失われてしまった文化祭や街の催しを諦めない。行政×市民の挑戦

新型コロナウイルスの感染拡大により、全国各地の学校行事や街のカルチャーイベントなどが軒並み中止となる中、来年で市制施行50周年を迎える東京都多摩市が、「次の50年に向けて、文化を引き継いでいこう」という思いのもと市民参加型のオンラインイベント『みんなでつくる多摩市ONLINE文化祭』を開催する。

本イベントには、市内にある30以上の団体や小中学校が参加。音楽ライブや演劇、ダンスやトークなどが行われ、当日は多摩センター駅前で行われるイルミネーション点灯式の生配信や、画面越しでの参加など見る側も一緒に楽しめるコンテンツも用意されるという。さらに、DÉ DÉ MOUSEや眉村ちあきら、プロのアーティストも多数参加するなど、行政主導のイベントとしては画期的なものになること必至だ。

コロナ禍で「新しい日常」が続く中、地域にとっても市民一人ひとりにとっても「カルチャーを発揮する場所」があることは、かけがえのない重要なこと。そうした思いを胸に、前例のない取り組みに挑む多摩市企画政策部企画課の西村信哉が、多摩市を拠点に活動するTAMA-BASEの瀧口寿彦、カルチャーフェス『NEWTOWN』のノウハウを生かし本イベントに協力するCINRAの柏井万作とともに、開催に向けての意気込みを語ってくれた。

コロナ禍で、子供も大人も「居場所」を確保しにくい状態。そういう意味でも「コミュニティの場」が必要だなと痛感しました。(瀧口)

―皆さんは、普段どのようなお仕事をされているのですか?

西村:多摩市役所の企画課におりまして、現在は2021年に迎える「多摩市50周年」に向けたイベントや、多摩ニュータウンの再生、若者による「まちづくり」、市民自治の推進などが主な仕事です。

西村信哉(にしむら しんや)
1983年、福岡県生まれ。IT企業勤務を経て、移住した多摩市の市役所に2014年に転職。多摩市の将来都市像「みんなが笑顔 いのちにぎわうまち 多摩」の実現に向け、ICTの利活用推進や市制50周年、多摩ニュータウン再生検討会議、多摩市若者会議など市民参加の「まちづくり」の企画運営に従事。

瀧口:僕の本業はテレビや映画、CMの監督業なのですが、今から5年ほど前に「自分が生まれ育った場所で子育てをしたい」との思いでここ多摩市に戻ってきました。そうした時に多摩市長から50周年のお話をお聞きして「市民代表として、市民の事業を築いて欲しい」とお声がけいただいたんです。

それまで僕は、街に対して特に興味を持っていたわけではなかったんですよ。でも、そのお話がきっかけで自分の故郷がどんなところなのか、どういう人が住んでいて、どういう思いで暮らしているのかを意識するようになって。自分がこの街で何が出来るのかを考えながら、いろんな方と積極的にコミットするようになっていったんです。現在は、この街に住むどんな人もコミットできる、そんな街づくりをテーマに多摩市の50周年に向けた活動を市の企画課と行っています。

瀧口寿彦(たきぐち としひこ)
東京都多摩市出身。映画、TV-CM、TV番組、舞台等の監督をする傍ら
地域活性化プロジェクトにも多数関わる。活動の様子はNHKにて数回特集され、来年の多摩市市制50周年に向けて実行委員会TAMA-BASEを結成し、様々な企画を展開中。

柏井:僕も多摩ニュータウンで生まれて9歳まで住んでいたので、その時の記憶が頭の片隅にずっと残っていました。その後、CINRAの活動を通じて文化と深く関わっていく中、カルチャー全般を紹介できるような大きなイベントをやりたいと思うようになっていったんです。

そんな時に、僕が通っていた小学校の跡地をそのまま生かした「デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ」の存在を知り、そこを会場としてお借りできないかと思って最初に八王子市にお声がけさせていただき、2017年にカルチャーフェス『NEWTOWN』を開催しました。その時からずっと、多摩市に位置する多摩センターの駅前でも『NEWTOWN』をやりたいという思いはあったのですが、いきなりは難しいので2017年、2018年と実績を重ねて、西村さん、瀧口さんにもご協力いただき2019年にようやく駅前での開催が実現できたんです。

