chouchou merged syrups.と語る、男女が感じる孤独の違い

これまでに残響レコードから2枚のミニアルバムを発表し、そのエモーショナルかつ複雑な楽曲と、紅一点のフロントマン・川戸千明の凛としたボーカルでファンを獲得してきた京都発の4人組chouchou merged syrups.が、初のフルアルバム『yesterday,12 films later.』でメジャーデビューを果たした。

タイトル通りにシネマティックな心象風景を立ち上がらせ、映画を見終わった後のような深い感動を与える12曲に共通するテーマは「孤独の中の美しさ」。これはバレエをあきらめた川戸と、サッカーで燃え尽きた吉塚翔大という音楽に救われた二人が偶然巡り合い、共鳴したからこそ生まれたものだった。そしておそらくは、これからより多くの人が、彼らの音楽に救われるに違いない。

人間の汚い部分、暗い部分、泥臭い部分こそが人の魅力だと思う。(川戸)

―chouchou merged syrups.(以下、シュシュ)の音楽は「孤独」がキーワードになっていますが、これはどういった背景から生まれているものなのでしょうか?

川戸(Vo,Gt):私は、周りにどれだけ友達がいたとしても、すごく孤独を感じるんです。でも、「孤独」って人間らしいというか、人間の汚い部分、暗い部分、泥臭い部分こそが人の魅力だと思うんですよね。なので、「孤独」がテーマになってるんだと思います。

―川戸さんは小1からバレエをやられてて、でも怪我で続けられなくなり、高校からバンドをやり始めたそうですね。その経験と「孤独を感じる」ということに繋がりがあると言えますか?

川戸:あると思います。私、バレエをやってるときに心の病気になってしまったんです。バレリーナは痩せてないといけないので、そういうことばっかり考えていたら摂食障害になってしまって。さらには舞台で足をくじいて、「もうこれは辛すぎる」と思ってあきらめたんです。でも何かで表現したい気持ちはずっとあって、高校に入学してたまたま軽音楽部に見学に行ったときに、先輩が演奏をしてるのを見て「かっこいい」と思って音楽を始めました。普段の私と音楽をやってるときの私は全然違うんですけど、音楽をやってるときは孤独の部分を表現できるから、バンドを続けてるのかなって。

川戸千明
川戸千明

―吉塚くんから見て、川戸さんはどんな人なのでしょうか?

吉塚(Gt):良くも悪くも寂しい人なんじゃないかとは思ってます。周りに対してすごく気配りができるんですけど、内に何かを秘めてて、過去に色々あって今があるんだろうなというのは感じます。四六時中そう思って見てるわけではないんですけどね。

川戸:やっぱり、バレエをもう1回やりたいっていう気持ちは強くあるんですよね。それくらいバレエは好きで、音楽を始めてからもその想いはずっとあって。なので、今回“ラストダンサー”のPVで自分が踊って、それを作品として残せたのはすごく嬉しかったし、ある意味空いていた心の穴を埋められた気がします。


川戸と出会ったときに、他者に対する壁がなくなったというか、「この人なら大丈夫」って思ったんです。(吉塚)

―吉塚くんはバンドをやるのはシュシュが初めてだそうですが、以前は音楽の専門学校に通ってたんですよね?

吉塚:僕は学生時代ずっと周りに友達がいなくて、実際すごく孤独だったんです。ホントはバンドがやりたかったんですけど、メンバーが見つからなくて、ずっと一人でギターを弾いて歌ってました。専門学校に行ったらバンドが組めるかなと思ったんですけど、人に対して自分で壁を作っちゃっていたせいか、そこでも結局組めなくて。そういう中で川戸と出会ったときに、その壁がなくなったというか、「この人なら大丈夫」って思ったんです。まあ、はじめましてのときはお互い壁だらけだったと思うんですけど、自分の曲を歌ってもらったら「大丈夫だ」って思えたんですよね。なので、シュシュのテーマを「孤独にしよう」と話したというよりかは、「合っちゃった」って感じです。

吉塚翔大
吉塚翔大

―「ずっと一人だった」っていうのは、何か背景があるのでしょうか?

