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消費される作品はつまらない。行定勲が世界に飛び出す理由

消費される作品はつまらない。行定勲が世界に飛び出す理由

『フェスティバル/トーキョー16』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:岩本良介 編集:野村由芽

簡単に消費されるだけで何も残らないものっていうのは、本当の意味で文化ではないと思うんです。

―ちなみに、監督の映画『鳩 Pigeon』にも出演されているマレーシアの女優シャリファ・アマニが『フェスティバル/トーキョー』で出演する舞台『NADIRAH』は、母と娘の宗教対立がテーマとなっているようです。

行定:マレーシアにはいろんな人が集まっているから、外から見ているだけではわからない、日常的な軋轢みたいなものがいっぱいあって、それを彼らは映画なり演劇なりで表現しているのだと思います。昔、僕は『GO』という映画を撮ったんですけど、あれも要するに、同じ日本で生活しているのに、それぞれに頑なな考え方や歴史認識があって、それが2人の男女の恋路を邪魔するという話でした。そういう中で、主人公が、「俺はもっと精神的に越境したいんだ」「越境するも何も、もっと世の中をひとつにしたいんだ」と言う。

行定勲

―行定監督は、映画のほかに演劇の演出もされていますが、映画と演劇の一番の違いと言ったら何になるでしょう?

行定:演劇っていうのは、映画よりも簡単に時代や空間を超えることができるんですよね。たとえば、僕はやったことがないですけど、シェイクスピアの戯曲のように、国も時代も違うものを、今の日本の演出家が日本の役者を使って、その精神性に直接触れることができるというのは、これもひとつの越境ですよね。それが演劇の場合、非常に簡単にできる。

一方で映画はリアリティーが大事になってくるので、たとえシェイクスピアがいくら面白くても、それをそのままの形で日本の映画に持ち込むことは無理なわけです。なぜなら、今の日本にそういう状況はないから。だから、僕がときどき舞台の演出をするのは、外国で映画を撮影するのと同じで、何かを越境しようという気持ち――自分が映画でやっているのとは明らかに違う表現を、生身の人間がステージというひとつの空間の中でやっていることによって、何か新しいものを感じているのかもしれないですね。

―何か「越境」というのが、行定監督にとって、ひとつのキーワードとなっているようですね。

行定:そうですね。ただ、それは僕にとってだけではないと思うんですよね。映画や演劇っていうのは、そういう意味では、見ているほうにとっても、越境できるチャンスです。だって、実際に現地に行かずとも、そうやって作品を通じて、他の国の人々の感じ方や文化を感じられるわけだから。

僕は、若いときにアジアのいろんな映画を見て、日本人と似たような容姿をしているけど、やっぱり日本とは違う時間の流れや情緒、街並み、空気があるんだっていうことを感じたわけです。その感覚が今も僕の中に残っていて、それを監督として実践しようとしている。

―なるほど。

行定:やっぱりね、簡単に消費されるだけで何も残らないものっていうのは、本当の意味で文化ではないと思うんです。いつまでもその人の心に残り続けるものが、本当の意味で文化なんです。よく映画を見て「泣いた」とか「感動した」とか言いますけど、泣けたらいいのかっていう話ですよね(笑)。

それはつまり、感情を消費しているだけ。映画や演劇は、世界を知るための窓というか、その窓を開いて、実際外国に出ていくことは、お金もかかるし大変なことだけど、作品を見ている2時間だけは、その国の空気や文化に触れることができる。そういうものであってほしいと僕は思っています。

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イベント情報

『フェスティバル/トーキョー16』

2016年10月15日(土)~12月11日(日)
会場:東京都 東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、池袋西口公園、森下スタジオ ほか

アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集 公演編 インスタントカフェ・シアターカンパニー『NADIRAH』
2016年11月11日(金)~11月13日(日)
会場:東京都 にしすがも創造舎
作:アルフィアン・サアット
演出:ジョー・クカサス
出演:シャリファ・アマニ

行定勲×シャリファ・アマニのポストパフォーマンストーク
2016年11月13日(土)15:00の回の公演終了後
会場:東京都 にしすがも創造舎
ゲスト:
行定勲(映画監督)
シャリファ・アマニ(『NADIRAH』出演)
司会:夏目深雪(映画・演劇批評家、編集者)

アジア・オムニバス映画製作シリーズ『アジア三面鏡』
2016年10月26日(水)『東京国際映画祭』にてワールドプレミア上映。その後世界各国の主要映画祭で上映予定

プロフィール

行定勲(ゆきさだ いさお)

1968年、熊本県出身。『ひまわり』(2000)で第5回釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。『GO』(2001)では第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め、数々の映画賞を受賞。『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)は観客動員620万人、興行収入85億円の大ヒットを記録。以降、『北の零年』(2005)、『パレード』(2010、第60回ベルリン国際映画祭パノラマ部門・国際批評家連盟賞受賞)。釜山国際映画祭のプロジェクトで製作されたオムニバス映画『カメリア』(2011)の中の一作『kamome』を監督。近作に『ピンクとグレー』(2016年)、『ジムノペディに乱れる』(2016年11月公開予定)、『ナラタージュ』(2017年公開予定)など。

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