェクトは次のステージに行けるはずだ、とチーム内で話しています。その何かが変わった瞬間がお客さんに伝わればいいなと。

「感情というのは情報だ」という安藤さんの名言があって、人が何かを感じる状態というのは情報なんですよね。

―RAMは2010年から続くプロジェクトで、すでに5年目を迎えたわけですが、今回の作品が終着点ではない、ということでしょうか?

田根:作品発表ではありますが、プロジェクトが変化していく場自体を見せるプレゼンテーションでもあると思っています。「感情というのは情報だ」という安藤さんの名言があって、人が何かを感じる状態というのは情報なんですよね。

『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―情報というのは、データとはまた違うものなんでしょうか?

田根:たとえば、デジタルデータの0や1に数値以上の意味はないですけど、膨大なデータが集められて、人間がキャッチできるものになると意味が生まれる。意味を持ったデータの羅列が「情報」なんです。あいうえおの五十音はデータだけれども、「おなかすいた」みたいな組み合わせになると情報化されて、初めて人はコミュニケーションが取れる。それがデータと情報の違いです。

―文脈や意味が現れたときにデータは情報になるということですね。その発想は建築の仕事をする中で見つけてきたものですか?

田根:ずっと考えてきたことですね。「場所の記憶」についてよく考えるのですが、それは「文化としての意味=情報」のことでもあるので、場所の記憶を建築に翻訳できるかというのが、自分の仕事の大きなミッションでもあります。

―それは、場所が持っている固有性を編み上げていくということでしょうか?

田根:歴史文化遺産を見に行ったりするとガイドさんが建築について詳しく教えてくれるじゃないですか。歴史的な意味や、建造されて何百年経っているとか。それは、言葉を通して「文化としての意味」を伝えようとしているわけです。建築はそこに価値があると思います。現代のビルディングには空間も機能もありますが、伝えられる情報と言えば「○○ビル」という名称、記号くらいしかない。それでは後世に残る価値を持てません。

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―建築の価値は、場所との関係性にある。

田根:さらに言うと、現代は情報量が多過ぎて、データのように情報すらも均一化してしまう。膨大な情報が溢れている中に、新しい情報を加えても、海面に水滴を1滴落とすみたいに、均質な中に消えてしまう。そういう状況で、どうやったら効果的に情報を取り出せるのかというのが、もう1つの関心事です。舞台芸術がお客さんに強い印象を与える何かを立ち上げることができるのも、強い情報なり、深い情報なり、いろんな種類の情報を扱っているからではないかと推測しています。

―なるほど。田根さんは建築家という仕事はどういうものだと思っていますか? たとえば小説家とか語り部とか、別の職業に言い換えることができますか?

田根:大学の講義で学生に伝えているのは、建築家はデザイナーではないということです。「深化」と言ってるんですけど、誰かのために、場所のためにどれだけのことを考え尽くせるか、それを1つの概念に置き換えられるか、それが建築家の仕事です。優れた設計を作るならエンジニアに負けるし、カッコイイ造形を作るならデザイナーには勝てない。建築家の専門性というのは、考える力がどれだけあるかということなんですね。自分は正しいもの、前進するものにあまり価値を見出していないので、むしろ何かを深める、何かとつなげる、何かを受け継ぐことを重視しています。

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イベント情報

YCAM InterLab + 安藤洋子
Reactor for Awareness in Motion(RAM) 2014-15公演
『Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話』

2015年1月24日(土)、1月25日(日)全2公演
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
プロジェクトディレクション:YCAM InterLab
ダンスコンセプトディレクション:安藤洋子
プログラミングデバイスデザイン:大西義人、神田竜、ひつじ
研究開発コンサルティング:筧康明(慶應義塾大学)
ダンス:川口ゆい、小㞍健太、笹本龍史(METHOD B)

スペシャルコラボレーター:
空間構成:田根剛(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)
音楽・サウンドプログラミング:evala

ポストトーク
2015年1月24日(土)、1月25日(日)の公演終演後
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
出演:
YCAM InterLab
安藤洋子
田根剛
筧康明
ほか

ゲストレクチャー
『超身体・脱身体・融身体』

2015年1月25日(日)16:00~(予定)
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
講師:稲見昌彦(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

プロフィール

田根剛(たね つよし)

1979年、東京生まれ。2006年、パリにて建築設計事務所DGTをダン・ドレル、リナ・ゴットッメと共に設立。現在建設中の『エストニア国立博物館』(2016年完成予定)をはじめ世界各国でプロジェクトが進行中。2012年には新国立競技場国際設計競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。『ミラノ・デザインアワード』2部門受賞(2014年)など多数受賞。

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