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池田学が明かす、桁外れな緻密さと圧倒的スケールで描く制作の裏側

池田学が明かす、桁外れな緻密さと圧倒的スケールで描く制作の裏側

金沢21世紀美術館『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影、編集:宮原朋之

いろんなことが組み合わさって、世界ができている。だから、そのまま描こう。

―展覧会のプレスツアーの際に、絵の中の世界を「かりそめの世界」とおっしゃっていたのが印象的でした。

池田:『誕生』というとポジティブな意味に見えますが、人が作る物事が必ずしも良いものとは限らない。もちろん見る人が好きに捉えて良いのですが、描かれたもの自体がすごく具体的なので、あまり見方を制限しないようにしています。

たとえば絵の中に溶岩の塊が描かれていますが、その上には温泉が描かれている。火山も一面では災害を起こし得るけど、人を癒している部分もありますよね。ほかにも「CONTAMINATED(汚染された)」の文字が隠された黒い袋の一群は、福島で溜まり続けている除染袋でもありますが、森で見た、木にびっしり産み付けられた蛾の卵のイメージも重ねています。

黒い袋の一群には、よく見ると「CONTAMINATED」という文字が読み取れる 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
黒い袋の一群には、よく見ると「CONTAMINATED」という文字が読み取れる 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

池田学

―『誕生』をよく見ると、穏やかなシーンもたくさん描かれていますね。飛行機が輪切りになって木に引っかかっていて、中で人々が休んでいるような細部もあります。

池田:これは、レストランでイカリングを食べたときに思いつきました(笑)。飛行機が輪切りだったら面白いし、震災が起きた世界では、漂着した飛行機を人々が再利用して、休憩所のように使うこともあるかもしれない。日常的な場面も多く描くのは、現実の戦争の様子などを映像で見ても、有事だからといって、誰もが悲壮感に染まっているわけではないと思うからです。

子どもは表に出て遊んでいるし、笑顔があったりもする。震災も同じで、絶望感だけでなく、新しい命の誕生や些細な談笑もあるはず。そうしたいろんなことが組み合わさって、世界ができていると思う。だから、そのまま描こうと。

輪切りになった飛行機の中で休む人が克明に描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径  ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
輪切りになった飛行機の中で休む人が克明に描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

死ぬほど努力して練習したという自負はあるので、それが出会いも実らせたんだと思います。

―『誕生』の制作期間には、池田さんにも二人の娘さんが生まれました。

池田:絵の中に、彼女たちも入っています。看板の上で手を振っているのが次女。三女の名前も、魂のような白い線によって筆記体で書かれています。ちなみに、「長女も描いたほうがいいんじゃない?」と周囲の人に言われて(笑)、名前を「灯」というんですけど、吊られた電車に灯台のイラストを描いたりしています。

看板の上で手を振る次女が描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
看板の上で手を振る次女が描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

池田の三女の名前が、白い線で筆記体で書かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
池田の三女の名前が、白い線で筆記体で書かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

吊られた電車に灯台のイラストが描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
吊られた電車に灯台のイラストが描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

―何かにひっかかった鳥居のように、明確に日本を思わせるモチーフもありますね。

池田:鳥居がひっかかっているのは、アメリカの中西部でよく見かけるウォータータンクという構造物です。これは灌漑のための構造物で、画面の中央で橋を渡っているラクダに乗った人たちは、新鮮な水を求めてタンクを目指している。

鳥居を描いたのは、やはり鳥居は神道の象徴ですし、海外の人に日本を想起させやすい。日本が全体的なテーマではないと言いつつも、日本人のアーティストが災害の絵を描いているのは、説得力があると思うんです。そうしたことをちょっと想起させる仕掛けとして、描きました。

ウォータータンクにひっかかった鳥居、右にはラクダに乗った人影が描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore
ウォータータンクにひっかかった鳥居、右にはラクダに乗った人影が描かれている 『誕生』部分 2013-2016年 紙にペン、インク、透明水彩 300×400cm 撮影:宮島径 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery, Tokyo/ Singapore

―この絵を前にいくらでも話していられますね。最後に話は変わるのですが、池田さんは26歳で大学院を出て、地道に活動をされますが、一枚に数年かかる制作を行うことに葛藤はなかったのでしょうか? 当時は、作品が必ず売れる保証もないですよね。

池田:覚えていないレベルの悩みはあったと思うけど……葛藤はあまりなかったですね。大学を出てからはしばらく、予備校の先生をやったり、今回も出品している新聞用の法廷画や、動物を描く仕事をしたりしながら、『再生』や『存在』のような絵も描いていました。もともとデザイン科出身なので、依頼されて絵を描くことは嫌じゃないし、むしろ楽しかったんです。

そうこうしているうちに、今の所属ギャラリーのオーナーに出会いました。1~2年で1作なので、ぜんぜん食えるような稼ぎじゃなかったですけど、作品は描いたら売れていた。自分は、人との出会いに本当に恵まれていたと思いますね。

池田学

『再生』2001年 紙にペン、インク 162×162cm 浜松市美術館蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『再生』2001年 紙にペン、インク 162×162cm 浜松市美術館蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『再生』部分 2001年 紙にペン、インク 162×162cm 浜松市美術館蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『再生』部分 2001年 紙にペン、インク 162×162cm 浜松市美術館蔵 ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『存在』2004年 紙にペン、インク 145×205cm Collection of JOAN AND MICHAEL SALKE ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『存在』2004年 紙にペン、インク 145×205cm Collection of JOAN AND MICHAEL SALKE ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

『存在』部分 2004年 紙にペン、インク 145×205cm Collection of JOAN AND MICHAEL SALKE ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery
『存在』部分 2004年 紙にペン、インク 145×205cm Collection of JOAN AND MICHAEL SALKE ©IKEDA Manabu / Courtesy Mizuma Art Gallery

―とはいえ、出会った人に見せたら圧倒できる絵を描き続けていたわけですよね。それがあるからこそ、人と会うことに意味が生まれたのかなと。

池田:そうですね。それと浪人中、これ以上ないくらい努力したんです。それこそスポーツの筋トレや基本練習と一緒で、デッサンを何百枚と描いた。いろんなところから資料を集めて、それと自分のものを比較して、どうやったらこう描けるんだろうと。

その努力があるから、今の活動もできるんだと思います。芸術に限らず、表現したいことや才能があっても、技術が伴わなければ人に何かを伝えることはできない。死ぬほど努力して練習したという自負はあるので、それが出会いも実らせたんだと思います。

池田学

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イベント情報

『池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―』

2017年4月8日(土)~7月9日(日)
会場:石川県 金沢21世紀美術館
時間:10:00~18:00(金、土曜は20:00まで)
休場日:月曜日(祝日の場合は翌平日)

プロフィール

池田学(いけだ まなぶ)

1973年、佐賀県多久市生まれ。1998年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。卒業制作にて紙に丸ペンを使用した独自の細密技法を確立。2000年、同大学院修士課程を修了。2011年より文化庁芸術家在外研修員としてカナダ、バンクーバーに滞在。2013年よりアメリカ、ウィスコンシン州マディソンにあるチェゼン美術館の招へいを受け、滞在制作を行う。圧倒的な緻密さとともに、ユニークな感性と創造力あふれる作風で国内外を問わず高い評価を得ている。

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