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菊地成孔×湯山玲子対談 「文化系パリピ」のススメ

菊地成孔×湯山玲子対談 「文化系パリピ」のススメ

『晩餐会 裸体の森へ 第二回』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:三木匡宏 編集:久野剛士 撮影協力:resonance

対象にのめり込んで、すべてつぎ込むのが「21世紀の遊び人」なのかな。(菊地)

―なぜそういう遊び方が衰退してきてしまったのでしょうか。

菊地:湯山さん、『浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―』(劇団雌猫著 / 2017年 / 小学館)っていう本読みました? 去年のコミケでものすごく話題になった本で、20代から40代くらいまでの女子が、可処分所得を全て何かにつぎ込んで浪費する姿を紹介しているんです。その人たちって、絶対に他ジャンルへの越境はしない。たとえば宝塚が好きな人なら宝塚、ジャニーズが好きならジャニーズ、K-POP好きはK-POPに、惜しみなくお金をつぎ込む。ある意味では信仰に近いんだよね。

菊地成孔

湯山:昔からそういうお金のつぎ込みかたをする人は、一定数いましたよ。宝塚ファンとか。いまとは何が違うんだろう。

菊地:以前なら、自分とは別ジャンルにお金をつぎ込む人を、異教徒と見做してバカにしていたところもあったと思うんです。でもいまは、「何がカッコよくて何がカッコ悪いか?」という価値基準もなくなってきているから、「本気で入り込んでいる人は美しい」っていう感覚。

とはいえ自分たちのしていることは浪費だから、隣で別ジャンルに浪費する異教徒を「悪友」と呼んでいる。あまりにも面白いから小学館から出版されたんです。ここ数年で読んだ中でも一番面白かったな。

―菊地さんは、その悪友たちのライフスタイルをどう思われましたか?

菊地:人生の空いている時間を全て趣味につぎ込んでいて、狂気が入っていると思う。もちろん差別するつもりなど全くないんですけど、「遊び方」がタコツボ化していますよね。全く余裕がない状態が信仰っぽいのかも。そして、それが「21世紀の遊び人」としての姿なのかなとも思う。

湯山:信仰だから「滅私」するのよね。自分を殺し、対象に依存もするし、犠牲も払うし、アイデンティティーと同一化してしまう。とはいえ、ジャズはそれじゃ演奏できないでしょう? クラシックも同じはずで、ウィーンフィルをはじめ海外のオーケストラは、演奏者一人ひとりに個々の自分がありながら、目標に向かう総意として一体感を作り出すことができる。でも、日本のオーケストラは演奏者が滅私して、指揮者や過去の素晴らしい演奏を「信仰」する形になっているところもある。

湯山玲子

菊地:食事に関しても、悪友的なスタイルが増えていますよね。食べている人が減っているんじゃなくて、食べ方が変わってきている。いま、「食べるのが好き」って言う人たちは、「食べログ」とか読み漁って、ラーメンならラーメン、カレーならカレーのタグをひたすら追っているし、それって昔の遊び人のグルメとは全然違うじゃないですか。でも彼らからすると、僕らみたいな文化系パリピはチャラい人で、命がけで対象につぎ込んでないダメな人になるらしい(笑)。

僕の場合は音楽があって、すげえ演奏をすればそこは認めてもらえるけど、「菊地という個人はチャラい」って認識(笑)。いまは、信仰しているくらい対象にのめり込んでいる方が、「エモくて最高」って思われがちなんだよね。チャラくしてると嫌われる。

菊地成孔

日本人がタコツボ化しやすいのは、フードコートのカルチャーがないから。(菊地)

―対象にのめり込み、タコツボ化していく現象はなぜ起こるのだと思いますか?

