
小林賢太郎が惚れ込む「自由」すぎる天才演出家・村井雄の正体
開幕ペナントレース『ROMEO and TOILET』- インタビュー・テキスト
- 石本真樹
- 撮影:壺久
ぼくらは国内で褒められ尽くしていないので、より褒めてもらえる場所として、海外に可能性を見出しているというか。(村井)
―お二人とも海外で活動されていますが、日本との違いを感じる部分はありますか?
小林:劇場の環境や、笑うポイントの違いとかは感じなかったです。ただ、劇場に足を運ぶことに対する解釈の違いはあるかもしれない。モナコ公演のときには、タキシードの紳士にイブニングドレスの奥様が「ブラボー!」とか言っていましたから。ロンドンでは、バーがあるライブハウスみたいな劇場で、みんな一杯引っ掛けて観ているから笑い声も大きい。やっぱり、楽しみ上手なお客さんが多いですね。ただ、「海外でやるなんてすごい」と言われると「ちょっと待てよ」とは思う。だって、そのショー自体がおもしろくないと意味がないですから。「どこでやるか」ではなく「なにをやるか」が重要。なんとなく日本では「外人みたいですごい」という考えが存在しているような気がしていて、「海外進出」という言葉には少し抵抗があります。
村井:おっしゃられていることにまったく同感ですが、ぼくらは賢太郎さんみたいに国内で褒められ尽くしていないので、前提が違うかもしれません。海外ではこっちがびっくりするほど褒められるんですよね。より褒めてもらえる場所として、海外に可能性を見出しているというか(笑)。
小林:なるほどね(笑)。
村井:実際なにをやるかだと思うし、どこでやっても同じだと思います。ただそれとは別に、シェイクスピアの生まれ故郷で『ROMEO and TOILET』をやってみたい気持ちもある。フランスのアヴィニョンでジャン=ポール・サルトル(20世紀フランスの哲学者、小説家、劇作家)の『出口なし』をモチーフにした作品を上演したときも、おもしろがってもらえました。たくさんの人が観てくれるなら、どこへでも行ってみたい。
―今後、お二人のコラボレーションはあるんでしょうか?
小林:ここでは言えないですが、野望はあります。それが実現すればきっと誰かに怒られるけど、チャンスはここかなと思っていて。
村井:ものすごい「怒られチャンス」です。賢太郎さんが怒られる機会なんてそうそうないですよね。
小林:怒られたり嫌われたりは慣れていますよ、ぼく(笑)。
―開幕ペナントレースの活動は、今回の受賞記念公演から日本でもいろいろと広がっていきそうですね。
村井:今年で結成10周年なので、チャンスだとは思っています。先ほども話したように、今回の『ROMEO and TOILET』はウンコから精子の話に変えようと閃きつつ、「大丈夫かな……」と思っていたんです。でも、世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎さんから、受賞のお祝いコメントをいただいて、「大船に乗ったつもりで創作に励んでください」と。それをちょうど昨日、メンバーみんなで見て、「やっぱり精子でいいんだ!」と勇気をもらいました(笑)。下品ではなく、子どもが見ても生命の神秘だと感動してもらえるような作品にします!
小林:でも精子で「TOILET」だと、受精じゃなくて自慰行為の話になっちゃうかもよ?
村井:それもいま考えていて、年老いた「老ロミオ」がジュリエットに辿りつけなかった精子を貯蓄している話にしようかなと。
小林:ぶっ飛んできたね(笑)。
村井:トイレがあるんですけど、そこには流せなかったという設定で……。
小林:全然感動しねえよ!(笑)
村井:いや、なんとなく感動すると思います。
小林:もう、誰も止めないよ……君のことは。ぼくもやろうかな、ザーメンズ。片桐と二人で。
村井:まさかの!(笑)
イベント情報
- 第4回世田谷区芸術アワード“飛翔”舞台芸術部門受賞記念公演
シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.8
開幕ペナントレース
『ROMEO and TOILET』 -
2016年2月25日(木)~2月28日(日)全6公演
会場:東京都 三軒茶屋 シアタートラム出演:
高崎拓郎
G.K.Masayuki
岩☆ロック
ささの翔太
竹尾一真
針金信輔
山森大輔脚本・演出・美術:村井雄
音楽:Tsutchie
舞台監督:岩淵吉能
照明デザイン:沖野隆一
音響:百瀬俊介
映像:ワタナベカズキ
衣装:大野典子
演出助手:松尾祐樹
プロダクションスーパーヴァイザー・英語字幕:青井陽治料金:一般3,000円 高校生以下1,500円 U24(24歳以下)1,500円
※オールスタンディング
プロフィール
- 小林賢太郎(こばやし けんたろう)
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1973年生まれ。神奈川県出身。1996年に大学の同級生、片桐仁とコントグループ「ラーメンズ」を結成し、脚本・演出・出演のすべてを手がける。2002年、演劇プロジェクト「K.K.P.」、2005年、パントマイム、マジック、イラスト、映像などを駆使して構成されるソロパフォーマンス「Potsunen」を始動。現在は、2月29日まで演劇作品『うるう』の全国ツアー中。福岡の「アルティアム」にて3月13日まで『小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術展』を開催中。2月18日には『うるう』のもうひとつの物語を描いた絵本『うるうのもり』が講談社より、3月2日はDVD・Blu-ray『小林賢太郎テレビ6・7』がポニーキャニオンより発売される。
- 村井雄(むらい ゆう)
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1978年生まれ。千葉県出身。目黒区職員を経て、2006年に開幕ペナントレースを旗揚げ。以降、全作品の構成・脚本・演出を担当。鋭い戯曲解釈による大胆な作品構成、独自の世界観に基づく美しい空間構成に定評があり、2009年には『ROMEO and TOILET』で初の海外公演を敢行。「The New York Times」などのメディアで劇評が掲載されるなどの成功をおさめた。2015年7月にはアヴィニョン(フランス)、10月にはチュニス(チュニジア共和国)で『1969:A Space Odyssey?Oddity!』を上演。「本物のアーティスティックな体験」(フランス / La Provence紙)と高い評価を受けた。2012年『若手演出家コンクール優秀賞・観客賞』の同時受賞、2013年『利賀演劇人コンクール奨励賞』受賞。