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伝統工芸職人×デザイナーのオリジナル酒器作り。私物の器も公開

伝統工芸職人×デザイナーのオリジナル酒器作り。私物の器も公開

村上木彫堆朱
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鈴木渉 編集:野村由芽

お酒や料理を彩る、器の存在。素材やかたちはさまざまだが、自分のお気に入りの器を持ち、使うことは、日常のひと場面をちょっとした「ハレの場」に変えてくれるもの。そんな現代の日常に、時代から取り残されつつある伝統の器を復活させたい――。こうした思いから始まったのが、新潟県村上市が誇る漆器「村上木彫堆朱」の再生プロジェクトだ。

前回の記事では、塩川いづみ、とんぼせんせい、雪浦聖子、はしのちづこという都市部のクリエイター四名が村上を訪問し、職人との打ち合わせを行う様子をレポートした。そして今回、ぐい呑みの完成に伴い、2度目の現地入り。地元の珍味「鮭の鮭びたし」や「〆張鶴」「大洋盛」といった日本酒をお供に、クリエイターと地元職人による大座談会を開いた。考えの異なる職人とクリエイターの共同制作にまつわる本音の苦労話や、目利きたちが愛用している私物の酒器を持参してもらいながら、日常をハレの場にする器の可能性を語ってもらった。和やかな乾杯から始まった本音まじりの座談会。ぜひ、お酒を片手に楽しんでほしい。

伝統工芸職人とデザイナーが愛用している器を見せてもらう

―今回、職人とデザイナーのみなさんで、村上木彫堆朱の新たな酒器を作りました。完成品の話をする前に、みなさんが普段、どのように器と付き合っているかを知りたくて、それぞれにお気に入りの酒器を持ってきていただきました。まずは乾杯!

村上木彫堆朱の職人と、デザイナーたち
村上木彫堆朱の職人と、デザイナーたち

―でははじめに、職人のみなさんから聞かせてください。前回の取材(失われつつある漆器を蘇らせる。デザイナーの視察旅行に密着)で作業場を見学させていただいた彫り師・川上さんが持ってこられたのは?

川上:下地に「木」ではなく、蚊帳に使うような「麻布」を使った堆朱の酒器です。亡くなってしまった塗師の方が手掛けた器で、20~30年前のもの。村上でよく知られていたその塗師にいただいたので、思い入れがあるんです。めだかの絵がかわいいでしょう?

彫り師の川上健
彫り師の川上健

お酒を注ぐと、めだかが泳いでいるように見える
お酒を注ぐと、めだかが泳いでいるように見える

―本当だ(笑)。でも下地に「布」を使っているとは、珍しいですね。どういうことですか?

川上:布を重ねて成形し、そこに何回も漆を塗るんです。すごく手間がかかるの。

布でできた器は、ぽってりとした厚みがある
布でできた器は、ぽってりとした厚みがある

高橋:僕が持ってきたのも、川上さんのと同じ方法で、自分で作ったもの。麻布を3枚くらい重ねて、その上から40回くらい漆を塗っています。ちょっと持ってみて。

―あ、かなり重いですね。

小さいのに意外と重い!
小さいのに意外と重い!

高橋:もともと堆朱は、漆だけを塗り重ねることでできていました。でも、それだとあまりに大変なので、江戸時代に木の下地を使うようになったのが村上木彫堆朱です。布を使うと、木の下地とは違ってかたちが歪むのですが、それもけっこう歪んでいるでしょう? そこに味があって、とても良いんです。

塗り師の高橋信夫
塗り師の高橋信夫

―作るのに、どれくらいかかるんでしょうか?