吉塚:中学のときはサッカー部で、サッカーをしに学校に行ってたようなものだったので、部活を引退したら学校に行く楽しみとか誰かに会う楽しみがなくなっちゃったんです。それで父親のギターを自分の部屋に持ち込んで、ずっと弾くようになって、学校にも行かなくなっちゃって。そういうことをしてたから、中二病臭いですけど、「僕はお前らと違う」と思い込んで壁を作ってたんですよね。でも、BUMP OF CHICKENと出会って、「僕、全然普通の人やな」って気づいたことをきっかけに、自分の世界観を表現してくれるボーカルを探し始めました。

―じゃあ、川戸さんは吉塚くんにとっての藤原基央だったわけだ(笑)。二人が通ってきた道は違えど、似てる部分もありますよね。バレエで燃え尽きた人と、サッカーで燃え尽きた人が、音楽で救われた。川戸さんから見て、吉塚くんの印象は?

川戸:一言で言うと、暗いなって(笑)。でも、私も暗い側面はあるので、そこが上手くマッチしてシュシュができあがったんだと思います。私はもともと3ピースのバンドをやってたんですけど、全然思うような音楽ができなくて。でも、吉塚の曲を聴いたときに、めちゃめちゃいいなって思ったんです。それもやっぱり、似てる部分が多いからなんだろうなって。

音楽を一緒に始めた友達がいて、その子も病気を持ってたんですけど、一緒に音楽に夢中になっていく中でお互い病気が治ったんです。(川戸)

―BUMP OF CHICKENとシュシュの音楽性はかなり遠いですよね。それこそ、残響レコードのバンドとかを聴くようになって、今のスタイルができあがっていったのでしょうか?

吉塚:特にそういうことでもなく、僕はとにかく誰かの真似をすることは避けてきたんです。いわゆるギターヒーローみたいになりたいとは思わないし、「他の人と違うことをしたい」と思ってやってきた結果、今のスタイルになった感じですね。ギターで曲を作ってはいたんですけど、自分で手探りでコードを探して「これだ!」っていう響きを見つけたり、ゼロから生み出していくことが楽しくて。

川戸:残響レコードは私がもともと大好きで、デモ音源をレーベルに送ったんです。ただ、私も「誰かみたいになりたい」というのは特になくて、もともとはバレエをやってたし、表現できるなら音楽じゃなくてもよかったのかもなって思うときもあります。とにかく、自由に表現がしたかったので、それも吉塚と近いかもしれないですね。

―川戸さんの表現欲求はどこからくるものなのでしょうか?

川戸:音楽を一緒に始めた友達がいて、その子も病気を持ってたんですけど、一緒に音楽に夢中になって行く中でお互い病気が治ったんです。でも、途中からやりたい音楽が合わなくなって、一緒にできなくなっちゃたんですよね。今その子がどうしてるかは全然わからないんですけど、今でもその子のことを思い出すときがあって、その子の存在が音楽を続ける理由のひとつになっているような気はします。

川戸千明

―その背景も、川戸さんが「孤独」を表現の核にする理由につながっていますか?

川戸:そうですね。自分の伝えたいことは、言葉にすると何だろうってずっと考えてたんですけど、メジャーデビューが決まったときに、その子のことを思い出したんです。その子はすごく孤独だったんですけど、必死に生きていて、美しくて。その生きる力を描きたいと思って、デビューアルバムは「孤独の中の美しさ」をテーマにしました。

前作は、互いのわがままを突き通してたんです。でも、自分のやりたいようにやるって、逆に孤独なんですよね。(吉塚)

―『yesterday, 12 films later.』を聴いて、前作(『clepsydra』、2014年リリース)よりも開かれたアルバムになった印象を受けました。

川戸:前作と明らかに違う部分はいくつかありますね。前はほとんど全曲私が作詞してたんですけど、今回は吉塚が半分書いてたり、メロディーも今までは全部私が考えてたけど、全員で考えるようになりました。あと1曲1曲リード曲を作るくらいのつもりで作ったことも、前作との違いですね。

吉塚:前作は、川戸は川戸で自由にメロディーを作って、僕は僕で自由に作曲して、互いのわがままを突き通してたんです。でも、自分のやりたいようにやるって、逆に孤独なんですよね。今回は自分から出てきたものをより磨き上げるために、みんなで話し合えたので、今までとは全然違うものになったと思います。

吉塚翔大

―より開かれたのは、「メジャーになったからわかりやすいものを作る」という話ではなくて、バンド内がよりオープンな雰囲気になったことの結果なんですね。

川戸:その分自分たちのOKラインが今までより高くなって、曲数はかなり作ったんですけど、結構ボツにしたし、ギリギリまで作ってました。前作から1年半くらい空いているので、制作する時間はわりとあったけど、感覚としては時間がなかった感じです(笑)。

―『yesterday,12 films later.』というタイトルは、文字通り全12曲が1曲1曲映画のような世界観を持っているということでしょうか?

