音楽界の頂点ってどんな心境? サム・スミス×クワタユウキ対談

2月9日に開催された『第57回グラミー賞』にて、主要部門である「年間最優秀レコード賞」「年間最優秀楽曲賞」「最優秀新人賞」を含む4冠を達成した、イギリス出身のシンガーソングライター、サム・スミス。聴き手の心を瞬間的に掴むファルセットボイスを、Lady GaGaは「あなたは天使のような声を持っているわ」と絶賛した。弱冠22歳ながらデビュー作で一気に音楽界の頂点に立ったサム・スミスは、授賞式からわずか1週間後、ライブとプロモーションのため日本に訪れた。そして、ラジオの取材で『グラミー賞』の会場に潜入していたREAD ALOUDのクワタユウキとサム・スミスの対談が実現。分刻みのスケジュールながら、一つひとつの設問に真摯に答える彼の姿が印象的だった。

曲そのものの構成や完成度について意見されることは仕方ないけど、1人の人間が音楽に込めた真実や嘘のない思いは、批判できない。(サム)

毎年『グラミー賞』を見て痛感するのは、なぜ彼らは咄嗟のスピーチがあれほど上手いのかということ。ユーモアに富んだ、簡潔なフレーズを適確に口にする。連続授賞で何度も壇上に上がりスピーチをしたサム・スミスの話術にも感嘆した。しかし、それは単なる「話術」だけではなかった。彼の歌詞世界同様、切実な思いの吐露が続いた。今回の『グラミー賞』を会場で観ていたクワタユウキは、思いを実直に語る姿を見守る会場に、独特の「体温の高さ」を感じたと言う。特別な空間で、人は特別な存在になっていく。今や「世界の主役」とでも呼ぶべきサム・スミスに話を聞いた。


クワタ:『グラミー賞』4冠達成、おめでとうございます。あの日は、あなたにとってどのような1日になりましたか?

サム:あの日の夜は、本当に夢のようだった。これまで憧れてきたアーティストたちとその場に一緒にいられること、そしてそのアーティストたちの目の前で自分が授賞できたこと、とっても不思議な感覚だったよ。

サム・スミス
サム・スミス

クワタ:今、トロフィーはどこに飾っているんですか?

サム:えっと……2つは歯ブラシホルダーにして、1つはキッチンでガーリックの隣に置いてあるよ。って、ウソウソ(笑)。

クワタ:(笑)。『グラミー賞』を授賞してまだ日も間もないですが、心境に変化はありますか?

サム:『グラミー賞』を授賞したことで、自分は認めてもらえるクオリティーの音楽を生み出せていると自信がついた。手抜きせずに創作活動を続けてきたことが認めてもらえて嬉しかったよ。

クワタ:18歳のときに、出身地のケンブリッジシャー州からロンドンに一人で引っ越してきてから、今のマネージャーやDISCLOSURE(イギリス出身のダンスミュージックデュオ。2012年にサム・スミスとヒットシングル“Latch”を共作)に出会うまで、どんな生活を送っていましたか?


サム:ロンドンに移り住んでからは、バーで働いていたんだ。毎日休みもなく、くたくたになるまで働いたよ。でも、それは自分が本当にやりたいことではなかったから、とても苦しかった。音楽を作るための出会いに恵まれるまでの間は、いつも不安で孤独な気持ちを抱えていたね。歯車が回り出して、ようやくハッピーな気持ちに戻れたんだ。

クワタ:今、バイトをしていた頃の自分に声をかけるとしたら?

サム:そうだな……もしそのときの僕に会えるなら、「やっていることを変えることなく、そのまま続けるんだ」って言いたい。

クワタ:自分の音楽に自信を持つために心がけてきたことはありますか?

