インタビュー

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

今、音楽シーンの先端では何が起こっている? 有泉智子×柴那典

テキスト
柴那典
撮影:Kana Tarumi 編集:山元翔一

2010年代後半の今、日本の音楽シーンのエッジはどういうところにあるのか。そういうことをテーマに、音楽雑誌『MUSICA』編集長の有泉智子と語り合った。1つのキーとなるのは、yahyelやD.A.N.やDATSなど、ここ数年で頭角を現しつつある先鋭的なスタンスを持ったバンドたち。彼らは、海外のビートミュージックと同時代的な音楽性を追求しつつ、単なるトレンドの追随ではなく、確固たる意志とビジョンを持って音楽を表現している。

以下の記事中でも語っているが、今の時代の世界的な潮流として、突出した才能同士が「個」として点と点で結びつき、有機的にコラボレーションしていくことで生まれるクリエイティブが音楽シーンを牽引している現状がある。では、そういう時代に、「バンド」という方法論や「ロック」というマインドは、どんな有効性を持ち得るのか。話はそんなところに広がっていった。

洋楽という言葉の裏には憧れとコンプレックスがあったけど、今はそういう感覚自体がない。(有泉)

:まずはこの話からしたいと思ってるんですけれど、ここ最近、若い世代の日本のアーティストを「洋楽っぽい」とか「洋楽的な」という言葉で紹介してるのを見ると、ちょっと違和感を覚えるんですよ。

特にyahyelやD.A.N.、DATS、PAELLASのようなバンドが脚光を浴びるようになってから、そう感じていて。「洋楽」という言葉のイメージって1990年代まではちゃんと共有されていたと思うんだけれど、こういうアーティストたちの音楽性を形容するのに安易にその言葉を使うのって、今の時代に起こっていることが見えてないんじゃないかと。まずはそのあたり、有泉さんとしてはどうですか?

左から:柴那典、有泉智子
左から:柴那典、有泉智子

有泉:そもそもなぜ「洋楽」と言われるかというと、単純にロックにしてもダンスミュージックにしても、そもそも輸入されてきた音楽だったからですよね。カルチャーとしてもそうだし、物理的にも昔は海を越えて輸入されるCDやアナログレコードを入手しなければいけなかった。かつては「洋楽コンプレックス」っていう言葉もよく使われてましたけど、洋楽という言葉の裏には、海の向こうの音楽、カルチャーであるという憧れとコンプレックスがあったし、地理的・時間的にも、日本でそれを手にするまでには距離があった。でも、今の時代はそうじゃない。オンラインで時差なく音楽が届くし、今の若い子たちは情報や感覚もユニバーサルになってきているから、もはや「輸入」という感覚自体がない。

つまり、世界全体のミュージックシーンのなかにアメリカのシーンがあり、イギリスがあり、ヨーロッパがあり、アジアがあり、日本も同じようにそのひとつである。そういう肌感覚は、まさにyahyelやD.A.N.の世代が当たり前に持っているものですよね。そのなかで自分たちが何をやるのかという視点がある。

yahyel『Human』(2018年)収録曲

D.A.N.『Sonatine』(2018年)収録曲。ミュージックビデオの監督は、yahyelのメンバーでもある山田健人(dutch_tokyo)

:まさにそうなんです。だから今になって彼らのような世代が出てきている文化的背景を語るためには、1990年代、2000年代、そして2010年代がどういう時代だったのかを、まずはざっくりと振り返らなければいけない。

1990年代までは有泉さんがおっしゃったように、輸入盤によって育まれた音楽カルチャーがあった。そこで「洋楽」という言葉は、基本的にはアメリカとイギリスの音楽シーンの動向を示していた。で、2000年代は、これはいろんな理由があるんですけれど、特に音楽カルチャーが内向きになった時代だったと思うんです。ガラパゴス化というか、江戸時代に浮世絵が生まれたように、日本独自の音楽がユースカルチャーとして発展した。その象徴がボーカロイド、アニソン、アイドルで、2000年代の後半に種が蒔かれたものが、2010年代前半に花開いたと考えている。

柴は2014年に、初音ミクの誕生とともにはじまったボカロムーブメントを論考した『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)を上梓している
柴は2014年に、初音ミクの誕生とともにはじまったボカロムーブメントを論考した『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)を上梓している(Amazonで見る

:じゃあ、今の2018年がどういう時代かというと、3~4年前くらいから海外と日本がそもそもシームレスであるということを前提にした世代が新しい種を蒔きはじめている。そこには当然2010年代前半の反動もある。このあたりの時代感覚って有泉さんはどう捉えてますか?

有泉:ざっくりは同意なんですけど、そもそもなぜ2000年代にガラパゴス化が起こったかというと、その分岐の起点は1997~1998年にあったと思うんですね。その時期に何が起こったかというと、たとえばDragon Ash、くるり、スーパーカー、あるいは椎名林檎や中村一義のような、新しい世代のアーティストたちによって、海外の音楽の動向や文脈を自分たちなりに咀嚼したオルタナティヴなロックやポップミュージックが生まれていったんですよね。

で、そうやって海外との同時代性を持ったものが生まれていったことも含めて、結果的にこの国の音楽シーンはそれ以前に比べてバラエティー豊かなものになった。だから極端な言い方をすれば、2000年代って、音楽を好きになった子たちが国内の音楽を消費していくだけでもある程度の興味は満たされることができるような、そういう状況だったとも言えると思うんです。

有泉智子

スーパーカー『スリーアウトチェンジ』(1998年)収録曲

くるり『さよならストレンジャー』(1999年)収録曲

有泉:そういう時代に思春期を過ごした子たちがバンドや創作をはじめるようになったときに、必然的に自分たちが好きで聴いてきた日本国内の音楽をベースに音楽を作っていく時代がやってきた。それが割と極端な形で出たのが2000年代末から2010年代前半だと思うんです。でも、それがいい加減に袋小路になっていったり、柴さんが言うようなガラパゴス化が進んだ結果、当然ながらそこに対して物足りなさや反発を覚えるような反動も出てくるし、かつ、YouTubeやSoundCloudを通じてリアルタイムに海外の音楽を聴けることが当たり前になった時代に思春期を過ごした人、その面白さを知っている人たちが音楽を作りはじめるタームがやってくる。

:バンドシーンの流れはまさにそうですね。

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プロフィール

有泉智子(ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

柴那典(しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。「cakes」にてダイノジ・大谷ノブ彦との対談連載「心のベストテン」、「リアルサウンド」にて「フェス文化論」、「ORIGINAL CONFIDENCE」にて「ポップミュージック未来論」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)がある。

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