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冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

冗談を愛する南伸坊が見た、1960年代のおもしろい前衛芸術とは

『僕とカミンスキーの旅』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子

みんなであったりまえなことばっかり言ってたって、つまんないよねえ。

―そういう話を聞くと、1960年代は今よりはるかに自由な時代だったと思います。

:今だって自由にすりゃいいんだよ。世間に影響を及ぼすためには予算がないとできないとかって考えると、まずお金を出してくれる人を探さないといけなくなる。

その人がお金を黙って出してくれる人ならいいけど、たいがい口も出すわけですよね。だから、「お金がなければできない」って発想がまず窮屈なんですよ。

南伸坊

―それはアートだけに限った話ではないですよね。SNSの普及で「誰もが発信者になれる時代がやって来た!」と言われたのはもはや過去のことで、むしろ個人個人が監視者のようになって、滅多なことができない空気が支配的です。

:そういうのはよく知らないけど、みんなであったりまえなことばっかり言ってたって、つまんないよねえ。ヘンなこと言うやつがいるからおもしろいのに。だいたい芸術家やスターが期待されてるのは、変なことを言ったりやったりするからじゃないですか。「奇人変人がいてほしい」ってことですよね。

人間は誰しもが悪人でもありうるし、善人でもありうる。複雑なんです。

―その願望は南さんにもありますか?

:僕は自分が普通の人間だと思っているから、奇人変人好きですよ。

南伸坊

―それが「本人術」をする理由だったりしますか?

:そうかもしれませんね。最初の長井さんの言葉に戻るけれど、それは、有名人も偉人も「人間だから……」と思ってるからですよ。自分にとってわからない人は、その人の格好をして、その人になってみることで理解しようってうのが本人術。

例えば、織田信長は卑怯な飛び道具を平気で持ち込むことで戦争のかたちを革命しちゃった。信長になってみると、他のやつはなんでそんなことに拘ってるんだ? と思うわけです。

「本人術」で織田信長に扮する南

「本人術」で織田信長に扮する南
「本人術」で織田信長に扮する南

―長井さんの言った「人間だから……」というのは、しみじみいい言葉ですね。他人を理解するための架け橋というか。

:20代の頃の僕は、世の中には偉人と呼ばれる人がいて、自分なんかとは比べものになんないと思ってました。長井さんは、どんな偉い人の名前を出しても「人間だから……」って言うんですよ。「長井さん、じゃあ毛沢東どうですか、毛沢東!」(当時は独裁者ではなく、共産主義によって中華人民共和国を建国した偉人として考えられていた)「人間だから……」って(笑)。

―偉大な人も、人間くさい卑しさや闇の面を持ち合わせている。

:で、弱いところ、純情なところもあったりね。小説家の深沢七郎さんはおもしろい人で、1963年にケネディ米大統領が銃撃されて亡くなった日に赤飯を炊いたって文章を書いている。「この世から政治家(悪いやつ)が1人死んだ」って(笑)。

―理由がひどい(笑)。でもそれは深沢七郎ならではの冗談でもあったでしょうね。

:いや、冗談じゃないでしょ(笑)。けっきょく「人間だから……」で、人間は誰しもが悪人でもありうるし、善人でもありうる。複雑なんです。

南伸坊

―『僕とカミンスキーの旅』は、制作段階でもっと起承転結のある、感動のストーリーにしてほしいという要望があったそうなんです。でも監督はそれをはねのけて、人間の複雑さを複雑なまま示す映画として完成させた。それは今の話にも通じる気がします。

:単純な起承転結で映画が終わっても「はい、そうですか」としかならないしね。複雑なものは複雑なものとして、観客に判断を委ねる。カミンスキーたち主役二人の間に、最後どんな関係が結ばれたのか。いろんな想像が膨らむよね。だからとっても大人な映画だなと僕は思いました。

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作品情報

『僕とカミンスキーの旅』

2017年4月29日(土・祝)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督・脚本:ヴォルフガング・ベッカー
原作:ダニエル・ケールマン『僕とカミンスキー』(三修社)
出演:
ダニエル・ブリュール
イェスパー・クリステンセン
ドニ・ラヴァン
ジェラルディン・チャップリン
アミラ・カサール
配給:ロングライド

プロフィール

南伸坊(みなみ しんぼう)

編集者、イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。1947年、東京都世田谷区出身。漫画雑誌『ガロ』の編集長を7年間務め、1979年よりフリーランスとして活動を開始する。有名人に扮装する「本人術」などでも人気を博す。任天堂のゲームソフト『MOTHER』のキャラクターデザインも手がけるなど、様々なフィールドで活動。著書に『すこし早めの私の遺言』『さる業界の人々』ほか多数。

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