菊地:日本人がタコツボ化しやすいのは、「夜市」、つまりフードコートのカルチャーがないというのが大きいのかもしれない。東南アジアや韓国、ハワイなんかへ行くとフードコートがあって、だだっ広いところに色んな食べ物屋さんがあって、メニューを色々チョイスできる。外国人が日本に来て百貨店のレストランフロアに行くと、フードコートと間違えて、隣の寿司屋で買ってきた寿司を蕎麦屋に持って行って食べて、お店と揉めることもあるらしい(笑)。

最も「夜市」に近いお祭りの屋台でも、結局歩きながら食べるじゃないですか。いろいろ寄せ集めて一箇所に座って食べるということは、あまりやらない。日本でも最近は遅まきながらフードコートも出来ているけど、ビュッフェのように好きな料理をチョイスして、皿に盛りつけて食べる文化は、あまり習慣化されてないですよね。

―確かに。

菊地:まあ、こう話していくとキリがないんだけど、「20世紀的な夜遊びをする不良」っていうのはいつのまにか絶滅種になり、悪友のような新種の遊び方が主流になり始めた。そこまで吹っ切れてはいない人でも、ベクトルは新種の方に向かっているわけだから、これからの日本人にとって「快楽」とは悪友的な遊び=信仰でしかなくなってしまうのかもしれない。

ただ、絶滅種とはすなわち保護指定動物でもあるわけだから(笑)、「ちゃんと保護していきましょう」というのが今回のイベント『晩餐会 裸体の森へ』の趣旨なんです。

『晩餐会 裸体の森へ 第二回』ポスタービジュアル
『晩餐会 裸体の森へ 第二回』ポスタービジュアル(詳細はこちら

―つまり『晩餐会 裸体の森へ』は、信仰ではなく遊べる場としてのパーティーということですね。

菊地:ええ。まず、通常のコンサートやディナーのみのレストランとは違って「晩餐会」ですから、音楽と料理がセットになっている。そこまでは通常ですが、画期的なのは主催者の音楽家が、ディナーの内容まで統括していること。そういうイベントは世界でも珍しいと思うんですよね。

今回、ワインの種類や価格帯、料理の食材からルセット(レシピ)まで、シェフやクラブマネージャーと話し合っているんです。もちろん、僕はあくまでディレクションの立場であって、考案しているわけではないですが。

『晩餐会 裸体の森へ 第二回』演奏前の乾杯酒
『晩餐会 裸体の森へ 第二回』演奏前の乾杯酒

『晩餐会 裸体の森へ 第二回』アミューズの「トリュフクロケット(竹炭を使ってトリュフに見立てたコロッケ)」
『晩餐会 裸体の森へ 第二回』アミューズの「トリュフクロケット(竹炭を使ってトリュフに見立てたコロッケ)」

湯山:前回の『裸体の森へ』には私もお邪魔しました。グルメな菊地さんのことだから、手の込んだことをしてくるのだろうとは思いつつ、正直なところ「そこまで大層なものではないだろう」とタカを括っていたのね。シェフとは言え、ライブハウスのレベルだろうとも思ったのですが……。まあ、すごかったんですよ。ワインのマリアージュも素晴らしく、料理も「これやっときゃおしゃれでしょ」という類のものと違って、クリエイティブなソウルがある。それで思わずブログに料理の感想ばかり書いちゃったくらい(笑)。

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イベント情報

『晩餐会 裸体の森へ 第二回』
『晩餐会 裸体の森へ 第二回』

2017年12月1日(金)、12月2日(土)
会場:神奈川県 モーション・ブルー・ヨコハマ
料金:18,000円(ムニュ、食前酒、乾杯酒付き)

プロフィール

菊地成孔(きくち なるよし)

1963年生まれの音楽家 / 文筆家 / 大学講師。音楽家としてはソングライティング / アレンジ / バンドリーダー / プロデュースをこなすサキソフォン奏者 / シンガー / キーボーディスト / ラッパーであり、文筆家としてはエッセイストであり、音楽批評、映画批評、モード批評、格闘技批評を執筆。ラジオパースナリティやDJ、テレビ番組等々の出演も多数。2013年、個人事務所株式会社ビュロー菊地を設立。

湯山玲子(ゆやま れいこ)

1960年生まれ、東京都出身。著述家、ブロデューサー。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿し、最近ではテレビのコメンテーターとしても活躍。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に』等々。クラシック音楽の新しい聴き方を提案する『爆クラ!』と『美人寿司』主宰。

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