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「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る

「千葉=無個性」への反抗。写真展『CHIBA FOTO』を語る

千葉市
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:佐伯享介(CINRA.NET編集部)

「千葉市には何も特徴がない」

そんな世間のイメージに対して「本当にそうでしょうか?」と疑問を投げかける。『千の葉の芸術祭』のステートメントは、そんなふうに千葉市に対するパブリックイメージへの異議申し立てから始まる。

『千の葉の芸術祭』は、「何も特徴がない」という千葉市へのレッテルを跳ね除け、土地の魅力を再発見することを目指した芸術祭だと言えるだろう。その中核を担うプログラムが、千葉ゆかりの写真家たち12人が参加する写真芸術展『CHIBA FOTO』である。

『CHIBA FOTO』のユニークな点は、美術館だけでなく、百貨店や歴史的建造物、公園内の休憩所、コミュニティセンターなど、市民が日常的に使う千葉市内のさまざまな施設を展示会場として使用していることにある。

普段はアートと無縁な場所に展示用の壁をつくり、柱を立て、空間をデザインし、作品が輝くための「舞台」へと仕立て上げる。そんな仕事に「セノグラフィー」と呼ばれる方法論で挑んだのは、『千の葉の芸術祭』のアートディレクターを務める、グラフィックデザイナーのおおうちおさむだ。

今回はそんなおおうちに取材を実施。日本の芸術祭が抱える課題や『CHIBA FOTO』の狙い、そして各会場のみどころについて、地元の人間としての本音も交えながら話してもらった。

千葉出身のアートディレクターが本音で語る。芸術の「地産地消」とは?

―おおうちさんは『千の葉の芸術祭』のほかに『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』にも関わっていらっしゃいますね。日本における芸術祭と地域の関係について、どんなことを感じていますか?

おおうちおさむ<br>1971年生まれ、千葉市稲毛区で育つ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒。故・田中一光に師事し、2003年7月7日に有限会社ナノナノグラフィックスを設立。平面と空間の相乗効果を創作の軸に置き、グラフィックからスペースデザインまで幅広い活動を展開。
おおうちおさむ
1971年生まれ、千葉市稲毛区で育つ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒。故・田中一光に師事し、2003年7月7日に有限会社ナノナノグラフィックスを設立。平面と空間の相乗効果を創作の軸に置き、グラフィックからスペースデザインまで幅広い活動を展開。

おおうち:いま日本には、石を投げれば当たるほど多くの芸術祭がありますよね。その多くは、たとえば『瀬戸内国際芸術祭』のように、特色ある土地の風景と、従来はホワイトキューブの中で展示されている著名作家によるアート作品とのコントラストで見せる方法を取っていると思うんです。

一方、『千の葉の芸術祭』の舞台である千葉市ってとくに個性がない。京都のような歴史があるわけでもないし、瀬戸内のように自然が豊かなわけでもない。出身者だからこそ少し悪く言ってしまうと、わざわざ訪れる動機があまりない。

―いわゆる郊外ですよね。

おおうち:そうそう。大都会でもないし、「田舎」という記号性もない。そうした場所に、コンテンポラリーアートという非日常的なものを持ってきても、なにかコントラストが生まれるのだろうか? そうした疑問は、企画の最初からありました。

―そういった問題意識を抱えてスタートした写真芸術展『CHIBA FOTO』ですが、出展作家はどんな方々なんでしょうか?

おおうち:千葉に縁がある作家にかぎっています。外からアーティストを呼んできてインストールするより、もとからその土地にあったものを見直し、組み合わせて、いかに新しいものをつくれるか。作品も千葉で撮影されたものが中心なので、いわば芸術の「地産地消」ですね。『千の葉の芸術祭』が目指しているのは、地域と紐付いて開催されることの多い芸術祭の、本来の姿なのだと言えるかもしれません。

『千の葉の芸術祭』ビジュアル
『千の葉の芸術祭』ビジュアル

千葉市内の13会場を展示空間に変えた「セノグラフィー」とは?

―『CHIBA FOTO』は美術館だけでなく、千葉市内の商業施設や店舗跡地、公園などさまざまな場所で開催される展覧会です。会場の場所はどのように選んだのでしょうか?

おおうち:地図を見て、何回も歩き回って、本当に足で決めていきました。行政側から断られてしまったり、民間の場所が使えなかったり、なかなか大変でした(笑)。

―苦労話はたくさんありそうですね。今回、おおうちさんは「セノグラフィー」と呼ばれる手法で会場の設計をされたと聞きました。これはどのような方法論なのでしょうか?

