コラム

③小林健太個展『自動車昆虫論 / 美とはなにか』

恵比寿NADiff a/p/a/r/tにあるG/P Galleryは純然たるコマーシャルギャラリーだが、小林健太が若手アートシーンを代表する写真家のひとりであることに相違はない。『自動車昆虫論 / 美とはなにか』は彼の最新の個展である。

小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi
小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi

小林は初個展『#photo』(2016年 G/P Gallery)に見られたように、日常の風景や友人を撮影した画像に筆跡に似た画像加工を施した上で、写真や映像に落とし込んできた。その表現は基本的にメディアアートのイメージを伴うものであったが、本展ではそれが徐々に変容しつつある。キーとなるのは展示タイトルにもある『自動車昆虫』だ。

『自動車昆虫』とは要するに、生命体のようにわがもの顔で人間の生きる地上を跋扈する昆虫じみた自動車のことである。複雑な彼のメッセージを敢えて要約すれば、『自動車昆虫』によって街路から締め出されてしまった人間の、本来の自然な生への希求だ。人が土を踏みしめて堂々と道路の真ん中を歩くことを取り戻そうとしている、と言ってもいい。

素朴なプリミティビズムのようにも捉えられるが、睨みをきかすように壁面に居並ぶ『自動車昆虫』の写真群や、ギャラリー中央に土を焼いてタイル状に敷かれたインスタレーションは、充分な説得力を備えている。

小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi
小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi

小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi
小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』(G/P Gallery) photo by Kenta Cobayashi

もちろん従来の作風の写真や映像のシリーズも精度を増している。なによりダ・ヴィンチの人体図やラスコー壁画などが幾何学的に散りばめられ、宇宙的なスケールを持ったグラフィックが良い。小林健太の「いま・ここ」の場を作り替える意思は他のプレイヤーたちと繋がっている。

④批評誌『アーギュメンツ』第2号

『アーギュメンツ』は展覧会ではなく批評誌である。渋谷のシェアハウス・渋家(シブハウス)の創設者でもある齋藤恵汰が創刊したこの同人誌は、第2号を映像批評家の黒嵜想が編み上げた。美術論からビジュアル系バンド分析まで、幅広く若い書き手たちに批評の場を与える本誌の最大の特徴は、そのコンセプチュアルな販売方法だ。書店やウェブ上での販売は一切行わず、「手売り」でしか売らないのである。

『アーギュメンツ』第2号
『アーギュメンツ』第2号

もちろん、これは単純な時代の流れの逆行とは異なる。興味深いのは、日々ところどころに偏在する編者や書き手たちが、SNSを徹底的に活用することによって居場所を発信し、タイムラインを頼りに訪れた購入希望者と「リアル」に面会するという、その逆説にある。インターネットと現実空間を行き来することによって、書き手から読み手まで、批評のコミュニティーの再設定と拡張を企てているのだ。

表現と批評はコインの裏表だ。アートは当然のように批評を必要としている。しかし、際限なく拡大する激情的な言葉に埋もれ、大文字の批評の存在感は低下しつつある。そんな中、ウェブとリアルを横断する批評同人でムーブメントを起こした『アーギュメンツ』は要注目だ。

⑤関優花+ノロアキヒト+田中亜梨紗展覧会『知恵ヲcray』

最後に紹介するのは、高円寺の雑居ビルの一室「ナオナカムラ」で開かれた『知恵ヲcray』展だ。もともとアーティストグループChim↑Pomのリーダー・卯城竜太のもとから生まれた『天才ハイスクール』と共に立ち上がり、2011年から定期的に企画展を開催する「ナオナカムラ」は、最も活きのいい若手の個展やグループショーを中心に展開してきた。2010年代を代表するオルタナティブスペースのひとつだろう。

photo by Yuki Noro
photo by Yuki Noro

美学校の講座『外道ノスゝメ』の修了生の3名による本展は、タイトルからも自明なように、アウトサイダーアートを想起させる。事実、身体障害者の動きを模した田中亜梨紗のコンテンポラリーダンスじみた映像や、鬱病とそれによる薬漬けだというノロアキヒトが新宿歌舞伎町の路上で眠り続ける記録映像は、共にバッドテイストなエッジが効いていた。

特に印象的だったのは二十歳の女性アーティスト・関優花の『≒』だろう。ギャラリー中央に置かれたふたつの体重計の、片方には彼女自身、もう片方には円筒状に積み上げられた100kgのチョコレートの塊を乗せ、5日間の会期中、自身の体重とチョコ塊の重量が同じになるまで「舐め削ぎ続ける」というパフォーマンス(!)だ。

展示室内に入ると充満した甘い刺激臭が鼻をつく。そしてスポーツシャツ姿で体重計に乗った関が、さながら接吻するかのようにチョコの塊と格闘し続けているのだ。ここには一見メチャクチャで馬鹿馬鹿しい実践が、むしろ美しくすら見えるような、ある種の聖性を帯びて立ち昇ってくる、現代アートの醍醐味が宿っていた。このような痛快さこそ、若手アートシーンの象徴だろう。

これらの実践からどういった未来のビジョンを描けるのか?

ここ1、2か月をざっと概観するだけでも、上記5つの最新動向には、集住とコミュニティー、都市と地方、交通と街路、ネット空間と現実空間、オルタナティブスペースと身体的介入といった、種々の土地性が刻印されていた。これらを「ポスト芸術祭」として一括りにすることは乱暴過ぎるかもしれないが、オルタナティブなアートシーンの傾向に対するひとつの視座にはなるだろう。

サイトスペシフィックな土地性に反発し、あるいは関係なく、普遍性を志しているアーティストもまた多数いることは言うまでもない。問題は、これらの実践からどういった未来のビジョンを描けるのかということだろう。

とはいえ、若いアーティストたちが各地で規則に縛られずに場を使い、コンテクストを組み替えていることは非常に興味深い。国家や資本によって場が占有されつつあるなかで、美術館の内部だけではなく、自由な空間が多様に拡張していけば、現代の息苦しさも多少なりとも解消されよう。

もちろん、これは現代オルタナティブアートシーンの一部に過ぎない。ウェブメディアやSNS、あるいは雑誌やDMを手掛かりに様々な会場へ足を運んでみれば、あなたを未体験の時空へと連れ出してくれるだろう。

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イベント情報

『恋せよ乙女! パープルーム大学と梅津庸一の構想画』

2017年6月1日(木)~6月18日(日)
会場:東京都 神宮前 ワタリウム美術館

『ISETAN ニューアーティスト・ディスプレイ』

2017年5月31日(水)~6月6日(火)
会場:東京都 新宿 伊勢丹新宿店本館 5階

小林健太『自動車昆虫論 / 美とはなにか』

2017年6月3日(土)~8月12日(土)
会場:東京都 恵比寿 G/P gallery

関優花+ノロアキヒト+田中亜梨紗『知恵ヲcray』

2017年6月17日(土)~6月21日(水)
会場:東京都 高円寺 ナオナカムラ

書籍情報

批評誌『アーギュメンツ#2』

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