なぜ運営の裏側や内情、収支をも明かすのか?『岩壁音楽祭』の達成は山形の秘境から何を伝えるか

9月17日、山形県高畠町で音楽フェス『岩壁音楽祭』が開催された。イベント発表によると、来場者の約半数が25歳以下だったことに加えて、学生スタッフ約90人が参加。運営陣の言葉を借りれば「山形の外れにある秘境に、若いエネルギーが集結する1日」となった。

高さ50mの断崖絶壁に囲まれた採石場跡という特殊なロケーションに加えて、「オープンソースなフェス」を標榜しているのが『岩壁音楽祭』の大きな特徴だ。しかしなぜ、フェスの立ち上げ、開催に至るまでの裏側やリアルな内情を明かし、収支までもオープンにしているのか(ちなみに、初年度の大幅赤字から一転、今年は黒字を達成したそうだ)。

その理由は、フェス開催で得た知見を若い人に伝えたいから、なのだという。音楽フェスというユースカルチャーの祝祭という意味合い以上に、『岩壁音楽祭』には若者たち手渡したいものがあった。

「自分たちが持っているお金に限らない様々なものを出し合って、理想のフェスのチケットを買っているようなもの」という運営の想いからも想像できるように、『岩壁音楽祭』は数あるローカルフェスとはどこか大きく異なっている。

実際に『岩壁音楽祭』の現場はどのようであったか、またこのフェスが伝える可能性とはどんなものか。山形在住のライターのimdkmにレポートしてもらった。

(メイン画像:Photo by 髙野立伎)

石切場の跡地を活用したロケーション、フェスの裏側を見せる特異な運営。二度目の開催となった『岩壁音楽祭』

『岩壁音楽祭』は、山形県高畠町の瓜割石庭公園を会場とする音楽フェスティバルだ。手刻みで石を切り出していた石切場の跡をそのまま活かしたロケーションが強烈なインパクトを残す。ダンスミュージックにフォーカスをあてたブッキングで、初年度には自分もDJとして出演した。

2019年の初開催ののち、2020年に二度目の開催が予定されていたものの、新型コロナ禍をうけて中止に。その後、『DRIVE IN AMBIENT』や『STAY IN AMBIENT』をはじめ、さまざまな派生企画を経て、満を持して二度目の開催となった。

このフェスティバルがおもしろいのは、「オープンソース」を標榜し、企画から運営にいたるプロセスをnoteで公開してきたことだ(ここまで書くのかよ、という公開ぶり。2020年の延期から中止に至るまでの顛末は特に生々しい)。

今年会場で配布されたリーフレットには、タイムテーブルなど来場者向けの情報に加えて、設営から撤収までのスケジュールや運営スタッフ向けの注意事項までが掲載されていた。開催日の前後にはインスタライブで会場ができあがっていく様子や解体される様子も中継していた。

エレクトロニック・ミュージックやヒップホップを軸にしたブッキングは初年度の方向性を引き継ぎつつ、2022年は韓国・ソウルからOmega Sapien、フィリピン・マニラからena moriを招聘し、小さなフェスながら国際色を打ち出すことに。他方、DJには山形や仙台のクラブシーンを中心に活動する面々をブッキングし、グローバルとローカルが独特な仕方で交錯するラインナップとなった。

定価の半額となるU-23チケットの取り組みもあり、来場者の半数以上が若年層を占めたそうだ。運営スタッフもかなり若い印象で、山形市にある美大、東北芸術工科大学の在学生も少なくないという。

垂直に切り立つ岩壁がステージを囲み、ほら穴がクラブと化した非現実的な光景

『岩壁音楽祭』当日。自宅のある天童市から、山形の内陸部をつらぬく国道13号線を南下して、高畠町へ向かう。13号線は毎週のように利用する慣れた道路だけれど、ふだん南下するのはせいぜい山形市内まで。山形市からさらに南進し、上山市に入って道のりも半分を超えると見慣れない景色が増え、だんだんと小旅行気分になってくる。

道中では、昔ネットで話題になったタワーマンションをとおりがかる。田んぼの真ん中に突如あらわれるタワマンは、ミーム的に語り草になっているのとは違って、不思議と風景になじんでいる。それでも驚くものは驚くのだが……。