柏井万作(かしわい まんさく)
1981年、東京都生まれ。2006年に取締役として株式会社CINRA立ち上げに参加。創業時から現在までカルチャーメディア『CINRA.NET』の編集長・責任者としてサイトの運営を行いながら、イベントプロデューサーとして入場無料の音楽イベント『exPoP!!!!!』、カルチャーフェス『NEWTOWN』、音楽フェス『CROSSING CARNIVAL』などの立ち上げ&運営責任者を務める。

―『NEWTOWN』にはそんなストーリーがあったのですね。

柏井:これまでもメディアやイベントをずっとやってきましたが、『NEWTOWN』を始めたことでようやく「地域にコミットする」ことが出来たという実感がありました。例えば同級生のお母さんたちは今も元気に暮らしておられるのですが、皆さんそれぞれに課題や悩みを抱えていて。そういったものに対し「何か自分にできることはないか?」と考えるようになっていったんです。それに伴い『NEWTOWN』も、「カルチャーフェス」だけでなく、多摩ニュータウンに暮らす人にとって「自分の街のお祭り」としても楽しんでいただけるようにしていきたいという気持ちが強くなっていきましたね。

『NEWTOWN 2019』~みんなでつくる、新しい文化祭~ ダイジェスト動画

―今回、そんなお三方を中心に『みんなでつくる多摩市ONLINE文化祭』が開催されることになったわけですが、その経緯についてお聞かせいただけますか?

西村:1971年に多摩ニュータウンができた多摩市は来年50周年を迎えます。それに向けて、瀧口さんとは一昨年から「どんなことをやりましょうか?」と盛り上がっていたんですね。今年そして来年とさらに多くの市民を巻き込んだ大きなイベントの企画を作っていこうと思っていました。ところが新型コロナウイルスの感染拡大により、地域のイベントや学校の行事などが、ほとんど中止になってしまって……。「次の50年に向けて、これまでの文化を引き継ぎ、新たな文化を興していこう」という文脈がプツンと途切れてしまったような気持ちだったんですよね。

瀧口:僕は市民の声を生で聞く機会が多いのですが、例えばある中学校の吹奏楽部では、行事や発表の場がなくなっただけでなく、「三密」を避けるために部員全員が教室に集まって演奏することが出来なくなってしまったんです。そこでどうするかというと、一人ひとり壁に向かった状態で黙々と練習する他ない。でもそれだと息が詰まってしまいますから、たまに人気のない公園などで練習をしていると、今度は近隣の住民から「うるさい」とクレームが来るらしいんです。

クレームを言う大人たちもきっと、慣れない在宅ワークをしながらストレスを抱え込んでいたりしているわけですよね。つまり子供も大人も「居場所」を確保しにくい状態。お互いの事情を少しでも知っていれば、もう少し歩み寄れるかも知れないのに、普段の交流が少ないものだからギスギスしてしまう。そういう意味でも「コミュニティの場」が必要だなと痛感しました。

―それにしても、発表の場がないのに練習を続けるのも辛いですよね。

西村:おっしゃる通りです。感染のリスクを考えて、学校の行事やイベントを「中止」にするのは簡単です。しかし、そんな中でどうやってモチベーションを保ったらいいのか。地域活動をしている人たちの中には、会員のモチベーションが保てず「会そのものが維持できなくなってしまうんじゃないか?」という不安を抱えている団体もあります。

それでCINRAさんとも昨年『NEWTOWN』をご一緒させていただいた経緯もあり、柏井さんに、このコロナ禍で学校文化祭や地域イベントの代わりにできることはないか、他の人たちはどのような取り組みをしているのかなど、オンラインでお尋ねしたところ、CINRAさんは5月に『CROSSING CARNIVAL'20』をオンラインで開催したという話をお聞きして(関連記事:『CROSSING CARNIVAL'20』中止判断とオンライン開催の想い)。自分たちでも色々とリサーチしていく中で、何かオンラインの文化イベントが出来るのではないかと思えるようになっていきました。

