おとぎ話・有馬の欲を捨てた悟り 音楽にひとりぼっちの美しさを

2020年6月、新型コロナウイルスの影響で街から人が消え、この世の終わりのように風が吹き荒ぶ。異様にどんよりとした街の空気はゾンビ映画のなかのようで、おとぎ話の10thアルバム『REALIZE』の取材をするのには完璧な1日だと思った。それはなぜか。思考停止したゾンビのような人々で溢れかえる世界で、悲しみも怒りもなく、ただ悟ってしまったひとりの人間のやるせなさや諦めが、人間らしい歪さを残しながらスウィートに音と言葉になっているのが『REALIZE』というアルバムだと思うから。

それを生み出したのは、音楽を通じて、ひとりぼっちの美しさを知り、音楽を通じて、ひとりぼっちの孤独に寄り添い、聴き手一人ひとりと心で対話をしてきた音楽家。おとぎ話の有馬和樹はこう言う、「音楽って本当に一人ひとりの宝物だから」と。彼のように「売れたい」「評価されたい」といった音楽に対する欲が剥がれ落ちた音楽家にしか見えない世界、たどり着けない場所、紡げない言葉に触れたら、あなたはびっくりするかもしれない。でも、おとぎ話はいつもライブハウスでこう歌っていたじゃん。「かかってこいよ、未来」って。

おとぎ話(おとぎばなし)
2000年に同じ大学で出会った有馬と風間により結成。その後、同大学の牛尾と前越が加入し現在の編成になる。ライヴバンドとしての評価の高さに加えて、映画や演劇など多ジャンルに渡るアーティストやクリエイターからの共演を熱望する声があとをたたない。日本人による不思議でポップなロックンロールをコンセプトに活動中。2020年7月、10枚目のアルバム『REALIZE』をリリースした。8月15日にはキネマ倶楽部でのワンマンライブを控えている。

「『もう俺は悟ったし、いち抜けた』って感じ」――コロナによって暴かれた世界の醜悪さを見透かしていた有馬和樹

―有馬さんが髭生やしてるの、びっくりしました(笑)。

有馬:髭、生まれて初めてだからね。ライブやるときくらいに髭生えてたら面白いかなって。やっぱりさ、誰も想像してないことをやりたいじゃん。

有馬和樹(おとぎ話)

―『デッド・ドント・ダイ』(2020年公開、監督はジム・ジャームッシュ)って観ました?

有馬:4日くらい前に観ました。

―あれを観て、『REALIZE』が自分のなかで腑に落ちた感じがあったんです。あの映画で描かれるゾンビって、資本主義とかシステムみたいなものに呑まれて思考停止しちゃっている人のメタファーじゃないですか(関連記事:ジャームッシュが新作ゾンビ映画で描くお気楽な人間の終末)。『REALIZE』にも同じような終末感が描かれていて、「映画のなかのゾンビたち、全然他人事じゃないわ」って。

有馬:なぜかコロナ以降の世の中みたいだったよね。『デッド・ドント・ダイ』はゆるいのにちゃんと刺してくるっていうか、危険な感じもあってさ。そういう意味ではわかる気はする。

俺は『ツイン・ピークス』(デヴィッド・リンチとマーク・フロストの制作総指揮によるドラマシリーズ)のオマージュだと思ったけどね。共通する世界観があって、その色味というか、全体的に赤っぽいというか。淡い青が揺れてる感じ。おとぎ話も『ツイン・ピークス』みたいなアルバムを作りたかったんだよね。

―去年の9月に『REALIZE』がストリーミングでリリ―スされたとき、うまくチューニングが合わなかったんです。でも今、コロナ以降の状況にすごくフィットする。たとえば、“GAZE”では<政治家も 偽善者も 正義感も 愛の歌も / 直視できない 直視できない>と歌っていて、「これ、今の世界のことじゃん」って。

有馬:ね、いきなりくると俺は思うよ(笑)。言葉は悪いけど、俺はこんな世の中を待ってたからね。こんだけ情報に溢れて享楽した感じだから、いつか本当に首が回らなくなる世界がくるんだろうなってさ。そのときに備えたいなと思って音楽を作ってたら、実際に歌詞で書いてたようなことが起こってびっくりしたけどね。

おとぎ話“GAZE”を聴く(Apple Musicはこちら

―順番に聞くんですけど、このアルバムってひとつのメッセージを持ったコンセプトアルバムとして作られたんですか?

