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森本千絵と見る現代アート『幸福はぼくを見つけてくれるかな?』

森本千絵と見る現代アート『幸福はぼくを見つけてくれるかな?』

内田伸一
撮影:菱沼勇夫

「コンセプチュアル=頭でっかちな表現」とは限らない?

展示を観終えた森本さんに、あらためてお話を聞きました。まず、この展覧会の成り立ちを簡単に補足説明させてもらうと、実は出展作品はいずれもあるコレクターが収蔵しているものです(あの入場アナウンス作品も)。その人とは、ファッションブランド「earth music & ecology」で知られるクロスカンパニーの代表でもある石川康晴さん。ゆくゆくは故郷・岡山に美術館を設立して地域活性化に貢献したいという目標もあるとか。そんな彼が愛するのは、モノとしての目に見える魅力だけでなく、思想や意味を扱うコンセプチュアルなアートのようです。

森本:どれもその背景にあるものを知ると面白い! という作品でした。一見するとユルい感じだったり、ものすごく当たり前の日常を扱っていても、実は針の穴に糸を通すような緻密さがあると感じたり。こっちが気を抜いていたな、って思う瞬間もありました。しかも特別な世界のことじゃなく、普通の暮らしの中で見えていなかったものにゾクっとしたり。そういう意味で、特定の答えが差し出されるというより、観る側の内側に溝が刻まれるような体験です。

森本千絵

森本さんは、同世代でもあるライアン・ガンダーの作品には特に惹かれた様子。そういえば、目玉の作品と見つめ合ったり、矢であふれる空間にしばし浸っている姿が印象的でした。

森本:いろんなアイデアやメッセージにあふれた作品がある中でも、矢の作品は、いきなり強い空間の力に浸れる体験でよかった。コンセプチュアルといっても、実際に会場にきてナンボという作品もあるんだっていうのが発見でしたね。全体的には、ピリっとした刺激の効いたものが多かったです。小泉さんやファストの映像作品は、いわばウソが自分の体の中でホントになる瞬間っていうか。あれは相当な緻密さで完成しているとも思う。

「ピリっとした刺激」。それはユーモラスなものから皮肉の効いたもの、はたまたシリアスな問題提起までさまざまです。森本さんにとっての「ピリッ」の素になるものとは?

森本:目の前のものがたとえ作りものだとしても、そこで表現されたことによって、自分との間に摩擦が起きるっていうこと。しかも、描かれたものだけじゃない、目に見えているものだけじゃないところで起こる。手ではさわれないし、でもその部分ごとが実は真(まこと)であるっていうか……ある意味では写し鏡みたいなものなのかな。

ライアン・ガンダー展示風景 © Ryan Gander, courtesy the artist and TARO NASU
ライアン・ガンダー展示風景 © Ryan Gander, courtesy the artist and TARO NASU

アートとの出会いや発見の中で結ばれる「ご縁」

森本さんはアートディレクターとして広告やミュージシャンのアートワークを手がけ、近年は舞台美術やアート作品も手がけています。多くは「かたちあるもの」ですが、そこに至るプロセスでさまざまな人との関わりを生み、発表後も物語が広がっていく表現が森本流。たとえば過去には商業施設とのコラボレーションで、何の変哲もないコインロッカーを使って、見知らぬ誰かとプレゼント交換をするイベント「present→present」などのアイデアも実現しています。個人の作品では、大木から垂れる無数の受話器を手に取ると、離れた電話ボックスで誰かが話したメッセージが聞ける『受話樹』なども。

森本:小さいころから「相手があってこそ自分が見える」みたいな関係性、またそれを通して何かを「想像する / してもらう」っていうことが好きでした。広告のお仕事をする際も、そういう部分は必ず1つ、しっかり点を置いてやっています。それを基点にいろんなものを釣って広げていくような感じかな(笑)。

グレン・ライゴン『ストレンジャー#67』© Glenn Ligon
グレン・ライゴン『ストレンジャー#67』© Glenn Ligon

「関係性」という目に見えないものから発想が生まれ、それが何かの力と掛け算されて、世に出せることは多いという彼女。ある場所に何かをそっと置いた瞬間、何かが照らされたり、人の意識がちょっと変わる、そんなアイデアを考えるのが好きだそうです。その点では、表現者としても今日見てきたようなアートに共感するところはあるでしょうか?