おおうち:セノグラフィーは「Scene」と「Graphic」を組み合わせた言葉で、日本では舞台演出、舞台美術を指すのが一般的ですが、ぼくはそれをアート展の空間デザインにも使っています。一般的な展示設計よりも、来場者の鑑賞体験を重視した、演出的な空間設計をすること、という意味を込めています。

―なるほど。セノグラフィーを通して、おおうちさんが実現したいことはなんでしょうか?

おおうち:一言で言えば、鑑賞者の「展覧会を見る喜び」を通常よりも一段引き上げたい、ということ。たとえば展示会場の床を磨き上げることで空間の見え方や感じ方を変えるとか、そういった細かいことの積み重ねによって、あくまで作品を主役に据えたうえで、訪れた人の体験をより濃く、満足度の高いものにしたいんです。

そごう千葉店で「プロジェクト型写真」を展示する宇佐美雅浩

―『CHIBA FOTO』の具体的な展示についても聞かせてください。そごう千葉店の滝の広場には宇佐美雅浩さんの作品が展示されていますね。この作品は『CHIBA FOTO』のポスターでも使われています。

そごう千葉店9階 滝の広場にある展示会場
そごう千葉店9階 滝の広場にある展示会場

おおうち:そごう千葉店は千葉駅前にあり、市外からの鑑賞者にとっては芸術祭のスタート地点となりうる場所。展示会場となる滝の広場は吹き抜けになっていて、『CHIBA FOTO』のことを知らなかった人の目にもとまる可能性が高い。そこも狙いでした。

宇佐美さんは、多くの人々を被写体にした大掛かりな一発撮りの写真を撮影する作家です。ポスターの作品は、彼のお父さんが千葉の川崎製鉄で働いていた関係から、画面の右半分と左半分に、過去と現代の鉄工所の制服を着た人たちが並んでいる写真を撮影したものです。背景には昔の総武線快速の車両や川崎製鉄の溶鉱炉を再現したセットを、実際に並べています。

宇佐美雅浩『宇佐美正夫 千葉 2021』を使用した『CHIBA FOTO』ポスタービジュアル
宇佐美雅浩『宇佐美正夫 千葉 2021』を使用した『CHIBA FOTO』ポスタービジュアル

―この写真、CGや合成ではないんですね……! 撮影は大変だったのではないでしょうか。

おおうち:そうですね。風が強すぎて鉄工所の煙がうまく撮影できなかなかったり、大勢の人を長時間にわたって拘束しなければいけなかったり、大変なことばかりでした(笑)。

でも、できあがった作品を見ると、千葉市の過去と現在が同じ空間に共存する絵巻物のような作品になっていて、とてもテンションが上がりました。これは芸術祭の「顔」に相応しいなと。

そごう千葉店9階の展示会場
そごう千葉店9階の展示会場

―そごう千葉店の展示では入口部分に鏡が貼られていますが、じつはすべての展示会場に共通して、鏡面素材が使われていますね。どういった意図があるのでしょうか?

おおうち:鏡に映る鑑賞者や空間を通して「千葉を写し込む」ことで、街自体が作品の一部になるような演出効果を狙っています。また、展示会場に鏡が突然現れることで、鑑賞者が一瞬なにを見ているのかわからなくなるような、そんな非日常的な体験を生み出したいなと思っています。

千葉市美術館1階 さや堂ホールの展示会場。佐藤信太郎の作品が、鏡を大胆に用いた空間に展示されている
千葉市美術館1階 さや堂ホールの展示会場。佐藤信太郎の作品が、鏡を大胆に用いた空間に展示されている
千葉市美術館11階 講堂で開催されている北井一夫の展示。鏡を使って、作品が遠くまで連なっているような効果を生み出している
千葉市美術館11階 講堂で開催されている北井一夫の展示。鏡を使って、作品が遠くまで連なっているような効果を生み出している
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イベント情報

『CHIBA FOTO』
『CHIBA FOTO』

2021年8月21日(土)~9月12日(日)

参加作家:
宇佐美雅浩
川内倫子
清水裕貴
新井卓
吉田志穂
蔵真墨
佐藤信太郎
本城直季
北井一夫
楢橋朝子
金川晋吾
横湯久美
ARCHIVES写真展示

プロフィール

おおうちおさむ

1971年生まれ、千葉市稲毛区で育つ。多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒。故・田中一光に師事し、2003年7月7日に有限会社ナノナノグラフィックスを設立。平面と空間の相乗効果を創作の軸に置き、グラフィックからスペースデザインまで幅広い活動を展開。国内外問わず著名写真家やアーティストのデザインを手がけている。

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