有馬:コンセプトアルバムとも言えるんだけど、厭世観というか、世紀末感を出したかったんだよな。今の音楽シーンって歪んでるじゃん? 「いろんな人に聴かせるために」とか、「フェスに出るために」「売れるために」とかじゃなくて、自分たちがやりたいことをやったほうがいいんじゃないかって思ったのは大きい。

―どうして「世紀末感」を出したかったんですかね。

有馬:去年あたりからはっきりわかってたんだけど、SNSとか見てても嫉妬心とかネガティブなオーラがすごいじゃん。すべての人がとは言えないけど、この時代ではもっともっと自分で選択することができるはずなのに、周りが見えてなくなって選択肢を狭めてる人が多いなと思って。『REALIZE』ってタイトルもそうなんだけど、「もう俺は悟ったし、いち抜けた」って感じ。

おとぎ話“REALIZE”を聴く(Apple Musicはこちら

―なるほど。「REALIZE」という言葉には「気づけ」っていうメッセージも託されているのかなと思ったのですが、そこはどうですか?

有馬:魂に俺は訴えてんのかもしれない。「REALISE」になるとちょっと変わるんだけど、「REALIZE」だとしっくりくる感じがするんだよな。

「売れたい」「わかってほしい」という欲が、おとぎ話からはもう剥がれ落ちた

―たとえば“M”の歌詞ですけど、<現代人は悩みが多すぎて / 考えれば考えるほどに精神は崩壊 / 現代人には誘惑が多すぎて>――。

有馬:<誰かの助けを / 待ってる>ですね。あれは、単純に生きてるのが嫌になってきたって感じで。めんどくさいことがやっぱり多いから。コロナになってさ、SNS見てると、嫌な言葉でいっぱいじゃん。俺は同調圧力も嫌いだし。あと「いいね」の数が正義でしょ? いいこと言ってるふりしてる人が多い。

“M”はメンタルの意味で、「助けてくれ」って感じの曲作ろうかな~と思って。曲自体は肉体的なファンクなんだけど血が通ってない感じにしたいから、この歌詞と煮え切らない演奏になったんだよね。俺、この曲めちゃくちゃ好きなんだよ。

おとぎ話“M”を聴く(Apple Musicはこちら

―今作の楽曲って、有馬さんが主人公として書かれているものではないですよね。

有馬:全然ないよ。このアルバムは俺が書いてるから自分でも思うことだけど、自分が一人称で書いてる曲は“BREATH”くらいかな。

―何もかもが嫌になった人の歌がいっぱい入っています。

有馬:ああ、実際そうだよ。「悟ってしまった」ってわざわざ説明立てて言ってるんだけど、情報がもうめんどくさいっていうかさ。みんながみんな、センスいいものを探そうとしすぎてるじゃん?

俺としては、もうちょっと自分に馴染みのある言葉で世の中の状況を歌ってくれる人がいないとなと思って。でも俺はちゃんと届くと思って書いてるよ、だって物語をちゃんと紡いでるから。で、スタンスとしては世の中からほんのちょっと距離を置いて、「そうだよね~」ってヘラヘラ笑ってる感じなんだよね。

―そのスタンスって、かなり自覚的なものだと思うんですけど、何が有馬さんをそうさせたんでしょうね?