森本:コミュニケーションデザインみたいな部分では、どこか重なるところもあるように感じました。広告では、たまたまそこを通った人の目を一瞬で惹き付けなくてはいけない点で、ある種の「裏切り」で目を引く方法もよく用いられます。でもどうせ裏切るなら、何か価値のあるもの、単なる刺激を超えてその人の内側に響くものを残したい。ここにある作品はアートの世界でそういう力を発揮していて、しかも難解すぎない感じがいいですね。観て回るうちに、こちらの見方が鍛えられる感じもする(笑)。

森本千絵

たしかに、この展覧会の作品は「どう観てもいいですよ」という投げっぱなしの態度ではなく、かつ「唯一の模範解答」には落とし込まない幅を持って設計されているように思えます。人々とのワークショップを通した活動も多い森本さんは、表現におけるコミュニケーションの枠組み作りの点でも感じることはあったのでしょうか。先日、『日本建築学会賞』を受賞したシティホール「アオーレ長岡」のお仕事にも絡めて聞いてみました。

森本:気付いてほしいポイントはちゃんとあって、でも答えが万人共通でもない、そんなコミュニケーションデザインができたらいいと思うし、そういうアートも素敵だと思う。アオーレ長岡の例で言うと、ワークショップを通して市民参加者の意識が変わっていったのがすごく印象的な体験でした。それぞれの思い出がつまった元公園の敷地に新しいホールが建つので、みなさんいろんな思いがあったようです。それが、いろいろ話し合ったり、市民の方がダンスするPR映像を自作したりする中で、新しいホールが各々の未来を詰め込む装置なんだな、と気付いていった。そこからいろいろな物事の関係が変わっていって。私にとってはそれが一番大きかったです。

ちなみに、森本さんのデザインカンパニーの名前「goen°」は、人との縁、円などを連想させる言葉。取材時に名刺と一緒に、1枚の手作りコイン(五円玉風?)もいただきました。出会った人々に手渡したり、素敵な風景に出会ったときはそこに思いっきり投げ込んでみたり、ジャンベ(太鼓)の音調節用にちょうどいいとか、手にした人それぞれの使い方で広がっているそうです。1枚のコインをきっかけに新しい窓が開かれ、さらにいつか点と点がつながっていく。これも人々を介して育っていく作品?

『goen°玉』
『goen°玉』

この展覧会場で、訪れる私たちを「見つけてくれる」のは、「幸せ」とは限らないかもしれません。畏れ、疑問、クスリと漏れる笑い、などなど。ただいずれにも言えるのは、それは目に見えるかたちで来場者を待ち構えているというより、各人がアートと出会う中で、見えない点と点がつながったとき成立する関係だということ。そんな「ご縁」を結べるかどうかは、あなた次第なのです。

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イベント情報

『幸福はぼくを見つけてくれるかな? ─ 石川コレクション(岡山)からの10作家』

2014年4月19日(土)~6月29日(日)
会場:東京都 初台 東京オペラシティ アートギャラリー
時間:11:00~19:00(金・土は20:00まで、最終入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(4月28日、5月5日は開館)
料金:一般1,000円 大・高生800円
※ 中・小学生以下無料

関連企画
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2014年6月7日(土)15:00~16:30(開場14:45)
会場:東京都 初台 東京オペラシティビル7F 第二会議室
料金:無料(展覧会の入場料は別料金)
定員:80名(要予約、詳細はウェブサイト参照)

プロフィール

森本千絵(もりもと ちえ)

コミュニケーションディレクター・アートディレクター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科客員教授。1976年、青森県三沢市生まれ。1999年、武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。2006年、史上最年少で東京ADC会員となる。2007年、独立。「出逢いを発明する。夢をカタチにし、人をつなげていく。」集団、「goen°(ゴエン)」を設立。企業広告はもとより、松任谷由実らミュージシャンのアートワーク、動物園のディレクションや保育園の内装などを手がける。東日本大震災復興支援CMサントリー『歌のリレー』で『ADCグランプリ』初受賞。他、『日経ウーマンオブザイヤー2012』『2014年日本建築学会賞』『第4回伊丹十三賞』など多数受賞。

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