タイプ別、個性を生かす育成方法とは? ミュージシャンとマネージャーの関係性から考える

クリエイティブな才能の持ち主に多く見られる「自閉症スペクトラム」の傾向

ミシェル・ゴンドリーが手がけた“Ride”のMVでもおなじみのThe Vines。そのフロントマンであり、様々な問題を起こしていたクレイグ・ニコルズがアスペルガー症候群と診断されたように、才能にあふれているが個性的すぎてつきあいづらいと考えられているアーティストは、アスペルガー症候群を含む「自閉症スペクトラム」の傾向が強いのかも知れない。そんな問題提起から、「個性的すぎる才能とどうつきあっていったらいいか?」について三人の識者が語るトークセッションが、11月1日に開催されたエンタメフェス『YEBISU MUSIC WEEKEND』内で行われた。

セッションのタイトルは、『個性的すぎる才能とつきあう方法~精神科医が明かす、才能育成・マネジメント法~』。精神科医であり『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』の著者でもある本田秀夫を講師に迎え、ミューズ音楽院で新人開発を担当して多くのバンドに関わってきた手島将彦、演劇・映像作品の脚本から企業コンサルティングの分野まで幅広く活躍する高階經啓(LENZ LLC.代表)の二人が聞き手となって行われたものだ。主にミュージシャンのマネジメントスタッフに向けて行われたセッションであったが、どんな業界で働いていようとも、誰もが抱えるコミュニケーションの問題を解決するヒントを与えてくれたように思う。

突出した才能と共存する「苦手なこと」

もしあなたがミュージシャンの育成をするならば、「1:人格者だけれど、演奏は最悪」「2:そこそこいい奴だし、演奏はまあまあ」「3:凄い才能があるけれど、人としては最低」な3人のうち、誰と一緒に仕事をしたいと思うだろうか?

本田氏は「プロのミュージシャンのように際立ってクリエイティブな人は、クリエイティブである反面で人格的な部分や社会性の面で問題を抱えている場合がある。しかし、日本の社会では『満遍なくそこそこできる』が求められ、苦手は克服すべきと考えられている」と現状を分析。手島氏は「例えば、極端に時間を守れないなど、どうしても苦手なことを抱えているミュージシャンも多いが、苦手なことをただ単に『何とかしろ』と命令をしても、問題が解消された試しがない。それは生まれつき苦手な場合もあり、苦手克服自体を目的にしても上手くいかない。本人がやりたいことをやるためになら、ある程度克服できるかもしれないが」という生の経験からくる具体例を出して説明し、それに本田氏も「マネジメントスタッフが『個性的すぎる人たち』と上手につきあうには、人格にダメ出しをするのではなく、いいところを見つけて才能を生かし、ひとつの側面から価値を決めないようにすべき」と主張した。

左から:本田秀夫、高階經啓、手島将彦(写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND、撮影:ossie)
左から:本田秀夫、高階經啓、手島将彦(写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND、撮影:ossie)

4種類の人間的な性質、あなたはどのタイプ?

本田氏は、精神医学的な視点から4つの特徴的な性格のタイプを紹介した。1つ目は、社交的で仕事熱心で責任感が強く几帳面な「うつ病予備軍タイプ」。2つ目は、自分に自信がなく人から称賛されたくて、成功しないことへの恐怖が強い「自己愛タイプ」。3つ目は、とにかくそそっかしい「ADHD(注意欠如・多動性障害)タイプ」。最後は、臨機応変な対人関係が苦手で、本能的に自分の関心、やり方、ペースを最優先する「自閉スペクトラム(AS)タイプ」。

このセッションでは、それぞれの分類に対応するミュージシャンタイプの分析が興味深く語られた。手島氏によれば「うつ病予備軍タイプ」は昨今のミュージシャンなら誰もが抱えがちな傾向で、その理由としてSNSの普及によってTwitterやFacebookでの情報拡散など、以前よりミュージシャン本人に求められる作業が多くなり、結果的に生まれながら苦手なことを無理にやらざるを得なくなっているケースがあることを挙げた。また本田氏は「自己愛タイプ」はバンド内でも目立つポジションにいる人に多く、才能がある場合でもちょっとしたきっかけで挫折しやすい傾向にあるとも指摘。また、「ADHDタイプ」はだらしなく時間にルーズな傾向が強いが、型にハマれば非常に生産性が高くマルチに活躍できる側面を持つという。そして、才能と苦手なことのギャップが最も目立つのが「自閉スペクトラムタイプ」。ゲイリー・ニューマン、クレイグ・ニコルズ、スーザン・ボイルなども「自閉スペクトラム」であることを自ら述べているそうだ。

写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND 撮影:ossie
写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND 撮影:ossie

個性的すぎる才能の持ち主と上手くつきあうには?