有馬:自分を含めて「何を根拠に音楽を狭くしてんだろうなぁ」って思うんだよね。みんなが競い合ってるステージから、俺はいち早くいなくなりたいって思った。

もう40になるしさ、自分が作りたいような音楽ちゃんと作っていかないと、この先楽しめないだろうなと思って。『REALIZE』を作ったおかげで、めちゃくちゃ楽しいんだよね。もう本当に楽になったし、やることがはっきりした。それで、まず自分が何を思ったかを大事にしたいし、自分の感動したことを素直に表せればいいなって思ってる。

おとぎ話“BREATH”を聴く(Apple Musicはこちら

―商業的なレースみたいなものからいち抜けしたと。

有馬:そうだね。いち抜けたっていうか、距離を置いた。だから、びっくりする人が増えるんじゃないかなとは俺は思ってる。人間って、欲がなくなった人を見るとびっくりするから。今まで欲があったんだよね、「なんで届かないんだろう?」ってことばっかり考えてた。

「今が一番楽しいもん。一番生きてる」

―編集者目線でアーティストの活動を見ていると、1年ごとにアルバムを出して、この会場をソールドしたから次この会場でライブして、みたいなことをどうしても念頭に考えてしまって。でもそれが結構きつくて……(苦笑)。

有馬:それしかいないじゃん。大丈夫? それが嫌だったらもうこの仕事向いてないよ?(笑)

―こういうこと言いたくはないですけど、アーティストの……賞味期限みたいなものってよく言われるじゃないですか。

有馬:あるある。メディアが作っちゃったものでもあるよね。

―うん……キャリアのある期間までにこの会場を埋めなきゃいけない、みたいな。年齢とか性別でアーティストを測ってしまってたり、そもそも商品としてみなしてしまったりという音楽産業の構造的な問題もあるだろうし、自分も含めてメディアや受け手側も、膨大な作品やコンテンツを前にアーティストや音楽を消費することに加担してしまっている状況があると思っていて。そういうシステムに身を置いて一生懸命に戦っている人たちと接することって……なんか寂しいというか。

有馬:うん。まぁでも俺たちもそうなりたかったんだけど、ならなかったから(笑)。

―でもそれが逆にバンドの命を延ばしたというか。

有馬:本当にそのとおりなんだよ。自分たちでやってきたから、おとぎ話はここまでこれた。だって今が一番楽しいもん。一番生きてる。こんなに音楽作っていいんだ! って感じ。

これが、おとぎ話の新たなスタンダード。他の何にも似ていないヘンテコな音楽の解体を試みる

―『REALIZE』の外側の話を聞きましたけど、そもそもこのアルバムってどんな音楽か説明するのが困難な作品でもありますよね。

有馬:まあ、難しいよね。俺もなんて言っていいかわかんないよ、だって似てるもんがないんだもん。ソウルっぽさ、レアグルーヴっぽさっていうか、もちろんそういうのは意識したんだけど、わかんないなぁって。

おとぎ話“AGE”を聴く(Apple Musicはこちら

―たとえば、ゆらゆら帝国の『Sweet Spot』(2005年)に入ってる“ザコミュニケーション”とか“ロボットでした”とかは近そうだなと思って。

有馬:『Sweet Spot』とかCorneliusの『Mellow Waves』(2017年)ってさ、日本の2000年以降の音楽でいったら最高峰じゃん。それを真似しようと思ってもできないと思うんだけど、同じアティチュードで自分の音楽作ることはできるってことは考えたかな。だからといって、作ってるときにそういう意識はないんだけどね。

ゆらゆら帝国『Sweet Spot』を聴く(Apple Musicはこちら

有馬:これ作ってるときは、本当に『ツイン・ピークス』が大きかった。2017年に『ツイン・ピークス』のセカンドシーズンが放送されたじゃん? Chromaticsがバーみたいなところで、演奏するシーンがあって、もうそれが最高で、そこで演奏するための曲ってコンセプトはあったな。

カラフルなんだけどトーンがおかしいみたいな、歪んだ近未来感をアルバム1枚通してやりたいなと思って。ロックバンドとしての手ざわりを残しながらそれをやれればいいなと思って作ったのが『REALIZE』なわけ。

―いろんな音楽的要素とか、マインドが解体されて再構築されてる途中の状態の音楽だなと思ったりもして。

有馬:これ、途中ではないんだよ。これがスタンダードになってんだよな、今のおとぎ話。

―そうなんですね。

有馬:実験のアルバムでも何でもなくて、やり切ってる。本当にスタートラインって感じかな。そもそもおとぎ話ってこういうバンドだったっていうのを思い出したんだよね。

最初に評価されたのが、本当にありがたいことに銀杏BOYZがフックアップしてくれたからだったわけじゃん。好きだからこそパンクとか、青春感ってイメージを表現しようと右往左往して。そこで上手くやろうとしても、俺は上手くできなかった。そういう人が20年経ってやっと自分がやりたいようにやれる場所を耕せたっていう感じなんだよな。

