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森山未來×阿部海太郎が驚嘆したヨーロッパの表現のロジックとは

森山未來×阿部海太郎が驚嘆したヨーロッパの表現のロジックとは

『SAL -Dance and Music Installation- By Ella Rothschild and Mirai Moriyama』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子

音は作者の血肉で、他人と共有できないと思っていたけど、「ロジック」さえあれば誰とでも共有可能になる。(阿部)

―阿部さんはヨーロッパに留学されていたんですよね。森山さんのおっしゃるように、イスラエルとはかなり違いますか?

阿部:僕はパリにいたのですが、ヨーロッパではいわゆる「ロジック」というものが最終的にとても大切なのだなと痛感します。「ロジック」というのは、より多くの人と共有するために余計なものをそぎ落とし限りなくシンプルにしていくことなわけじゃないですか。

そうすると削ぎ落とされた中には、匂いとか気配とか、言語化できない、ロジックに落とし込めない要素がたくさん含まれている。イスラエル人と日本人は、その削ぎ落とされた部分でさえ共有できるんじゃないかって、アブシャロムやインバルたちと仕事をしていて思いました。

阿部海太郎

森山:そう! そうなんですよね。さっきも言ったように、日本もイスラエルも孤立した環境にあって、外に向けてメッセージを発信するための「ロジック」が必要ない。イスラエルは70年くらいの歴史しかなくて、民族もロシア系やスペイン系など本当にバラバラ。

日本は島国という物理的な要因もあり、独自の文化形成をしていると思います。しかも千年以上もそれが続いているのは非常に珍しい。そんな環境の中で「阿吽の呼吸」みたいなものが形成されていったのかもしれないですよね。

―そうやって考えてみると、日本もイスラエルも世界的に見ても不思議な国ですね。

阿部:そう思います。逆にヨーロッパの音楽がかなりロジカルで数学的に出来ているというのは知識として学んでいたのですが、以前、マイケル・ナイマン(ロンドン出身のミニマルミュージックの作曲家)の舞台の仕事に携わった時にすごく衝撃を受けたんです。

その舞台というのが、『エレンディラ』(ガブリエル・ガルシア=マルケス原作)を蜷川幸雄さんが演出したものなのですが、その時に僕はナイマンの音楽助手を務めることになったんです。ナイマンと蜷川さんの間に入って橋渡しする仕事をしていたのですが……(笑)。

森山:それは大変そう(笑)。

左から:森山未來、阿部海太郎

阿部:でも、ナイマンのスコアを世界で最初に見られるというのはとても幸せで(笑)。で、その時に作曲の工程を見たら、主旋律はナイマン本人が書くんですけど、方法論を伝えたうえで、彼の助手がアレンジしていくんです。驚いたことに、それが紛れもなく「ナイマンのサウンド」になっていた。

それまで僕は、音楽というのは音の一つひとつが作者の血であり肉であり、他人と共有できるものではないと思っていたんですよ。でも、そこに「ロジック」さえあれば誰とでも共有可能なものになる。そんなことをまざまざと見せつけられたし、ヨーロッパにおける「ロジック」の凄みを実感しました。それが自分の中ではかなり大きい出来事で、「じゃあ、日本人である自分はどうしよう?」と深く考えさせられましたね。

森山:で、どうしようと思ったの?

阿部:ナイマンは絶対にやらないような、ホースを回したり、マイクスタンドを叩いたりしようかなと。

一同:(笑)

僕、即興には一家言あって(笑)。だからこそ興味があるとも言える。(阿部)

―今回の公演は、『JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治「駈込み訴え」より~』の再演にあたり実施される連携公演ですが、阿部さんのほかに、青葉市子さん、堀つばささん、U-zhaanさん、吉井盛悟さんなど各日で異なるミュージシャンが出演します。この人選はどのように決めましたか?

森山:即興を中心とした企画になった時点で、海さんには絶対参加してほしかったし、内子座での『JUDAS, CHRIST WITH SOY~』の時に一緒だった吉井盛悟さんとも、『TeZuKa』で一緒だった堀つばささんとも、またやりたかった。

U-zhaanは、仕事はしたことないけど面識はあって、川越のおすすめスポットとか色々教えてもらってました(笑)。彼は毎年春くらいになると、タブラの師匠に会いにインドに行っているんですよね。「イスラエルにいるなら、暇だったらインドにもおいでよ」みたいな会話もしていて、いつか舞台でも一緒にやってみたいと思っていたんです。青葉市子ちゃんは今まで全く面識がなかったけど、センスむき出しな感じがすごくいいなと思いました。

森山未來

―じゃあもともと繋がりのある方や気になっていた方が多いのですね。そして、今回は音楽にもダンスにも即興が含まれると。

森山:海さん、即興って普段やりますか?

