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鬼才タイヨンダイがBATTLESをやめてまで成し遂げたかった音楽

鬼才タイヨンダイがBATTLESをやめてまで成し遂げたかった音楽

インタビュー・テキスト
渡辺裕也

ロックバンド・BATTLES在籍中の頃も抱いていた、オーケストラ音楽への愛

タイヨンダイはBATTLESというバンドの元メンバーとしても広く知られているが、将来的にそのキャリアを俯瞰したとき、彼がBATTLESを通して2000年代オルタナティブミュージックの覇者となったことは、少し浮いて映るのかもしれない。2009年のソロ作『Central Market』で、タイヨンダイはRADIOHEADのジョニー・グリーンウッドが共演したことでも知られるニューヨークの交響楽団「WORDLESS MUSIC ORCHESTRA」を起用。イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲のバレエ音楽『ペトルーシュカ』『春の祭典』を思わせる壮大なオーケストレーションを展開するこの作品は、まだBATTLES在籍中でありながら、彼の進もうとしている道がすでにBATTLESとは別にあることを十分に匂わせていたのだ。

その後も数多くの交響楽団と共演を重ね、ミニマルミュージックの第一人者であるフィリップ・グラスとのコラボレーションも果たすなど、現代音楽家としての評価を着々と高めていくタイヨンダイ。そんな彼は『Central Market』以降もしばらく20世紀初頭のロマン派音楽に没頭していたという。そうなると、おそらく次のアルバムもオーケストラ音楽をさらに追求したものになるのではないか。およそ6年ぶりとなる新作の内容をそう予想された方も少なくなかったと思う。しかし、実際に届けられたニューアルバム『HIVE1』から聴こえてきたのは、管弦楽を配したオーケストレーションではなく、複数の打楽器がエレクトロニクスと共に打ち鳴らされる、じつにミニマルなものだった。新作がこうした方向性へと進んだ経緯について、彼はこう話す。

タイヨンダイ:僕は今でもオーケストラ音楽に強い関心があるし、オーケストラ向けの音楽を作りたいとも思ってる。実際、今回のアルバムにもその考えを適用したかったんだ。でも、最終的にそれはこのアルバムにふさわしい作曲方法でないと気づいた。あえて今回のアルバムにオーケストラ音楽的な仕事があるとすれば、それは楽曲がダイナミックに聴こえるように、あるいは音が変化、進化しているのがわかるように編集してるところかな。そういう構成のやり方に関しては、『Central Market』で学んだことが今回のアルバムにも活かされているよ。

タイヨンダイ・ブラクストン

3人のパーカッション演奏者と、2人のシンセサイザー演奏者のために作られた『HIVE』

そもそも『HIVE1』という作品は、マルチメディアのインスタレーションパフォーマンス作品『HIVE』のために書き下ろした楽曲が基になっているのだという。2013年にグッゲンハイム美術館からの依頼で始めたこの『HIVE』というプロジェクトを彼はこう説明する。

タイヨンダイ:『HIVE』の音楽は5人の演奏者のためにあるんだ。3人のパーカッション演奏者と、2人のエレクトロニクス・モジュラーシンセサイザー演奏者。彼らはそれぞれ、デンマーク人の建築家がデザインした巨大な木造のポッド(乗り物)に座って演奏する。僕が制作するような音楽に強いビジュアル要素を持たせるには、一体どうすればよいか。このプロジェクトはそういうことを考える機会にもなったし、実際にそれが実現できたと思う。

一方で、そのグッゲンハイム美術館で実演されたものと『HIVE1』に収録されている楽曲は、必ずしもその内容が一致するわけではなく、むしろほとんど別モノなのだと彼は付け加える。

タイヨンダイ:グッゲンハイム美術館で実演された音楽のほとんどは、アルバムに収録された音楽の化身みたいなもので、『HIVE』で演奏された楽曲中、このアルバムに残ったのは“Scout1”だけなんだ。しかも、この曲でさえかなり変化しているしね。というのも、グッゲンハイムでのパフォーマンスを行う時点で、「パーカッションとエレクトロニクスのための楽曲を書いたら一体どうなるか」というアイデア自体はすでにあったんだけど、今にしてみれば、それはまだ氷山の一角にすぎなかったんだよ。制作に関する理解を深めていくためには、そこからさらに数年かかったんだ。


メロディーはない。「演奏中に聴こえてくる様々なパターンの存在を認める」という聴き方

パーカッションとエレクトロニクスのための楽曲を書く。彼のこうしたアイデアの影響源となったのが、1931年にエドガー・ヴァレーズが13人の打楽器奏者のために書いた“Ionisation”だった。タイヨンダイはその打楽器を軸とした作曲術にエレクトロクスの手法を組み合わせた、まったく新しいアンサンブルの形を追求していく。

タイヨンダイ:“Ionisation”はピッチのない素材で構成されているのにも関わらず、今までとは違ったリスニング体験ができる非常に刺激的な作品なんだ。つまり、メロディーを聴くのではなく、音楽を聴くための伝統的な要素を追い求めるのでもなく、「ただ音の集合体を楽しみ、演奏中に聴こえてくる様々なパターンの存在を認める」という聴き方だね。このアルバムを作りながら、僕はそういう聴き方を意識していたんだ。

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リリース情報

タイヨンダイ・ブラクストン 『HIVE1』日本盤(CD)
タイヨンダイ・ブラクストン
『HIVE1』日本盤(CD)

2015年5月13日(水)発売
価格:2,160円(税込)
NONESUCH RECORDS / BEAT RECORDS / BRC-469

1. Gracka
2. Boids
3. Outpost
4. Studio Mariacha
5. Amlochley
6. Galaveda
7. K2
8. Scout1
9. Phono Pastoral(ボーナストラック)

イベント情報

『タイヨンダイ・ブラクストン来日公演』

2015年7月1日(水)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:大阪府 CONPASS

2015年7月2日(木)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM
出演:
TYONDAI BRAXTON
with UKAWA NAOHIRO + DOMMUNE VIDEO SYNDICATE = REALROCKDESIGN + HEART BOMB
Materials by TAKASHI ITO
EYヨ(DJ SET)

料金:各公演 前売5,400円(ドリンク別)

『The Art of Listening LIVE! #1 Special Lecture TYONDAI BRAXTON』

2015年7月3日(金)OPEN 19:30 START 20:00
会場:東京都 西麻布 KREI Salon
出演:TYONDAI BRAXTON
聞き手:篠崎賢太郎(『Sound & Recording Magazine』編集長)
料金:5,000円(税込)

プロフィール

TYONDAI BRAXTON(たいよんだい ぶらくすとん)

ワシントンポスト紙に「この10年で最も評価されている実験音楽家」と賞賛されたタイヨンダイ・ブラクストンは、自身の名前で、そして他者との共演で、あるいは様々なグループ名で1990年代半ばより作曲や演奏活動を行ってきた。彼はかつてエクスペリメンタルロックバンド、バトルスに参加し、そのデビューアルバム『Mirrored』は高い支持を得て多くの人々に影響を与えた。2010年にバトルスを離脱して以来、ブラクストンはインスタレーション・パフォーマンス『HIVE』の音楽制作を中心に据えてきた。2013年3月には、ニューヨークのグッゲンハイム美術館にて『HIVE』の新作のワールドプレミアを行った。2015年5月に、6年振りの待望のニューアルバム『HIVE1』をリリース。

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