おとぎ話『SALE!』(2007年)収録曲

おとぎ話“NEW MOON”を聴く(Apple Musicはこちら

想像力を無限に掻き立てる、ヘンテコな音楽を愛で続けて――「俺、やっぱり音楽って旅だなって思う」

―有馬さんは量の面でも質の面でも、普通のミュージシャンの比にならないほど音楽を聴いてきてると思うんですけど、有馬さんが、どういう音楽にときめいて、そこからどういうものを受け取ったのかは改めて聞きたくて。

有馬:俺はね、Sun Raとか、全然名盤じゃないもう誰も聴かないようなフリージャズとか、どうしようもない変な音楽が好きなんですよ。

でさ、ソランジュが新しいアルバム(2019年リリースの『When I Get Home』)を作ったときに、Sun Raとかアリス・コルトレーンとか、ファラオ・サンダースとかのスピリチュアルな精神性を大事にしてアルバムを作ることができたんだってインタビューで言ってて。俺、感動してさ。そういう音楽を血肉にしてこんなにいいアルバムを大衆に届けて、すごいなと思った。

ソランジュ『When I Get Home』を聴く(Apple Musicはこちら

―Sun Raとかフリージャズみたいなものに有馬さんが見出したものって何だったんですか?

有馬:ドキドキすんだよ。もう、何が起こってるかわかんないから。レコードに針置いて、ポーッて音が1音だけ流れるとするじゃん? それが急にバーン! ってなったらびっくりすんじゃん。そういうのが多い。なんでこのひとつの展開を25分もやらなきゃいけないんだろう? とか。

で、そんなに聴きづらいアルバムなのに、1曲だけめちゃくちゃいい曲があったりするのよ。それを探してたら止まんなくなったの。で、自分が想像してる今まで経験してきたことと違うことを起こしてくれるものだけがびっくりするの、やっぱり。

Sun Ra『The Heliocentric Worlds Of Sun Ra Vol.1』(1965年)を聴く(Apple Musicはこちら

―自分の脳とか想像力を拡張してくれる感覚がある?

有馬:そうそう。気づかなかったものに気づかせてくれる。なんだこれ? っていう。俺、やっぱり音楽って旅だなって思う。想像力が刺激されて自分が思ってないことも思い描くきっかけになるようなものを見せてくれる。

ソランジュのアルバムでも演奏してたStanding on the Cornerって知ってる? 3年くらい前に出したアルバムがめちゃくちゃよくて、今回の録音しながらよく聴いてたんだよね。

Standing on the Corner『Standing on the Corner』(2017年)を聴く(Apple Musicはこちら

有馬:こういう俺が本当に好きな音楽が徐々に出てきてるなぁって。すごく説明しすぎている音楽が多かったなか、説明を半分くらいで止めて、聴き手の想像力をもっともっと豊かにしようとする作品が増えたなと俺は思ってたの。

それは、ゆらゆら帝国の『Sweet Spot』とか『空洞です』(2007年)とか、Corneliusの『Mellow Waves』とか、あと『POINT』(2001年)とかに感じてたことなんだよね。昔、フリクションの2ndアルバム『Skin Deep』(1982年)を初めて聴いたときに、「何だこれ、どうやって理解したらいいかわかんないな」と思って。あんなにパンクで超かっこいいのに、なんで急にこんな80’sっぽく難しい音楽作ってんだろうって思ったのよ。

フリクション『Skin Deep』を聴く(Apple Musicはこちら

有馬:でも、最初わかんなくても、理解しようと思って聴くじゃん? 今、その想像力ってすごい欠けてるなぁと思う。

―うん。ストリーミングの普及が大きいと思うんですけど、わかんないものには手が伸びづらい状況は加速している。自分がわかるもの、心地いいと感じるものだけを摂取し続けたとしても、一生かかっても消費できない量のコンテンツで溢れている。それは音楽だけに限ったとしても。