『CROSSING CARNIVAL'20 -online edition-』~ CINRA.NETのオンラインフェス ダイジェスト~

柏井:自分のことを振り返ってみると、文化祭って年に一度の特別な行事だったんですよね。高校でバンドを組んでも、まだライブハウスは敷居が高くて、文化祭で演奏できるのを楽しみにしていた。そういう学生たちの大切な機会が、コロナで失われてしまっていると西村さんから聞いた時に、何か協力したいと思ったんです。

僕らもオンラインイベントを色々やってみて、見ている人と出演している人の距離感がグッと近くなる感じがありました。リアルな場で大勢の観客の一人としてライブのステージを観ているよりも、ある意味オンラインライブの方が身近に感じるというか。例えばラジオって、自分だけに語りかけてくれるような親密な感じがあるじゃないですか。あの感覚に近いのかなと。みんなが「物理的」に距離を取らなきゃいけない時だからこそ、うまくその「近さ」みたいなものを、今回の『多摩市ONLINE文化祭』で活かせたらいいなと思っています。

「オンラインフェス」だから参加したいと思ってくれた団体も結構多い。人前でやるよりも恥ずかしさを感じずに発表できる。(瀧口)

―具体的には、どんな内容を考えているのですか?

西村:基本的にはYouTubeによる配信イベントです。学校や市民団体が事前に収録した20分くらいの動画コンテンツを、どんどん繋いでいくようなものにする予定です。そのうちのいくつかは、ここ「LINK FOREST」を会場にしてリアルタイムでも参加できるようなコンテンツを用意しようと。その中の一つが、DÉ DÉ MOUSEさんによる「盆踊り」。大勢で集まるわけにはいかないので、会場に集まっていただく地域の踊り手さんの映像を生配信しながら、それに合わせて自宅で踊ってくださる方々の映像を、会場にも映し出すということをやりたいと思っています。

―それは面白そうですね。

西村:多摩センターで毎年行なっているイルミネーションの点灯式も、今回はリモートでリアルタイム配信する予定です。いつもは「サンリオピューロランド」のキティちゃんと一緒に行われる盛大なイベントですが、今回は瀧口さんのアイデアで、市内をドミノで繋いでいって、最後にパタっと倒れたら点灯する演出を考えています。そういう企画を通して、多摩市の様々な表情をお届けできたらいいなと思っていますね。

瀧口:僕は今回、市民の動画コンテンツを制作しています。最初は学校を中心に回っていたのですが、そのうち障がい者サークルや子育てサークル、お祭りの実行委員会など様々な団体の方たちから、「私たちも発表する場がないんです」という声が集まってきました。ぜひ参加してほしい旨をお伝えし、現在はコンテンツが膨らむ一方ですね(笑)。

今回、「オンラインフェス」という形だからこそ参加したいと思ってくれた団体も結構多いんですよ。それを知った時、オフラインでは参加を控えていた人たちが、気軽に参加できる新しい地域イベントの形になるのかも知れないと思いました。

―とても興味深い現象です。どうしてオンラインだと参加しやすいのでしょう?

瀧口:オフラインのイベントだと、恥ずかしさがあったり、大掛かりになってしまったりするのが、オンラインの映像コンテンツならスマホでも気軽に撮れるし、人前でやるよりも恥ずかしさを感じずに発表できるというのがあるみたいです。

瀧口:例えばママさんサークルの子供たちとお母さんが、打楽器を持ち寄って演奏している映像は、お母さんからすると「ただのお遊び」であって、会場まで行って発表するほどのものではないくらいの感覚なんですよね。でも、オンラインで他にもたくさんのコンテンツがある中の一つとして流れる程度なら、「ちょっとやってみたい」と思っていただける。そういう、気軽で身近な感じがオンラインにはあるらしいんです。