サム:創作に繋がる自信のもとになってくれるのは、いつだって自分に対して嘘をつかずに正直でいること。音楽を作るのって、自分のダイアリーを綴っているようなものだと思っているんだ。曲そのものの構成や完成度について人に意見されることは仕方ないけど、1人の人間が音楽に込めた真実や嘘のない思いは、批判したり批評したりできない。そう思うようになってから、作品を生み出すことに徐々に自信が持てるようになったんだ。

怖いと思う気持ちはちゃんと向きあえば武器にもなる。(サム)

今回の『グラミー賞』で、プリンスは唐突に「アルバムって覚えてる?」とスピーチした。音楽配信が主流となり、楽曲単位で音楽が容易く摂取される風潮を痛烈に皮肉ってみせたのだ。サム・スミスはつい最近まで、女性ボーカリストの作品しか聴いてこなかったという。母からの影響だ。母が息子にじっくりと音楽を与えたからこそ、サム・スミスの作品はデビュー作にして熟成された1枚に仕上がったのだろう。彼に対して使われる「新人らしからぬ」という枕詞を打破できる音楽の素養が、じっくりと植え付けられていたのだ。

クワタ:ライブで歌うことが楽しくなったのは1年前くらいからだと聞いたのですが、なぜそれまでは楽しくなかったのでしょう?

サム:以前は、ライブよりスタジオにこもって、音楽が出来上がっていく過程を味わう方が好きだったんだ。大勢の人の前に立つのはなんだか怖かった。でも、音楽を携えて様々な国を旅するようになって、人前でライブをすることの素晴らしさにようやく気づいたんだ。皆と繋がって、皆を直に感じることができるからね。

クワタ:とはいえ、ライブをすることへの怖さはまだありますか?

サム:うん、もちろんライブは今でも怖い。ライブ前は、呼吸を整えて、その恐怖と向き合うんだ。怖いと思う気持ちはちゃんと向き合えば武器にもなるからね。緊張感はライブを成功させる重要な要素でもある。

サム・スミス

クワタ:歌詞の中では、自分の体験を赤裸々にぶつけていますよね。自分をさらけ出すのは怖くないですか?

サム:いや、全く怖くない。確かに、ときに身を削ぎすぎていると思うことや、「自分の中だけに留めておくほうがいいのかな」と感じることもある。でも、ファンのみんなが自分の作品を通して何かを感じてくれたとき、僕は自分自身をとてもパワフルに感じることができるんだ。

クワタ:それにしても、あなたのファルセットは素晴らしいですよね。『グラミー賞』の会場でライブを観て感動しました。それは天然モノですか?

サム:もちろん(笑)。自然に出ている声だよ。ファルセットを維持するためのトレーニングは今でも欠かさずしているけどね。


クワタ:エイミー・ワインハウス、マライア・キャリー、チャカ・カーンといった女性シンガーから影響を受けてきたそうですが、女性シンガーから具体的にどのようなエッセンスを吸収してきましたか?

サム:彼女たちの声やパワーのみにインスピレーションを受けてきたわけではなくて、むしろ、いつも完璧すぎない「不確実さ」にとても魅了されてきた。声ひとつをとっても、完璧でないことがある。そういった、かざらない、正直な自分を投影できたとき、音楽は理屈ではなくなるんだよね。そして、理屈ではないものに聴く人の心は動かされる。

クワタ:女性シンガーを聴かれるのは、母親の影響だそうですね。ご両親はどんな方なんですか?

サム:僕の両親は素晴らしい人たちだ。叡智があり、頭がよく、子どもたちの「なりたい自分になれると信じる力」を育ててくれた。こうして世界的に名前が知られるようになって最も嬉しいのは、家族を海外に連れ出してあげられることなんだよね。家族には、これからもいろんな体験をたくさんプレゼントしたい。

素晴らしい芸術家たちは、モノに命を吹き込むんだ。(サム)

クワタ:ミュージシャン以外で尊敬してる人はいますか?

サム:まず、アンドリュー・ヘイという映像監督。彼は『Looking』というゲイがモチーフになっているテレビドラマシリーズも作っている。写真家だと、ライアン・マッギンレー(アメリカ出身、若くして成功をおさめた写真家。Sigur Rosのジャケット写真等も撮影している)は特に素晴らしいと思う。あとは、アレクサンダー・マックイーン(イギリスのファッションデザイナー。Lady GaGa、ビョーク等の衣裳も手掛けた)。彼の仕事の深さが好きなんだ。一着一着の洋服は、幻想的で非現実的でも、その中には人間らしさや生々しさがちゃんと息づいている。素晴らしい芸術家たちは、モノに命を吹き込むんだ。

クワタ:あなたが音楽という芸術を通して伝えたい事は何ですか?

クワタユウキ
クワタユウキ

サム:聴いてくれる人の感性を揺さぶりたい。だからダイアリーのように日々をドキュメントで綴り、音楽に乗せて運んでいるんだ。

クワタ:音楽以外の趣味はありますか?