吉塚:タイトルは僕がつけたんですけど、ボーカルが入ってない段階で既に映画っぽく感じる曲が何曲もあって、さらにそこに川戸の表現が入ると、ホントに情景が浮かび上がってくるなと思ったんです。特に、“sweet november”にはすごく思い入れがあって、自分が思い描いていた以上のものができたと思います。

―どんなイメージで作った曲なんですか?

吉塚:最初のミニアルバム(『since』、2013年リリース)に入ってた“ヒエログリフと遊ぶ”という曲以来、初めて自分が100%満足する作曲ができたので、この曲は絶対最後までちゃんと仕上げないといけないって思ったんですよね。テーマとしては、アニメの『東京喰種』が頭の中にあって、その世界観と自分の過去の孤独をリンクさせて歌詞を書いた感じです。

―ちなみに、バンド名の「chouchou」は映画の『リリイ・シュシュのすべて』から来てるわけですか?

川戸:前にいたメンバーがつけた名前なので、正確にはわからないんですけど、私も『リリイ・シュシュのすべて』は大好きだし、岩井俊二さんの映像はいつもきれいだなって思います。映画を見て歌詞を書くことも多いので、アルバムのタイトルもすごく気に入ってますね。

前までは、自分の気持ちがばれたくないと思って、わかりづらい歌詞を書いてたんですけど、今回はちゃんと伝わるものにしたいと思ってました。(川戸)

―川戸さんと吉塚くんの歌詞を読んで、孤独の種類がそれぞれだなって思ったんです。吉塚くんは内に籠るというか、一人で考える孤独で、川戸さんの歌詞には他者がいて、その距離感から生まれる孤独だなって。今日二人のこれまでの話を聞いて、すごく納得した部分がありつつ、これって男女の孤独の感じ方の違いなのかもなって思ったんですよね。

川戸:確かにそうですね……私は結構人に気を使ってしまう人間で、自分のことより相手が今何を考えているかを気にしちゃうタイプなので、それが歌詞にも出てるのかもしれない。言われてみると、歌詞はほぼ全部対人で書いてると思います。

―“scapegoat wonderland”はそれが顕著に出てるかなって。<共鳴してよ 私が見えない? 音のない世界 孤独を恐れて>とか。

川戸:これは「相手にわかってもらいたいけど、自分から何も言えない」みたいな気持ちですね。

吉塚:確かに、女性的な孤独の感じがしますね。

川戸:今回女性らしい歌詞が書きたいと思ってたので、そう言ってもらえるのは嬉しいです。前までは、自分の気持ちがばれたくないと思う部分もあって、もっと主観的に、わかりづらい歌詞をあえて書いてたんですけど、今回はちゃんと伝わるものにしたいなって。

左から:川戸千明、吉塚翔大

―その中で気になるのが“ラストダンサー”で、この曲はバレエのエピソードからして一見川戸さんの作詞かと思いきや、吉塚くんの作詞なんですよね。

吉塚:この曲を作ったとき、川戸が「この曲のPVでバレエしたい」ってチラッと言ったんですよ。それが引っ掛かってたので、その思いと自分の感情を重ねて歌詞を書きました。なので、PVでは川戸が踊ってるけど、裏のテーマは僕の過去の話だったりするんです。

―なるほど。テーマは「ラストダンス」だけど、<過去から逃げる様に僕は此処で踊る>とか<最後は今までの全てを受け入れることができない>とか、今日聞いた話と重なるような歌詞が綴られていますね。つまり、設定を借りて、その背景に自分をもぐりこませていると。やっぱり、男は内に籠るってことなのかも(笑)。

吉塚:そうですね。僕の場合、曲によっていろいろテーマを持ってきて、それと自分の経験を上手く重ねて表現しようとしてます。

―ちなみに、川戸さんはさっきの言葉を言ったのは覚えてますか?

