マカロニえんぴつ、結成8年間の歩み。着実に手にした評価と支持

結成から8年、信じ続けたものーー「バカにされても信じ続けろよ。好きなものだけは手放すな」

9月3日、マカロニえんぴつが配信ライブ『マカロックONLINEワンマン~豊洲から愛をこめて~』を開催し、TOY’S FACTORYからのメジャーリリースを発表した。本編ラスト“ヤングアダルト”の演奏前に、はっとり(Vo,Gt)は「やっぱり目の前で、あなたと一緒に歌いたい」と配信ライブに対する複雑な思いを語った上で、視聴者にこう伝えている。

「バカにされても信じ続けろよ。好きなものだけは手放すな。マカロニえんぴつもそうやって、8年やってきました」

マカロニえんぴつ
メンバーは、はっとり(Vo,Gt)、高野賢也(Ba,Cho)、田辺由明(Gt,Cho)、長谷川大喜(Key,Cho)。2012年はっとりを中心に神奈川県で結成。メンバー全員音大出身の次世代ロックバンド。はっとりのエモーショナルな歌声と、キーボードの多彩な音色を組み合わせた壮大なバンドサウンドを武器に圧倒的なステージングを繰り広げる。11月4日にEP『愛を知らずに魔法は使えない』をメジャーリリースする。

マカロニえんぴつの結成は2012年で、3年後の2015年にインディーズデビューと、幸先のいいスタートを切った。しかし、CINRA.NETが昨年行ったインタビュー(記事はこちら)ではっとりが「『ネクストブレイクアーティスト』みたいなことは毎年言われてて、だんだん高望みしなくなった」と話してくれたように、2枚のミニアルバムを発表するも伸び悩み、停滞期を経験。近年YouTubeやストリーミング、SNSの力で一気にブレイクするアーティストも珍しくなくなった中、結成から8年でのメジャーリリースというのは短くない道のりだと言えよう。

はっとり

そもそも音楽大学のロック&ポップスコースで出会ったメンバーを中心に結成されたマカロニえんぴつの楽曲は、良くも悪くも「時代性」とは無縁のものだった。この日1曲目に演奏された“hope”はThe Policeの“Every Breath You Take”とJourneyの“Don’t Stop Believin'”に対するオマージュが込められていて、はっとりとギターの田辺由明はもともとハードロックを愛好。田辺のフライングVはその象徴だ。

OasisやWeezerといった1990年代ロックからの影響も随所に感じられ、クラシカルな技法に基づいたポップなソングライティングは早くから注目されていたものの、ロックフェスが市場規模を拡大し、BPMの速いフィジカルな楽曲が求められた時流との相性はよくなかった。初期の作品はシーンを意識したことが逆に伸び悩みに繋がった側面もあったように思う。

“hope”ミュージックビデオ

田辺由明

マカロニえんぴつが一人ひとりの心を愚直に掴んでいけた理由

転機となったのはmuffin discs内のレーベルTALTOへの移籍で、sumikaやSUPER BEAVERといったレーベルの先輩バンドから刺激を受けつつ、徐々に自身のアイデンティティを見つめ直すと、シングル『レモンパイ』(2018年10月発売)に続いて、2019年2月にミニアルバム『LiKE』を発表。ジャズやフュージョンを愛好するキーボードの長谷川大喜の色が出たAOR調の人気曲“ブルーベリーナイツ”や、ベースの高野賢也によるファンキーなプレイに乗せて、<安心の裏打ちはお預け>と歌う“トリコになれ”など、全曲がBPM120以下のこの作品で、「マカロニえんぴつらしさ」をはっきりと打ち出し、サブスクの浸透によるメロディー重視の流れにも背中を押され、その人気を確かなものにしていった。

マカロニえんぴつ『LiKE』を聴く(Apple Musicはこちら

長谷川大喜
高野賢也

今年4月に発表されたアルバム『hope』では、タイトル曲はもちろん、“Whatever”を連想させる4拍子のミディアムナンバーが終盤で突如3拍子に変化する“恋人ごっこ”など、遊び心たっぷりのアレンジでバンド感を提示。最新シングルの“溶けない”も間奏にプログレ風のセクションを挟んだ一癖ある仕上がりだった。

配信ライブでは、“溶けない”からメンバーのソロ回しを含む熱量の高いセッションへとなだれ込み、そこから“ブルーベリーナイツ”へと繋げ、この流れは「ポップミュージックを作るロックバンド」としてのマカロニえんぴつを堂々と印象付けるものであった。ソフトウェアの進歩に伴うポップミュージックの高水準化の一方で、整ってはいるが面白味に欠ける楽曲も少なくないと感じる中、彼らのようなバンドはやはり貴重である。