「自閉スペクトラムタイプ」など、個性的すぎてしばしば周囲との間で問題を起こすタイプといかに接すればいいのだろうか? 手島氏いわく「スタッフはアーティストが不満を言うと、すぐに『それはただのワガママだ』と判断するが、本当にワガママなのか? マネジメントシステムの都合とミュージシャンのやり方が合わないだけではないか」と問題を投げかける。その解消法として、特にダメ出しに弱い「自己愛タイプ」「自閉スペクトラムタイプ」には、「感情的な言葉をぶつけるとパニックに陥るので、情報のみを提供し筋道を立てて冷静にコミュニケーションを取れば、相手も理解できる」のだと三人は語る。例えばレコーディング現場で、「自閉スペクトラムタイプ」はこだわりが強いのでいつまでも作業が終わらないケースが多いが、空気の読めない「自閉スペクトラムタイプ」に「いつまでやってるんだ!」と感情的に言っても、解決はしない。逆に、スタジオ使用が時間超過することで経費が膨大になるなどデメリットを冷静に教えることで、問題もスムーズに解決するケースもあるという。そのほかにも「自閉スペクトラムタイプ」への対処法として、「現場では曖昧な指示はダメ、はっきり文字に書いたり、絵や写真で見せるなど視覚的に訴える手段が有効」だとのアドバイスもあった。

写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND 撮影:ossie
写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND 撮影:ossie

弱点の克服方法よりも、才能の伸ばし方を考えよう

このトークセッションを通じて実感したのは、豊かな才能を伸ばすために必要なことは、個人の資質を見抜いた上での1対1のコミュニケーションだということだ。アーティストマネジメントの現場では、過去からレコード会社や事務所が積み重ねてきたマネジメントケースにアーティストを当てはめ、セオリー通りに育成しようとするケースが未だに続いている。そこで、音楽専門学校の講師として数々の新人バンドを輩出しながらも、音楽的才能とは別のビジネスシステムの枠組みに適応できずに潰れていったミュージシャンをたくさん見てきたという手島氏は、本田氏とのやり取りのなかで現状を憂いつつ、マネジメント側がミュージシャン個々の「個性的すぎる」資質に向き合って精神的なケアができていれば、幸福な関係が築けたのではないか? と言っていた。手島氏も力説していたが、ミュージシャン本人にとっても、それをマネジメントする側にとっても、最も大事なのは「いい作品を作ること」。そのためには、「こうすれば売れる!」というセオリーに囚われているマネジメント側の意識改革こそが必要。弱点を克服させてひとつの型にはめるのではなく、「人は本来多様な存在であるということを意識し、生まれながらにして特異な性質を持った人もいるということを理解して、マネジメント側が従来の接し方を変え、ミュージシャンが伸び伸びと才能と個性を生かせる場を作ることにより、お互いの気も楽になる」と本田氏も語っていた。CD売り上げの不振などから音楽業界が停滞している昨今、アーティスト側の切磋琢磨以上にマネジメント側の意識改革と努力が、いい作品を産みだすきっかけとなり、売り上げ上昇への近道になるのではないか。それは音楽業界だけに限ったことではない。他のクリエイティブジャンルはもちろん、一般の会社組織の新人育成や組織運営、ひいては学生や仲間同士のつきあいにおいても、ここで話された「人同士のコミュニケーション」における注意事項と解決法は、きっと役立つはずだ。そんなことを考えさせられるトークセッションだった。

イベント情報
ミューズ音楽院 presents『個性的すぎる才能とつきあう方法~精神科医が明かす、才能育成・マネジメント法~』

2014年11月1日(土)
会場:東京都 恵比寿ガーデンプレイスタワー・STUDIO38

(メイン画像:写真提供:YEBISU MUSIC WEEKEND 撮影:ossie)

プロフィール
本田秀夫 (ほんだ ひでお)

信州大学医学部附属病院診療教授。東京大学医学部卒。医学博士。横浜市総合リハビリテーションセンターで約20年にわたって発達障害の人たちと家族の支援に従事。2011年4月より山梨県立こころの発達総合支援センター所長。2014年4月より現職。発達障害に関する学術論文多数。2002年より,イギリスで発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症協会理事。日本児童青年精神医学会代議員。著書に『自閉症スペクトラム~10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体~』(ソフトバンククリエイティブ)などがある。

手島将彦 (てしま まさひこ)

専門学校ミューズ音楽院・新人開発室長・ミュージックビジネス専攻担当。学生時代より音楽活動を本格化し、インディーズ/メジャーで数作品リリース。その後、マネージャーに転身。2000年よりミューズ音楽院にて主に新人開発を担当し、藍坊主、LOST IN TIME、THE LOCAL ART、school food punishment、Pragueなど多くのアーティストたちと関わる。

高階經啓 (たかしな つねひろ)

LENZ LLC.代表。ロッカクLLC.創立メンバー。東京大学医学部卒業後、広告の世界に。食品・飲料のファンコミュニティーから、IT機器などの技術系や古典芸能のオンライン教材など専門性の高い領域まで硬軟取り混ぜ対応。在学時より演劇に関わり、現在は「ストーリーテリング/届く言葉」をテーマに演劇&映像脚本、演出、コピーライティング、ワークショップの企画&ファシリテーションを展開。著書に『オアシスはどこにある?』(楽田康二名義の共著/育鵬社)、電子書籍『Sudden Fiction Project』シリーズ。



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