川戸:覚えてます(笑)。

吉塚:よかった。覚えてなかったらホントに孤独を感じるところだった(笑)。

心が弱ってる人の方が魅力を感じるんですよね。それって、ホントは美しいんだってことに気づいてほしいです。(川戸)

―今ってSNSにしてもフェスの現場にしても、「つながる」ということの方が重視されてると思うんですね。もちろん、それも大事なんだけど、シュシュは孤独の重要性を教えてくれるバンドだと思います。聴き手に対しては、何か思っていることがありますか?

吉塚:人間って、友達同士でいたとしても、どこか表面的というか、裏に何かを持ってるような気がするんですよね。僕は学生時代にそう思ったから、学校にも行けなくなっちゃいましたけど、実はみんなも少なからず感じてることなんじゃないかと思うんです。それをパンクな気持ちで、「お前らもそうだろ?」って歌うわけではないけど、隠しているものをさらけ出す感覚で歌詞を書いて、それに共感してほしいんだと思います。やっぱり、どこかで孤独から解放されたい気持ちがあるのかもしれない。そういう意味では、「このバンドの人らは私と同じだ」という風に思ってくれる人がいたらいいですね。

川戸:私は一人ひとりが持ってる美しさに気づいてほしいと思ってます。病気のときに「死にたい」と思うぐらいのところまでいったので、心が弱ってる人の方が魅力を感じるんですよね。

左から:吉塚翔大、川戸千明

―それがまさに「孤独の中の美しさ」、つまりは必死で生きる姿だってことですよね。

川戸:そうですね。そういう人にマイナスのイメージを持つ人も多いと思うけど、ホントは美しいんだってことに気づいてほしいです。

リリース情報
chouchou merged syrups.
『yesterday, 12 films later.』

2015年10月21日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TECI-1469

1. 何度も
2. ラストダンサー
3. overdose
4. scapegoat worldend
5. スローモーション
6. 赤い砂漠
7. メロウ
8. irony
9. 或る種の結論
10. strobila
11. sweet november
12. あなたの笑う頃に

イベント情報
『yesterday, 12 films later. release tour』

2015年11月21日(土)
会場:愛知県 名古屋 新栄 CLUB ROCK'N'ROLL
ゲスト:
TOKYOGUM
eito
AgeFactory

2015年11月22日(日)
会場:大阪府 心斎橋 Live House Pangea
ゲスト:
TOKYOGUM
e;in
空中メトロ

2015年11月23日(月・祝)
会場:岡山県 岡山 CRAZYMAMA 2ndROOM
ゲスト:
te'
水色 on the Sun

2015年11月28日(土)
会場:北海道 札幌 CRAZY MONKEY
ゲスト:
te'
TOKYOGUM
sleepy.ab

2015年12月5日(土)
会場:石川県 金沢 vanvanV4
ゲスト:
te'
TOKYOGUM

2015年12月6日(日)
会場:長野県 CLUB JUNK BOX
ゲスト:
te'
TOKYOGUM

2015年12月12日(土)
会場:宮城県 仙台 enn3rd
ゲスト:
te'
TOKYOGUM

2015年12月13日(日)
会場:東京都 下北沢 ERA
ゲスト:
TOKYOGUM

プロフィール
chouchou merged syrups. (しゅしゅ まーじど しろっぷす)

chouchou merged syrups.(しゅしゅ まーじど しろっぷす)
京都にて結成。メンバーは、川戸千明(Vo&Gt)、吉塚翔大(Gt)、鳥石遼太(Ba)、高垣良介(Dr)。「あなたは孤独の中にある美しさを感じる事ができますか?」chouchou merged syrups.が音楽を通じて表現するのは「孤独の中にある美しさ」。「残響」直系と言えるカオティックで攻撃的なサウンドでありながら、相反するような内省的な歌詞と川戸の透明感のある憂いを帯びた歌声とが奇跡的に混ざり合い、唯一無二の世界観を作りだす次世代バンド。メジャー1stフルアルバム『yesterday, 12 films later.』が、10月21日インペリアルレコードよりリリース。



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