インタビュー

tomad×藤城嘘×齋藤恵汰 激動の2010年代カルチャーシーンを辿る

tomad×藤城嘘×齋藤恵汰 激動の2010年代カルチャーシーンを辿る

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

「コミュニティー」の役割は、時代とともに更新される

―震災の影響で日本は特に早かったのかもしれないけれども、中産階級の凋落後、ポリティカルコレクトネスや公共性がいよいよ世界的にも前景化してきて、インターネットも現実空間も変質してきた。そんな中でみなさんが立ち上げたプロジェクトやそこで発生するコミュニティーは、もう10年以上つづいていますよね。

齋藤:おそらくぼくらはここ10年でなんら変化していません。常にクオリティの高い作品を発表しつづけているマルチネがあり、「限りなくゴミに近いマテリアル」というパンチワードにあるように作品でもゴミでもないその中間を扱っているカオスラがあり、そしてゴミを集めている渋家がある(笑)。

齋藤恵汰
齋藤恵汰

藤城:ちょっと話をずらすと、カオスラは知ってるけど藤城嘘って誰なの? とか、渋家に住んでるけど齋藤恵汰のことを知らない人があらわれる時期にもさしかかっていますよね。

tomad:マルチネやいくつかのアーティストを知ってるけど、ぼくのことを知らない人もいますね。でも、それは健全なことだと思うな。

藤城:もちろん悪いことではない。ただ、自覚的に歴史化すると言うと偉そうだけど、意識して下の世代を刺激しないと、近年のことがどんどん忘れられていったり、彼ら彼女らに知られないままかもしれないと感じることが、最近は多いです。

それが、ゲンロンと共同事業の「新芸術校」というアートスクールで教育をやっていることとも関係します。コミュニティーを長く育てるという意味では、伝えることに意識的にならないと、同じ過ちが下の世代で繰り返されるかもしれない。

藤城嘘
藤城嘘
「ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校」第1期最終成果展 会場風景 撮影:ゲンロン
「ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校」第1期最終成果展 会場風景 撮影:ゲンロン

―今後それぞれがコミュニティーをどうやって継続しようとしているかは気になります。

藤城:この5月からニコニコ動画ではじめた「カオス*ラウンジの芸術動画」というサービスは、今までの展覧会、ネットで知り合ったフォロワー、あるいは「新芸術校」でできたコミュニティーを、まさに継続的に維持するための通信局でもあるんです。もともとカオスラ界隈では、作家同士が作品を交換したり買ったりすることが頻繁におこなわれていました。サロンとはちょっと違うけど、一度、作家やコレクター、そのファンも集まったコミュニティーを作るというのは大事なんじゃないかな。

「カオス*ラウンジの芸術動画」
「カオス*ラウンジの芸術動画」(サイトを見る

tomad:ぼくはそもそもそこまで意識的にコミュニティーを作ろうとは思ってませんでした。音楽の場合、流行りも早いし個人の中でも聴くものって移り変わるじゃないですか。もちろんバラバラな音源をリリースしてもレーベルの意味があまりないのですが、逆にスタイルを変化させつづけるのが重要だと思ってます。

たしかにちょっと前まではSNSをはじめとするインターネットの流れをかなり意識していたんですが、それを踏襲しながら作品を出させていくのって、オーガナイザーとしてはシビアな仕事で(笑)。一歩間違えると反感を買って炎上しかねないし、かといって普通になっちゃうとメジャーやその他のインディーと変わらなくなるので、難しかったんです。

tomad
tomad

tomad:だけど2010年代後半になっていくにつれて、Twitter的なグルーヴ感がどんどん拡散して社会や政治と接近していったので、インターネット全体のことを考えても、実生活との差が生まれるような環境じゃなくなってきた。だからインターネット全体について考えるというのは一度捨てて、直感的にいいと思ったものをリリースしたりと、むしろ気楽に考えるようになってきた。

視点は変わりますが、アーティストの交流に関しては意識的に考えていますね。たとえば三毛猫ホームレスと長谷川白紙はけっこう歳が離れているんですが、趣味が似ているところもあるのであえて同じイベントで共演させたりしてコミュニケーションを促したりもしました。

齋藤:ぼくらが2010年ごろに言ってたコミュニティーって、ある人間たちが集まった「団体」のイメージが強かったと思うんですよ。でもそれは今の20歳ぐらいの人からするとリアリティーがない。むしろ彼 / 彼女らが言うコミュニティーというものの感触は、ぼくらが言うところのネットワークに近づいているんじゃないかな。

藤城:一昔前までは周辺に集う人たちのことをクラスタと言ってましたよね。

齋藤:そう、コミュニティーであれば中心性があって、その周囲の「壁」の内側に入った人が成員だった。その次にクラスタという、中心はあるんだけど周辺に拡散した集合体のような形が主流になる。そして今や、それらが完全にネットワーク化してきた。

今の若い人は、あるアプリケーションを使っているからコミュニティーに参加している、ぐらいの感覚だと思うんですよ。かつてコミュニティーはセーフティネットとして機能したんですね。でも、今ぼくたちがコミュニティーを作ろうと呼びかけても誤解されちゃうんじゃないだろうか。