阿部:僕、即興には一家言あって(笑)。だからこそ興味があるとも言えるのですが、基本的にはあまり即興というものが好きじゃないんです。なぜ好きじゃないかというと、即興っていうのはどこまでいっても自分の内側から出てくるものであり、限りなく身体的な行為であって、身体を超えるものを生み出しえない。

―自分の今ある引き出しからしか出てこないような。

阿部:そうですね。乱暴に言えば「手グセ」の世界というか。そこを超えていくには、即興ではなくコンポジション——つまり譜面に書いて何度も推敲し、手グセを意識的に超えていくしかないのかなと。

たとえばピアノという楽器は、今は88鍵が標準ですが、昔はもっと鍵盤数も少なく高音から低音までなかなかキレイに出なかった。それが、技術の発展とともにだんだん鍵盤数が増えていく。そんな過渡期に活躍したベートーベンのピアノソナタを聴くと、鍵盤数が少なかった初期に比べてどんどん音楽が深化していくんですよ。

阿部海太郎

―技術の発展に伴って、音楽そのものも進化していったわけですね。とても面白いです。

阿部:さらに面白いのは、その頃のベートーベンのピアノソナタの中には、本当はもっと高い音を鳴らしたいのに、鍵盤数が足りず不自然な形で折り返しているようにしか思えない旋律が結構あるんです。

つまり楽器という「身体」を、超えようとしているわけですよね。コンポジションの可能性や醍醐味って、そこにあるのではないかと。「今ある身体を、どう超越していくか?」っていう。対して即興=インプロヴィゼーションは、身体の限界を感じることが多い気がするのです。

―とはいえ、即興に興味はあるということですが。

阿部:そうですね。最近は即興について改めて考えるようになってきました。書かれた譜面を今度は身体がいかにして乗り越えていくか。ロジックと即興とが永遠に互いを乗り越える関係や、乗り越える時に生じるハプニングに興味があります。それは『100万回生きたねこ』や『WALLFLOWER』でインバル・ピントたちと仕事をしたことも影響していると思います。

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イベント情報

『SAL -Dance and Music Installation- By Ella Rothschild and Mirai Moriyama』

2016年12月27日(火)~12月29日(木)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン(スパイラル1F)
演出・振付:エラ・ホチルド
共同制作:森山未來
出演:
エラ・ホチルド
森山未來
12月27日音楽・演奏:
阿部海太郎
青葉市子
12月28日音楽・演奏:
堀つばさ
U-zhaan
12月29日音楽・演奏:
吉井盛悟
青葉市子
U-zhaan
料金:前売 各公演4,500円

『JUDAS, CHRIST WITH SOY ユダ、キリスト ウィズ ソイ~太宰治「駈込み訴え」より~』

2017年1月4日(水)~1月6日(金)全3公演
会場:神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
企画・共同制作:森山未來
演出・美術・振付:エラ・ホチルド
音楽・演奏:蓮沼執太
出演:
森山未來
エラ・ホチルド
料金:
前売 一般4,000円 学生・高校生以下3,000円
当日4,500円

プロフィール

森山未來
森山未來(もりやま みらい)

1984年兵庫県生まれ。数々の舞台・映画・ドラマに出演する一方、近年ではダンス作品にも積極的に参加。文化庁文化交流使として13年秋より1年間イスラエルに滞在、インバル・ピント&アヴシャロム・ポラックダンスカンパニーを拠点に活動。近作として、カールスルーエ・アート&メディアセンター(ZKM)にてソロパフィーマンス、同年8月に直島・ベネッセハウスミュージアムにて岡田利規×森山未來『In a Silent Way』、名和晃平×ダミアン・ジャレ『vessel』、李相日監督作品映画『怒り』、串田和美演出『Metropolis』など。第10回日本ダンスフォーラム賞2015受賞。

阿部海太郎
阿部海太郎(あべ うみたろう)

1978年生まれ。作曲家。幼い頃よりピアノ、ヴァイオリン、太鼓などの楽器に親しみ、独学で作曲を行うようになる。東京藝術大学と同大学院、パリ第八大学第三課程にて音楽学を専攻。自由な楽器編成と親しみやすい旋律、フィールドレコーディングを取り入れた独特で知的な音楽世界に、多方面より評価が集まる。2008年より蜷川幸雄演出作品の劇音楽を度々担当したほか、舞台、テレビ番組、映画、他ジャンルのクリエイターとの作品制作など幅広い分野で作曲活動を行なう。現在放送中のNHK『日曜美術館』のテーマ曲を担当。2016年12月21日に5枚目となるオリジナルアルバム『Cahier de musique 音楽手帖』を発表。

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