有馬:それはあるよね、今の世の中は。だけど、もっと本当に自分に理解ができないものに触れたほうがいいなと思う。誰かが好きって言ったからとか、テレビで紹介されてたからとかじゃなくて。ジャケットでもいいしさ。もうだってジャケ買いなんて誰もしないでしょ? 未だにジャケ買いしかしてないよ、俺。

―ジャケ買いこそ想像力だし、自分の感性を拡張するイレギュラーな出会いの最たるものですよね。

有馬:そうだね。ジャケ買いを通じてトライとエラーを繰り返してますから、私は。でさ、もう俺は『眺め』までで説明し切ったの。風間くん(おとぎ話のベース、風間洋隆)にも「もういいよね? もう立ち位置がわかったよね」って言ってたもん。ガツンといきなり売れたりすることもないし、お金かけてプロモーションできるわけでもないし、この歳だし。

であれば、誰も聞いたことないような音楽をとにかく作ってれば届くかもしれない、って思うほうが健康的だった。だからここからはもっと、聴き手の想像力、頭の中、脳の開かれてない扉っていう場所を刺激するような音楽を俺は作りたいし、そういう活動をしていきたいね。

音楽のヘンテコなところを愛し続ける有馬が大切にする普遍的な感覚。今、音楽に、世界に必要なのは、説明ではなく豊かな想像力

―さっき言った「途中感」ってソランジュのアルバムからも感じたことで、「これが完成形なのかわからないけど、完成してるんだろうな」って思いながら聴く感じというか。

有馬:でもさ、フランク・オーシャンの『Blonde』(2016年)を聴いたときもさ、わかんなかったでしょ? あれ聴いて、「きたーーーー!」って思ったやつ、嘘つきだから。わかってるわけないんだから、あんなの。でも俺は「きた!」って思ったよ(爆笑)。

―(笑)。

有馬:「久々にわかんないのきた」と思って嬉しかった。その人が作ったプレイリストを全部見たくなるみたいな感じっていうかさ。「この人ってこういうの好きなんだろうな」って想像できない人ってあんまり日本にいないじゃん?

フランク・オーシャン『Blonde』を聴く(Apple Musicはこちら

―Instagramとか見てて思いますけど、有馬さんこそ「こういうの好きなんだろうな」って音楽がわかんない。

有馬:わかんなくなってきたじゃん? でももっとねえ、俺は宇宙人みたいになりたい。「有馬って何なの?」って思われたいんだよ。

―(笑)。

有馬:すごいね、気持ちが楽なのよ。

―それは、「誰かに理解してもらおうとする努力を、もういっぱいしてきてしまった」ってことですか?

有馬:そうだね、そういうこと。もうだから、別にいいやって。どう考えてたって、こんな個性的な顔した天然パーマのやつのこと、誰もわかんないよ。何がどう転んだって今すぐに『フジロック』のGREEN STAGEに立てるわけないんだから(笑)。

―その開き直りに近い感覚が『REALIZE』でもある?

有馬:開き直りはめちゃくちゃある。そこはそうだよ。でもそれでさ、「これでいいのだ」とか言っててもしょうがねぇからこうやってやってんだよね。かっこよくないと意味ないからさ。

―とはいえ、そこが一番難しいところですよね。具体的にはどんなことを大事にしたんですか?

有馬:聴いててうるさく絶対しないってことは考えてたね。どんな音楽聴いても今、情報多いでしょ? こういうことをして、こういうふうに作ったよって音楽が何でも教えてくれるのよ。

「あなたは私のこと好きですか?」って、たとえば俺が誰かに聞いたとするじゃん?――もっというと、音楽に聞いたとするじゃん? 俺はね、その音楽にただ「好きだよ」ってだけ言ってほしいの。そこでごちゃごちゃした理由とか説明はいらないの。「好きです」っていう声のトーンとか、その人にしかないような温度から「あ、本当にそう思ってくれたんだ」って感じ取る感受性を俺は大切にし続けたい。