サム:食べること、スキー、ファッション誌を集めること……あとは、花を見るのも好きだよ。イギリスには素晴らしい庭園がたくさんあるから、そういう所によく行くんだ。あとはコーヒーにも目がないから、世界のおいしいコーヒー屋さん巡りも好き。

クワタ:じゃあ、将来の夢はコーヒーショップを開くとか?(笑)

サム:そうだね(笑)。花とコーヒーがあるショップをやってみたいかも! コーヒーを楽しみながらお花を選べるお店なんていいよね。東京、ニューヨーク、ロンドンで、そんなお店を持てたらいいな。

クワタ:楽しみにしています(笑)。最後に、あなたにとって「いい音楽」とはなんですか?

サム:そうだなあ……みんなが口ずさめて、それでいて深みがある曲かな。そういう曲を作り続けていけたらと思っているよ。

『グラミー賞』はショービジネスの到達点として、パフォーマンスやスピーチのみならず、受賞者の発表、暗転、転換、全てが統率されていた。(クワタ)

―現場で観る『グラミー賞』の授賞式はいかがでしたか?

クワタ:最高の経験でしたね。驚いたのは、観客の中にも、アーティストばりの自己表現をする人たちが多くいたこと。穴だらけのドレスを着た女性や、局部のみを葉っぱで隠す人とかもいて。

―ボディーチェックも厳重だったそうですね。

クワタ:そうでしたね。空港にあるような金属探知機が入り口にあって、荷物は全部チェックされました。僕、リュックの中に酔い止め薬を入れたままにしていて、荷物チェックの係員から「What is this?」って聞かれて、思わず「It's drug.」って答えてしまったんですよ。

クワタユウキ

―それはマズい(笑)。

クワタ:黒服を着た体格のいい男性が近付いてきました。「No, no, medicine!」って急いで弁解したら、係員も大爆笑してくれたのでよかったんですが(笑)。

―会場周りはどういった雰囲気なんですか?

クワタ:会場の外でも、自己表現している人たちが多かったです。当日だけではなくて前夜祭から、会場の周りで路上ライブや即興アートや大道芸が行なわれていて、街中がお祝いムードに包まれていました。

―3時間半ほどの授賞式、特に印象的だったライブは?

クワタ:やっぱりオープニングのAC/DCですね。ハードロック好きとして、ボーカルのブライアン・ジョンソン、ギターのアンガス・ヤングが、正装した観衆の前で暴れ回る姿は圧巻でした。

―日本で中継を見ていましたが、ドレスコードを無視して、アンガスはもちろんいつもの半ズボンでしたよね(笑)。

クワタ:そうです(笑)。そして最後に登場した、コモンとジョン・レジェンドの“Glory”のコラボレーションも印象的でした。ジョン・レジェンドの歌声は、「腹から声を出すとはこういうことか」と打ちひしがれるほどの声量でしたね。

―エド・シーランが好きだと前におっしゃっていましたが、エド・シーランとElectric Light Orchestraの共演はどうでした?

クワタ:それも圧巻でしたね。コラボしているときに、会場のスクリーンに口ずさんでいるポール(・マッカートニー)の映像が流れたんです。それに気づいたポールは照れた表情を見せていたんですけど、レジェンド同士のリスペクトを生で観られて興奮しました。あとは、シーアの“Chandelier”。シーアは『グラミー賞』でも姿を明かさず、ステージの上に古い部屋のセットで作って、それに背を向けて歌ったんです。

―テレビで見ている限りでは、ライブではなくPVを見ているようでした。曲が終わってカメラが引くと、ようやくそれがステージ上のセットで披露していたライブだとわかる、非常に凝った演出でしたね。


クワタ:とにかく『グラミー賞』はショービジネスの到達点として、パフォーマンスやスピーチのみならず、受賞者の発表、暗転、転換、全てが統率されていた。リハーサルが4回もあったと聞きました。隅々まで計算し尽くされていましたね。

スピーチにしろ、パフォーマンスにしろ、メッセージを放ったときの観客のスタンディングオベーションの長さには圧倒されました。(クワタ)

