インタビュー

多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察

多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察

インタビュー・テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)

世界に拡大するファンコミュニティ。より多様なバックグラウンドを持つ人々の目に触れるように

―ファン自身の振る舞いも慎重であらなければならないというお話がありましたが、連載のファンダムについての記事では、K-POPファンダムの「自主と連帯」という特性が面白いところでもあり、危険な動員力にもなっているという指摘がありました(参考:K-POPの「ファンダムの力」を考察。自主と連帯が生む熱狂と危険性)。

菅原:今は、ファンダムの持つ力の危険性についての議論がより表面化していっているような印象があります。記事では「ファンダムの力がアーティストにもファンにも喜びと苦しみの両方を生み出す源となり得ることを考えれば、現在のK-POPファンダムと産業の課題は規模の拡大ではなく、構造そのものの見直しとさらなる成熟した体系を築くことなのではないか」というようなことを書いたのですが、BTSの世界的な人気など、K-POPがますますグローバルに受容されていくことでファンダムの力が拡大していったとともに、ファン層の多様化が進んでさらに様々なバックグラウンドを持つ人々の目に触れるようになったことも強調しておきたいポイントの一つかなと思います。

フランス・パリで行なわれたBTSのポップアップイベントに並ぶファン Naumova Ekaterina / Shutterstock.com
フランス・パリで行なわれたBTSのポップアップイベントに並ぶファン Naumova Ekaterina / Shutterstock.com

松本:最近だと、BLACKPINKやIZ*ONEのMVで用いられた宗教的なモチーフに対して、文化盗用だと指摘する声が現地の人も含めたファン自身からあがっていましたね。

菅原:また様々な国籍を持つメンバーによって構成されるグローバルグループも増えているからこそ、それぞれの文化的・政治的背景の違いによって持ち上がる議論も見られていますよね。例えばTWICEの場合、ツウィが番組演出の一環で、韓国国旗とともに自身の出身地である台湾の国旗を振ったことが発端となって、本人が謝罪に追い込まれたり、日本人メンバーであるサナが日本の年号が変わる際に公式Instagramに投稿した日本語のメッセージが一部から歴史認識を問題視され、論争を呼んだこともありました。

先ほど話していた通り、運営側が所属アーティストに「あるべき姿」を求める場合もあるし、サバイバル番組やその延長線上にあるデビュー後のファン活動において、アイドルへの正しい振る舞いを求めるファンの動きも大きい。しかしその一方、消費する側の多様さも拡がりを見せていることで、取り扱っているトピックによっては一つの「正しさ」というものに集約しようとすることへの限界が表れてきているのが現状だと思います。

―K-POPファンダムはBlack Lives Matterに連帯した動きでも大きな話題を集めましたね。運動へのアンチを意味するようなハッシュタグに対して、K-POPファンが推しの写真や動画を大量に投稿して無効化するような動きも見られました。タグをクリックするとBlack Lives Matterを支持するメッセージが溢れていて痛快だなと思いましたし、意図や意義はすごくわかるのですが、一方で手放しで良しとしてよいのだろうかとも思いました。アイドル本人からしたら、自分の写真がそのタグに関連づけられて流布するわけですよね。

松本:難しい問題ですよね。アンチタグに抵抗することでBlack Lives Matterを支援すること自体には、心情的には強く賛同します。ただ、それを特定のアイドルの名前や肖像を掲げて行なうことには、やはりさまざまな危険性があり……。まず一般論としても、本人が明確に主張したわけではない意見を他人が代弁するべきではないですよね。本人がその意見を支持しない可能性だってあるわけですし、そうでなくとも沈黙する権利を奪ってしまうことになります。ファンが代弁だと思っていなくても、そのアイドル自身がメッセージやアクションを発しているとみなされる可能性だって十分すぎるほどにあるわけで、政治的なトピックについては特に慎重になるべきです。

菅原:アイドル自身がなんらかの意見を表明する前に、アイドル本人の意志と無関係にファンダムが動いてしまうことで、アイドルが矢面に立たされて、深刻な事態に巻き込まれていってしまう可能性があるということに対しては、危うさを感じてしまいます。Black Lives Matterの時のBTSのように、運動に対して支援を表明し、募金したグループがあって、そのあとにファンが続くという順序であれば良いと思うのですが。

BTSはSNSでBlack Lives Matter運動に連帯し、人種差別に抗議するメッセージを公開。その後、彼らが100万ドルを寄付したことを受け、ファン団体も同額を寄付した

アイドルを取り巻く環境について精査し、議論していくこと

―この連載のテーマの一つにもなっていますが、ファンとアイドルの関係のバランスって本当に難しいですよね。ファンとしては、ファンがいることでアイドルの力になっていると信じたいというところもあると思うんです。だからちゃんと良い形で共存したいというか。

松本:ファンはアイドルが何を考えているのかなんてわからないし、それを何かを正当化する根拠にしてはいけないという大前提はあるにせよ、力になっていると感じられる瞬間はたしかにありますよね。それがファンでいることの原動力というか、原体験のようなものにもなったりします。

菅原:そうですね。いちファンとしてはやっぱりそういう瞬間は手放せないですし、どうにか良い方向へ進めないものかと考えてしまいます。例えばTWICEのミナが体調不良で休養した時も、外から「アイドル産業そのものが問題」「ファン活動がアイドルを追い込んでいる」と、そもそも論で詰められても仕方ないのかもしれないと思いつつ、やっぱりミナが復帰したステージを見たら、そんな明確に言えないようにも思えてしまったし、何より本人の意思は他の誰にも決めることはできないから……。あの時は心の中めちゃくちゃになりましたね。

―さきほど松本さんから第三者のプレイヤーとしてメディアが機能するべきというお話もありましたが、構造的に変わっていける部分はあるのでしょうか。

菅原:運営がアーティストファーストであるようなガイドラインを作る必要性も感じています。ファンの統制をはじめ、先ほど触れたサバイバルオーディションにおける撮影環境の問題点や、デビュー後の安全対策、健康管理など、アイドルを取り巻く環境の見直しに対して運営側が具体的にどう動くべきかということは、今よりも優先度を上げて専門的な見地から調査され、議論されるべきだと思います。ファン同士の自治も限界がありますし、何かが起こってしまう前にあらかじめ具体的な対策をとるような姿勢を、運営側がもっと強めてほしいですね。そういった見直しによって規制が強くなって、ファンがいま楽しめているような供給ができなくなってしまうことや、シーン全体が窮屈になってしまう恐れも多分にありますけど、それでも産業として成り立つ策はないか模索しなくてはならない現状があるように思います。

また、いちファンとしてできることを考えると、やはり応援しているアイドルの実情について知り、自分たちの消費活動を精査し続けるということなのではないでしょうか。そして、そのためには先ほど松本さんがお話ししていたように、メディアやジャーナリストによる、ファンや運営とも異なった立場からの目線というのが必要となるように感じます。そういった意味では、この連載の記事に対する反響などを通じて、多くの方がファンとしていかに消費活動を行なうべきか深刻に考えていることも実感できました。

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