インタビュー

入江陽×柴田聡子 YouTubeやドキュメントに潜むアブない「真実らしさ」

入江陽×柴田聡子 YouTubeやドキュメントに潜むアブない「真実らしさ」

インタビュー・テキスト
松井友里
撮影:タケシタトモヒロ 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)

油断した心に入り込む。「真実らしさ」のワナにご用心

―カップルチャンネルという世界もまた奥が深そうですよね。

柴田:そうなんですよ、すごいの。やがて別れちゃって「私たちは別れることになりました」っていう動画をあげたりする。

―それがまたすごく深刻な雰囲気の動画だったりしますよね。

柴田:そういう報告をするときに笑うのは不謹慎だっていう風潮がありません? 最近も、YouTuberのグループが解散を報告する動画で「へらへらしていた」みたいな理由で炎上していて。

入江:それで怒るということは、「YouTube上で起こること」を事実として結構ピュアに信じているんでしょうね。ちょっとした聖域みたいな感覚があるのかもしれない。

柴田:最近、みんなが「真実コレクター」みたいになっている気がするんですよね。とにかく真実であることが最上。一方で、炎上とかもいったん収まったら、それまで真実を追求して怒っていたはずなのに、そこまでこだわりもなさそうなのが興味深いなと思います。

入江:見ているほうも、炎上も含めてYouTuberライフだと思っている感じがしますよね。もしかしたら炎上したことあるほうがいいくらいの世界なのかもしれません。

入江陽

―炎上すら含めてすべて見せてくれることで、「嘘のなさ」を感じて信頼できるような感覚があるのかもしれませんね。真実らしいものを探し求めていく欲望って、ともすると陰謀論とも相性がいいように思います。

入江:信じているわけじゃないですけど、陰謀論的なものって、YouTubeで見るとのめり込みやすいと感じる怖さがあります。下世話な動画ばかり見ていると、だんだんCMのクオリティーが落ちていって、怪しい内容ばかりになっていくんです。面白がって見ているうちに意外と何時間も経っていたりして、それって結構危ういなと思うんですよ。YouTubeに対してちょっと舐めている分、かえって心を開いている感じがあるんですよね。

―見る態度として油断しているからこそ、怪しげな情報も心の隙間に入ってきやすいのかもしれないですね。

柴田:しかも、ついつい見てしまうような作りをしていますよね。音も無料で使える妙に頭に残る音楽を使っていたり、ちょっとクオリティーを低くすることで、場に合わせているような感じがする。

入江:テレビのようなクオリティーの高いYouTubeがあまり見られないのと同じことですよね。単にクオリティーが低いだけだと多分ダメなんですけど、ジャンクフード的なよくできた独特のクオリティーの低さがあると思います。

柴田:ドン・キホーテが、売れるからあの陳列になっているような感じですね。

―テロップの出し方とかも、この10年間くらいでみんなが研ぎ澄ました知恵の結晶みたいになっていますよね。

入江:みんなが同じコンテンツをやるし、手法も真似したほうがいい世界なんですよね。だから、1人で逆張りして、出し抜くようなことは難しいんでしょう。

柴田:そうやってみんなで切磋琢磨してコンテンツを磨いていって、巨万の富を生み出すという。再生回数の多いYouTuberって、とんでもなくお金を稼いでるのが驚きというか感服しますよね。

柴田聡子

入江:そこにNetflixとの共通点を感じるんですよね。「Netflix=巨大YouTuber説」というのを考えていて。Netflixもお金があるから、なんでもできるじゃないですか。スポンサーに気を使うのが面倒になったという点では同じであるような気がするんです。芸能人はスキャンダルでテレビに出られなくなったら収入が途絶えちゃいますけど、YouTubeはチャンネルさえなくならなくて、ファンが離れなければ、どんなに世間から叩かれようが、一定の収益を得続けることができますもんね。

柴田:YouTubeの世界って独特な若さを保ったままで、重みを増して成長していく感じじゃないのも興味深いです。企業も、最初は小規模でも成熟していくと権威みたいになっていくじゃないですか。そういう責任感みたいなものがあまりない感じも、見ている側としては楽しいのかもしれない。

入江:テレビに対するカウンターのカルチャーだから、権威になってしまうよりダーティーに振る舞っているほうがファンにとっても心地よさそうですよね。1つ聞いてみたかったのが、柴田さんは、言いづらいけど実はよく見ているYouTubeチャンネルってあります? 関連動画に出ているのを見られると恥ずかしいような。

柴田:……つい見ちゃうのは、○○○○○(金融情報を発信するYouTubeチャンネル)ですね。見てるけど、ちょっと言いづらい(笑)。

入江:実はそれ、僕も見てます! お金の勉強になるんですよ。

柴田:ミュージシャンが投資などについて考えることのダサさを考えてしまって。もちろん、これからは大事なことだと思うんですけど、もうちょっとローリングストーン的に生きたいなとか思ったり。

入江:宵越しの金は持たないみたいなね。でも僕は無駄遣いが減ったし、動画をアップしている人に感謝してます。めちゃくちゃ見ているけど言いづらかったので、柴田さんも見ているなんて、嬉しいです。

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連載情報

『2人は配信ヘッズ』

シンガーソングライターの入江陽と柴田聡子が、自身の気になる配信動画サービスの作品を語り合う。話題が逸れたり、膨らんだりするのも自由きままな、読むラジオのような放談企画。

プロフィール

入江陽(いりえ よう)

1987年、東京都新宿区生まれ。現在は千葉市在住。シンガーソングライター、映画音楽家、文筆家、プロデューサー、他。今泉力哉監督『街の上で』(2021年春公開予定)では音楽を担当。『装苑』で「はいしん狂日記」、『ミュージック・マガジン』で「ふたりのプレイリスト」という連載を持つ。最新曲は“週末[202009]”。

柴田聡子(しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。恩師の助言により2010年より音楽活動を開始。最新作『がんばれ!メロディー』まで、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。また、2016年に上梓した初の詩集『さばーく』では現代詩の新人賞を受賞。雑誌『文學界』でコラムを連載しており、歌詞にとどまらない独特な言葉の力が注目を集めている。2017年にはNHKのドラマ『許さないという暴力について考えろ』に主人公の姉役として出演するなど、その表現は形態を選ばない。2020年7月3日、4曲入りEP『スロー・イン』をリリース。2021年5月12日、『がんばれ!メロディー』アナログ盤の発売が決定している。

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