おとぎ話“HELP”を聴く(Apple Musicはこちら

おとぎ話『CULTURE CLUB』(2015年)収録曲

有馬:政治の話にしろ、Black Lives Matterにしろ、普通に想像力豊かに考えていたいと思う。自分の問題だとも思うから。だけど、そんなに目くじら立てて話すことなのかな? とは思う。みんなが監視し合ってるから怖いなと思うし、びっくりした。でもそれは何も今年はじまったことではなくて、去年も一昨年もそうだったし。でも去年すごく俺は思った、だから『REALIZE』を作ったんだよな。

おとぎ話“NOTICED IT”を聴く(Apple Musicはこちら

―『REALIZE』がなぜこういう説明困難なサウンドになったのかを整理すると、有馬さんがSun Raとかから得た音楽のドキドキするエッセンスを余計なフィルターを挟まずにアウトプットしたからってことですよね。

有馬:そうそう。フィルター唯一かけるとしたら、おとぎ話のメンバーってフィルターはかけた。うちのバンドには牛尾健太ってギターヒーローがいるでしょ? だったらギターヒーローがいるっていう曲にしたいじゃん。

おとぎ話“BYE”を聴く(Apple Musicはこちら

有馬:あとは、絶対にベースの風間くんとドラムの前ちゃん(前越啓輔)には落ち着いたループミュージックで映えるよさがあると俺は思ってたから、それを活かした曲にしたり。ミュージシャンとしてなんでこいつらとやってるのかを考えて、この表現になったって感じかな。

「音楽って本当に一人ひとりの宝物だから」――ひとりぼっちの美しさで孤独に寄り添うライブバンドとして

―メディアとして、こういう簡単には理解できないものをどう届ければいいかは本当に問われるべきところで……しかも今、ライブができないじゃないですか。

有馬:俺たちはライブバンドだしね。

―この期間、おとぎ話はライブ盤を出したり、新代田FEVERで配信ライブをやったりしてましたよね。コロナがどうこう関係なく、おとぎ話ってクリスマスイブとかバレンタインにライブをやってきたバンドで、「一人じゃないよ」っていうことをずっと歌ってくれてたなと思ったんです。

有馬:そうだね、そこはずっとそうだよ。もう今日は面白いからSun Raの話するけど、1950年代にSun Raが曲作ったときにさ、60年後に日本で夜中に「これいいなぁ」と思って聴いてる人がいるなんて想像しなかったと思うんだよね。

言葉とかも関係なく、部屋に一人でいる俺の孤独に寄り添っているのが半世紀以上も前に吹き込まれた音楽だって思うとさ、ものすっごい可能性を感じるわけ。で、自分のレコードとか音源を残すことができたってことは、その可能性を持ってるってことじゃん。常に差別がなくて、どんな人にも同じように寄り添えるものが音楽だと俺は思ってるよ。

―うん、僕もそう思います。

有馬:ライブハウスに人が入んなくても、ライブハウスがちゃんと運営できるようなシステムさえできれば、俺はもうずっと椅子でもいいと思ってるのね。一人ひとりに届けることのほうが俺は大事だと思うから。

でもいつしかその音楽っていう存在の大義が変わってきて、この会場の隅から隅まで届けなきゃいけない、みたいな感じになってきてるわけ。でも、もっと一人ひとりと対話できるのが音楽だと思うんだよね。「ライブハウスにいる全ての人が主役だ」と思って、俺は今までライブやってきたし。

おとぎ話『理由なき反抗』(2009年)収録曲

有馬:逆にこうやってライブできない状況になると、それは間違ってなかったんだなぁとも思う。コロナになったところでライブを一生懸命やってたときよりも、バンドの健康状態としては安定してんだよね。音楽って本当に一人ひとりの宝物だから、日本でももっとそうなればいいなぁって思うんだよね。

―椹木野衣さんっていう美術評論家の方をCINRA.NETで取材したんですけど、有馬さんと同じようなことを言ってて。「アートはもともとそうした多くの人が集まり、お祭り的に騒ぐものとは別の場所で育まれてきた文化だった。ならば、それを無理に取り戻す必要もないし、本来のあるべき姿を取り戻すべきでしょう」って(関連記事:椹木野衣に聞くコロナ禍のアート。立ち戻るべきは孤独の創造性)。

有馬:そう、そうなんですよ! やばいね、本当にそれしかない。だから、また帰ってこようぜって感じではないの。俺のなかでは、「みんなちゃんと生きて、音楽とか芸術を今までよりも尊敬して、ちゃんと存在するような世界を作っていこうぜ」っていう感じ。

欲を捨て、悟ってしまった彼らは次どこに向かうのか?