左から:tomad、藤城嘘、齋藤恵汰

藤城:コミュニティーに寄与しようとはしなくなりますよね。ニコニコ動画とかpixivみたいに集団でなにかを作ってみんなで同じものを見るようなメディアが弱体化して、単なるツールと化してしまう。

齋藤:だから、ツールを使っていること自体がコミュニティーに参加していることとほぼイコールである、という感覚を持った人たちに、コミュニティーという言葉はすごく無力だと思うんです。

―ただ、今の渋家には20歳前後の若い人たちも多いですよね。

齋藤:コミットできる人たちはそれでいいんだと思います。渋家はぼくらが懐古的に言う意味でのコミュニティー意識を育てる装置としてある。けれど、ぼくが批評冊子を作ったり美術展をキュレーションしたりするのは、そのネットワークにどのように対処するかを模索しているからなんです。ネットワークって文字通り「網」なので、つかみにいってもからまるだけで何にもならないんですよ。

ぼくはその網が実はあまり好きじゃない。コミュニティーは所属する / しないがはっきりしているので、所属しなければ自由だし、所属したら拘束されますよね。自由と拘束は選べた方がいい。

でも網は、拘束されてるかどうかわからないですよね。つまり、勝手に入れられていたり離脱していたりする。いつの間にか取り残されている人もいるだろうし、いつの間にかがんじがらめになっている人もいるんですね。

だからこそ網は破らないといけない。これから来る2020年代の文化においても、ネットワークがこれだけ一般化している状態の中で、それにどうやって対抗していくかというのは常に批判的に考えていかないといけないと思いますね。

左から:齋藤恵汰、藤城嘘、tomad
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イベント情報

MALTINE RECORDS PRESENTS『CUBE』
MALTINE RECORDS PRESENTS『CUBE』

2019年9月15日(日)
会場:東京都 代官山 UNIT
出演:
tofubeats
パソコン音楽クラブ
abelest × 諭吉佳作/men
長谷川白紙
Tomggg × yuigot × Hercelot
Kabanagu
料金:前売4,000円 当日4,500円

『TOKYO 2021 un/real engine - 慰霊のエンジニアリング - 』

2019年9月14日(土)~10月20日(日) / 火曜定休
会場:東京都 京橋 TODA BUILDING
キュレーション:黒瀬陽平
会場構成:西澤徹夫
参加作家:
会田誠
飴屋法水
磯村暖
宇川直宏
大山顕
カオス*ラウンジ
キュンチョメ
今野勉
SIDE CORE
高山明
竹内公太
寺山修司
DOMMUNE
中島晴矢
中谷芙二子
八谷和彦
檜皮一彦
藤元明
HouxoQue
三上晴子
MES
山内祥太
弓指寛治
渡邉英徳
ほか

プロフィール

tomad(とまど)

インターネットレーベル「Maltine Records」主宰。2006年頃からラップトップを使ったDJ活動開始。2009年から都内のクラブにて年数回のペースで自身レーベルのイベントオーガナイズもしている。

藤城嘘(ふじしろ うそ)

1990年東京都生まれ。2015年日本大学芸術学部美術学科絵画コース卒業。
都市文化、自然科学、萌えキャラから文字・記号にいたるまでの「キャラクター」をモチーフに、インターネット以後の日本的/データベース的感性を生かした絵画作品を制作。2008年より、SNSを通してweb上で作品を発表する作家を集めた「ポストポッパーズ」「カオス*ラウンジ」など、多数の集団展示企画活動を展開。主な個展に2018年『「絵と、」 Vol.2藤城嘘』(galleryαM)、2017年『ダストポップ』(ゲンロン カオス*ラウンジ 五反田アトリエ)、2013年『芸術係数プレゼンツ藤城嘘個展「キャラクトロニカ」』(EARTH+GALLERY)。「カオス*ラウンジ」として参加した主な展示に、2018年『破滅*アフター』(A/D GALLERY)、2015~2017年『カオス*ラウンジ新芸術祭』(福島県いわき市)、『Reborn Art Festival2017』(宮城県石巻市)、2016年『瀬戸内国際芸術祭2016』(香川県高松市女木島)、『風景地獄-とある私的な博物館構想』(A/D GALLERY)、2014年『キャラクラッシュ!』(東京都文京区湯島)など。

齋藤恵汰(さいとう けいた)

1987年生まれ。美術家。発表形式はキュレーション、編集、劇作など多岐にわたるコンセプチュアル・アーティスト。活動において共通しているのは、そのすべてが共同作業であるということであり、全体として機能が果たされる表現を生み出している。2008年、都市空間におけるランドアート作品として『渋家』を制作。2013年ころまで渋家名義にて多数の展覧会を企画。2013年、『アートフェア東京』にコレクティブ・ハウジングを不動産取引の手法で売買するコンセプチュアルアート作品『オーナーチェンジ』を出品、NHKニュース7などで報道。同時期、NHK Eテレ「ニッポンのジレンマ」に出演し話題となる。その後、演劇作品『機劇』(森下スタジオ、2015年)、『非劇』(吉祥寺シアター、2015年)の劇作を行う。2015年より若手批評冊子「アーギュメンツ」を企画・制作。主な展覧会に『私戦と風景』(原爆の図 丸木美術館、2016年)、『自営と共在』(BARRAK、2017年)、『構造と表面』(駒込倉庫、2019年)など。

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