特集 PR

冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

『僕とカミンスキーの旅』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子

南伸坊は、イラストレーター、漫画家、エッセイストとして広く知られているが、もう一つの顔を持つ。いや、「もう一つ」というのは正確ではない。歴史上の偉人や有名人に扮してセルフポートレートを撮影するシリーズ作品「本人術」で、南は実に数百の顔を持っているのだ。ダライ・ラマに松田聖子、最近ではあのドナルド・トランプ米大統領にも扮している。

そんな南に、今回『僕とカミンスキーの旅』という映画について語ってもらった。盲目の画家として伝説化したアーティストと、彼の威光にあやかろうとするダメな美術評論家のロードムービーである同作には、芸術にまつわるゴシップや欲望がいくつも渦巻いているように見える。だがその奥には、もっと複雑な人間の生き方が示されている。

さて、冗談を愛し、冗談と共に歩んできた南は、そんな複雑な人間模様が描かれるこの映画から何を読み取ったのだろう?

どんな偉い人も、みんな同じなの、「人間だから……」。

―『僕とカミンスキーの旅』はいかがでしたか?

:おもしろかった。僕は20代の頃、青林堂って出版社に勤めていたんだけど、社長が長井さんて人で、名物編集者だったんです。

南伸坊
南伸坊

―長井勝一さんですね。『月刊漫画ガロ』を創刊して、水木しげる、つげ義春、蛭子能収、みうらじゅんなど、多くの才能を見出した名物編集者。南さんも『ガロ』の編集長をなさっていましたね。

:はい。長井さんの口ぐせでね、なにかってーと「人間だから……」って、ものすごく脱力した感じで言うんですよ。どんな偉い人も、みんな同じなの、「人間だから……」。

主役のカミンスキーって、20世紀を代表する芸術家って崇められた存在として登場するけど、だんだん若い頃から変わらない純情なところが明らかになったりするじゃないですか。それで長井さん思い出してね、そうだな「人間だから……」なあって。

―この映画は、実際の報道写真に画像修正を施して、カミンスキーがいかに偉大な人物なのかをドキュメントタッチで紹介していくシーンからスタートします。マティス(アンリ・マティス。「色彩の魔術師」と呼ばれたフランスの芸術家)が才能を認めたとか、アメリカにわたって大成功したとか、鮮烈ですよね。

:あのやりかた、上手でしたよね。劇中に出てくる絵とかもセンスがあって、トンチンカンなところが全然なかった。この監督、きっと絵が好きなんだろうなと思いました。

僕の友達のお父さん、盲目の画家だったんですよ。

―そのなかでいちばん現実離れしているのが、カミンスキー=盲目の画家という設定ですよね。そのあたりは?

:実を言うとね、僕の友達のお父さんが「盲目の画家」だったんですよ。

―ほんとですか。

:もう亡くなられたんですけど、絵描きさんとして活躍してる時に失明した。絵描きにとって失明って絶望的じゃないですか。ガックリきてなんにもできない時期もあったそうですが、粘土で作品を作るようになった。で、そのうちに絵も描き出すんです。すごいよね。

映画『僕とカミンスキーの旅』より。盲目の画家・カミンスキーが描いた絵 / © 2015 X Filme Creative Pool GmbH / ED Productions Sprl / WDR / Arte / Potemkino / ARRI MEDIA
映画『僕とカミンスキーの旅』より。盲目の画家・カミンスキーが描いた絵 / © 2015 X Filme Creative Pool GmbH / ED Productions Sprl / WDR / Arte / Potemkino / ARRI MEDIA

―それは抽象画ですか? それとも具象画?

:むちゃくちゃ具象なの。「どうやって描くの?」と思うじゃない。最初にデッサンを取るときは針を紙に打ち込んでいくらしいんですね。

その後に奥さんに、絵の具の色を指示して出してもらってそれを塗っていく。おそらく作風は変わったと思うけど、黙って見せられたら、目の見えない人が描いた絵とはとても思えない。

―なるほどー。

:もともと画家としての技があって、目が見えなくてもイメージする力があったからでしょうけどね。だから、映画のなかで何度も「カミンスキーは本当に盲目なのか?」って疑問を抱くシーンが登場するんだけれど、僕からしたら「それ、ありうるんじゃない?」って(笑)。

Page 1
次へ

作品情報

『僕とカミンスキーの旅』

2017年4月29日(土・祝)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督・脚本:ヴォルフガング・ベッカー
原作:ダニエル・ケールマン『僕とカミンスキー』(三修社)
出演:
ダニエル・ブリュール
イェスパー・クリステンセン
ドニ・ラヴァン
ジェラルディン・チャップリン
アミラ・カサール
配給:ロングライド

プロフィール

南伸坊(みなみ しんぼう)

編集者、イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。1947年、東京都世田谷区出身。漫画雑誌『ガロ』の編集長を7年間務め、1979年よりフリーランスとして活動を開始する。有名人に扮装する「本人術」などでも人気を博す。任天堂のゲームソフト『MOTHER』のキャラクターデザインも手がけるなど、様々なフィールドで活動。著書に『すこし早めの私の遺言』『さる業界の人々』ほか多数。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Dos Monos“Clean Ya Nerves (Cleopatra)”

トラックが持つドロドロとした不穏さを映像で表現したのは、『南瓜とマヨネーズ』などで知られる映画監督の冨永昌敬。ストリートを舞台にしたノワール劇のよう。ゲストで出演している姫乃たまのラストに示す怪しい動作が、見る人間の脳内にこびりつく。(久野)

  1. 入場料のある本屋「文喫」は高いのか、安いのか?店内を一足先にレポ 1

    入場料のある本屋「文喫」は高いのか、安いのか?店内を一足先にレポ

  2. ゆずが語る、ゆずへの期待を背負ったことで解放できた新たな側面 2

    ゆずが語る、ゆずへの期待を背負ったことで解放できた新たな側面

  3. Queen・フレディ在籍時の6度の日本ツアーに密着 300点超の写真収めた書籍 3

    Queen・フレディ在籍時の6度の日本ツアーに密着 300点超の写真収めた書籍

  4. ゲスの極み乙女。の休日課長こと和田理生が「テラスハウス」に入居 4

    ゲスの極み乙女。の休日課長こと和田理生が「テラスハウス」に入居

  5. 光宗薫が個展『ガズラー』を銀座で開催 ボールペンの細密画&滞在制作も 5

    光宗薫が個展『ガズラー』を銀座で開催 ボールペンの細密画&滞在制作も

  6. 鈴木康広の作品『ファスナーの船』が隅田川を運航 期間限定で 6

    鈴木康広の作品『ファスナーの船』が隅田川を運航 期間限定で

  7. 『神酒クリニックで乾杯を』に松本まりか、栁俊太郎ら&主題歌はアジカン 7

    『神酒クリニックで乾杯を』に松本まりか、栁俊太郎ら&主題歌はアジカン

  8. 「RADWIMPSからのお手紙」が100通限定配布 渋谷駅地下コンコースに登場 8

    「RADWIMPSからのお手紙」が100通限定配布 渋谷駅地下コンコースに登場

  9. 立川シネマシティの「次世代映画ファン育成計画」とは? 意図や想いを訊く 9

    立川シネマシティの「次世代映画ファン育成計画」とは? 意図や想いを訊く

  10. アジカン後藤と関和亮が語り合う、ゆとりなき今の社会に思うこと 10

    アジカン後藤と関和亮が語り合う、ゆとりなき今の社会に思うこと