そこからまもなく13号線を外れて県道に入り、山道や田んぼのあいだを通り抜けながら、駐車場として用意された旧高畠町立第一中学校に到着する。瓜割石庭公園は駐車場からシャトルバスでほんの数分。

会場につくなり、相変わらず、ロケーションに圧倒される。瓜割石庭公園は決して大きな公園というわけではなく、フェスの会場としてはコンパクトなのだが、岩壁が垂直に切り立つマインクラフトじみた非現実的な光景に加えて、CAVEエリアの穴蔵感とWALLエリアの開放感の対比が経験としてのインパクトを強めている。

『岩壁音楽祭』より / Photo by 柏倉琉生

出演者はフィリピンと韓国からも。ローカルなフェスで実現したグローバルなラインナップ

当日は晴天。日差しとともに徐々に暑さを増していくなか、WALLステージのオープニングを飾ったさらさ、そして続くmaco maretsはレイドバックした雰囲気のパフォーマンスで徐々にフェスの空気感を醸成していた。

岩壁を眺めながらチルするのに気を取られすぎて、がっつり見ることができたアーティストはさほど多くない(レポートを書くつもりで来ていたというのに……? と我ながらつっこみたくなる)のだが、ena mori、Omega Sapienら来日アーティストの姿をこの機会に、このロケーションで見られたことは貴重な機会だった。

特にena moriは日本で最初のパフォーマンスだったというが、キャッチーでダンサブルな楽曲もパフォーマンスも素晴らしかった。次に見るときにはもっと大きなヴェニューになるのではないか……と思わせる堂々としたステージだった。

昼下がりの明るさを残していたD.A.N.のDJセットから、kZmのころには夕暮れを迎え、Omega Sapienが登場するころには日没。刻々と姿を変える岩壁の姿それ自体もスペクタクルだ。暮れゆく夜の妖しさを背景に、飄々とした佇まいから放たれるOmega Sapienのパフォーマンスにはカリスマチックなオーラが溢れていて、思わず笑いが漏れるほどだった。

ダンスミュージックを主軸としたイベントを支えた、ローカルに活動するDJたち

ただ、あくまで自分の主観的な判断ながら、新型コロナの感染拡大がまだ予断を許さないなか、リスクを感じることもあった。少なくとも事前に発表されていたガイドラインがつねに完璧に遵守されていたとは言い難い。

とはいえ、これは今年さまざまなフェスで繰り返され、議論になってきた課題だ。検温、消毒、マスクの着用といった最低限の対策に加えた積極的な働きかけ(たとえば、声出しやコールアンドレスポンスの自粛)がどこまで徹底できるか、観客として難しさを肌身に感じた(※)。

※編注:運営の報告によると、当日の事故やクレーム、会場周辺における新型コロナウイルスの感染拡大をはじめとした開催後の大きなトラブルはなかったとのこと

Omega Sapienのパフォーマンスはやや早めに切り上げて、CAVEへ。こちらは先述したとおり山形~仙台を中心に東北で活動するDJをブッキングしており、ほぼクラブ状態。ほとんど人が途切れることなく、一日中ぶっ通しでダンスミュージックが流れつづける空間となっていた。

1枚目から:hatch (Domain-FRAGILE)、陽 (ThreeSixNine Records) , Luvit、chunkism (SHAFT)、SAITO (WEEKENDER-QUEST)、KAPI (∞)、HISUI (DJ BAR 翡翠)、ONJI (BREEZIN-SHAFT) / Photo by 柏倉琉生(1、2枚目)、髙野立伎(3、5枚目)、Hide Watanabe(4、7枚目)、大和田 史苑(6枚目)

とはいえ、がっつりDJを堪能したのは一番手のhatchと昼過ぎのchunkismで、あとはその周囲をふらふらしていることのほうが多かったものの、山のなかにあいたほら穴でレイヴが開催されているような光景は見飽きることがなかった。

日が暮れていっそうディープな空間と化したCAVEに登場したのは玉名ラーメン。声とエレクトロニックなサウンドのイーサリアルな手触りに、力強いビートが輪郭を与えていく。場所との相乗効果を感じるパフォーマンスだった。

この日のベストアクトは?