―なるほど。SNSに子供やペットの動画を上げているような、カジュアルな感覚で参加できるというか。

西村:確かにそれはあるのかも知れないですね。今、瀧口さんがおっしゃったような出やすさ、柏井さんがおっしゃっていた距離の近さは、最初からそれを狙ってやったわけではなくて、我々もこうしてやってみたからこそ気づいたことなのですが。

というのも今回、いろんな方から「どんな雰囲気なの?」「参考になる例は?」と尋ねられるのですが、前例が何もないんですよ(笑)。逆に、これが成功すれば、他の地域の人たちもオンラインで何かやってみようと思ってくれるかも知れない。このまま「withコロナ」が続くとしても「あの時の、多摩市のオンライン文化祭を参考に自分たちもやってみよう」と思ってもらえたらいいな、という気持ちでやっています。

柏井:最初に西村さんとオンラインで会話をしたのが夏頃だったのですが、「今後コロナがどうなっていくか分からないけど、とりあえずどんな状況になってもできるものを探してみましょう」とおっしゃっていて。大企業でも悩んでいる中、行政が主導で、そこまで言えることってなかなかないと思うんですよ。それってやっぱり「人の力」だといつも思うんです。その組織の中に志を持った人がいるかどうか。今回の事例が参考になって、他の行政のモチベーションにつながればいいなと思うし、市民の人たちも「こんなやり方があるんだ」と参考にしてもらえたら嬉しい。気軽にやろうと思えば、先ほどおっしゃったようにスマホで撮って、ちょっとYouTubeで配信するのってそんな難しいことじゃないですしね。

―そういう、手作りっぽいコンテンツならではの魅力もきっとありますしね。

柏井:コロナ禍の配信ライブもプロフェッショナルなものが増えてきましたけど、もっと街の行事みたいなことも、オンライン化が加速していくといいなと思うんです。やらないより、オンラインでやった方が人の繋がりが活性化しますし、これまではオンラインコンテンツをあまり見なかった人たち──例えば、地方に住むおじいちゃん、おばあちゃんも、多摩市に住んでいる孫の姿を見られるわけじゃないですか。きっと「新しい体験」になりますよね。

―とはいえ今回、全てがアマチュアによるコンテンツというわけではなく、プロフェッショナルな方たちのコンテンツも提供するそうですね。

柏井:はい。『NEWTOWN』でもプロと地元の人たちが一緒にプログラムを作ったりしたのですが、それを今回もやってみたくて。さっき西村さんからお話が出たDÉ DÉ MOUSEさんは、『パルTAMAフェス』にもずっと出演されていて多摩市との縁も深いんですが、『NEWTOWN』でも地域の方々と『盆踊りDISCO!』をやっていただいたこともあって。それと、ザ・なつやすみバンドが去年、多摩市の中学校の吹奏楽部と共演するという、めちゃくちゃ感動的なステージを届けてくれたので、今年も何かしらの形でご協力いただきたいと思っていたりと、『NEWTOWN』で多摩ニュータウンと繋がったカルチャーの文脈を、今回のオンラインフェスにもしっかり繋げられたらと思っています。

DÉ DÉ MOUSEとホナガヨウコの『盆踊りDISCO!』@『NEWTOWN 2018』
ザ・なつやすみバンドと多摩市立落合中学校吹奏楽部の合奏@『NEWTOWN 2019』

行政に頼るだけではなく、それぞれの立場でサポートし合うことで、次の新しい文化が生まれていくと思う。それが「自治」だと思うんです。(西村)

―『CAMPFIRE』にて、クラウドファンディングも企画されているそうですね。

瀧口:クラウドファンディングというと「資金集め」のイメージが強いと思うのですが、僕らの今回の趣旨は参加していただく「意思」の表明というか。そのためリターンの単価も目標額も、かなり低く設定しています。まずはこの『多摩市ONLINE文化祭』を多くの人に知っていただき、参加したいと思ってもらえるようにしたいと考えているんです。

