夏目知幸が、バンド変化期の重要な2作を振り返り、全曲を解説
『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』- テキスト
- 渡辺裕也
- 撮影:小河原万里花 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

全4回にわたってシャムキャッツの歩みをその歌詞から振り返るトークイベント『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』。10月25日(金)に開催された第2回は、彼らの名をインディシーン全土に轟かせた『AFTER HOURS』(2014年)『TAKE CARE』(2015年)の2作を取り上げ、なんと収録曲の全曲解説が行われました。
この日は当時のアルバム制作時に書き残した各曲の詳細なメモを夏目くん本人が持参し、そのコピーをお客さん全員にプレゼント。「今日は話せることぜんぶ話す!」ということで、またしても予定時間を超過する盛り上がりとなりました。ところがイベント後半、そんな夏目くんに異変が起こり、まさかのスペシャルゲスト登場。そんなアクシデント込みのレポートをぜひお楽しみください。
「自分たちが育った街はこんなに美しい場所だったんだ」と感じさせてくれるような音楽をいま残したいって。
―夏目くんは『たからじま』(2012年)を経て、シャムキャッツに合う表現方法をあらためて見つめ直していたと。たしか前回はそういう話でしたね(参考:夏目知幸が10年を振り返る。心情描写をしていたバンド初期)。
夏目:そうですね。このバンドのストロングポイントをちゃんと考えなきゃなって。そこで思ったのが、メンバー全員の出身地が一緒なのってバンドの強みだよなってことだったんです。つまり、ここで浦安出身の俺らが浦安を舞台にしたアルバムを作ったらどうだろうと。そのきっかけとしては、やっぱり震災(東日本大震災)も大きかったんですけど。
―浦安は液状化現象によって、かなり深刻な被害に遭いました。
夏目:もういちど大きな地震が来たら、多分この街はもうダメだろうとあの時は思ってました。それくらいに街がグチャグチャだった。そこで思ったんです。もしものことがあるかもしれない。だったら「自分たちが育った街はこんなに美しい場所だったんだ」と感じさせてくれるような音楽をいま残したいって。『AFTER HOURS』はそういう気持ちで作ったんです。
シャムキャッツ『AFTER HOURS』を聴く(Apple Musicはこちら)
この頃から映画をよく観るようになったので、その影響もかなり大きかったんです。
―では、早速その『AFTER HOURS』を1曲ずつ見ていきましょう。まずは1曲目“FENCE”。この曲は「俺」という一人称で歌詞が展開していきますが、そこで語られているのは感情の吐露ではなく、彼がいま置かれている状況の説明になってます。
夏目:“FENCE”はトラックができた段階で、これが1曲目になりそうな予感はしてて。街を描いたコンセプトアルバムの1曲目なんだから、ここははっぴいえんどをひっぱってこようと。そこで『風街ろまん』(1971年)1曲目の“抱きしめたい”の<僕は煙草をくわえ一服すると君のことを考えるんです>という歌詞を雛形にした、と言うかあえてそのまんま入れ込んだのが<俺はタバコをくわえ一服すると>というラインです。
あと、同じく街を描いたアルバムとして、スフィアン・スティーヴンス『Illinois(イリノイ)』の歌詞から「監視台」のイメージをひっぱってきて。「このふたつのワードから浦安を舞台にした物語を作れるかもしれないぞ」と。要は先人たちが街をテーマに作ったアルバムを参考にしつつ、その浦安バージョンを書きたいなと思ったんです。
―<半ズボンのあいつ>というキャラクターはなにを示唆しているのでしょうか?
夏目:東京で生活している男が浦安に帰ったら、そこでかつての自分に出会ったっていう、そういう感じですね。そういう曲が1曲目だったら、アルバムのテーマ的にも整合制があるなって。
なので、<半ズボンのあいつ>はアルバム全体のことを考えていくなかで出てきたキャラなんです。各曲に登場するキャラの座組がほぼ見えてきた時点で、主人公が自分と対峙するような曲をまだ書いてないってことに気づいて、それで作った曲ですね。
―2曲目“MODELS”に登場するのは「彼」と「彼女」。三人称でそれぞれの状況が語られていくなかで、このふたりの関係性が少しずつ見えてきます。
夏目:この曲は場面転換が多いし、サウンド的にちょっと漫画っぽいなっていうイメージもあったので、ここは三人称でいこうかなと。そこからまず枠を決めちゃって、1番は「彼」、2番は「彼女」について歌うっていう。
そうやってカメラワークを移動させていこうっていうアイデアでした。歌詞でシーンの切り替わりを意識したのは、多分この頃からだと思う。このアルバムを作る2年前くらいから映画をよく観るようになったので、その影響もかなり大きかったんです。
―“MODELS”の「彼女」はどういうイメージから生まれたキャラクターなのですか?
夏目:僕は高校から東京に通ってたので、通学時間が出勤時間と重なるんですよ。で、この「彼女」は「もしあの電車に乗ってた女の人に、工業団地でトラックドライバーをやってる彼氏がいたらどんな感じかな」みたいな妄想から生まれたキャラクターなんです。
―“MODELS”には「タモリがはしゃぎ」という印象的なフレーズも出てきます。当時は『笑っていいとも!』(フジテレビ系)が終了する前でしたっけ?
夏目:もうすぐ終了するってことがアナウンスされた時期ですね。
―つまり、この歌詞には当時の時代背景が思いっきり刻まれるわけじゃないですか。それこそ2019年の今、タモリはお昼にはしゃいでないわけで。この「タモリ」という言葉には当時のちょっとした日常風景が集約されているなと。
夏目:バイト先の休憩室に行くと、テレビでたまに『笑っていいとも!』が流れてたんです。そのイメージもけっこう大きかったな。きっと「彼女」も仕事の昼休みにお弁当をもって、休憩室で『いいとも』観てるんじゃないかなって。
ただ、この曲でもなるべく直接的な表現は避けていて。“MODELS”の歌詞って、このふたりが付き合ってるとは一切言ってないんです。「愛しい」という言葉はあるにせよ、付き合ってるのかどうかはちょっとわからないというか。なんとなくその匂いはあるかなって感じですね。
シャムキャッツ『AFTER HOURS』トレイラー
イベント情報

- 『第2回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
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2019年10月25日(金)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也
- 『第3回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
-
2019年11月16日(土)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也
- 『第4回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』
-
2019年12月28日(土)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也
リリース情報

- シャムキャッツ
『はなたば』(CD+DVD) -
2019年11月6日(水)発売
価格:2,420円(税込)
TETRA-1018[CD]
1. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了[DVD]
『バンドの毎日4』

- シャムキャッツ
『はなたば』(LP) -
2019年11月20日(水)発売
価格:2,750円(税込)
TETRA-10191. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了
プロフィール

- 夏目知幸(なつめ ともゆき)
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東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。