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欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

欧州で建築家として成功した異色の男 田根剛インタビュー

インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:丸尾隆一
2015/01/15

建築は、目の前にある土地の歴史、気候風土、光の変化なども含めて、環境の中にある膨大な情報をどうやって物質化するのかということでもあるんです。

―実際、RAMは複雑なプロジェクトですよね。ステージ上のダンサーの動きをリアルタイムにデータ化し、映像としてダンサーの視覚にフィードバックして新しく振付を生み出すというのは。技術的な難しさはもちろんですが、システムのオープンソース化、安価なキットを開発しての若手振付家の育成も視野に入っている。説明を受けてどんな印象を受けましたか?

田根:僕の理解としては、ものすごく膨大な情報が含まれている「環境」というものと、ダンサーという1つの「情報」が頻繁に交信することで、どういったものが生まれるのかを探る実験なんだと思いました。GPS情報や購買記録といったビッグデータも「環境」の一種だと思いますが、そういった環境をどうやって情報化するのか。そして情報化されたものは、われわれの環境にどのような意味を持つのか? っていうのが、最初の印象ですね。

『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―「環境と情報の交信」というコンセプトは、田根さんにとっても問題意識として共有できるものだった?

田根:自分自身ずっと考えていたことだったので、プロジェクトの役に立てるかもしれないと思いました。これは自分の考えですが、建築には膨大なリサーチが不可欠です。1つのプロジェクトで建築は1つしか作らないかもしれませんが、それは膨大な過去の情報を掘り返し、1つの建築に置き換える作業でもある。目の前にある土地の歴史、気候風土、光の変化なども含めて、環境の中にある膨大な情報をどうやって物質化するのかということでもあるんです。

刹那なものというか、目の前で起こっていることがどんどんなくなってしまうという魅力が、舞台芸術にはあるんです。

―今回の『Dividual Plays』に限らず、田根さんは舞台美術の仕事も多く手掛けています。ダンスカンパニーNoismの金森穣さんとは、同カンパニーの処女作である『SHIKAKU』の美術を担当されて以降、コラボレーションを重ねていますね。

田根:本当にラッキーだったと思います。それまでダンスの舞台なんて、ヨーロッパで1、2回観たくらいでまったく知らない、しかも大学を出たばかりの新人にいきなり声をかけていただいたわけですから。先日金森さんと対談したときも「直感でした」とおっしゃっていましたね。

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―その対談で、田根さんは最近舞台をよく観ていると言われていました。

田根:『SHIKAKU』をやって初めて、舞台芸術という自分の人生をくつがえすような世界があることに気づいたんです。それは美術館で何かを観る以上に大きい体験で、「パフォーミングアーツすごい!」と思ったんですが、でもそういう出会いって100回に1回くらいしかないんですよね。

―わかります、わかります(笑)。

田根:刹那なものというか、目の前で起こっていることがどんどんなくなってしまうという魅力が、舞台芸術にはあるんです。

―その刹那性は、田根さんにとってすごく大きかったですか?

田根:建築はその真逆だから大きいですね。エストニア国立博物館は2006年のコンペから10年かけて間もなく完成しますが、舞台作品は3、4か月という濃密な時間の中で作るものでしょう。それから何百人、場合によっては何千人というお客さんが1つのものを同時に観るという、ある種の祝祭的な経験は建築では得られないものですよね。

『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]
『Dividual Plays—身体の無意識とシステムとの対話』稽古の様子 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

―でも建築と舞台を比べると、建築のほうが最終的に関わる人の数は多いですよね。数百万人、場合によっては数億人が完成後に訪れる。それに比べると、舞台って1回の公演で限られた人しか観られないという制約があります。そのスケールの違いは舞台芸術の不利な部分ではないでしょうか。

田根:劇場のキャパシティーの制約はありますよね。でも、たとえば個人住宅であれば、家族4人が長い時間をかけて1万人分の空間を使うとも言えるので、一概にどちらが有利不利とは言えないです。逆に言えば、キャパシティー1000人の劇場で濃密な1時間を体験する舞台芸術の時間軸やドラマを、建築ではぐーっと引き延ばしている。この時間感覚は、建築にも置き換えられると思います。

―舞台芸術と建築に共通するのはドラマなんですね。

田根:劇的という意味ではなくて、ある段取りの中で人が何を感じるか、という意味でのドラマですね。もう1つ舞台芸術の仕事で発見したのは、「時間」と「空間」がまったく分かれていないということです。近代建築は、鉄、ガラス、コンクリートといった匿名性の高い素材を使用することで建築から固有性や時間の概念を排除してしまったけれど、舞台芸術に関わることでこの2つが密接だということにあらためて気づきました。舞台をやっている方からすれば「当たり前だよ!」って言われるでしょうけどね(笑)。

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イベント情報

YCAM InterLab + 安藤洋子
Reactor for Awareness in Motion(RAM) 2014-15公演
『Dividual Plays―身体の無意識とシステムとの対話』

2015年1月24日(土)、1月25日(日)全2公演
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
プロジェクトディレクション:YCAM InterLab
ダンスコンセプトディレクション:安藤洋子
プログラミングデバイスデザイン:大西義人、神田竜、ひつじ
研究開発コンサルティング:筧康明(慶應義塾大学)
ダンス:川口ゆい、小㞍健太、笹本龍史(METHOD B)

スペシャルコラボレーター:
空間構成:田根剛(DORELL.GHOTMEH.TANE/ARCHITECTS)
音楽・サウンドプログラミング:evala

ポストトーク
2015年1月24日(土)、1月25日(日)の公演終演後
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
出演:
YCAM InterLab
安藤洋子
田根剛
筧康明
ほか

ゲストレクチャー
『超身体・脱身体・融身体』

2015年1月25日(日)16:00~(予定)
会場:山口県 山口情報芸術センター[YCAM] スタジオA
講師:稲見昌彦(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

プロフィール

田根剛(たね つよし)

1979年、東京生まれ。2006年、パリにて建築設計事務所DGTをダン・ドレル、リナ・ゴットッメと共に設立。現在建設中の『エストニア国立博物館』(2016年完成予定)をはじめ世界各国でプロジェクトが進行中。2012年には新国立競技場国際設計競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。『ミラノ・デザインアワード』2部門受賞(2014年)など多数受賞。

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