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映像のプロフェッショナルたちに訊く『紅白』の進化と空間映像史

映像のプロフェッショナルたちに訊く『紅白』の進化と空間映像史

『東京プロジェクションマッピングアワード』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望

工学系と造形・芸術系を往来するクリエイターは今はデフォルトですが、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代や、戦後から80~90年代に海外で評価された日本のメディアアーティストたちも同様。(森山)

―『紅白』で異ジャンルのアーティストたちがコラボレーションしているように、メディアアートとその周辺では、芸術と大衆文化の交差や融合が頻繁に起こっているんですね。

森山:ハイアートとそれ以外っていう区別自体がナンセンスだと思うんですよ。明治以降の縦割り的な芸術表現の分類には、西洋からやって来た芸術の多義性を示すというメリットもあったけれど、それを今でも引きずり続けて理解がタテ割りのままなのは問題ありますよね。異分野のコラボレーションによって、ただ混じり合うだけではなく、ハイブリッドな何かが生まれるところに文化のダイナミズムがあるはずですから。

左から:森山朋絵、森内大輔

―その一方で、エンターテイメントの世界にアートが参入する難しさもあるのではないでしょうか? 商業主義の渦中で、自由な表現はどれくらい可能なのかなど、さまざまな問いがあると思います。

森山:表現する側が自分で選んでやっている以上、どちらもありだと思います。メディアアートという言葉が使われはじめたのは1980年代末ですが、岩井俊雄さんや八谷和彦さんは自分から「メディアアーティスト」と名乗って、企業、TVやネットメディアと組むことを戦略的に批評的に選択しました。岩井さんがCG制作で関わったフジテレビの子ども向け番組『ウゴウゴルーガ』は有名ですよね。現在のPerfumeと真鍋大度さんの関係も同様で、むしろポジティブな成果を生んでいます。考えてみれば、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代だってパトロンの支援を受けてエンターテイメント的な作品を作り、そこから得たもので自分のやりたい芸術を実現していたわけですから。工学系と造形・芸術系を往来するアーティストやクリエイターは今やデフォルトですが、レオナルドの時代や、戦後から80~90年代に海外で評価された日本のメディアアーティストたちも同様です。

森内:私が『紅白』などの現場で真鍋さんたちとやり取りして感銘を受けたのは、彼らがリサーチに時間を惜しまない点です。新しいアイデアと、それを実装するためのテクノロジーを思いついたときに、既にそれが誰かによって行われていないか、あるいはどういう形で行われたか、という調査を徹底的にされるんですよ。テクノロジストのみなさんは特に。

森山:テクノロジーの使い方でなく技術そのものが最新でないといけない、っていうミッションにとらわれるとそれも枷になっちゃいますけど、先行研究は大事ですね。

森内:先人が取組んだ研究やアイデアへの敬意を持ちつつ、後進に継承していくために丹念にリサーチしログを残していくことが重要だと伺いました。その姿勢は表現者というより研究者らしい。そういう点もダ・ヴィンチに似ている気がします。

森内大輔

突飛なアイデアや難解なメッセージでも、ユーモアを添えることで伝播する力を持つはず。(森内)

―最後にお二人が審査員を務める『東京プロジェクションマッピングアワード』について聞かせてください。学生9チームが、東京ビッグサイトにそれぞれの作品を投影し、それを審査するわけですが、どのような作品を見たいと思いますか?