柏井:コロナ禍においては、オンラインのイベントと同様、クラウドファンディングもかなり一般化したと思っています。今までお気に入りの映画館やクラブ、ライブハウス、飲食店など自分が積極的にコミットせずとも、普通に運営されてきたと思います。そうしたものがコロナで危機に瀕し、自分の手を伸ばさないと「なくなってしまうかも知れない」ということを、多くの人が「自分ごと」として感じたことも大きな理由の一つではないかと。クラウドファンディングを通じて大切なものを維持するために自分がサポート出来る。そういうお金の使い方を、今までやっていなかった人もやり始めたのかもしれないですね。

―『ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金』も、最終的に3億円を超える金額が集まりましたよね。

柏井:あれは本当に、人の思いが大きな形になりましたよね。地域コミュニティー関連でいうと、CINRAもサポートした『YOU MAKE SHIBUYA』も、4,400万円が集まりました。その際に多くの取材記事を作ったのですが、重要なのはお金の話だけじゃなくて、気持ちを贈ること、受け取ることなんだって、よくわかりました。応援が集まることで「こんなに自分たちのことを思ってくれる人がいる」と分かり、勇気が出たり心が救われたりするんですよね。

―きっとお金を払う側も、そこで参加意識が高まるというか。貢献できていると思えるのは幸せなことなのだと思います。あと、今回プログラムが複数チャンネルになっていて。タイムテーブルを自分で組みながら見るのがちょっとフェスっぽくていいですよね(笑)。

柏井:プログラム数が圧倒的に多いんですよ(笑)。1日7時間ぶっ通しで放送しても、1チャンネルでは足りなさそうなので、2~3チャンネル必要になるかなと。それでやむなく「被り」が生まれてしまっているんですけどね(笑)。でも、今おっしゃったみたいに、あれも見たいけどこれも見たいなと自分なりのタイムテーブルを組みながら当日を楽しんでもらえたらすごく嬉しいです。

西村:今話のあったクラウドファンディングのこともタイムテーブルのことも含めて、「自分ごと」として参加してくださる人が増えるのは多摩市として嬉しいことです。元々こういう活動を通して街にコミットする人を増やしたいと思っていましたし、それが「自治」だと思うんです。「税金を払えば誰かが何とかやってくれる」と頼るだけではなく、それぞれの立場でできることを持ち帰り、気持ちを伝え合い、サポートし合うことで、次の新しい文化が生まれていく。『多摩市ONLINE文化祭』がそのきっかけになればいいなと思っています。

―ところで、皆さんは多摩市のどんなところが好きですか?

西村:多摩市は都心から30分くらいで来られる場所にある、高度成長期に作られたニュータウンです。最初の頃は都心の住宅難に応じて数をたくさん作る予定だったのですが、数年で住宅数と人の数が釣り合ってしまったので、以降は「質の良い住宅をどれだけ作れるか?」をテーマに開発された実験都市なんです。この辺の背景はあまり知られていないのですが(笑)、おかげで公園も広く、一度も信号に当たらず次の駅まで行ける遊歩道もある。ニュータウンに住んでいる子は、学校へも公園と遊歩道だけで行けるんですよ。それでいて、買い物など普段の生活にも困らない。

柏井:当時は子供だったから分かっていなかったけど、確かに車のことを気にすることなく疾走してました(笑)。子供からすると天国ですよね。公園とか森とか広場がたくさんあって、遊ぶ場所に困ったことがなかった。街に「余裕」とか「余白」がたくさんあるんですよね。

瀧口:それもあってか、多摩市の人たちは柔らかい人が多い印象がありますね。環境って大事だなあと思います。そうした環境で子育てしたいと戻ってきた人が周りにもたくさんいます。

西村:これまでは職場の数が少なく、都心で働く人が住む「ベッドタウン」というイメージが強かったんですけど、最近は企業の誘致も進んできて昼夜間人口で見ると、昼間のほうが増えてきているんです。緑も多くて子育てしやすい環境で職住近接ができる、そんな街のイメージにしていきたいです。