高橋:これだと最低、半年はかかるね。というのも、漆を1回塗るごとに、漆の艶を消すんです。なぜなら、艶のあるところに塗ると、ペロッと剥がれてしまうから、わざと傷をつけて漆の接着を良くするんですね。自分もいつも、30回くらいでやめようかなと思うんだけど、ノートに回数をつけて頑張る(笑)。それで飲む日本酒は和食によく合うよ。

割烹・千渡里の名物、だぁーまた丼。30センチの皿に塩引き鮭、地鶏、とれたての海鮮を約15種類乗せた豪華な一皿
割烹・千渡里の名物、だぁーまた丼。30センチの皿に塩引き鮭、地鶏、とれたての海鮮を約15種類乗せた豪華な一皿

右から:高橋信夫、とんぼせんせい。ともにいい飲みっぷり
右から:高橋信夫、とんぼせんせい。ともにいい飲みっぷり

小林:機能性のために、こんなに苦労するわけではないんですね。やはり、工芸品というか、良いものを持ちたいという思いで作る。手がかかっているのが価値なんです。

村上木彫堆朱組合の理事であり、小売店「堆朱のふじい」を営む小林久作
村上木彫堆朱組合の理事であり、小売店「堆朱のふじい」を営む小林久作

酒器は、「大きさ」「重さ」にこだわるべし

―布でできた器というのは、大変な手間暇がかけられたものなんですね。では、今度は東京から来たクリエイターのみなさんに聞きましょう。はしのさんのそれは?

はしの:祖母が集めていた器のひとつです。彼女は日本酒が飲めないんですけど、料理を乗せるのに使っていました。小さいころからそれを見て、いいなと感じていたし、祖母との思い出が詰まったものなんです。あとは、このダルマの絵も好きで、もしかしたら自分が「相撲」をモチーフにするようになったのとも関係があるかも(笑)。

はしのちづこが祖母から受け継いだ器
はしのちづこが祖母から受け継いだ器

はしのちづこ
はしのちづこ

富樫:そんなに思い入れがあるものだったんですね! こういう場面で使う自分の器を持っているのは、やっぱりすごく良いものですよね。あと酒器でいつも考えるのは、どのくらいの大きさの器がいいのか、ということです。

彫り師の富樫春男
彫り師の富樫春男

小林:それはありますね。多くの人は、どんな大きさの器でも、だいたい7~8割までお酒を注いでしまう。だから器自体が、ほどよい大きさであることが大事なんです。

あと、重さという要素もあって、軽すぎて見た目とのギャップがあるものは、違和感が生まれてしまう。僕が持ってきたのは、自分の会社で作っているぐい呑みですが、重さと見た目のバランスがなかなか良いと思います。軽ければいい、というわけでもないんですね。

目利きの小林久作が選んだ、「重さと見た目のバランス」が良い酒器
目利きの小林久作が選んだ、「重さと見た目のバランス」が良い酒器

雪浦:私は酒器を持っていなかったので、お気に入りの湯呑みを持ってきました。陶器なんですけど、スタッキングできるように作られているんです。でも、手で作られているので、柔らかみもある。「手作り感」と「機能」が合わさっているところが良いんです。

手作りならではの柔らかな歪みがありながらも、重ねて収納できる横田真希の湯呑み
手作りならではの柔らかな歪みがありながらも、重ねて収納できる横田真希の湯呑み

雪浦聖子(sneeuw)
雪浦聖子(sneeuw)

―工芸品と工業製品の良さをどちらも持っていると。

雪浦:そうですね。自分で作る服とも、少し通じている部分があると思う。もともと洋服のデザインを始める前に、メーカーでプロダクトの設計をやっていたんです。だから自分の服でも、カチッとしたものと柔らかさのバランスはいつも気にしています。

富樫:輪郭線が微妙に歪んでいるのが面白いね。

雪浦:おっしゃるとおり、スタッキングできるけど、この組み合わせだとうまく重なるというような、相性があったりする。そういうのもかわいいなと。

遊び心に溢れた器が、日常を楽しくする

―塩川さんは最近、日本酒にハマっているそうですが。

塩川:以前はワインが好きだったんですけど、あるときふと、日本酒が美味しいと思えるようになったんです。いまは、いろいろな銘柄を飲み比べてみたいという時期で。

塩川いづみ
塩川いづみ

小杉:新潟にも、96個の蔵元がありますよ。

村上駅には、村上を代表する二大蔵元の酒樽が飾られている
村上駅には、村上を代表する二大蔵元の酒樽が飾られている

この日、村上を代表する蔵元・大洋盛にも見学に行きました
この日、村上を代表する蔵元・大洋盛にも見学に行きました

塩川:前回、「〆張鶴」を買って帰りました(笑)。日本酒が好きになると、酒器の方も気になってきますよね。これは金沢の骨董市で買ったそばちょこなんですが、へこみが浅くて軽くて、とても使いやすい。日本酒を飲むときの酒器として一番使います。