森山:先行研究はもちろん必須として、あとはメタ的な視点のある作品を期待します。プロジェクションマッピングというと、超巨大な映像への没入体験だけでなく、本来は歴史あるスケーラブルな表現だし、その構造を客観的に見る視点は、歴史的にもメディア的にも必要なことだと思います。

森内:私は笑えるものが見たいと思います。どうしてもエッジでシュッとした表現に心惹かれることが多い領域なのですが、一方で、ユーモアに富んだ作品も望まれているのではないでしょうか。何か情報を伝えるときに「おかしみ」を含ませることで、表現はもっと幅が広がると思います。

森山:かっこいいって路線の価値基準だけでは時代は牽引できないですよね。

森内:テレビの場合、番組は不特定多数、できるだけ多くの方に伝わるようにわかりやすく届けるのが使命の一つなので、ある見方をするとアートのカウンターのように捉えられるかもしれない。でも、共通点もある気がするんです。タモリさんや黒柳徹子さんなど、そういったテレビ界の偉大な先人の方々にの振る舞いを見ていると、お二人は常に肩の力が抜けていて、微笑みながら演じていらっしゃるというか。ご自身や社会を冷静に見つめている節がある。

森山:いい塩梅というか(笑)。肩の力が抜けているのは、自分を客体化できているからじゃないでしょうか。メタ認知というか。

左から:森山朋絵、森内大輔

―タモリさんも徹子さんも、その個人がメディアという感じがします。『タモリ倶楽部』も『徹子の部屋』も、独自の存在感を漂わせていて、似たものをぱっと思いつきません。

森山:優れたメディアアーティストは、プラットフォーム自体を作り出せる人だと思います。あるいは本人自体がプラットフォームになることもある。

森内:アーティストのありように挑んでいるバンクシーも「笑い」を表現の要素にしている。ディズニーランドを皮肉ったような「Dismaland」など。でも、ただふざけるんじゃなくて、リサーチを重ねて、今の現実社会で起こっていることに対して、ちゃんと真っ正面から返答している。「笑い」と「先鋭的」であることは両立できるはずです。

森山:アートの付加価値ってまさにそれですよね。人と同じことにとらわれず、俯瞰的な視点で、違う価値観や評価軸を成立させるアプローチが大事。

森内:その姿勢が人を「笑い」に誘う。突飛なアイデアや難解なメッセージでもユーモアを添えることで伝播する力を持つ。日本に古来からある漫画や落語などを源流とするなど「笑い」を取入れた作品は多くの人の心を惹き付けるのではないでしょうか。

森山:社会に対するアーティストの役割は、突然変異指数みたいなもので、人類が爆発的に進化・増殖したときに現れる、特別な遺伝子みたいなものですよね。海外のメディアアートのコンペがあると、ストレートに社会を告発するような作品がよく1番を獲る。海外の審査員からは、日本の作品は美しくて洗練されているけれど、メッセージがないと言われてしまうんですが、そうじゃない。メッセージや発信の現れ方が諸外国と違うだけなんです。そのことに私は随分悔しい思いをしてきたんですが(苦笑)。『東京プロジェクションマッピングアワード』のようなプラットフォームが整うことで、海外に通じる洗練と独自性を持った突然変異的な才能が登場するよう、次の10年に期待しています。

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イベント情報

『東京プロジェクションマッピングアワード vol.0』

2016年3月26日(土)
会場:東京都 有明 東京ビッグサイト 会議棟前広場
時間:18:30~19:30

プロフィール

森山朋絵
森山朋絵(もりやま ともえ)

メディアアートキュレーター、東京都現代美術館学芸員。東京都写真美術館(開館記念プロジェクションマッピング『White Shadow』1995年、恵比寿ガーデンプレイス)ほか文化施設の創設に携わり、東京大学ほか国内外の大学で教鞭を執りつつ、『SIGGRAPH』議長や『Ars Electronica』『NHK日本賞』ほかの審査員を歴任。

森内大輔
森内大輔(もりうち だいすけ)

1999年、大学卒業後NHKへ入局。『紅白歌合戦』を中心に舞台美術やCGのデザインに携わる。2012年からプロデューサーとして東京駅や会津若松の鶴ヶ城など複数のプロジェクションマッピングを企画制作。現在は、同局デザインセンター映像デザイン部の副部長として、番組やコンテンツのデザインマネジメントに従事している。

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