―今後、リモートワークが進むとさらに移住する人が増えそうですね。

柏井:うちの会社も4月からリモートワーク中心になって、最近では社員がどんどん引っ越し始めていますよ。弊社に限らず、恋人や夫婦が同じ空間でリモートワークだと、なかなかやりにくいから生活利便性もあり、豊かな外部空間のある少し郊外へ引っ越して部屋の数を増やそうと思っている人は多いと思います。

―そうした価値観を持った人がたくさん集まれば、新しい文化も生まれる可能性が増えますよね。例えばオンラインと併用して多摩市の広い空間も利用したイベントなど、「withコロナ」には向いている街だと思います。最後に、今回の企画の楽しみ方や今後の展望を教えてください。

柏井:これまで色々なオンラインイベントを手掛けてきましたが、『多摩市ONLINE文化祭』はこれまでにない新しい取り組みだなと思っていて。主体は市民なので、プロフェッショナルなパフォーマンスではないかもしれませんが、『NEWTOWN』の催し物でもそうだったけど、一生懸命やっている人を見ていると感動したりワクワクしたりする瞬間ってあるじゃないですか。意外とそういうパフォーマンスを見る機会って少ないので、ながら見でもいいので、楽しんでもらえたら嬉しいですね。

瀧口:様々な世代の人たちが集う、新たな交流の場所にしたいですよね。気軽に参加したり、発信したりできるイベントになったら嬉しいです。

西村:次に繋がるきっかけになるといいですよね。このコロナ禍の間に我々が模索して、「こんなことやったら喜んでもらえるのでは?」と思えることを、できるだけたくさん詰め込んだつもりなので、少しでも反応してもらえたらやった価値があると思います。これがきっかけに次のチャレンジャーを多摩市から一人でも多く輩出し、「あのとき、2020年の11月に、大変だったけどあんなことやってよかったね」と振り返って思えるように、今は一生懸命突き進みたいです。

イベント情報
『みんなでつくる多摩市ONLINE文化祭』

2020年11月7日(土)12:00~19:00にTAMA-BASEのYouTubeチャンネルで配信

プログラム:
DÉ DÉ MOUSEとホナガヨウコ『オンライン盆踊り2020』
ザ・なつやすみバンド『TNB×落合中学校 吹奏楽部 スペシャルコラボ!〜』
眉村ちあき『眉村ちあきのオンライン文化祭ライブ』
バストリオ『縄文のはじまりとおわり』
永山フェスティバル実行委員会『永山ソング』
TAMA映画フォーラム実行委員会『第30回映画祭 TAMA CINEMA FORUM』
多摩センターイルミネーション『イルミネーション点灯式』
ほか市内小中学校、サンリオなど30団体以上を予定
料金:無料

プロフィール
西村信哉 (にしむら しんや)

1983年、福岡県生まれ。IT企業勤務を経て、移住した多摩市の市役所に2014年に転職。多摩市の将来都市像「みんなが笑顔 いのちにぎわうまち 多摩」の実現に向け、ICTの利活用推進や市制50周年、多摩ニュータウン再生検討会議、多摩市若者会議など市民参加の「まちづくり」の企画運営に従事。

瀧口寿彦 (たきぐち としひこ)

東京都多摩市出身。映画、TV-CM、TV番組、舞台等の監督をする傍ら
地域活性化プロジェクトにも多数関わる。活動様子はNHKにて数回特集され、来年の多摩市市制50周年に向けて実行委員会TAMA-BASEを結成し、様々な企画を展開中。

柏井万作 (かしわい まんさく)

1981年、東京都生まれ。2006年に取締役として株式会社CINRA立ち上げに参加。創業時から現在までカルチャーメディア『CINRA.NET』の編集長・責任者としてサイトの運営を行いながら、イベントプロデューサーとして入場無料の音楽イベント『exPoP!!!!!』、カルチャーフェス『NEWTOWN』、音楽フェス『CROSSING CARNIVAL』などの立ち上げ&運営責任者を務める。



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 失われてしまった文化祭や街の催しを諦めない。行政×市民の挑戦

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて