特集 PR

山田智和が語る、変貌する世界への視線 映像作家が見た2020年

山田智和が語る、変貌する世界への視線 映像作家が見た2020年

山田智和
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:山本華 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

否定や排除ではなく、手放していけ。2020年の青春の記憶たちを補完して未来に繋げた、藤井風“青春病”

―そのあと、8月にはPUNPEE“Wonder Wall feat. 5lack”が、10月にはKID FRESINO“No Sun”が公開されました。

山田自身、PUNPEEと5lackをリスペクトしているそうで、「2人が一緒にいるところの空気感やバランスみたいなものを、ミニマルな形で表現したいと思った」と語った

「この曲のMVでは踊りたい」という本人の意向を尊重し、自分自身からは逃れられないということを表すべく、身体表現をフィーチャーした映像になったという

―そして、12月11日には、藤井風さんの“青春病”のMVが公開されましたが、藤井さんとは、今回が初タッグですよね?

山田:そうなんです。2020年の最後に、藤井風くんと出会えたのは本当によかったなって思っていて。最初に言ったように、分断を促すのではない表現を模索していたんですけど、それをどうやってやればいいのかわからなくて、ちょっと悩んでいた時期があったんですよね。

そんなときに、風くんの“帰ろう”って曲を聴いて、「あ、これだ。こういう概念が必要だし、こういう考えで僕もいきたい」って思って。要は、手放すってことですよね。手放すということ、そして誰も傷つけないことを、彼はずっと歌い続けているような気がして。

藤井風“帰ろう”を聴く(Apple Musicはこちら

山田:いまの時代って、いろんなものを、慌てて手に取っていくような時代じゃないですか。だけど、これからの時代はそうじゃないというか、何かを否定したり傷付けながらひとつのものを手に取っていくのではなく、それを一つひとつ手放しながら、みんなと手を取り合っていくことが大事になっていくのかもしれないって思ったんです。

―この“青春病”のMVは、どんなコンセプトで撮っていったのですか?

山田:これはタイトルどおり、もうめちゃくちゃ青春の話なんですけど……今年はコロナのせいで、みんながみんな青春できたわけじゃないですよね。そういうときに、みんなを何かひとつ青春の世界に連れていきたいというか、みんなの話の続きになりたいと思ったんです。

みんなが見たり、想像してきた青春の続きを描きたいというか、その思いをしっかりと未来に繋げられるようなものにしたかった。つまり、このMVは、過去を描いているようで、いまを生きている人に向けて、「それでいいんだぜ」って言いたかったんですよね。

「この映像はみんなが生きている世界と地続きの世界なんだよ」――藤井風“青春病”、KID FRESINO“Rondo”に共通する意識

―あと、このMVを見ていて思ったのですが、この「青春感」みたいなものって、そのあと公開されたKID FRESINOの“Rondo”にもあるような気がして……それがここ最近の変化なのかなって。

山田:たしかに。PUNPEEさんと5lackさんのMVにも、ちょっとそういう感じがあるし……いままでは、ひとりで撮っているものが多かったですよね。何でなんだろう……僕自身が、映像とかカメラのおかげで、いろんな人とコミュニケーションしたいと思うようになってきたからかもしれないです。もしカメラを持っていなかったらこんなに人と話すことができなかったかもしれない。

―そこには、あまり気軽に友だちにも会えなかった今年の状況みたいなものも関係しているのでしょうか?

山田:それはあるかもしれないです。人との繋がりというか……さっきは「犠牲」という言葉を使いましたけど、自分はどれだけの人たちのおかげで、いまここに立っているんだろうとか、そういうことを考えるようになったり。

あと、自粛期間中に散歩がてら、自分が通っていた小学校や中学校の近くを歩いてみたりとか、そういう自分のルーツみたいなものを考えたりして。そこには必然的に、当時お世話になった人たちとか、仲がよかった友だちとか……もちろん、いまの自分を支えてくれている仲間とか、そういう人たちのありがたみをすごい感じて。それが“青春病”とか“Rondo”のMVには、ちょっと反映されているのかもしれないです。いまは、みんなが感情移入できるようなものがいいんじゃないかって。

山田:抽象的なイメージや概念みたいなものも大事ですけど、いまは日常の延長にあるものに落としたいというか、「この映像はみんなが生きている世界と地続きの世界なんだよ」っていうことを、意識しはじめているのかもしれないです。その人が選んだできた道や人生と作品が上手く重なって、その人なりの答えが出るようなものがいちばん美しいと思います。

村上虹郎とともに編集者に持ち込んだ企画『虹の刻』で表現した、「言葉にならなかった感情、映画にならなかった景色」

―それこそ、最初に話した『365 STEPS』も、そういうものになっていますよね。あと、これは「写真家」としての仕事になりますが、12月24日には、村上虹郎さんとの共著というか、村上さんがモデルで山田監督が写真を担当しているフォトブック『虹の刻』が発売されました。

山田:これは2018年の1月から2020年の3月まで雑誌でやっていた写真連載をまとめた書籍なんですけど、単なるフォトブックじゃなくて、名だたる文筆家の人たちに、文章でも参加してもらっていて。

―又吉直樹さん、町田康さん、新井英樹さん、古川日出男さん、常田大希(King Gnu)さんなど、錚々たる人々が文章を書きおろしていますが、これはもともと、どんなアイデアでスタートした企画だったのですか?

山田:虹郎くんとは、もう10年近い付き合いになるんですけど、まず第一に僕は彼のことをものすごく魅力的に思っていて、何年か前に「仕事じゃないけど、写真を撮らせてほしい」って言って、一緒に九十九里まで行って写真を撮ったんですね。そのときの写真が思いのほかよくて、「どっかで発表したいよね」「だったら雑誌がいいよね」みたいな話になって、知り合いの編集者に提案させてもらって。

―2人の持ち込み企画だったんですね。

山田:そうなんです。ただ、どうせやるなら、ただの写真連載ではなく、いままでにない面白いものを作りたくて。

村上虹郎・山田智和『虹の刻』書影
村上虹郎・山田智和『虹の刻』書影(詳細を見る

山田:最初の企画書に「言葉にならなかった感情、映画にならなかった景色」って僕が書いたんですけど、だったら脚本家がいてもいいというか、文章とのコラボレーションも面白いんじゃないかってみんなで話して、毎回ゲストで、僕ら好きな文筆家の方々に文章をお願いすることになったんです。

結果的に、僕らが最初思っていたよりも、すごく遠いところまで飛ばしてもらった手応えがありました。ひとつの写真もその文章によって見え方が変わるし、その文章自体も写真によって全然意味が変わってきたりして……それがすごく面白かったんですよね。そういう大きなクリエイションの渦みたいなものが、この本の中で生まれたような気がしています。

―それも先ほど言っていた、「その人が選んできた道や人生と作品が上手く重なって、その人なりの答えが出るようなものがいちばん美しい」という話と通じるところがあるのかもしれませんね。

山田:そうですね。最初からずっと、そういうことを自分はやりたいんですよね。

山田智和

―そんな激動の2020年も終わり、2021年を迎えたわけですが、最後に今年の抱負を聞かせてください。不安な状況は、まだしばらく続きそうではありますが。

山田:そうですね。状況が急に変わらないように、急に新しいことはできないと思うので……BossのウェブCMじゃないですけど、これからも一歩一歩、ちゃんと積み重ねていくことが大事というか。その都度その都度、普段の生活や、身近な人の中に感じたことをちゃんと拾っていきながら、それを届けることが自分の役割な気もしているので、そういうことを丁寧にやっていくしかないのかなと。

あと、自分はやっぱり、「クリエイションの先に、次のクリエイションがある」と思っているので、一つひとつの作品としっかり向き合いながら、その歩みだけは止めないようにしたいなって思っています。

Page 5
前へ

書籍情報

『虹の刻』
『虹の刻』

2020年12月24日(木)発売
著者:村上虹郎、山田智和
価格:3,080円(税込)
発行:CCCメディアハウス

プロフィール

山田智和(やまだ ともかず)

映画監督、映像作家。東京都出身。クリエイティブチームTokyo Filmを主宰、2015年よりCAVIARに所属。2013年、『WIRED Creative Huck Award』にてグランプリ受賞、2014年、『ニューヨークフェスティバル』にて銀賞受賞。水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を表していく。2018年にはヒップホップシーンのみならず幅広い世代に衝撃を与えたKID FRESINOの“Coincidence”や、YouTube再生回数が6億回以上を記録した米津玄師の“Lemon”、あいみょんの“マリーゴールド”、星野源“Same Thing (feat. Superorganism)”など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMOクリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐に渡る。渋谷駅で行われたエキシビション『SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN』にて「Beyond The City」を発表。伊勢丹にて初の写真展『都市の記憶』開催。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『角舘健悟 × 青葉市子 Live at Waseda Scotthall』

2020年、全4回にわたって行われてきた対談連載企画『角舘健悟の未知との遭遇』。青葉市子と遭遇し、教会に迷い込んだ2人の秘密のセッションの様子が公開された。本連載の趣旨でもあり、2人を繋いだYogee New Wavesの”Summer of Love”と、青葉市子の”みなしごの雨”を披露。クリスマスの夜にどうぞ。(川浦)

  1. KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢 1

    KID FRESINOが示す良好なバランス。多層的な創作者としての姿勢

  2. 木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM 2

    木村拓哉がスーツ姿で仲野太賀、塚地武雅と共演 マクドナルド新CM

  3. Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る 3

    Gotchが歌う「生の肯定」 現代社会のほころびを見つめ直して語る

  4. 山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里 4

    山田孝之主演のNetflix『全裸監督』シーズン2 新ヒロインに恒松祐里

  5. 綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像 5

    綾野剛が白昼の商店街を疾走、映画『ヤクザと家族 The Family』本編映像

  6. キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM 6

    キンプリ平野紫耀と杉咲花がウサギになりきってぴょんぴょんするHulu新CM

  7. 『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録 7

    『鬼滅の刃』煉獄杏寿郎の日輪刀を再現 「うまい!」などセリフ音声収録

  8. 吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに 8

    吉高由里子、知念侑李、神宮寺勇太が「アレグラFX」新広告キャラクターに

  9. 緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表 9

    緊急事態宣言下における「ライブイベント公演の開催」に関する共同声明発表

  10. ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材 10

    ermhoiの「声」を輝かせている生い立ち、思想、知識、機材を取材