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池田学が明かす、桁外れな緻密さと圧倒的スケールで描く制作の裏側

池田学が明かす、桁外れな緻密さと圧倒的スケールで描く制作の裏側

金沢21世紀美術館『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影、編集:宮原朋之

細部というのは、あくまでも大きな塊の量感を出すための情報であって、そこがゴールではないんです。

―池田さんはたびたび、自分の絵が細密画と呼ばれることへの違和感について話し、「重要なのは全体感」と言っています。

池田:僕の中で細密画というと、人間の手の痕跡を消すほど細かくて、どう描いたかわからないところまでいったもの、という印象なんです。でも僕の作品は、近づいてもらうとわかりますが、タッチが見える。そういう意味では、細密ではあるけれど、細密画ではないなと。

その「全体感」というのは、さきほどの山と木の関係もそうですが、部分を積み重ねることで、大きな空気が見えるということです。たとえば、『Meltdown』という作品なら、この大きな岩の各面に沿っている建物群を克明に描くことで、空間が具体的になっていくし、巨大な岩の塊感も生まれるんです。だから細部というのは、あくまでも大きな塊の量感を出すための情報であって、そこがゴールではないんですよね。

『Meltdown』 2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art Photo by West Vancouver Museum ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『Meltdown』2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art Photo by West Vancouver Museum ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『Meltdown』部分 2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『Meltdown』部分 2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『Meltdown』部分 2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art 蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『Meltdown』部分 2013年 紙にペン、インク 122×122cm Collection of Chazen Museum of Art 蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

―部分と全体の関係が、池田さんの1つのテーマなんですね。一匹の動物や一羽の鳥を細かく描いた絵も、どこか、たくさんの空間を含んだ山のように見えます。

池田:たぶん、そこにはデッサンの基礎が関係していると思います。僕は東京藝術大学を目指して2浪していたんですが、毎日、石膏デッサンばかりやっていたんです。たとえば石膏像の胸も、一見フラットで何も無いように見えるけれど、それを鉛筆の線で描いていくと、じつはとても細かい面が無数にある。その面を追いかけていくと、自然と大きな塊に見えてくる。その延長で、今も描いているというのが近いです。

池田学

―一方で『興亡史』という作品など、多くの作品に文明への関心も感じます。「今ここ」ではなく、長い歴史の幅で人の営みを見ようと意識されていますか?

池田:いや、歴史についてはそこまで強く興味を持っていないかもしれないです。『興亡史』は、モチーフとして各時代の戦いがあり、ある勢力が興ったり滅んだりが続いている、ということはありますけど、むしろ自分の中でも一番、いたずらのような仕掛けを入れた作品です。屋根瓦が剥がれたところに絵が出てきていたり、かなり遊んでいるんです。なので、意図的に長い歴史を描いたというより、細部の積み重ねに、見る人がそれを感じるのかなと。

『興亡史』2006年 紙にペン、インク 200×200cm 高橋コレクション蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『興亡史』2006年 紙にペン、インク 200×200cm 高橋コレクション蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『興亡史』部分 2006年紙にペン、インク 200×200cm 高橋コレクション蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『興亡史』部分 2006年紙にペン、インク 200×200cm 高橋コレクション蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

―たしかに、部分同士はけっこう支離滅裂ですよね。

池田:そうなんです。それはやっぱり、具体的に描いているからこそ、出てくる説得力でありスケールだと思うんです。人の営みを細かく描くと、それぞれが支離滅裂でも、その中のステージはある程度つながっているので、見る人は歩けてしまうんですよね。

たとえば金沢21世紀美術館には、建物のまわりを一周している歩道がありますが、その光景を全部カメラで撮ってつなげたら、それぞれの人は別々の物語を生きていて、ほとんど脈略はないですよね。だけど、一本のレールとしてつながっているから、物語を考えられるんだと思います。僕の絵はそれがより複雑化しているけど、基本は同じだと思う。

池田学

震災が人の社会にどんな影響を与えるのか、海外の国の人にもわかるように描きたかった。

―多くの絵に線路や電車が描かれていますが、それは、鑑賞者の視線を個々の細部に導いていくためのものでもあるんでしょうか?

池田:電車や線路をよく描くのは2つ理由があって、1つは電車の形態を描くのが単純に楽しいこと。もう1つはおっしゃったように、電車のような交通手段は目的があって、何もない2地点に線路を通すだけで何かが生まれますよね。『終着』という絵もそうですが、そこに線路があるだけで、そのバックグラウンドや先を想像させることができる。

あと、飛行機もよく描くんですが、交通手段を描くことで、その乗り物の中から描かれた風景を見る、視点の起点が生まれるということもあります。そこから見た風景はどんなものかという、絵の中を旅する視点を生むことができるんです。

『終着』2009年 紙にペン、インク 20×15cm 松井政就氏蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『終着』2009年 紙にペン、インク 20×15cm 松井政就氏蔵 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

―新作の『誕生』について聞かせてください。この作品が構想されたきっかけは東日本大震災だったそうですが、完成した作品は日本に限らない、世界における災害というテーマを含むものです。制作の中でこの広がりが生まれたのは、なぜでしょうか?

池田:当時はバンクーバーに住んでいて、海を隔てた母国で大変なことが起きている、それを何とか絵にしたいと震災直後から構想を始めました。ただ、意識しなくても震災の情報に触れる日本国内とは違い、向こうでは、自分で意識的に選ばないとそのニュースは入ってこない。周りにいる人も日本人じゃないので、自然と視点が世界に広がりました。震災が人の社会にどんな影響を与えるのか、自分の住む海外の国の人にもわかるように描きたかった。誰にも起こり得る状況として、想像させるものにしないといけないと。

『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』金沢21世紀美術館 『誕生』展示風景
『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』金沢21世紀美術館 『誕生』展示風景

―言い方が難しいですが、池田さんの絵を見ると、どこか災害を俯瞰で見ている印象も受けます。ある種、自然現象としては当然起こりうることだと。

池田:そういう感覚はあるかもしれません。人間の目線からすると、震災はすごく大変なことですけど、今ここで雨が降って、雨水がバーっと排水溝に流れ込んだら、蟻の視点では大津波ですよね。

スケールの差はあっても、自然環境の中の現象として、地震や津波もあれば台風もある。人間には特別なことだけど、より小さな世界から見たら、あるいは地球にとってはそんなに特別なことじゃない。そういうことは、よく思います。

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イベント情報

『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』

2017年4月8日(土)~7月9日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜日(祝日の場合は翌平日)

プロフィール

池田学(いけだ まなぶ)

1973年、佐賀県多久市生まれ。1998年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。卒業制作にて紙に丸ペンを使用した独自の細密技法を確立。2000年、同大学院修士課程を修了。2011年より文化庁芸術家在外研修員としてカナダ、バンクーバーに滞在。2013年よりアメリカ、ウィスコンシン州マディソンにあるチェゼン美術館の招へいを受け、滞在制作を行う。圧倒的な緻密さとともに、ユニークな感性と創造力あふれる作風で国内外を問わず高い評価を得ている。

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