マカロニえんぴつ『hope』を聴く(Apple Musicはこちら

“溶けない”ミュージックビデオ

リスナーにとって「逃げ場所」であり続ける、はっとりの歌詞

もうひとつ、彼らが現在10代から20代前半の若いファンからの絶大な支持を獲得している要因として、はっとりの書く歌詞の魅力が挙げられる。この日披露された中で最も古い曲で、TALTOへの移籍前に書かれた“ハートロッカー”を演奏する際、はっとりが「いつまでもいつまでもいつまでも、あなたの大事な大事な逃げ場所であり続けたい!」と語ったように、現在のマカロニえんぴつはどこにも居場所を見つけられずに孤独を感じている似た者同士をそっと抱きしめるような、包容力のあるバンドになった。

前述した昨年のインタビューで、はっとりは“ハートロッカー”について、「前は一人称で自分の言葉にできない思いを『言葉にできない!』って言ってるだけ。でも今は全く逆で、第三者の立場になって、遠くからメッセージを贈っている」と語っていたが(記事はこちら)、その象徴がラストに演奏された“ヤングアダルト”だ。<ハロー、絶望 こんなはずじゃなかったかい?>というフレーズが印象的なこの曲は、誰しもの側に当たり前のようにある絶望を見つめながら、実はそのすぐ裏側にあるはずの希望について歌った名曲。<手を繋いでいたい>と、不確かな希望を歌う“hope”に始まり、絶望の先で<僕らは美しい>と自ら(と、彼らを支持するすべての人)を肯定する“ヤングアダルト”で締め括るというこの日のセットリストは、そのままマカロニえんぴつの8年間を凝縮したものだったようにも思う。

“ヤングアダルト”ミュージックビデオ

「音楽」そのものへの愛情が溢れ出た、MCでの言葉

“ヤングアダルト”の演奏前のMCで、はっとりはこんな言葉も残している。

「どうか元気で。死なないでください。僕らの音楽にも、溢れるたくさんの音楽にも、全部委ねてみてください」

2020年、思いもよらぬ絶望と出会ってしまった僕らに今必要なのは、その裏側にあるはずの希望を何とか見出そうとすることであり、あらゆるものにリセットが押され、確かなものが存在しない今だからこそ、もう一度自分が本当に愛しているものを見つめ直すということだ。

UNICORNに憧れて、彼らのアルバムタイトルを自らの名前にしてしまった男がフロントマンを務め、楽曲の中にポップミュージックの歴史をオマージュという形で詰め込むマカロニえんぴつ。「僕らの音楽に全部委ねてみてください」ではなく、わざわざ「溢れるたくさんの音楽にも」と付け加えたのは、彼らの強い音楽愛の表れに他ならない。「好きなものだけは手放すな」。この言葉の持つ意味を、何度でも噛みしめたい。

この日発表されたメジャーデビュー作のタイトルは『愛を知らずに魔法は使えない』。音楽愛に貫かれたバンドが先行きの見えない時代にどんな愛の歌を響かせるのか。今からとても楽しみだ。

“hope”のTHE FIRST TAKE映像

10月3日からテレビ東京系で放送されるテレビアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のオープニング主題歌を歌うことも決定している
番組情報
『マカロニえんぴつ「マカロックONLINEワンマン~豊洲から愛を込めて~」』

2020年9月3日(木)20:00~マカロニえんぴつ公式チャンネル、LINE LIVE LINE MUSICチャンネル、LINE LIVE スペースシャワーTVチャンネルで配信

リリース情報
マカロニえんぴつ
『愛を知らずに魔法は使えない』初回限定盤(CD+DVD)

2020年11月4日(水)発売
価格:3,000円(税込)
TFCC-86727

マカロニえんぴつ
『愛を知らずに魔法は使えない』通常盤(CD)

2020年11月4日(水)発売
価格:1,800円(税込)
TFCC-86728

プロフィール
マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ

メンバーは、はっとり(Vo,Gt)、高野賢也(Ba,Cho)、田辺由明(Gt,Cho)、長谷川大喜(Key,Cho)。2012年はっとりを中心に神奈川県で結成。メンバー全員音大出身の次世代ロックバンド。はっとりのエモーショナルな歌声と、キーボードの多彩な音色を組み合わせた壮大なバンドサウンドを武器に圧倒的なステージングを繰り広げる。全国にマカロックを響かせるべく都内を中心に活動中。11月4日にEP『愛を知らずに魔法は使えない』をメジャーリリースする。



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