―『REALIZE』が出たことによって、おとぎ話がわかりやすくなった気はしますね。

有馬:そうだよね? 俺もそう思うよ。やっとみんなに説明できるんじゃない?

―わかんないってことがよりはっきりしました。聴けば聴くほど謎の部分が多いし、『REALIZE』で「あ、これは本当に普通のバンドと違うから、他のバンドと並べて見るのやめよう」って思った(笑)。

有馬:そういうことそういうこと! そこが伝わったんだったらめちゃくちゃ嬉しいよ、マジで。

―だって『REALIZE』も、普通に考えたら“NEW MOON”ではじまって“BREATH”で終わったら完璧じゃないですか。

有馬:俺もそうするつもりで作ったんだけど……だからfelicityのボスはもう確信犯だし、うちのバンドのドラムとかギターとベースは「全然この曲順がいいと思う」って言ってたから、俺以上に狂ってると思う。

―(笑)。

有馬:でも今回、インスト入るからすごく腑に落ちると思う。しかも2枚組じゃないからね。これは面白いですよ。

―今後の予定はどうですか?

有馬:予定としては、今年の終わりか来年の頭に変なアルバムが出る。で、来年は新しいアルバムを作る。あとは8月に『REALIZE』のライブをキネマ倶楽部で敢行しようと思ってます。ちなみに『REALIZE』の次のオリジナルアルバムは、反動でどう考えてもポップになるよね。

―それはどういうポップさなんですか?

有馬:今、作ってんだけど曲、メンバーに聴かせたら「やばい、ヒゲダン!」って(笑)。俺のなかではDestiny's Childだと思ってるんだけどね。

―全然想像つかないです(笑)。

有馬:マジで想像できないと思うよ(笑)。『REALIZE』作ったときも志磨ちゃん(志磨遼平)は喜んでたし、前野くん(前野健太)は「これは、ディスクユニオンでかかってたら店員に『誰?』って訊くアルバムだね」って(笑)。詩人は違うと思った(笑)。

―(笑)。ここまで話を聞いてきてなんですけど、おとぎ話って何なんだろう? って答えは今回も出なかったです。

有馬:そうだよね。俺もまだまだ、ずっとわかんない。だからこそ楽だよ、だってもう人のこと考えないでいいんだもん。自分が次に何をするのかってことだけ考えればいいから。今、俺はもう本当にそれだけなんだよね。

おとぎ話『REALIZE』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
おとぎ話
『REALIZE』(CD)

2020年7月3日(金)発売
価格:2,640円(税込)
PCD-24951
felicity cap-328

1. NEW MOON
2. HELP
3. REALIZE
4. AGE
5. BYE
6. M
7. BREATH
8. GAZE
9. NOTICED IT
10. NEW MOON (inst)
11. HELP (inst)
12. REALIZE (inst)
13. AGE (inst)
14. BYE (inst)
15. M (inst)
16. BREATH (inst)
17. GAZE (inst)
18. NOTICED IT (inst)

イベント情報
おとぎ話
『「REALIZE」LIVE』

2020年8月15日(土)
会場:東京都 キネマ倶楽部

プロフィール
おとぎ話
おとぎ話 (おとぎばなし)

2000年に同じ大学で出会った有馬と風間により結成。その後、同大学の牛尾と前越が加入し現在の編成になる。ライヴバンドとしての評価の高さに加えて、映画や演劇など多ジャンルに渡るアーティストやクリエイターからの共演を熱望する声があとをたたない。日本人による不思議でポップなロックンロールをコンセプトに活動中。2020年7月、10枚目のアルバム『REALIZE』をリリースした。8月15日にはキネマ倶楽部でのワンマンライブを控えている。



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