なにより、この日のベストアクトを挙げるとすれば、小林うてなとermhoiによるユニット、The Sacred Murmursだ。

ハープとエレクトロニクス、そして声によるパフォーマンスに加え、会場全体を包み込むライティング。ただでさえ現実離れしたシチュエーションが、さらなる非日常へと変化した。冒頭、小林に促されてオーディエンス一同が地面に座り、ふと頭上に目線を向けると星空が広がっていた。

できすぎにも思える流れに、会場がどよめいたのを覚えている。台風の影響で開催翌日から山形も天候が崩れだしたことを思うと、まさに奇跡的なタイミングとしか言いようがない。

/ Photo by Hide Watanabe

The Sacred Murmurs(左から:ermhoi、小林うてな) / Photo by Hide Watanabe

WALLステージはThe Sacred Murmursで終演。CAVEステージでは大トリとなるCYKがプレイしていた。4つ打ちメインの華のあるセットに吸い寄せられるように、残ったオーディエンスがCAVEステージ周辺に集結(入場規制もあり、入りきらない者もあった)。ピークタイムを迎えるとともに、徐々に祭りの終わりが近づいていた。

少し早めに会場をあとにして、シャトルバスで駐車場に向かう。瓜割石庭公園の周辺は外灯が少なく、少し会場から離れると本当に真っ暗になる。ちょっと怖くてひとりでは歩きにくいほどだ。さっきまで目にしていた光景とのギャップに、きつねにつままれたような気持ちで車に戻り、軽く着替えて帰路についた。

『岩壁音楽祭』が提示した「ここにしかない特別さ」以上の可能性

翌日、くたびれきった身体に『岩壁音楽祭』の余韻を覚えながら、こんなことを考えていた。

瓜割石庭公園のような石切場跡地は日本に数多く存在している。それぞれ各地の石切場は固有の風景を伴っている一方で、採石という一連の社会的・技術的・経済的なプロセスを介して通じ合ってもいる。

垂直・水平に切り立つ岩壁は、石を切り出し商品とする技術と経済が残した痕跡であり、その痕跡は日本中に、あるいはもしかすると世界中に、風土にしたがって姿を変えながら点在している。だからあの特異なロケーションは、その地域に固有の歴史を示すものであると同時に、また別の地域の歴史へと、特徴的な形態を通じてゆるやかにつながっている。

『岩壁音楽祭』より / Photo by柏倉琉生

『岩壁音楽祭』の経験を反芻していると、ロケーションやラインナップのみならず、そのDIY感もふくめて、「ここにしかない特別さ」を強調して語りたくなる。あのかけがえのない特別な体験を。マーケティングっぽい話し方をすれば、確実にそのユニークさをドラマチックに強調したほうがいいだろう。ここに来れば、あなたもこんなに素晴らしい体験ができます、と。

けれども、「オープンソース」を標榜し、試行錯誤に満ちたフェスの運営の様子を発信しシェアする『岩壁音楽祭』のおもしろさは、むしろ石切場という場所が示唆するような「他の場所とつながる」可能性にこそ見出すべきなのかもしれない。たとえば『岩壁音楽祭』が、また別の場所でなにかを立ち上げ、つくりあげるにあたってのロールモデルとなりうるのではないか、というような。

『岩壁音楽祭』より / Photo by Hide Watanabe

『岩壁音楽祭』は3年後の2025年に次回開催を予定していて、かつそれをもって完結となる。3年後にはよかれあしかれ現在とはまた社会的な状況は大きく変わっているだろう(2019年と2022年がこれほどまでに異なっているように)。『岩壁音楽祭』の終了は惜しいけれども、そこから始まるもののほうがきっと多いはずだ。3年後にどんな区切りをつけてくれるのか、見届けるのが楽しみでもある。

イベント情報
『岩壁音楽祭2022』

2022年9月17日(土)10:00-22:00

出演:
chunkism(SHAFT)
CYK
D.A.N.(DJ set)
ena mori(from Philippines)
The Sacred Murmurs(小林うてな+ermhoi)
hatch(Domain/FRAGILE)
HISUI(DJ BAR 翡翠)
KAPI(∞)
kZm
maco marets
Omega Sapien(from South Korea)
ONJI(BREEZIN/SHAFT)
SAITO(WEEKENDER/QUEST)
さらさ
玉名ラーメン(curated by NEUT Magazine)
陽(ThreeSixNine Records), Luvit


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