
藤田クレアが企む、銀座の地下で開催される秘密のダンスパーティ
『shiseido art egg 14th』- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)
資生堂が3組の若手作家を紹介する展覧会『shiseido art egg』(関連記事:第一弾の西太志、第二弾の橋本晶子)。
その最後に登場する藤田クレアのスタジオを訪ねた。助手として在籍する東京藝術大学の一角で制作を進める彼女が構想するのは、地下に広がる資生堂ギャラリーの空間に、超巨大な噴水を建設するというプラン。
機械仕掛けのオブジェやインスタレーションを通して、性的な暗喩も含んだ生物間の関係性に関心を広げてきた藤田にとって、この巨大な噴水と、それを取り巻くさまざまな仕掛けはどのような意味を持つのだろうか? 長年にわたって「美」のあり方を提示してきた企業である資生堂のお膝元で、何やら怪しげな企みを起こそうとしている彼女に話を聞いた。
藤田が考える、関係性や距離感。時代とともに移ろう、ラブホの設計から見る
―じつは藤田さんの作品を、東京藝術大学の修了展で拝見していまして。
藤田:あ! そうなんですか。ラブホのやつですか?
―あれはラブホテルだったんですね(笑)。たしかにエロティックな雰囲気、セクシュアルな印象のある空間でした。でも、なぜラブホ?
藤田:関係性や距離感を操作することについて、昔から気になっていて。それで言うと、ラブホの建築ってカップル同士の距離を近づけるためにいろんな工夫がされている空間だと思うんですよ。尖っているものを置かないとか、鏡ばりの壁があったり、照明なども親密な雰囲気に誘導するものとしてあるのだ、みたいなことを大学院に提出する作品解説文にも書いたんですね。
藤田:そのデザインは時代によって移り変わっていて、昭和は男性の欲望や権力を象徴するかのように、ベッドの形がロレックスの高級時計とか高級車だったりするんです。でも、平成・令和の現在ではビジネスホテルみたいに簡素になっていて、「ただ泊まってるだけだから~」という感じになってます。
―カジュアルになって、生活実感に近い形態になっていると。
藤田:男性目線だけでなく女性目線も取り入れたラブホに変わっていって、女性からも能動的に誘うようになったのだと本で読みました。

藤田クレア(ふじた くれあ)
1991年中国北京生まれ。2018年東京藝術大学大学院 美術研究科修士課程先端芸術表現専攻修了。東京都在住。主な活動に、2018年『叉域 Cross Domain』蘇州金鶏湖美術館(中国、蘇州)参加、2019年『Resonance Materials Project 2019 ~ Sensory ~』(ミラノデザインウィーク)参加などがある。
―修了展では、作品の壁や装飾も昔のクラブみたいでした。つまり昭和型のラブホの雰囲気に近いものでしたが、藤田さんの関心はオールドスタイルなラブホのあり方、人間の関係性に向かっている?
藤田:その時代を実際には知らないですけど、憧れみたいなものはあるかもしれないです。さらにそこには現代に対する個人的な私の考えもあります。
ここ数年で社会の中で起きている様々な分断に息苦しさを感じることがたびたびあるんです。個々人の思考や生物としてのあり方がそもそも違うという前提を無視して、自分の規範や信条を押し付けるような声や態度がとくにSNS上だと目についてしまう。
生物としての欲望とか習性とか生理を無視して一方的に糾弾したり拒絶することの危うさというか。かといって、じゃあ昭和的な人間関係をおおらかなものとして全肯定する、ってことはもちろんないんですけど。
―いったん修了展の話に戻りますけど、ラブホ的な装飾もすごかったですが、その中央に鎮座する機械もインパクトがありました。2本の金属棒がローションみたいな水飴に沈められていて、ピストン運動を繰り返すという。「あれはもしや……?」とは思っていたのですが、今回の企画書を見せていただいて、あれはまさに男性器の象徴だったんだなと思いました。
藤田:露骨に(笑)。上下運動する金属棒は空気を押し出す機能を持っていて、ピストンすることで水飴のなかに複数の泡を作るんです。そしてそれぞれが混ざり合ったり混ざり合わなかったり、っていう状況を見せたかった。
でも思ったようにはうまくいかずで、ぷくぷくっと小さな泡ばかりできるだけ。それが妙に気になって、次の作品を作る動機になり、そして今回の資生堂ギャラリーに展示する新作へもつながっています。
イベント情報
- 『shiseido art egg』藤田クレア展
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2020年11月27日(金)~12月20日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料
事前予約制
- 作家によるギャラリートーク
藤田クレア展 -
作家本人が会場で自作について解説するギャラリートークを、各展覧会開始後に資生堂ギャラリーの公式サイトにてオンライン配信いたします。
プロフィール
- 藤田クレア(ふじた くれあ)
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1991年中国北京生まれ。2018年東京藝術大学大学院 美術研究科修士課程先端芸術表現専攻修了。東京都在住。主な活動に、2018年「交叉域 Cross Domain」蘇州金鶏湖美術館(中国、蘇州)参加、2019年「Resonance Materials Project 2019 ~ Sensory ~」(ミラノデザインウィーク)参加などがある。