塩川いづみが骨董市で買ったそばちょこ(絵:塩川いづみ)
塩川いづみが骨董市で買ったそばちょこ(絵:塩川いづみ)

小杉:私も冷酒が好きなのですが、木の器は意外に機能的なんですよ。熱を伝えにくいので、冷たさや熱さを逃さないんです。普通、コップなどに冷酒を入れると器が汗をかきますが、あれがあまり好きではなくて、それがない木の器を愛用しています。これは、村上の名産である鮭の図柄の堆朱ですね。

村上の名産である鮭模様。とぼけた顔がかわいい
村上の名産である鮭模様。とぼけた顔がかわいい

小杉:それと、村上では好きな器を袋に入れて、持ち歩く人もいますよ。このセットには、鮭、村上木彫堆朱、地酒、ハマナス(市の花)、茶染めの巾着という、村上のキーワードが全部入っている。特別な席にこのセットを持っていくと、これをきっかけに話がどんどん膨らむので愛用しています。

村上堆朱事業協同組合の小杉和也。職人でありながら、村上市議会議員も務める
村上堆朱事業協同組合の小杉和也。職人でありながら、村上市議会議員も務める

とんぼせんせい:話のきっかけになるって、重要な要素ですよね。僕の器は大学の先輩の芦田尚美さんという方がやっている、「AMETSUCHI」というブランドのもの。器にぐるりと山並みが描かれていて、水を入れると物語が始まるような感じがあるんです。

芦田尚美によるブランド「AMETSUCHI」の湯のみ
芦田尚美によるブランド「AMETSUCHI」の湯のみ(CINRA.STOREでAMETSUCHIの商品を見る

とんぼせんせい。気になるセーターの柄はネコとネズミ
とんぼせんせい。気になるセーターの柄はネコとネズミ

―お客さんに出したりすると、会話のタネになりそう。

とんぼせんせい:そうなんです。中身を入れたときに表情が変わるとワクワクしますよね。この芦田さんの器だと、ビールを入れても、黄色と青の対比がきれいで良いんです。器には、そういう遊び心があると楽しいなと思って、今回の堆朱の酒器も作りました。

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プロダクト情報

村上木彫堆朱 新ブランド「朱器」

現代のクリエイターと村上木彫堆朱の職人のコラボレーションから生まれた、普段使いの漆器ブランド。気持ちを晴れやかに演出する“朱色”を活かしたデザインモチーフで、ひとつひとつ職人の手によって作られています。使い続けるほどに飴色に色づいていく朱器は、世界中に二つとない、あなただけの器となります。第一弾は「朱器の酒器」。酒坏を交わす度に色づく朱色と愉しい絵柄を愛でながら、今宵も一杯、ハレ気分。

プロフィール

塩川いづみ(しおかわ いづみ)

イラストレーター。1980年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。広告、雑誌、商品などのイラストレーションを手がけるほか、展示発表も行う。

とんぼせんせい

「三本の線を引くだけでどこにでも現れる」をコンセプトに、人物、動物、風景、プロダクトなど、様々なイメージに憑依するイラストレーター。個展やグループ展の参加、企業・出版社へのイラスト提供から、ワークショップ講師、トークの司会など、多岐にわたる活動で活躍中。

sneeuw(すにゅう)

2009年スタートのユニセックスのアパレルブランド。コンセプトは「clean and humor」。シンプルな中に遊び心のある仕掛けをちりばめて日常を、少しだけ浮き上がらせる身の回りのものを作っていく。

はしのちづこ

イラストレーター。2012年美術大学を卒業。2013年のイベントをきっかけに手を繋いだお相撲さんのライブペイントやグッズを作り始める。

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