―それにしても、『グラミー賞』からわずか1週間でサム・スミスの取材の場が設けられるとは思いませんでした。

クワタ:そうですよね。『グラミー賞』でのサム・スミスとメアリー・J・ブライジのコラボも素晴らしかったです。とにかく、サム・スミスのファルセットには魅了されますよね。スイッチの切り替えが素晴らしい。サビでファルセットを使うシンガーは多いですが、彼はAメロやBメロでもファルセットを使うことで、一気に聴き手を引き込んでいく。

クワタユウキ

―今回の『グラミー賞』は、アーティストたちがスピーチで黒人差別や女性差別の問題について言及を重ねたことも話題になりましたね。

クワタ:スピーチにしろ、パフォーマンスにしろ、メッセージを放ったときの観客のスタンディングオベーションの長さには圧倒されました。授賞が決まったアーティストに対するスタンディングオベーションとは違った、メッセージに寄り添おうとする立ち上がり方。うまく説明できないんですが、とにかく感動的でした。

―日本ではあまり見られないシーンかもしれませんね。そういった場面も体感して、音楽に対する目的意識が揺さぶられたのではないですか?

クワタ:そうですね。それこそ、サム・スミスが同性愛者であることを公言し、「僕を振った相手がいなければ授賞できなかった」とスピーチで話したのを聞いて、自分をさらけ出したアーティストに対するオーディエンスの体温の高さを感じました。この温度を感知して、自分もこれからいかにメッセージを出していくべきか、とても刺激を受けましたね。

イベント情報
READ ALOUD
『臨場感空間論 TOUR 2015』

2015年5月20日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 CLUB UPSET
出演:
READ ALOUD
ユビキタス
the adonis

2015年5月22日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
出演:
READ ALOUD
チリヌルヲワカ
GIMMICK_SCULT

2015年5月29日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 eggman
出演:
READ ALOUD
She Her Her Hers

料金:各公演 前売2,500円(ドリンク別)

リリース情報
READ ALOUD
『アカンサス』(CD)

2014年11月5日(水)発売
価格:1,650円(税込)
CCCL-3

1. タイムトラベラー
2. 君の声を思い出す
3. 風が吹くから
4. 月と太陽
5. BGK
6. 朝

番組情報
『Good To Go!』

毎週土曜24:00からInterFMにて放送

リリース情報
Sam Smith
『In The Lonely Hour』日本盤(CD)

2015年1月21日(水)発売
価格:2,376円(税込)
UICC-10015

1. Money On My Mind
2. Good Thing
3. Stay With Me
4. Leave Your Lover
5. I'm Not The Only One
6. I've Told You Now
7. Like I Can
8. Life Support
9. Not In That Way
10. Lay Me Down
11. Restart
12. Latch(acoustic version)
13. La La La(Naughty Boy feat. Sam Smith)
14. Make It To Me
15. Reminds Me Of You
16. Stay With Me feat. Mary J. Blige (darkchild version)
17. In The Lonely Hour (acoustic version)
18. Nirvana
19. Safe With Me
20. Together (Sam Smith x Nile Rodgers x Disclosure x Jimmy Napes)

プロフィール
Sam Smith (さむ すみす)

イギリス出身のシンガーソングライター、現在22歳。ディスクロージャー、ノーティ・ボーイらのヒットシングルにフィーチャーされ、本国にて一躍脚光を浴びる。2013年12月、アデルらも受賞した、イギリスレコード協会主催のイギリス最大の音楽賞『BRIT Awards』で批評家賞を受賞。2014年1月には、BBCの「2014年の声」部門にて1位獲得。同年5月に発売したデビューアルバム『In The Lonely Hour』は、全英アルバムチャート5週1位、全米アルバムチャート初登場2位と、世界中で異例の大ヒットを遂げ、遂に世界売上600万枚を突破!第57回グラミー賞には、主要4部門を含む全6部門の最多ノミネートをされていたが、主要3部門を含む計4部門を受賞し、一躍サム祭りとなった。

READ ALOUD (りーど あらうど)

自分の心に浮かんだ感情や言葉を素直に音読する(READ ALOUD=読み上げる。朗読する。)というコンセプトのもとクワタユウキ(Vo,Gt)を中心に結成。2012年夏より、現メンバーでの本格的なライブ活動をスタートさせる。逞しいボーカルと、アイリッシュやサンバ等様々なリズム要素を取り入れたビートで確実にその注目度を上げている実力派バンド。2014年11月5日に、3rdミニアルバム『アカンサス』をリリース。InterFM『Good To Go!』(毎週土曜24:00~)でDJを務める。



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