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冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

『僕とカミンスキーの旅』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子

この映画のおもしろさは盲目の画家とかじゃなくて、カミンスキーって画家のリアリティーだね。

:この映画のおもしろさは盲目の画家の秘密とかじゃなくて、カミンスキーって画家の実在感、リアリティーだと思いました。今回、この映画のためにイラストを描いてほしいって配給会社から話があったんだけど、カミンスキーの存在感があって、映画がおもしろかったんで受けることにしたんです。

僕が描いたイラストはカミンスキーの背後にバルテュス(フランスの画家。少女をモチーフとした作品を多く発表した)とダリの絵を置いたんだけど、カミンスキーの人物像が、この二人に重なる気がしたんですよ。

南が描き下ろしたカミンスキーのイラスト
南が描き下ろしたカミンスキーのイラスト

―バルテュスは古典絵画的な技法や構図で、どこか幻想的でエロティックな作品を残した画家ですね。ピカソは「20世紀の巨匠」と讃えていましたし、晩年はスイスの山荘で日本人妻と暮らして、俗世から距離を置いていた。

:僕が高校生くらいの時期はポップアートが全盛でしたけど、僕自身は澁澤龍彦さん(エロティシズムを主題の一つとした小説家。サディズムの語源であるマルキ・ド・サドを日本に紹介したことでも有名)のエッセイを読んで、シュルレアリスムが好きになって、バルテュスが一番のお気に入りでした。カミンスキーの奇人変人的な感じはダリっぽい。女の人に対する純情なとこも。

『僕とカミンスキーの旅』メインビジュアル。左から、盲目の画家・カミンスキー、自称美術評論家のゼバスティアン / © 2015 X Filme Creative Pool GmbH / ED Productions Sprl / WDR / Arte / Potemkino / ARRI MEDIA
『僕とカミンスキーの旅』メインビジュアル。左から、盲目の画家・カミンスキー、自称美術評論家のゼバスティアン / © 2015 X Filme Creative Pool GmbH / ED Productions Sprl / WDR / Arte / Potemkino / ARRI MEDIA

―もう一人の主役である自称美術評論家のゼバスティアンはいかがですか? 有名アーティストに群がる有象無象感がよく出ていました。

:ああいう人はよくいるんでしょうね(笑)。個人的には興味ないけど。1960年代の日本の前衛芸術がおもしろかったのは、売れなかったからなんだけど、ヨーロッパやアメリカじゃ前衛芸術もちゃんと「お金」と結びついてるんですよ。「お金」がちゃんと動くから、そこに関わる画商や批評家たちがいる。中世の王様や教会と、そのお抱えの画家たちの関係からずーっとつながってるもんなんですけどね。

「お金」の絡んだ話っていうのはおもしろいんだろうけど、「絵」のおもしろさとは全然別のもんです。僕の先生の赤瀬川原平さんたちが1960年代にやってたことはものすごくおもしろいんですよ。

僕は「冗談は芸術だ」って思ってる人間だから(笑)。

―赤瀬川さんは、1950年代後半から活動を始めて、ナンセンスな作風で知られ、1960年代の前衛芸術運動の中核にいた人物です。

:その頃の日本の前衛芸術は世界の最先端だった、と僕は思ってます。日本じゃ「美術」はヨーロッパやアメリカが本場だって思ってるんだけど、それは美術の「市場」の話なんですよ。絵に「本場」なんてないよ。

南伸坊

―南さんの「本人術」は芸術ですか?

:アハハ、世間で考える「芸術」じゃもちろんないんだけど、僕は「冗談は芸術だ」って思ってる人間だから(笑)。

「本人術」でピカソに扮している南
「本人術」でピカソに扮している南

「本人術」で藤田嗣治に扮している南
「本人術」で藤田嗣治に扮している南

―赤瀬川さんも冗談の人でしたね。冗談だからこそ、ナンセンスも政治的な風刺も好き勝手に展開できた。

:高校生のとき、『いたずらの天才』(1953年、アメリカのジャーナリストH・アレン・スミス著)って本を読んで、アメリカの画家たちがいたずら好きだって知って、そのときに冗談と芸術が一緒になっちゃった(笑)。サイの足を剥製にした屑カゴってのがあったらしいのね。その屑カゴに重しを入れて、雪の日に点々と足跡を残して、「サイが村の井戸に落ちた」って大騒ぎになっちゃうって、そういう話なんだけど。

―くだらないことを、手間暇かけて実行している(笑)。

:赤瀬川さんたちの「ハイレッド・センター」っていう前衛グループのハプニング(パフォーマンス)に『首都圏清掃整理促進運動』ってのがあるんですけど。

南伸坊

―銀座の街頭に白衣姿で現れて、ひたすら清掃するハプニングですね。

:あれは1964年の『東京オリンピック』を前にして、街じゅうが「立ち小便はやめましょう」とか「街をきれいにしましょう」ってなってた頃のことなんだけど、最初はものすごい量のゴミを集めてきて散らかそうとしてたんだって。銀座の真ん中に。もう完全に子どものいたずらだよね。

―だいぶ悪質な(笑)。

:ゴミを集めてくるのはかなり大変だってわかって、逆に並木通りを掃除することにしたんです。でも、なんかちょっとヘン。座敷ぼうきで歩道を掃くし、街路樹にハタキをかける、舗道をゾーキンがけする、歯ブラシで舗道のスキマをキレイにする……。「なんか変なことしてるな」って思うけど、掃除してんだから文句は言えない。不審なんだけどおまわりさんもどうも手が出せない。

中西夏之さんなんかは、二股にわかれている真鍮の消火栓の真ん中だけをクレンザーで一生懸命に磨いて、ピカピカにしたらしい。そうすると、なんだかやらしい感じになるんだ(笑)。

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作品情報

『僕とカミンスキーの旅』

2017年4月29日(土・祝)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督・脚本:ヴォルフガング・ベッカー
原作:ダニエル・ケールマン『僕とカミンスキー』(三修社)
出演:
ダニエル・ブリュール
イェスパー・クリステンセン
ドニ・ラヴァン
ジェラルディン・チャップリン
アミラ・カサール
配給:ロングライド

プロフィール

南伸坊(みなみ しんぼう)

編集者、イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。1947年、東京都世田谷区出身。漫画雑誌『ガロ』の編集長を7年間務め、1979年よりフリーランスとして活動を開始する。有名人に扮装する「本人術」などでも人気を博す。任天堂のゲームソフト『MOTHER』のキャラクターデザインも手がけるなど、様々なフィールドで活動。著書に『すこし早めの私の遺言』『さる業界の人々』ほか多数。

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