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タナカカツキの人生論。植物もITもコントロール不能がおもしろい

タナカカツキの人生論。植物もITもコントロール不能がおもしろい

東京都写真美術館
インタビュー
佐々木鋼平
テキスト:杉原環樹 撮影:田中一人

さまざまな最新の映像表現を観られる機会として、すっかり定着した感のある『恵比寿映像祭』。その第8回目が、2月11日より恵比寿ガーデンプレイスにて開催される。選ばれたテーマは「動いている庭」。1943年にフランスに生まれた庭師ジル・クレマンが提唱したこの概念は、人の干渉を最低限にとどめ、植物のダイナミックなふるまいに任せることで驚きの風景を生む視点として、現代造園の世界で注目されてきた。

今回、『恵比寿映像祭』のキュレーター・田坂博子と語るのは、マンガ家・映像作家のタナカカツキ。『バカドリル』『オッス! トン子ちゃん』などの漫画作品や、CGによる映像作品、「コップのフチ子」の原案者として知られながら、近年は水草で風景を生み出す「水草水槽」や、サウナの新しい見方を提示する「サ道」といった活動に注力する彼の、自然との付き合い方とは? 「動いている庭」というテーマとともに、人間の視点を超えた物事への、両者の思いを聞いた。

どれだけ事前に風景を描いていても、植物は必ず想像を超えてくる。そのやりとりに鳥肌が立つ。(タナカ)

―今年の『恵比寿映像祭』のテーマは、フランスの庭師・思想家であるジル・クレマンの著作名であり、概念でもある『動いている庭』から来ているそうですが、この方はどんな人物なのですか?

田坂:もともとは昆虫研究をされていたそうですが、現在では公園や美術館といったさまざまな公共空間における景観計画の活動で知られています。『動いている庭』は1991年の著作で、昨年日本語版が出ました。本のなかでは荒地の植生をモデルケースに、庭のなかで一年草や二年草などいろんな種類の植物が混ざり合いつつ、ある種のパターンを作りながら動いている姿が分析されています。今回はそのなかでも、人間だけが庭を作っているのではなく、植物自体や他の動物の働きによって現れてくる風景があるという考え方に注目してテーマに選んだんですね。

ジル・クレマン『アンドレ・シトロエン公園』1986-94年 Photo:Tomoki Yamauchi
ジル・クレマン『アンドレ・シトロエン公園』1986-94年 Photo:Tomoki Yamauchi

タナカ:どんなプロジェクトを手がけられている方なんですか?

田坂:パリにあるアンドレ=シトロエン公園、ケ・ブランリ美術館の庭園などが有名です。『動いている庭』を地球規模にまで発展させた「惑星という庭」という概念もあるのですが、アンドレ=シトロエン公園では1999年に『惑星という庭』展が開かれていて、約30万人を動員しています。そこでは公園を7つの区分に分け、自然の力に任せて植物が動いた様子を、写真や映像を使って見せていました。

―西洋の庭園というと、人工的で左右対称だったり、人間が完璧にコントロールして作り上げるイメージがありますよね。それに対してクレマンは、なるべく自然に任せることを説いていると?

田坂:自然に寄り添いながら、ほったらかしにするという感じでしょうか。自然だけで作るというより、そこに庭師が「伴奏者」として入る。植物、動物、庭師、来園者、それらの要素が混ざり合うなかで、気付くとポンと風景ができる。たとえば、彼が自宅に作った「谷の庭」というものがあるのですが、今回『恵比寿映像祭』で上映されるドキュメンタリーのなかで、クレマンは「嵐で樹木が崩れたけれど、そこから植物が生えてきたのでそのままにした」と語っているんです。ケ・ブランリ美術館の庭園などは、その考え方のおかげで無秩序状態にも見えるので、賛否両論あるようですが。

田坂博子
田坂博子

タナカ:「整った庭が良い」という考え方は根強いですよね。ただ、ぼくも水草をいじるのですが、植物ってどうしたって動いてしまうものなんですよ。どれだけ人間が追いかけても、ツル科の植物なんて翌日には姿を変える。旅行なんか行ったら、もう大変です(笑)。ただ、日本人の園芸や植物との関わり方は、基本的にその「あるがまま」を楽しむところもあると思う。どれだけハサミを入れても入れきれないし、本来そういうものだと感じます。だから今回の『恵比寿映像祭』のテーマをあえて「動いている庭」にしたのはなぜなのか、気になったんですよね。

タナカカツキ
タナカカツキ

田坂:ひとつの考え方ですが、今回の関連シンポジウムに建築家の乾久美子さんが参加してくださるんです。乾さんは「小さな風景からの学び」という、風景写真を2万枚くらい撮って、そこから人と風景の関係を探るプロジェクトをされているのですが、クレマンの考え方と通じる部分があると思い声をかけたら、「じつは感銘を受けている」と。近年は建築の分野でも、建物をガチッと作り込まない傾向が強くなっているので、こうした考え方に注目が集まるのでは、と彼女はおっしゃっていましたね。

タナカ:「完全に自然ではない」のがミソだと思うんです。たとえば、原生林を映像で撮っても、グチャグチャすぎて絵になりにくいんですよ。でも、そこに人の手が少し入ると生命感が出てくる。植物にも刺激が必要なんです。ハサミを入れると枝分かれして、伸び放題だったものが群生感を持つ「森」になる。造園も生花も、植林も田んぼの風景も、こうしたやりとりから生まれているわけですが、おもしろいのは、植物は必ず想像を超えてくるんです。どれだけ事前に風景を描いていても、それを超えてくる。そのやりとりに、鳥肌が立つんですね。

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イベント情報

『第8回恵比寿映像祭 動いている庭』

2016年2月11日(木・祝)~2月20日(土)
会場:東京都 恵比寿 ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンシネマ、日仏会館、STUDIO38、恵比寿ガーデンプレイス センター広場ほか
時間:10:00~20:00(最終日は18:00まで)
出品予定作家:
ジャナーン・アル=アーニ
ビサネ・アル・シャリフ&モハマド・オムラン
ピョトル・ボサツキ
クリス・チョン・チャン・フイ
銅金裕司
葉山嶺
平井優子+山内朋樹+古舘健
クワクボリョウタ
ロバート・ノース&アントワネット・デ・ヨング
中谷芙二子
オリヴァー・レスラー
ベン・ラッセル
ビデオアース東京
ジョウ・タオ
ほか

プロフィール

タナカカツキ

マンガ家。1966年大阪生まれ。1985年マンガ家デビュー。著書には『オッス!トン子ちゃん』、天久聖一との共著『バカドリル』などがある。『マンガ サ道』1巻発売中。

田坂博子(たさか ひろこ)

『恵比寿映像祭』キュレーター、東京都写真美術館学芸員。美術館勤務を経て、(株)プロセスアートにて霧の彫刻家・中谷芙二子の作品制作のマネジメントに携わる。同時に芸術と科学、1960~70年代のパフォーマンス、ヴィデオアートを再検証する企画制作に従事。第2回『恵比寿映像祭』プログラムコーディネーターを経て、現職。

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