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『星の王子さま』が大人に及ぼす情緒不安定を谷口菜津子が語る

『星の王子さま』が大人に及ぼす情緒不安定を谷口菜津子が語る

『リトルプリンス 星の王子さまと私』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:永峰拓也

「大切なものは目に見えない」という大きなメッセージはあるけど、あとは見る人に委ねられている。この映画を見てから私はずっと情緒不安定です(笑)。

―これは、この映画の感想を谷口さんにお聞きしたいと思った理由の1つでもあるのですが、谷口さんの漫画に『レバ刺しとわたし』という作品がありますよね。その作品に『星の王子さま』と通じるものを感じたんですよ。

谷口:今、読み返すと、めっちゃ影響されてますよね(笑)。何か丸い星みたいなところで会話してるシーンばっかりの漫画だし、ほとんど隠喩みたいな話ですからね。描いているときは、何も考えてなかったんですけど、きっと『星の王子さま』から、いろいろ学んでいたんだろうなと思います。

『星の王子さま』

―「わたし」と「レバ刺し」の会話が、「王子」と「バラ」の会話っぽかったり(笑)。あの漫画は、そもそもどんな経緯で描こうと思ったのですか?

谷口:単純に、その当時レバ刺しが大好きだったんです。今は普通なんですけど、そのときは好きな食べ物のトップ・オブ・トップみたいな感じで入れ込んでいたんですよね。で、そのレバ刺しへの思いというのは、恋愛感情にすごく近いなと思って。恋愛の4コマ漫画を描くよりも、「レバ刺し」という男か女かもわからない存在を対象に描くほうが、共感の幅も広がるんじゃないかと。最後のほうは、なぜか泣きながら描いたりしていましたから(笑)。

―えっ、そうだったんですか。

谷口:そのときにしていた自分の恋愛を置き換えていたところもあって。描かずにはいられなかったというか、結構勢いで描いていたところもあったんですよね。

―レバ刺しへの愛を綴ったエッセイ漫画のようでありながら、確かに最後はなぜか泣ける漫画になっていました。

谷口:だから、単に面白い話を描こうと思って描いたというよりも、そのとき思っていた自分の感情を「レバ刺し」と「わたし」という構図のなかに落とし込んで描いていたんです。自分の作品を『星の王子さま』と並べるのはすごくおこがましいですけど、私の漫画も、話の展開やオチがすごいとかじゃなくて、恋愛に対して人が共通して持っているような思いを「レバ刺し」と「わたし」の関係性に置き換えて作っている話なんだろうなと。今、改めて思いましたね。

谷口菜津子

―物語ありきではなく、まず伝えたい思いや感情があって、それをある構図のなかに落とし込んでいく作り方は、『星の王子さま』も同じであるように思います。

谷口:『星の王子さま』の冒頭の献辞で、作者のサン=テグジュペリが、「この本を親友に捧げる」と書いていますが、あの本も物語ありきではなく、それ以上に言いたいことや伝えたいことが溢れている感じがします。

―確かに。そう言えば、最後「レバ刺し」がいなくなってしまうところも、どこか『星の王子さま』と似ていますよね。

谷口:そうなんですよ(笑)。読み返してみて、多大な影響を受けていることに気づきました。

―先ほどの「心に沁み込んでいる」という話じゃないですけど、それぐらい強い影響力をもった作品だということですよね。

谷口:そのことを改めて思い出させてくれたという意味でも、今回映画を見ることができて良かったです。最初、正直「あんまり良くない映画だったら、どうしよう……」と思っていたんですけど、心から良かったと思える、素晴らしい作品でした。私のように、昔原作が好きで読んでいたけど、最近はあまり読んでなかったような人は、絶対に映画を見たほうがいいと思います。きっといろんなものがフラッシュバックすると思うし……正直、映画を見てから、ずっとエモーショナルな気持ちが止まらないです(笑)。

『リトルプリンス 星の王子さまと私』 ©2015 LPPTV – LITTLE PRINCESS – ON ENT – ORANGE STUDIO - M6 FILMS – LUCKY RED

『リトルプリンス 星の王子さまと私』 ©2015 LPPTV – LITTLE PRINCESS – ON ENT – ORANGE STUDIO - M6 FILMS – LUCKY RED
『リトルプリンス 星の王子さまと私』 ©2015 LPPTV – LITTLE PRINCESS – ON ENT – ORANGE STUDIO - M6 FILMS – LUCKY RED

―(笑)。男性の場合は、どうでしょう?

谷口:うーん、男性の気持ちというのがちょっとわからないですけど……でも、この映画は、特に後半部分で、仕事の話がたくさん出てくるから、そういう点ではきっと思うことがあるんじゃないかなと思います。それはそれで泣いてしまうんじゃないかな(笑)。

―後半ガラッとトーンが変わりますからね。

谷口:最初は子どもの世界の話なのに、後半一気に大人の話に変わって。子どもが知るわけもない、大人の事情みたいなものが詰め込まれていますよね。あと、最後に訪れるサプライズも。あれはちょっとショックでしたね(笑)。

―ショックでしたか(笑)。

谷口:ショックですよ。そういう意味では、子どもよりも、大人のほうが受ける衝撃は断然大きいと思います(笑)。これほど考え込んでしまう映画って、あんまりないんじゃないかな。ただ、それが全然説教くさくないところが、この映画の不思議なところですよね。やっぱり余白があるからでしょうね。

―そのバランス感は、原作と同じですよね。

谷口:「大切なものは目に見えない」という大きなメッセージは1つあるけど、あとは見る人に委ねられている。この映画を見てから、私はずっと情緒不安定ですから(笑)。昔を懐かしむような気分で見に行ったら大変なことになりますよ……。でも、それぐらい感じるものがある映画だと思うし、見る人によって解釈がわかれるだろうけど、それでいいと思うんですよね。たとえ解釈が違っても、そこで論争するような感じではなく、「私はこうだったんだよ」ってお互いの違いを誰かと話し合うのも、きっと楽しいと思います。

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作品情報

『リトルプリンス 星の王子さまと私』

2015年11月21日(土)から全国公開
監督:マーク・オズボーン
音楽:ハンス・ジマー
日本語吹替え版 声の出演:
鈴木梨央
瀬戸朝香
伊勢谷友介
滝川クリステル
竹野内豊
池田優斗
ビビる大木
津川雅彦
ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画

書籍情報

『人生山あり谷口』
『人生山あり谷口』

2015年10月9日(金)発売
著者:谷口菜津子
価格:1,080円(税込)
出版社: リイド社

『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』
『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』

2013年6月27日(木)発売
著者:谷口菜津子
価格:1,080円(税込)
出版社: エンターブレイン

プロフィール

谷口菜津子(たにぐち なつこ)

1988年7月7日生まれ。神奈川県出身。漫画家。Web、情報誌、コミック誌等で活動。『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』(エンターブレイン刊)、『さよなら、レバ刺し~禁止までの438日間~』(竹書房刊)、最新刊『人生山あり谷口』発売中。

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